
ヨシダの光照射器を価格・値段や性能でおすすめを比較してみた
ヨシダの光照射器を性能と価格で比較検討したレビュー記事
導入
深いう蝕の充填後に「本当に奥まで硬化しているだろうか」と不安になった経験はないだろうか。コンポジットレジン修復では、光照射器の性能が仕上がりと長期予後を左右しがちである。一方で、保険診療の忙しい現場では1箇所に20秒もライトを当てている余裕はなく、チェアタイム短縮も経営上の課題となっている。幸い、近年はLED技術の進歩で高出力・短時間硬化が可能な光照射器が各社から登場している。本稿ではヨシダのLED光重合器を中心に、主要メーカー製品のスペックと費用対効果を比較し、臨床と経営の両面から賢い導入策を考察する。
製品の概要
ヨシダが扱う代表的な光照射器に、コードレスタイプのジェラル D-Lux Penがある。歯科用一般医療機器に分類される歯科重合用光照射器(汎用歯科用照明器)であり、可視光硬化型のレジン系材料(コンポジットレジン、ボンディング剤、シーラント、接着用レジンセメントなど)の重合に用いる。口腔内で直接手に持って照射するペン型の器械で、充電式のリチウムイオン電池で動作する(充電ベースおよびACアダプタ付属)。照射径はφ11mmで臼歯部にも届きやすい薄型ヘッドを備える。なお本製品はAngelus社(ブラジル)の製品をヨシダが国内展開しているもので、販売名に「ジェラル」のブランド名が付されている。
国内他社の同種製品としては、モリタのペンキュアー2000、ジーシーのスリムライト、松風のペンブライトなどがある。いずれも歯科用のコードレスLED光重合器で、光源は発光ダイオード(LED)である。またグローバル市場には3Mのエリパー ディープキュア(Elipar DeepCure)やイボクラール・ビバデント社のブルーフェーズ PowerCureなど高性能機種も存在する。それぞれ照射可能な波長域や出力、価格帯が異なるため、導入に際して慎重な比較検討が必要である。
主要スペック
ヨシダ D-Lux Penのスペック: 最大光出力は2,300 mW/cm²(±10%)に達し、高出力モードでは肉眼では一瞬で硬化が完了するほどの強力な光を照射できる。標準・中出力・高出力の3段階から光量を選択でき、それぞれ約1,000・1,500・2,300 mW/cm²の照射強度となる。照射時間は任意に設定可能で、通常は5~10秒程度の照射でほとんどのレジンが重合する。波長域は440~515 nmの青色光が主体だが、モード切替により385~430 nmの近紫外領域の光も照射可能である。これにより、カンフォルキノン系の硬化だけでなく、TPOやPPDなど紫外~紫寄りの光を要求するフォトイニシエーターを含む材料まで幅広くカバーできる。ヘッド先端に配した4つのLEDにより光の分布ムラを抑え、照射径全体で均一な強度が得られる設計である。レンズ光学系にも工夫があり、光の直進性が高くなるよう集光されているため、離れた位置からでも深部まで光を届けやすい。実際、他製品になるがモリタのPenCure 2000では「先端から5mm離れても光量の80%を維持できる」と報告されており、同様の平行光技術がD-Lux Penにも応用されていると考えられる。
競合製品との比較: モリタのペンキュアー2000は出力ピーク波長が460 nmの単色高出力LEDであり、最大光量は2,000 mW/cm²である。2秒または3秒の超短時間照射モードを備え、従来機(初代ペンキュアー)比で光量2倍に向上した経緯がある。ただし波長域は420~480 nm程度と狭く、QTH(ハロゲン)光源のような広帯域ではない。そのため一部のレジンセメントや漂白用レジンなど、特定波長でのみ重合する材料では十分な硬化効率を得られない場合がある。その対策として、ペンキュアー2000にはオプションで405 nmピークのホワイトニング用ライトヘッドが用意されている(別売)。ジーシーのスリムライトはD-Lux Penと同様に2波長(紫・青)のLEDを搭載し、スペクトル範囲は390~480 nmと広帯域である。最大光強度は2,000 mW/cm²で、3種類の照射モード(High、Low、ランプアップ)により最適な出力制御ができる。本体質量は約140 gでややずっしりするが片手で無理なく扱える範囲であり、ヘッド部は約9.5 mm厚のストレート形状で300度回転可能と、臼歯部へのアクセス性も高い}。松風のペンブライトはシンプルな機能に割り切った低価格機で、光強度は高出力モードでも1,200 mW/cm²程度に留まる。波長も430~490 nmと青色域中心であり、ごく一般的な範囲のレジン硬化に適するスペックである。複雑なモードは搭載せず、強・弱2段階の出力と3パターンの照射時間を組み合わせて使用する設計である。
スペックを見る限り、ヨシダ D-Lux Penは高出力・広帯域を両立した最新世代の光照射器といえる。例えば前世代のヨシダ製品DCブルーレックス アルファでは最大出力約1,400 mW/cm²・波長域450~470 nmであったが、D-Lux Penではそれを上回る出力と対応波長を実現している。ただし高出力化に伴う発熱や収縮ストレスへの配慮も必要で、メーカーは症例に応じて出力を切り替えて使用することを推奨している。極度に深い窩洞や多量のレジン硬化時には、無理に1回で硬化させようとせず2回に分けて照射するなど、臨床的な工夫で補うのが望ましい。
互換性や運用方法
ヨシダ D-Lux Penを含む近年のLED光照射器は、基本的に他社のレジン材料とも相互に使用可能である。波長385~515 nmの範囲に感度を持つあらゆる光重合型材料に対応するため、特定メーカー製材料に限定されることはない。例えばジーシーや3M、クライテリア社など他社のコンポジットレジン・接着剤でも問題なく硬化可能である。ただし各材料ごとに要求される最小照射強度・時間が異なるため、製品添付文書に記載の照射条件を守る必要がある。特にデュアルキュア型レジンセメントなどは、「光照射○秒+化学重合」といった指定があるため、高出力機種であっても指示通りの秒数は確実に照射すべきである。
運用面では、コードレスタイプゆえの利便性とバッテリー管理が両面に現れる。D-Lux Penはフル充電に約4時間を要し、一度満充電すれば高出力モード3秒照射を約1,000回も繰り返せる大容量バッテリーを内蔵している。通常の診療で1日に数十回の使用であれば、毎日充電する必要はない計算になる。ただしバッテリー残量が少なくなると光量低下や照射不良のリスクがあるため、習慣的に診療後に充電スタンドに戻す運用が望ましい。バッテリーは経年劣化する消耗部品であり(Li-ion電池の寿命は充放電約数百回程度)、2~3年使用して照射回数が極端に減ってきた場合はメーカーでの電池交換を検討する。D-Lux Penの場合、電池は内蔵でユーザー交換は想定されていないため、販売店経由でのメンテナンス対応となる。
感染対策としては、ライト先端に装着する使い捨てシース(スリーブ)やライトプロテクターを適切に用い、患者ごとに交換・廃棄することが推奨される。ペンブライトのようにライトガイドが脱着可能で耐熱ガラス製の場合はガイド先端のみオートクレーブ滅菌も可能であるが、多くのLED一体型ヘッドではシースによる遮蔽とアルコール清拭で対処する形になる。照射器本体は精密電子機器であり丸ごと滅菌はできないため、術者・アシスタントはグローブ着用下で機器を操作し、直接粘膜や唾液に触れないよう運用することが重要だ。
他機器との互換性という点では、光照射器は基本的に独立して機能する装置であり、院内の他のデジタル機器やソフトウェアとの接続は発生しない。ただ診療ユニットに内蔵のハロゲン照射ライトを併用している医院では、同じ設定時間であってもLEDライトとの硬化性能差が大きい点に注意したい。例えばユニット備え付けのハロゲン光では10秒では不十分な症例でも、LED光なら数秒で硬化が完了することがある。そのため、両者を併用する場合は各ライトごとの性能を把握し、場合によっては照射時間を補正するなどの工夫が求められる。
経営インパクト
光照射器の導入コストは歯科医院の機器投資の中では比較的少額な部類に入るが、それでも価格差や性能差が診療効率に影響を与える可能性は無視できない。主な機種の標準価格(税込)はヨシダ D-Lux Penが約6万円、ジーシー スリムライトが約10万円、モリタ ペンキュアー2000が約18万円、松風 ペンブライトが約4万円である(市場実勢価格は販売店により多少上下する)。最廉価帯と最高価帯で4倍以上の価格差があるが、その差額はどのような経営メリット・デメリットにつながるのだろうか。
1症例あたりの費用: 光照射器は耐久消耗財であり、使用毎に明確な材料費が発生するものではない。仮に6万円の機器を5年間で延べ5万回使用した場合、単純計算の減価償却費は1回あたり1.2円と微々たるものである。高価格のBluephase(約24万円)でも同条件なら1回約4.8円となり、1症例の材料コストとしては誤差の範囲だ。したがって直接的な原価増減よりも、むしろ装置性能による間接的な経営効果に注目すべきである。
チェアタイムと回転率: 高出力ライトはレジン硬化に要する時間を短縮しうる。例えば従来10秒×3回(計30秒)かけていた多面う蝕充填が、高出力機なら各5秒で済み計15秒に短縮できる可能性がある。15秒の差は一見わずかだが、1日に数十回の照射を行う診療スタイルでは累積すると無視できない時間となる。特に保険診療主体で患者回転率を重視する医院では、光照射工程の短縮がそのまま診療効率の改善につながる。仮に1日あたりトータル5分の短縮が得られれば、週5日稼働で年間20時間以上の時間創出となる計算である。これを1人分の追加アポイントに充てられれば、相当額の増収も見込める。
再治療リスクと長期利益: 光硬化不足によるレジン充填物の脱離・二次う蝕発生は、臨床上避けたい事態であるだけでなく、医院経営にとってもマイナスである。保証期間内のやり直し治療は無償対応となる場合が多く、その間のチェアタイムは他の有収入処置に使えない機会損失となる。高性能な光照射器で確実な重合が得られれば充填物の耐久性向上が期待でき、長期的には再治療削減による利益確保につながる可能性がある。ただし臨床成績は照射器だけで決まるものではなく、充填操作や材料選択、症例条件など複合要因によるため、「機器を新調すれば再発が無くなる」といった短絡的な判断は禁物である。
自由診療メニューへの寄与: 高価格帯の光照射器には、診療メニュー拡充に資する付加機能を備えるものもある。例えばD-Lux Penのようにう蝕検知モード(385 nm付近の紫光)を搭載した機種では、簡易的なう蝕検出・クラック検出に応用できる。専用の蛍光う蝕検知器ほど定量的ではないが、肉眼では発見しづらい亀裂を光らせて見つけたり、齲蝕部位を染め出し無しで視認できる利点がある。これにより精密診断や早期発見に役立てるだけでなく、患者説明の際に「この光で照らすと虫歯が光ります」と実演して治療同意を得やすくするといったコミュニケーションツールにもなり得る。結果として自費治療の提案がスムーズに進み、医院全体の収益向上に貢献する可能性がある。
耐用年数と買い替え: 一般にLED光照射器はメーカー保証期間が1~3年程度である(ペンブライト3年、D-Lux Penとスリムライトは1年など)。しかし実際には5年以上問題なく稼働している例も多く、耐用年数は使用頻度とメンテナンス状況によって変動する。新規開業で導入した場合、少なくとも最初の数年間は修理費もほぼ発生しないため、初期投資分は十分回収できるとみてよい。高価な機種ほど長期保証が手厚い傾向はあるが、一方で保証切れ後の修理費用は高額になる場合がある。極端な例では、バッテリー交換に数万円、ライトヘッド交換に十万円近くかかり新品購入と大差ないケースもある。そのため使用年数が相当経過した場合には、最新モデルへの買い替えも視野に入れた方が結果的に経済的なケースもある。
使いこなしのポイント
新しい光照射器を導入した直後は、その性能に見合った正しい使い方をスタッフ全員で共有することが肝要である。まず照射距離と角度だ。LED光は指向性が高いため、照射先端からできるだけ垂直に近づけてあてるのが理想である。わずか数ミリ離れるだけでも光強度は低下するため、可能な限りレジンに近接させ、直角に照射する癖をつけたい。幸いD-Lux Penやスリムライトはヘッド部が自在に回転するため、術者が無理な姿勢をとらずとも理想的な角度を確保しやすい。奥歯の遠心側充填など見えにくい箇所では、補助者に口腔鏡で光軸を確認してもらうなどチームで工夫するとよい。
次にモード選択である。高出力モードは硬化時間を大幅に短縮できる一方、急激な重合によるポリマー収縮ストレスが懸念される場合がある。深い窩洞や広範囲の修復では、レジンを複数回に分けて積層硬化するのが原則であり、一度に厚塗りして高出力で一気に硬化させるのは避けるべきである。D-Lux Penには1,000 mW/cm²程度の通常モードも搭載されているため、適宜使い分けるとよい。例えばベース部分は低出力長時間でじっくり硬化させ、表層のみ高出力短時間で仕上げ硬化するといった方法も可能だ。また接着操作時には、ラバーダム防湿下でも反応性を落とさないよう、プライマーやボンディング材の溶剤を十分に揮発させたうえで硬化に移る必要がある。高出力ライトはあっという間に硬化が始まるため、術者は心の準備をして確実なタイミングでライトを当て始めることも大事である。
光硬化の確認も抜かりなく行いたい。高性能ライトに替えたからといって油断は禁物で、充填物表面が硬化していても、数mm下の深部が未重合のままでは意味がない。充填後にエクスプローラーでレジン表面を触れてみて軟らかさが残っていないか確認するのは基本中の基本である。必要があれば追加で数秒照射する判断も求められる。また、照射器の性能チェックとして、専用のラジオメーター(光量計)で定期的に出力を測定することが望ましい。特に開業医の先生は、導入時の新品ライトの数値を控えておき、1年ごとに測定して著しい低下がないか比較するとよい。出力が半減しているようならライトのLED劣化やレンズ汚れが疑われるので、メーカー点検を依頼すべきである。
患者説明においては、新しい光照射器の利点を積極的に伝えることで信頼感を高めることができる。「このライトは非常に強力なので、短い時間で確実に詰め物を固められます。お口を開けている時間が少なくて済みますよ。」といった一言で、患者の安心感・満足感は向上する。またフッ素徐放型のシーラントやコーティング材の光硬化など、小児歯科領域でも出力不足による取り残しを防げる旨を説明すれば、保護者にも質の高い医療を提供している印象を与えられるだろう。
適応と適さないケース
LED光照射器はほぼ全ての直接法レジン修復に適応がある。コンポジットレジン充填、接着ブリッジのポンティック付与、シーラント硬化、レジンによる段差修正や仮封材硬化、接着ブリッジの仮付けレジンなど、日常診療の多くで活躍する。間接修復でも、ラミネートベニアやハイブリッドインレーの装着時に光重合レジンセメントを硬化させる工程で必要となる。さらにブラケット接着やファイバーポストの築造など、矯正・補綴処置でも接着操作には光照射が欠かせない。
適さないケースとしては、光の到達しない場所での重合が挙げられる。例えば金属製ポストや厚みのある不透明クラウンの下に流したレジンセメントは光が遮断されるため、いくら高出力ライトでも硬化できない。この場合は自己重合型あるいはデュアルキュア型の材料に頼るしかない。また極度に深い根管内や歯周ポケット内での照射も、光強度が著しく減衰するため不向きである。術式的な工夫で対応できる場面としては、遠心部の充填時にミラーで反射させて裏側から光を当てるテクニックがある。さらに、光重合器による熱発生に注意すべき症例もある。露髄ぎりぎりの深在性う蝕で象牙質がごく薄い場合や、長時間の重合を要するケースでは、照射による温度上昇が歯髄へダメージを与えるリスクがゼロではない。このため心配な場合は一旦中間遮断材で覆護してからレジン充填に移行するか、慎重に短時間ずつ分割照射する配慮が望ましい。
各製品の禁忌・注意事項としては、患者や術者が光過敏症の場合に強力な光を直接見ないよう十分配慮する点がある。多くの光照射器はオレンジ色のライトプロテクターを備えており、これは青色光から眼を保護するためのものである。使用時には必ずプロテクターを装着し、裸眼で光源を直視しないようにする。また照射器は防水仕様ではないため、水洗・滅菌不可であること、落下衝撃に弱いことにも留意する。
導入判断の指針(読者タイプ別)
歯科医師が光照射器を選ぶ際に重視するポイントは、その診療スタイルや医院方針によって異なる。以下にいくつかのタイプ別に考慮すべき指針を示す。
保険診療が中心で効率重視の先生
患者数が多く1日に多数の充填処置をこなす保険主体型の医院では、何よりスピードと耐久性が求められる。この場合、短時間で硬化できる高出力機は強い味方となる。ヨシダ D-Lux Penやジーシー スリムライトのように2,000 mW/cm²級の出力を持つ製品なら、従来の半分以下の時間で充填が完了する可能性があり、時間短縮による回転率アップに直結する。一方で価格にも敏感な層であるため、100万円を超えるような高級機種は投資対効果に見合わない。上述の中ではD-Lux Penは標準価格約6万円と導入しやすく、性能面でも申し分ないため有力な選択肢となるだろう。また耐久面では、診療で酷使することを考えると、交換用バッテリーや部品供給体制が整っているメーカーを選ぶ安心感も大事である。頻繁な充電や操作にも耐え得る堅牢性という意味では、実績のあるモリタ製品やジーシー製品に信頼を置く先生もいるだろう。しかしこれらは価格が高めであるため、導入予算とのバランスを見極めたい。複数ユニットを有し各チェアに配備する場合は、例えばペンブライトのような廉価機を複数本用意する手もある。1本4万円程度なら仮に2~3年で買い替えても損失は少なく、むしろ常に最新状態を保てるという考え方もできる。
自費診療メインでクオリティを追求する先生
セラミック修復や高度な審美歯科を掲げる医院では、治療結果のクオリティ最優先で機器選定する傾向がある。この場合、光照射器も最高レベルの性能を持つものを選ぶ価値があるだろう。例えばイボクラール社のブルーフェーズ PowerCureは最大3,000 mW/cm²もの超高出力と高度な光学制御機能を備え、3秒硬化モードでも器具のブレを感知して自動延長する「アシスタント機能」まで有している(光がずれると検知して適切に硬化できるよう補正する仕組み)。価格は20万円台と高額だが、自費診療1本の売上で十分ペイできる額でもあり、患者への先端技術アピールとしても導入価値がある。同様に、3Mのエリパー ディープキュアも高出力ながら照射野の均一性を追求したモデルで、肉厚修復物の深部まで確実に硬化させることを狙って設計されている。審美領域ではレジンの色調安定性も重視されるが、これにはフォトイニシエーターの種類が関与する。例えばIvocerin配合の一部レジンセメントは波長410 nm前後の光を必要とするが、広帯域ライトであればしっかり硬化可能である。自費中心の先生には、そうしたあらゆる材料に対応できる広波長タイプが望ましい。ヨシダ D-Lux Penやジーシー スリムライトはいずれも385 nm付近までカバーするため、自費診療クオリティにも十分対応可能といえる。あえて懸念点を挙げれば、D-Lux Penはブラジル製で国内シェアが高くない点、ジーシー製はやや本体が太く重量がある点がある。長時間の連続照射(例えばラミネートベニアを多数同時装着する際など)では握りやすさや発熱も考慮すべきなので、一度デモ機を手に取って確かめることを勧める。
外科・インプラント中心の先生
主に外科処置や補綴を専門とし、コンポジットレジン充填の頻度がそれほど高くない場合、光照射器に求めるものはシンプルな「十分硬化できる信頼性」になるだろう。使用頻度が低ければ超高出力である必要もなく、例えば手持ちの旧式ハロゲンライトでも事足りているケースすらある。しかし昨今の接着歯学では、支台歯形成後の表面コーティングや仮封材固化、インプラント上部構造の仮着レジン硬化など地味ながら光照射が必要な場面が随所にある。よってゼロから導入するなら、今後のことを考え最低限LED機にアップグレードするのが望ましい。お勧めはコストパフォーマンスの高いD-Lux Penやペンブライトで、投資額を抑えつつもLEDの利点である省メンテナンスと十分な光量を確保できる。とりわけペンブライトは機能を限定している分、操作に迷いがなくシンプルである。スタッフに扱わせる際もボタンが2つだけで戸惑いがなく、滅多に使わない現場なら逆に好都合とも言える。ただし将来的に補綴領域でも接着技法が増えてくる流れを見据えるなら、広帯域タイプを選んでおいた方が安心ではある。インプラント治療後にセメント固定するジルコニアクラウンの除去性確保のため一部だけレジン点着するといったテクニックにも、光照射器の信頼性は大きく影響するからだ。
結論
ヨシダのLED光照射器 D-Lux Penを中心に、市場に出回る各種デンタルライトについて臨床価値と経営価値の両面から概観した。結論として、高出力・広波長の次世代LED光照射器は、多忙な臨床現場において「確実さとスピード」を両立する強力なパートナーとなり得る。従来、充填処置は光硬化に時間がかかることがボトルネックであったが、新しいライトを導入すれば、その固定観念を覆すような効率化が期待できる。また、硬化不良によるトラブルリスクを低減できる安心感は、術者にとって大きな精神的余裕となるだろう。一方で、性能を活かすも殺すも最終的には使い手次第であり、どんなに高価なライトでも誤った使い方では宝の持ち腐れである。導入にあたっては製品スペックを鵜呑みにせず、自院のニーズに合致するか、スタッフ全員で使いこなせるか、十分に検討する必要がある。
なお、明日から実行できるアクションプランとして、まずお手持ちの光照射器の光量チェックをしてみてはどうだろうか。10年以上前の機器であれば、最新LEDとの性能差に驚くかもしれない。メーカーやディーラーに問い合わせればデモ機の貸し出しや実機説明を受けられる場合もあるので、積極的に依頼してみる価値はある。また、購入前に同業の先輩開業医に使用感を聞いてみるのもよいだろう。ネット上のスペック表だけでは分からない操作感や耐久性の評判を収集し、総合的に判断してほしい。
よくある質問(FAQ)
高出力のLED光照射器を使うと歯髄への悪影響や充填物の収縮が心配だが、大丈夫か?
LED光照射器の発する光は可視光線であり適切に照射すれば生体への有害性は極めて低い。高出力時に多少の発熱はあるものの、照射時間が数秒程度であれば歯髄温度の上昇はわずかで問題ないとされている。収縮応力については、急速重合によりポリマー収縮が一気に起こる可能性はある。しかしコンポジットレジンの物性は近年改良が進んでおり、速硬化型でも物理的特性に大きな差は出ないとの報告もある。どうしても懸念がある場合は、ソフトスタート(ランプアップ)モードで徐々に光量を上げる手法を用いるとよい。重要なのは、いずれの場合も1層あたりの充填厚を適切に守り、過量のレジンを一度に硬化させないことである。
385nmなど紫外領域の光まで出せる機種でないと硬化できない材料があるのか?
結論から言えば、一部に存在する。例えばデュアルキュア型のレジンセメントには、カンフォルキノン以外にIvocerinやTPOといったフォトイニシエーターを併用している製品がある。これらは従来の青色光だけでは効率が悪く、405nm前後の近紫外光を必要とする。そのため、広帯域タイプでないLED光照射器では硬化に時間を要したり、完全に硬化できないリスクがある。一方で一般的なコンポジットレジンやボンディング材は主に468nm付近に吸収ピークを持つカンフォルキノン系なので、狭帯域の青色LEDでも十分硬化可能である。要するに、現在市販の光重合型材料の大半は従来型LEDライトで問題なく使えるが、ごく一部の特殊材料(高機能レジンセメントや審美コーティング材など)を最大性能で活かすには広帯域ライトが必要になる、という位置づけである。
現在ハロゲン光のライトを使っているが、買い替えるメリットはあるか?
ハロゲン光照射器(QTHライト)は波長域が広く多彩な材料に使える反面、光量(照度)がLEDに比べるとかなり低い。新品時でも数百mW/cm²程度であり、長年使用したバルブではさらに低下している可能性が高い。結果として硬化不良を起こすリスクや、硬化に長時間を要する非効率が生じているかもしれない。LED光照射器への買い替えメリットは、その何倍もの高照度で一気に硬化できる点にある。例えば一般的なハロゲン光では10~20秒必要な硬化が、高出力LEDなら数秒で完了することも珍しくない。またLEDは発熱や消費電力も少なく電球交換も不要であるため、メンテナンス性も向上する。ただしハロゲンは連続照射に強い(発光部が発熱に耐える)という利点もあるので、長時間照射を特殊用途で行っている場合は注意が必要だ。総じて言えば、通常の保存修復目的であればLEDへの移行はメリットが大きく、買い替えを検討する価値は高い。
電池が切れて途中で使えなくなる事態が不安だが、対策はあるか?
充電式コードレス機の宿命として、バッテリー切れによる動作停止リスクはゼロではない。しかしD-Lux Penやスリムライトでは1回のフル充電で何百回もの照射が可能であり、日常診療で突然バッテリー切れになる可能性は極めて低い。むしろ注意すべきは、長時間充電スタンドに置き忘れて過充電気味になったり、逆に充電し忘れて放電しきってしまうケースである。これらは電池寿命を縮める原因となるため、診療後に一定時間充電しておき、日々少しずつ充電容量を回復させる運用が望ましい。どうしても不安な場合、予備の光照射器を1本用意しておくと安心である。低価格機でも手元にスペアがあれば、万一の故障・電池切れ時にも診療を止めずに済む。
光照射器のメーカー保証やアフターサポートはどの程度期待できるか?
保証期間は製品により1~3年と差がある:。保証内容も、自然故障のみ無償修理・交換する場合やバッテリーは消耗品扱いで対象外の場合など、各社で異なる。購入前に販売店を通じ、保証範囲と期間、故障時の対応フローについて確認しておくべきである。ヨシダやモリタなど大手の販売ルートで購入した場合、代替機の貸し出しや迅速な修理交換対応が期待できる。一方、海外製品を個人輸入したり並行輸入品を使う場合は、国内でサポートが受けられないリスクがあるので注意したい。基本的に、歯科用機器は正規ディーラー経由で購入し、何かあればすぐ相談できる体制を整えておくことが肝要である。光照射器自体は構造がシンプルで故障は多くない機器ではあるが、万一のトラブル時に診療が滞らないよう、信頼できるサポート網も含めて導入判断すると良いだろう。