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歯科治療で用いる接着性レジンセメントの商品名をまとめてみた

歯科治療で用いる接着性レジンセメントの商品名をまとめてみた

最終更新日

歯科臨床において、接着性レジンセメント選びは細やかな悩みを生みやすい。例えば、研磨後にセメントラインの目立ちやすさに苦慮したり、セメント除去の際に余剰セメントが垂れて歯肉に接する場面は誰も経験する。あるいは、保険診療では限られたセメントしか使えず、いざ自費治療を増やそうとしても、どれを選べば臨床結果と経営効率が両立できるのか悩ましい。この記事では、こうした悩みを解消するために、最新の接着性レジンセメントの臨床的特徴と経営視点を両立して解説する。本稿を読むことで、各製品のメリット・デメリットを把握し、診療スタイルに合ったセメント選択や導入プランを立てやすくなるであろう。

比較サマリー表

製品名特徴色調バリエーション価格目安(税抜)備考
パナビア V5高接着力(第3世代触媒)、審美性5色コンプリートキット59,850円支台歯プライマー付属、色調安定性高
SAルーティング MultiMDP/LCSi配合の自己接着型、前処理不要ユニバーサル/白/透明オートミックスキット27,510円金属・ジルコニアにも高接着
エステセム IIBondmerライトレス使用、長作業時間4色(ユニバーサル・ブラウン・クリア・白不透明)セット20,500円垂れにくい粘稠性、半硬化時間長い
ケミエース II4-META含有、デュアルキュア型なし(練和型)セット15,200円高い接着性と辺縁封鎖性
レジセム EX単一シリンジ、審美特化5色(2クリア系、白不透明など)1本8,400円BeautyBond Xtreme併用で汎用性大
スーパーボンド EX4-META含有、筆塗・混和両用クリア/歯色/黄/ラジオオペーク基本セット29,000円筆積法にも対応、余剰セメント除去容易
リライエックス ユニバーサル自己接着・併用両用、Ergonomic設計ユニバーサル(光線透過)要問合せ人体工学的シリンジ、安定した高接着
G-CEM ONE Neo自己接着型、練和性高5色(トランスルーセント・ユニバーサルなど)要問合せセラミックスにも強い接着力

比較のための軸

臨床現場では、セメント選択にあたって接着強度・耐久性、操作性・審美性、コスト・時間効率という観点が重要である。接着強度は脱離や辺縁漏洩のリスク低減に直結する。例えば、パナビアV5は新規触媒技術により従来品の3倍の象牙質接着力を実現したとされる。Bondmer系(エステセムII)や4-META系(ケミエースII、スーパーボンドEX)も高い接着力を持ち、特に金属やジルコニアへの接着性が重視される場面で威力を発揮する。一方、色調安定性も臨床結果に影響する。シェードを多数展開する製品(パナビアV5は5色展開、レジセムEXは5色展開)や、変色耐性を強化したもの(レジセムEXは特許技術により審美性が保たれる)が審美的には優位である。

操作性も重要な臨床ファクターである。プライマー併用型セメントは前処理が必須でステップ数が増えるため、施術に慣れたベテランには許容できても初心者や複数本の同時接着では時間的負担となる。自己接着型のSAルーティングMultiはプライマー不要で、MDPとLCSi配合により金属・ジルコニアにも対応し、余剰セメント除去も容易とされる。逆に、エステセムIIはBondmerライトレスⅡによるアシストで前処理が簡単でありつつ、練和後60秒の作業時間を確保でき、余剰セメントの取れも良い長所がある。このように、素材・ケースに合った前処理の有無・種類と開業医の手技スタイルを照らし合わせて選ぶ必要がある。

経営効率の観点ではコストパフォーマンスとタイムパフォーマンスを比べる。例えば、高価なセメントほど1本あたりの価格が高いが、多色シェード入りのスターターキットやトライイン材付属を考慮すると、1症例あたりの材料費が実質的にどれくらいか試算する必要がある。パナビアV5はコンプリートキット約59,850円と高めであるが、1キットで複数回の施術に対応可能である。これに対し、レジセムEXは1本8,400円と安価であり、グレーズシェードも揃うため症例ごとのコストを抑えられる。他方、時間コストでは、混和・前処理が簡便な製品ほどチェアタイム短縮につながる。例えばSAルーティングMultiはオートミックス式ならチップを装着するだけで練和不要のため、操作ミスも減り時短になる。一方、スーパーボンドEXは筆積も混和も可能と選択肢があるが、混和法の場合でも室温で混和から硬化まで短時間で移行し、余剰セメントも垂れにくいため除去が容易である。これらの効率化によって、患者一人当たりの診療時間や人件費を削減できる可能性がある。

製品別レビュー

パナビア V5は高接着・審美性重視のレジンセメント

Kuraray Noritakeのパナビアシリーズは、新規触媒(アミンフリー)を採用し、色調安定性と接着強度を高めている。パナビア V5は象牙質接着力が従来品(パナビア F2.0)の3倍に向上したといい、特に審美修復(ラミネートベニア含む)で高評価を得ている。5シェードを展開し、審美性と機械的接着力の両立を図っている。コンプリートキット(59,850円)にはトゥースプライマー、セラミックプライマー、酸処理剤が付属し、どの材質にも対応可能なシステムとなっている。支台歯への塗布系プライマー処理とレジンセメント練和が必要で操作手順はやや煩雑な反面、高い信頼性が魅力である。臨床的には、強固な接着性により脱離や辺縁漏洩リスクが低減され、長期予後の向上が期待できる。一方で、セット価格は高めであり、導入には初期投資が必要となる。また、硬化収縮による微小隙間が入りやすいため、余剰セメントは完全硬化前に除去するなど取扱いに注意が要る。

SAルーティング Multiは自己接着型で迅速な操作が可能

同じKurarayのMDP配合自己接着型セメントであるSAルーティング Multiは、前処理材なしで歯質・メタル・ジルコニア・CAD/CAM冠に高い接着力を発揮する。ペースト中にMDPと長鎖シラン(LCSi)を配合しており、さまざまな補綴素材に適合する。経営視点では、プライマー塗布のステップを省けるためチェアタイム削減につながる。製品はハンドミックスとオートミックス両タイプを用意し、オートミックスではキット(27,510円)に2種類のチップが付く。練和ムラが減り作業がスムーズである一方、練和ペーストの柔らかさもコントロールしやすい。臨床的には、硬化前に余剰セメントを半硬化させてから除去可能なため、接合面の仕上げが容易である。欠点は、パナビアV5などプライマー併用型に比べ歯質への初期接着強度が若干劣るとする報告もある点だが、簡便性と価格(シリンジ1本11,240円)から効率重視の医院で人気がある。

エステセム IIはBondmerライトレスで長作業時間を確保

TokuyamaのエステセムII(ボンドマー ライトレスII セット)は、専用プライマー「BondmerライトレスII」で簡単に歯質を前処理するデュアルキュア型レジンセメントである。ペーストは垂れにくい粘稠性で、練和後約60秒間の作業時間を確保できる。これにより、多数歯連続症例でも焦らず操作できる。また余剰セメントは塊で取れ、除去がしやすい。価格はセットで20,500円であり、光照射を必要としない化学重合タイプなので硬化制御がしやすい。臨床的には、従来のBondmerと比べ刺激が少なく後発色も抑制されたとされ、審美復復との相性がよい。反面、練和操作が必要なハンドミックス型であるため、操作に人為誤差が生じる可能性は否めない。またBondmerライトレス独自の薬剤使用のため、他社システムと混用すると予期せぬ挙動を示すことがある点には留意すべきである。

ケミエース IIは4-METAで簡便操作、高い接着性

SunMedicalのケミエースIIは、4-META含有の自家製重合開始剤を使った粉液2剤型の接着性レジンセメントである。インレーやクラウン、ブリッジの接着に適し、高い接着強度を誇る。操作は粉液を混合するだけでよく、専用液材・粉材のセット(15,200円)は必要なときだけ買い足せる手軽さがある。4-METAが象牙質に浸透して樹脂含浸層を形成し、優れた封鎖性ももたらす。臨床的には、筆塗りでも混和でも使用可能で、適度な粘度を維持しやすい。欠点は、混和操作とセット時間が必要なことと、光照射硬化を基本としないため硬化時間のコントロールには注意が要る点である。また、より新しいトレンドである自己接着型と比べると手間がかかる。しかし導入コストが比較的低く、試し導入しやすいのもメリットである。

レジセム EXは審美修復向けの単一シリンジ型

ShofuのレジセムEXは1ボトル・1シリンジで、ほとんどの修復材料に使える審美修復用接着性レジンセメントである。特許技術による色調安定性を備え、長期使用でも変色しにくいとされる。またX線造影性を有し、術後の確認が容易である。特筆すべきは、同社プライマー「ビューティボンド Xtreme」と組み合わせることで、歯質とあらゆる補綴物を一度のシステムで接着でき、前処理剤を使い分ける必要がない点だ。1本8,400円という価格設定も手頃で、審美修復を自費で多く扱う医院に人気である。臨床では、クリーミーな練和感で気泡が入りにくく、余剰セメントの除去も容易である。しかし、光照射が必要な完全光重合型であるため、光が届かない部位では確実に化学硬化させる必要があることには留意すべきである。

スーパーボンド EXは4-META系の伝統的接着セメント

SunMedicalのスーパーボンドEXは、4-META系の接着性モノマーを用いた筆塗り・混和型の合着用樹脂である。動揺歯固定や仮着、義歯修理など幅広く用いられる。新たにポリマー粉末が改良され、温度23℃で混和後約30秒で塗布できる粘度となるため、ポストや連結冠の接着もしやすくなっている。また、とろみのある状態で使用すると余剰セメントが歯周組織に垂れにくく除去しやすい。4-METAは歯質への浸透性が良く、良質なレジン含浸層とレジンタッグを形成する。キット価格は29,000円程度(粉末・液材セット)で、市販のTeethプリマー・アロイプリマーを併用して金属にも接着できる。非常に操作の自由度が高い反面、混和比や温度変化に敏感で、習熟が必要である。補綴物の固定や修理用途には優れるが、単冠接着ではペースト型接着セメントほど手軽ではない点がデメリットである。

リライエックス ユニバーサルは汎用性の高い3M製セメント

3Mのリライエックス ユニバーサルは、自己接着型としてもアドヒーシブ型としても使える新世代セメントである。特徴的なのは3M独自のエルゴノミックシリンジで、手に馴染む形状と吐出のしやすさが追求されていることだ。特殊な重合開始剤により親水・疎水両基をもつので、長期にわたって高い接着性を維持できるとされる。臨床現場の声では、93%の歯科医師が「余剰セメントが簡単に除去できる」と回答しているという。色は光線透過型のユニバーサルのみだが、1本で内外どちらにも使える汎用性は大きい。価格は要問合せだが、Scotchbond Universalとの併用で幅広い材料に対応できる利点がある。デメリットとしては、ユニバーサルシリンジ1本のみの色調しかないため、特にベニアなど審美を極める治療ではややシェード調整の幅が狭くなる点が挙げられる。

G-CEM ONE neoは取り扱いやすいペースト形状

GCのG-CEM ONE neoは、練和性に優れたペースト形状が特徴の自己接着性レジンセメントである。ヘラでも塗布しやすく、練和操作が得意であるため小型混和容器などが不要である。高強度の接着を求められるセラミックスやジルコニア修復にも対応する設計で、硬化速度も比較的速い。5色の色調から症例に合わせて選べるため、口腔内で目立ちにくく見た目を重視するケースに向く。価格は一般に高めであるが、速硬化により治療時間が短縮できる上、歯面への刺激が比較的少ないという報告もある。欠点は、自己接着型なので前処理の効果に限界がある点である。強固な接着が必要な場合には、接着力を高めるための追加プライマー使用(GCの専用プライマー併用など)を検討してもよい。

結論・まとめ

以上、多様な接着性レジンセメントを臨床性能と経営視点の両面から比較した。各製品には明確な適応と性格があるため、医院の診療目標や方針に応じて使い分けることが重要である。例えば、美しい色調と接着強度を重視する前歯審美修復にはパナビアV5やレジセムEXが適し、保険範囲内で即効性と操作の簡便さを求める場合は自己接着型のSAルーティングMultiやRelyX Universalを検討する価値がある。摩耗や二次う蝕リスクが高い症例ではフッ素放出性を持つ製品(例えばグラスアイオノマー系のVitrebond LutingやパナビアF2.0)を選ぶのも戦略となる。

【行動プラン】明日からできる選択の第一歩として、まずは各メーカーのサンプルやデモ機で練和感や除去性を実感してみよう。価格設定や保証サポートについては担当営業に確認し、同日に使用するプライマーや器材の互換性も併せて確認しておく。複数製品を試用する際は、同一症例でトライアルして違いを比較するとよい。各社がウェブサイトやカタログで公開している資料も参考にし、必要に応じて薬事情報を確認することをおすすめする。最終的には自身の治療スタイルに合致したセメントを選び、患者満足と医院収益の両立を図っていただきたい。

よくある質問

Q. これらのセメントの長期予後データはあるか?
A. 接着性レジンセメントの臨床研究は比較的新しく、長期(10年以上)の前向きデータはまだ十分ではない。一般に、高接着設計のセメントを適正に使用すれば予後は良好とされるが、二次う蝕や破折予防にはプラークコントロールなど他の要素も大きい。臨床成績は経過観察の集積結果に左右されるため、公的文献やメーカー発表の経過報告を定期的に確認することが必要である。

Q. ジルコニア冠にはどのセメントが向いているか?
A. ジルコニアは金属と同様に酸性エッチングが効きにくいが、MDP(リン酸エステル系モノマー)を配合することで強い接着が得られる。したがって、MDP配合のセメント(例:パナビアV5、SAルーティングMulti、エステセムIIなど)が適する。これらは専用プライマーなしでも金属・ジルコニアに接着する設計であり、臨床データでも実用に耐える接着性が示されている。一方、ジルコニア冠でも光透過性が必要ない場合は、伝統的な4-META系セメント(スーパーボンドEX、ケミエースII)でも十分接着し得る。

Q. 特定のアドヒーシブとの組み合わせに注意は必要か?
A. メーカーは自社のプライマーやボンディング材との併用を想定して製品設計している。例えばパナビアV5には「トゥースプライマー」と「クリアフィルセラミックプライマープラス」が付属し、これらによって歯質およびセラミックス表面の接着性を最適化する。一方で、市販のユニバーサルボンディングと併用できる製品(3M リライエックスUniversalなど)もあるが、公式な組み合わせ以外での使用はメーカー保証外となる場合が多い。したがって、併用するプライマーやボンディング材は原則メーカー推奨のものを使い、異なる組み合わせを試す場合は安全性と接着性を事前に確認する必要がある。

Q. 色調の安定性に差はあるか?
A. 一般に、明度・透明度が高いものほど経時変化が出やすい。パナビアV5は色調安定性が高いとされ、長期間の審美性維持を謳っている。レジセムEXも特許技術で変色耐性を強化している。グラスアイオノマー系(Vitrebond Lutingなど)はフッ素含有で安心感はあるが、色調は黄色味がかりやすい。色彩の許容範囲は審美領域で特に問題となるため、前臼歯・臼歯で必要な遮蔽性や明度・彩度を考慮してセメントとシェードを選ぶことが重要である。

Q. 副作用や安全性の懸念は?
A. 接着性レジンセメントに含まれるメタクリレート系モノマー(例:4-META、UDMA、HEMAなど)は、生体接触時に僅かな吸収や刺激をもたらす可能性がある。極まれに術者や患者でアレルギー反応を起こすこともあるため、適切な防護(手袋の装着や患者への術前説明)が必要である。逆にセメント硬化後は重合度が高いため、長期経口毒性はほぼ問題にならないとされる。副作用情報は各製品の添付文書に記載されているため、疑問があれば製品添付文書で確認することが望ましい。