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歯科における「G-FIX」と「スーパーボンド」の違いとは?分かりやすく解説

歯科における「G-FIX」と「スーパーボンド」の違いとは?分かりやすく解説

最終更新日

前歯が外傷で動揺し食事ができない患者や、重度歯周病で歯がぐらついて噛めない患者を前に、どのように固定すべきか迷った経験はないだろうか。 動揺歯の暫間固定には昔からスーパーボンドが用いられてきたが、混液から硬化まで時間がかかり、刺激臭も強いため患者負担が大きい。 一方、近年登場したG-FIXは光照射で瞬時に硬化し審美性にも優れるが、本当に長期間の固定に耐えられるのか不安を感じるかもしれない。 本稿では、歯科臨床で用いられるG-FIXとスーパーボンドの違いを、臨床面と経営面から検証し、明日からの診療に活かせるヒントを提供する。

要点の早見表

両材料の違いを主要な観点で比較した早見表を以下に示す。

項目G-FIXスーパーボンド
重合方式光重合(可視光線照射 約10秒)化学重合(常温重合 約5分)
操作手順ワンペーストを直接盛り付け、任意タイミングで照射硬化粉末と液を筆先で混和塗布し、硬化完了まで固定を保持
接着強度・耐久性エナメル質への接着力は十分(長期固定では症例選択が重要)高い接着耐久性(長期・重度の動揺も安定固定可能)
硬化物性ナノフィラー配合により高強度だがやや剛直MMA樹脂由来の粘靭性で衝撃を吸収し破折リスク低減
審美性クリア(透明)色で目立たず、表面滑沢でプラークも付着しにくい粉末の色調選択可(クリア/歯色など)、経時的に変色・着色する可能性
必要機材光重合照射器(LEDライト等)混和用容器、細筆やパレット、プライマー類(症例に応じて使用)
主な適応症例外傷歯の応急固定、短期間の暫間固定、軽度の動揺歯重度歯周病での長期固定、咬合負荷の大きい固定、補綴物を含む固定
材料費(目安)約15,000円(2mLペースト×2本セット、2025年現在)約30,000円(EXセット一式、2025年現在)

理解を深めるための軸

G-FIXとスーパーボンドの差異は、その化学組成と重合方法の違いから生じる。臨床的に見ると、光重合型のG-FIXはフィラーを含むコンポジットレジンで硬化が速く硬度も高い。一方、化学重合型のスーパーボンドはMMA系レジンがベースで硬化に時間を要するが、エナメル質深部までモノマーが浸透し高い接着性と柔軟性を示す。この物性の差により、短期的な固定の容易さはG-FIXが優れる一方で、長期的な安定性や衝撃への強さではスーパーボンドが勝る傾向がある。例えば、軽度の動揺歯であればG-FIXで迅速に固定して問題ないが、重度の動揺や咬合力の大きな部位ではスーパーボンドによる確実な固定が予後に直結する。

経営的な視点では、両者の違いは施術時間とオペレーション効率に直結する。G-FIXなら混和の手間がなく照射硬化まで数十秒で済むため、患者のチェアタイム短縮とスタッフ負担軽減につながる。硬化待ちの5分間に他の処置を行うことも可能になり、限られた診療時間を有効活用できる。一方、スーパーボンドは硬化まで数分間の保持が必要であり、その間は術者またはアシスタントが固定を支える必要がある。これは緊急外傷対応など複数の処置が重なる場面ではボトルネックとなり得る。ただし、スーパーボンドで確実に固定できれば再治療のリスクが下がり、患者からの信頼獲得や長期的な転医防止に寄与する。材料費は両者とも保険診療の処置点数内に収まる僅かな差であり、それよりも時間コストと成功率の方が医院収益に与える影響は大きいと言える。

トピック別の深掘り解説

代表的な適応症と使用上の注意

G-FIXとスーパーボンドはいずれも動揺歯の暫間固定を目的とした接着剤であるが、その得意とする症例には違いがある。G-FIXは外傷による一時的な歯のぐらつきや、歯周治療前後の短期固定に適している。数週間〜数か月程度で除去する前提の固定であれば、迅速かつ審美的に装着できるG-FIXが患者負担も少なく有用である。特に前歯部の応急固定では、透明なレジンであるG-FIXなら装着しても目立たず、患者の心理的負担軽減につながる。

一方、スーパーボンドは長期にわたる安定固定が求められるケースで威力を発揮する。重度の歯周病で複数歯をしっかり固定する必要がある場合や、動揺歯に仮歯(テンポラリークラウン)を装着して固定するようなケースでは、接着力と耐久性に優れるスーパーボンドが第一選択となる。また、ブラキシズムなど咬合負荷の強い患者では、衝撃を吸収するスーパーボンドの方が固定物の破損リスクが低い。

禁忌とまではいかないが、それぞれ適さないケースも把握しておく必要がある。G-FIXは長期の固定や重度動揺歯の固定には不向きであり、無理に使用すると早期脱離やレジン破折を起こす可能性がある。スーパーボンドは逆に短期間で外す予定の固定にはオーバースペックで、硬く強固に接着しすぎるため除去時にエナメル質を傷つけかねない。また、モノマー成分に対するアレルギーがある患者では両材料とも使用できない点にも注意が必要である。

標準的なワークフローと品質確保の要点

固定操作の基本手順は、G-FIXとスーパーボンドで大きく異なる。それぞれの標準的なワークフローと、確実に成功させるためのポイントを整理する。

まずG-FIXの操作手順は、従来の接着剤に比べて極めて簡便である。術野をラバーダムやロールワッテで十分に乾燥隔離したうえで、動揺歯と隣接歯のエナメル質にリン酸系エッチャントで30秒程度の酸処理を行う。水洗・乾燥後、シリンジからG-FIXレジンペーストを直接歯面に盛り付け、動揺歯と健常歯を覆うようにレジンでブリッジする。レジンは適度な粘度があるため垂れにくく、必要に応じて少量ずつ盛り足して形態を整えることができる。十分に連結したら、LED光重合器で約10秒ずつ唇側・舌側から光照射して硬化させる。硬化直後から高い強度が得られるため、その場で噛み合わせの確認と研磨を行い、尖った箇所や咬合干渉を除去して仕上げる。

一方、スーパーボンドの操作手順は筆積み法が基本となる。酸処理やプライマー塗布で歯面を前処理した後、触媒入りのモノマー液に筆先でポリマー粉末を含ませ、糊状になったレジンを歯面に塗り重ねていく。レジンが流れやすいため、必要に応じてあらかじめ0.2〜0.3mm程度のステンレスワイヤーを歯間部に沿わせ、副子として用いると形態を保持しやすい。塗布後はモノマーが重合を開始するため、2〜3分間は固定部位が動かないよう確実に保持する。硬化完了まで概ね5分程度を要し、その間に余剰レジンが流出しないよう吸引や綿球で管理する。完全硬化後、エキスプローラーやバーで余剰を除去し、必要に応じて表面を研磨して滑沢に仕上げる。

なお、どちらの材料でも歯面清掃と隔湿の徹底が成功率に直結する。エッチングは唇側・舌側ともに十分広範囲に施し、動揺歯と隣在歯を可能な限り一体化させることが重要である。複数歯を固定する際は、G-FIXではレジン収縮による応力を軽減するため2歯ずつ順番に硬化させると良い。一方スーパーボンドでは前処理した全ての歯を一括で固定することになるため、事前に仮固定して位置決めを容易にする工夫も有効だ。例えば初めにG-FIXで簡易的に仮固定し、その上からスーパーボンドを重ねれば、硬化待ちの間に歯が動かず操作性が向上する。いずれの場合も、装着後はフロスが通らなくなるため口腔清掃指導を徹底し、咬合調整によって固定部に過度な力がかからないように仕上げることが品質確保の要点である。

安全管理と説明の実務

動揺歯の固定処置は患者にとって未知の処置である場合も多く、事前の説明と安全管理が欠かせない。まず患者への説明では、これは一時的な固定であり根本治療ではないことを明確に伝える必要がある。固定後も歯周病治療や生活歯の管理を継続しなければ歯の寿命は延びないこと、固定はあくまで補助的な処置であることを強調する。また、固定期間中のセルフケア方法についても具体的に指導する。装着部位はデンタルフロスが通らなくなるため、歯間ブラシやうがい薬の活用、軟らかい歯ブラシでのプラークコントロールを徹底するよう助言する。併せて、「硬い食品や粘着性のあるお菓子は避ける」「固定している歯ではなるべく噛まない」といった生活上の注意点も患者と共有する。

安全管理の観点では、術中と術後のリスクに備える。G-FIXの場合、光重合器の光から患者の眼を保護するためアイシールドを用いる。スーパーボンドの場合、モノマー液が揮発して独特の刺激臭が生じるため、患者には事前に「少し薬品の匂いがします」と声かけし、必要であれば鼻下にワセリンを塗布するなどして臭気刺激を和らげる。操作中に口腔内にモノマー液が垂れた場合はただちに水洗し、軟組織への付着を避ける。万一、患者や術者がモノマー成分に対しアレルギー症状を呈した場合は直ちに使用を中止し、必要なら医療機関で対応する。固定後は、装置の破損や脱離にも注意が必要である。特にワイヤー副子を用いた場合、レジンが破折するとワイヤーが露出し、誤飲や口腔粘膜の傷害リスクがある。患者には「もし固定が外れたりグラついたりしたら、無理に触れず早めに来院してほしい」と伝え、異常時の対処法を共有しておくことが望ましい。

費用と収益構造の考え方

動揺歯の固定は保険診療では「歯の動揺の暫間固定」として算定可能であり、処置の難易度に応じて数百点(約数千円)の報酬が設定されている。用いる材料の種類によって算定額が変わることはなく、あくまで固定処置全体に対して評価される。そのため、高価な材料を使っても追加の収入には直結しない反面、作業時間の短縮や成功率の向上による間接的な収益効果が重要となる。

例えばG-FIXの導入キット(約15,000円)は暫間固定5症例分ほどの点数に相当し、週1回ペースで症例があれば数カ月で投資回収できる計算になる。一方、スーパーボンドのセット(約30,000円)は10症例程度で元が取れる水準であるが、実際には支台築造や仮着など多用途に使えるため廃棄ロスは少ない。どちらの材料も1ケースあたり数百円以下のコストであり、経営上の負担は軽微である。それよりも、G-FIXによって1症例あたり数分のチェアタイムを短縮できれば、その分を他の有収治療に充てることができるメリットは大きい。また、スーパーボンドで確実に固定することで再診や再処置の発生を防げれば、無償の手直し時間を削減できる。患者満足度の向上によりリコール来院や紹介患者の増加が期待できる点も含め、これらの間接効果が収益構造に与える影響は無視できない。

さらに、固定した歯の予後によっては将来的な診療内容が大きく変わる点にも留意すべきである。固定を契機に歯周組織が安定し歯の延命に成功すれば、その歯に補綴処置を行う機会が生まれ、医院にとってプラスとなる。一方、固定が不十分で早期に脱落した場合や、固定しても保存不可能で抜歯に至った場合、患者の信頼低下や転院リスクが高まる可能性がある。たとえ抜歯後にインプラント治療等の代替収入が見込めるとしても、患者がそれを希望するとは限らない。長期的な視野で見れば、適切な材料選択と確実な固定処置によって「残せる歯を残す」ことが、患者関係の維持と医院経営の安定につながる。

外注・共同利用・導入の選択肢比較

歯科材料の導入判断では、自院で備える以外の選択肢も検討しておくと良い。動揺歯固定用の接着剤を購入せずに代替する方法として、汎用のコンポジットレジンとボンディング材で固定する手段が挙げられる。実際、リン酸エッチング後に流動性コンポジットレジンと細いワイヤーで歯を固定することで、一時的な保定は可能である。この方法なら追加の材料コストは不要だが、レジンの機械的強度や接着耐久性は専用品に劣り、長期固定では破折や脱離のリスクが高まる。あくまで緊急時や短期固定の応急策と割り切るべきであり、可能な限り専用材料を用いることが望ましい。

また、動揺歯の固定自体を外部に依頼する選択肢として、専門医への紹介や特殊な固定法の活用が考えられる。重度の動揺で通常のレジン固定が困難な場合、歯周専門医に紹介してウィングロックシステム等の高度な固定装置を検討することも一案である。ウィングロックシステムとは形状記憶合金製の副木を用いた強固な固定法で、保険適用外だが重度の動揺歯を長期安定させる効果がある。ただし導入している施設が限られ、患者負担も大きいため、まずはG-FIXやスーパーボンドによる通常の固定を試みて、それで不十分な場合の最終手段と位置付けるのが現実的である。

自院での導入可否を判断する際は、症例数と難易度の傾向に応じて選択することになる。比較的軽度な動揺歯の固定が中心であれば、操作が簡便なG-FIXだけでも対処可能である。一方、重度症例を多く抱えるのであればスーパーボンドは避けて通れない。両者の使い分けが必要なケースが想定されるなら、両方導入して症例に応じて適材適所で使い分けるのが望ましい。仮に自院であまり症例が出ない場合でも、緊急外傷対応などで突然必要となることもあるため、最低限どちらか一方は常備しておく方が安心である。

よくある失敗と回避策

最後に、動揺歯固定の現場で陥りがちな失敗例と、その回避策について整理する。まず多いのは、接着不良による早期脱離である。原因の多くは歯面処理の不足か唾液汚染であるため、エッチング時間を守ることと、処置中の隔湿徹底が何より重要である。特にスーパーボンドでは、ポリエステルフィルムやテフロンテープで隣接歯や歯肉を保護し、モノマーが余計な部分に流れないよう細心の注意を払う。また、G-FIX使用時にはボンディング材を省略できる反面、エナメル質のみが接着対象となるため歯頸部などに残ったスメア層は除去しきれず、境界部から剥離するケースもある。研磨ラバーやブラシでの事前清掃を怠らないことが大切である。

次に多い失敗は、固定レジンの破折である。これは材料選択ミスか、咬合調整不備による過度な負荷が原因となる場合が多い。軽度の動揺歯にとどめるべきG-FIXを重度症例に用いれば破断のリスクが高まる。また、装着後に固定部へ早期接触があると、咀嚼のたびにストレスが集中していずれ破折に至る。術後の研磨時にバイト紙で確実にチェックを行い、固定部が咬合を直接受けないように調整すべきである。なお、スーパーボンドの硬化物は衝撃に強い反面、弾性があるため厚盛りするとたわみが生じ、噛み合わせに違和感を与えることがある。必要以上の厚みは避け、患者が舌で触れて違和感のない滑らかな形態に仕上げる配慮も重要である。

さらに、固定期間中の二次問題にも注意が必要だ。長期間固定を続けると、清掃不良部位に二次う蝕や歯肉炎が発生するリスクがある。定期メインテナンス時に固定部位のプロフェッショナルケアを行い、必要であれば一旦レジンを除去して再固定することも検討する。また、固定が長期化するほど隣接歯同士が連結された状態が続くため、歯周靭帯への過度な負担や咬合の偏りが生じる可能性も指摘されている。適切なタイミングで固定を解除して、経過観察下で歯を自然な可動状態に戻す判断も求められる。除去の際はタービンでレジンを削合し、エナメル質を傷つけないよう細心の注意を払うことが肝要である。

導入判断のロードマップ

G-FIXとスーパーボンドのいずれを導入すべきか、または両方必要かについては、医院ごとの症例構成や方針によって異なる。判断のための基本的なロードマップを以下に示す。

まず、自院で動揺歯固定のニーズを把握することが出発点となる。過去1年間に動揺歯の固定を要した症例数、その原因(歯周病・外傷など)、固定期間の長さ、結果として歯の保存に成功した割合などを振り返ってみる。症例数が少ない場合でも、外傷は突然やって来る。救急対応力の向上というリスクマネジメントの観点からも、最低限どちらかの材料は常備し、スタッフとともに操作手順をシミュレーションしておくべきである。

次に、想定症例に応じた材料選択を検討する。軽度〜中等度の動揺歯や短期間の固定が主であれば、取り扱いが簡便で院内ワークフローを乱さないG-FIXから導入するとよいだろう。一方、重度歯周病患者が多く長期固定が頻繁に発生する場合や、補綴を含めた大掛かりな固定を視野に入れるなら、スーパーボンドの採用が必須となる。両者の出番がありそうな場合は、早めに両材料を揃えておき、症例に応じた使い分けプロトコルを院内で共有しておくことが望ましい。

導入後は、適切なトレーニングと評価が重要になる。購入しただけで満足せず、実際の患者への適用前にスタッフ間でデモや模型実習を行い、材料特性に慣れておく。初期の数症例では、固定の操作時間や成功率、患者の反応などを記録し、従来法(例: コンポジット+ワイヤー)と比較評価してみるとよい。問題点が見つかればプロトコルを修正し、院内マニュアルに反映する。こうしたPDCAサイクルを回すことで、動揺歯固定というニッチな処置であっても、医院全体としてブレのない対応が可能になる。

参考文献

  1. サンメディカル株式会社: 製品Q&A「動揺歯固定材 ライトフィックス」 (参照 2025/09/03)
  2. Morita デンタルプラザ: 製品紹介「ライトフィックス - 特長」 (参照 2025/09/03)
  3. サンメディカル株式会社: 「スーパーボンド® 超使いこなしガイド」 (参照 2025/09/03)
  4. 菊池重成: 「光重合型動揺歯固定材『G-フィックス』の特長と臨床」 (ジーシー, 2013) (参照 2025/09/03)