
「無料」で使える歯科予約システムはあるのか徹底検証してみた
初診の問診票が長引きチェアの回転が遅れた経験はないだろうか。ホワイトニングの最終枠に限って直前キャンセルが出て、スタッフの残業だけが残る日もある。電話予約は取りこぼしが多く、ネット予約は導入したいが費用と運用負荷が心配で踏み切れないという声を多く聞く。
本稿では無料で始められる国産の予約システムを中心に、臨床的価値と経営的価値の両面から検証する。目的は単純である。自院の診療スタイルに合った「最小コストで最大の時間価値」を生む仕組みを選び、投資対効果を確実に回収することである。
歯科予約システムの比較サマリー表
サービス | 無料プラン | 月間予約上限の公式仕様 | オンライン決済の可否 | 決済手数料の目安 | 患者情報の拡張と管理 | データ出力や連携 | 備考 |
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AirRESERVE | あり | 予約枠登録は月1000件までなど上限仕様が公開 予約件数そのものの上限は明記情報見当たらず | あり クレジットカード対応 | 3.24%などの体系 公開機能として提供 | 予約時アンケートの回答を含めCSV出力 顧客管理あり | 予約情報CSV出力 Googleカレンダー連携 API外部公開は非対応 | Webサイト埋め込み リマインドメールあり |
STORES予約 | あり | フリーは月50件まで 超過で受付停止 | あり 全プラン共通で提供 | 4.9%+99円 | 予約者情報カスタマイズ 顧客CSV一括登録やダウンロード | 予約CSV出力 API提供あり Googleで予約やLINE等と各種連携 | 無料でも検証しやすいが月50件制限に注意 |
RESERVA | あり | フリーは月50件 顧客は250件まで | あり レゼルバペイメント | 4.9% 決済代金入金は原則翌月末 | 予約時アンケートで問診項目を取得可能 | GoogleカレンダーやLINE連携の公式ヘルプあり | 医療向けページを用意 歯科シーンの説明あり |
Square予約 | あり | 公式に件数上限の明記は見当たらず プランによって機能差 | あり Square決済と統合 | 対面2.5%など条件で変動 オンラインは3.6%など | 予約とSquare顧客で一元化 SMSリマインド等 | Squareエコシステム内の連携が豊富 | キャンセル料の自動徴収等は有料プラン機能 |
EDISONE | あり | フリーは月30件 顧客150件 | 決済は上位プランで提供 | 4.7%などの掲載 | クリニック向け導線や予約タイプあり | 公式に各種ガイドあり | 低コスト検証向けだが件数は少なめ |
比較のための軸と評価の視点
予約件数上限とスケーラビリティ
予約の上限は受付停止や機会損失に直結する。STORES予約とRESERVAは無料で月50件までと明記されており、月間予約がそれを超える時点で有料移行を前提に設計すべきである。AirRESERVEは料金0円のフリーを提供しつつ、予約枠の登録上限が月1000件など仕様面の上限が公開されている。Square予約は件数上限の明記が見当たらないが、機能差はプランで分かれるため、必要機能とのバランスで判断する。
患者情報の深さと事前問診の取り回し
歯科では金属アレルギーや既往歴、麻酔経験、自己管理状況など事前確認項目が多い。RESERVAは予約時アンケート機能が公式に整理され、問診票代替の運用を解説している。STORES予約は予約者情報のカスタマイズで項目追加が可能で、顧客リストやカルテ表示に近い画面設計がある。AirRESERVEも予約時アンケートの回答を含めてCSVで出力できるため、初診時の確認業務を短縮できる。
ノーショー対策と決済の設計
直前キャンセルや無断キャンセルはチェア稼働率と人件費を悪化させる。RESERVAは全プランでオンラインカード決済を提供しており、事前決済やキャンセル料設定の運用が可能である。STORES予約もオンライン決済を提供するが、手数料は4.9%と99円がかかる。AirRESERVEはオンライン決済を提供し、来院時決済の簡素化やキャンセル料徴収の運用に言及している。Square予約は決済と予約が一体で、キャンセル料徴収など一部の無断キャンセル対策は有料プランで提供されることが公式記事で示されている。
データの出口と他システム連携
既存のレセコンや電子カルテと直接連携できる無料プランは多くない。現実的な運用はCSV出力やカレンダー連携を介した間接連携である。AirRESERVEは予約情報CSVやGoogleカレンダー連携を公式に整備している。STORES予約は予約CSVや顧客CSVの入出力、API提供の告知がある。RESERVAはGoogleカレンダーやLINEとの連携ヘルプが整備されている。いずれも電子カルテの直接連携は公式情報上は限定的であるため、CSVインポートのしやすさを最低条件と考える。
経営効率の観点 1症例あたり材料費ならぬ予約コストを可視化する
無料でも決済を使えば手数料が発生する。自費ホワイトニングの事前決済やデポジット徴収を組み合わせる場合、例えば3万円の施術に対して決済手数料が発生する前提で粗利を再計算し、ノーショー抑制によるチェア稼働の平準化効果と相殺で評価するのが実務的である。STORES予約は4.9%と99円、RESERVAは4.9%、AirRESERVEやSquareは料率体系が異なるため、自院の決済比率と平均単価に合わせてシミュレーションする。
製品別レビュー
AirRESERVEは無料で始めやすく、CSVとカレンダー連携で現実的に回せる
AirRESERVEは料金0円のフリープランを提供しながら、予約枠登録の仕様上限やCSV出力、Googleカレンダー連携といった実務の要点を公式で整備している。オンライン決済は提供され、来院時決済の簡素化やキャンセル料徴収の運用に触れたドキュメントがある。APIの外部公開は行っていないため、カルテやCRMの自動連携はCSVやカレンダー経由の運用が現実解である。歯周外科や矯正カウンセリングなど所要時間が長めでスロット設計が複雑な診療でも、事前設定タイプと自由受付タイプを使い分けることで組めるのが強みである。
この製品が刺さるのは、既存カルテとゆるく連携しながら手戻りの少ない予約運用を作りたい院長である。受付のCSVルーティンさえ固めれば、初診アンケートの取り込みと既存患者の予約履歴管理は十分に機能する。
STORES予約は無料で検証しやすいが、月50件の天井をいつ超えるかを逆算したい
STORES予約はフリーで月50件までの明確な上限管理があるため、導入初期のABテストや一部メニューだけのネット化に向く。オンライン決済は全プランで提供されるが、決済手数料は4.9%と99円で固定である。予約者情報のカスタマイズと顧客CSV入出力、予約CSV出力が整備され、API提供の告知やGoogleで予約、LINEミニアプリなどの接点も用意されている。予約件数が50件を安定して超える診療所では、月の途中で受付停止となるリスクを避けるためにも、有料プラン移行のタイミングを予め決めておくと良い。
この製品が刺さるのは、ホワイトニングや矯正相談など自費比率の高いメニューだけを先にネット化し、需要予測と広告導線のテストを短期に回したい先生である。決済の固定手数料を含めた粗利計算をメニューごとに置けば、撤退ラインも明確になる。
RESERVAは医療向けの解説が手厚く、事前アンケートで当日の問診を圧縮できる
RESERVAは無料で月50件、顧客250件までの上限が明確で、医療や歯科向けの説明ページと運用Tipsが豊富である。オンラインカード決済は全プランで提供され、手数料は4.9%で統一されている。予約時アンケートの活用記事が整理され、既往歴や金属アレルギー、麻酔歴などを事前取得する設計を公式が推奨している。LINE連携やGoogleカレンダー連携といった汎用接点があり、検診や指導会などイベント型の受付にも対応しやすい。
この製品が刺さるのは、問診票のペーパーレス化と来院前トリアージを優先し、初診チェアタイムの短縮で日内の予約回転を上げたい先生である。
Square予約は決済と予約が一体で、会計動線の短縮に強い
Square予約は初期費0円で開始でき、Square決済と予約が一体であることが最大の特徴である。決済手数料は対面取引で2.5%など条件で変動し、オンライン決済は3.6%などの案内がある。キャンセル料の自動徴収などノーショー対策の一部は有料プラン機能として整理されている。Squareの顧客と予約が束ねられるため、会計から次回予約までの院内動線を短くできる。
この製品が刺さるのは、物販やホームケアのキャッシュレス比率が高い、あるいは自費メニューの事前決済やデポジットでノーショー抑制を制度化したい先生である。
EDISONEは低コストで検証しやすく、クリニック向けテンプレで立ち上げが速い
EDISONEは無料で月30件から始められ、クリニック向けのテンプレートや予約タイプが用意されている。オンライン事前決済は上位プランで提供され、手数料は公式に4.7%などの表記で案内されている。月30件という枠は一般外来には小さいが、予防やホワイトニングの限定導線でABテストを回すには十分である。
実務に効く導入戦略
まずは無料でミニマムバイアブル予約導線を作る
初診とホワイトニング相談の2メニューから始め、予約枠は混雑帯を中心に配置する。STORES予約やRESERVAは月50件の上限があるため、達しそうな時点で電話導線へフェイルオーバーさせる運用ルールを決めておく。
事前アンケートで来院前に問診の7割を完了させる設計にする
既往歴、服薬、アレルギー、希望事項、来院目的、レントゲン可否などを予約時アンケートで取得する。RESERVAの機能解説が設計の参考になる。STORES予約でも予約者情報カスタマイズで同等の項目設計が可能である。
自費メニューは決済を併用し、ノーショーによる損失を吸収する
自費カウンセリングとホワイトニングは事前決済かデポジット制での運用を検討する。RESERVAは全プランでオンライン決済が使え、STORES予約も提供する。AirRESERVEやSquareもオンライン決済の仕組みが用意され、Squareは有料プランでキャンセル料徴収の自動化ができる。手数料は粗利設計に必ず織り込む。
電子カルテ連携はCSVと院内ワークフローで解決する
直接のAPI連携に頼らず、AirRESERVEやSTORES予約のCSV出力を日次で取り込み、患者マスタを突合する。Googleカレンダー連携も活用し、ユニット稼働の見える化を行う。
結論
完全無料で「使い続ける」こと自体は可能である。しかし一般歯科の規模感では早期に上限に達し、特にノーショー対策や事前問診の徹底、会計動線の短縮まで含めると、有料機能や決済手数料の設計が投資対効果の鍵となる。導入の目的を明確にし、無料で小さく始め、上限や機能のボトルネックに到達したら計画的に拡張することが、結果的に最短の回収につながる。
明日からのアクションプラン
1週目にやること
STORES予約またはRESERVAで無料アカウントを作成し、初診とホワイトニングの2メニューだけ公開する。予約時アンケートに既往歴と希望事項を必須化し、来院前の情報取得を進める。
2週目にやること
ノーショーが気になる時間帯の予約だけ事前決済に切り替える。RESERVAやSTORES予約の決済手数料をメニューの粗利表に反映し、チェア1枠あたりの純利益で評価する。
3週目にやること
CSV出力の定時バッチを決め、既存カルテへの取り込みを標準化する。週次で「予約件数の上限に対する残り」をチェックし、有料への移行閾値を院内で合意しておく。
よくある質問
無料プランだけで常用できるのか
月間予約数が少ない医院や、特定メニューのみのネット化であれば常用も可能である。STORES予約とRESERVAは月50件の上限があるため、届きそうな時点で電話導線に逃がす仕掛けが必要である。
ノーショー対策としてデポジットはどの製品でできるのか
RESERVAは全プランでオンラインカード決済が使え、キャンセル料設定の解説もある。Square予約は有料プランでキャンセル料徴収の自動化に触れている。AirRESERVEもオンライン決済の仕組みを提供し、キャンセル料徴収の案内がある。自院の規約と消費者契約法の整合に留意して設計する。
電子カルテと直接つながる無料製品はあるのか
主要な無料プランで電子カルテへの直接API連携の公式情報は限定的である。現実的にはCSV出力やカレンダー連携で運用するのが安全である。
無料で始めてからの課金判断はどのタイミングが良いのか
月間予約上限の7割に達した時点を目安にする。受付停止は患者体験の毀損につながるため、上限に触れる前に有料へシフトする。決済手数料を含めたメニュー別粗利で、上位プランの固定費を吸収できるかを試算する。
海外製の予約アプリでも良いのか
歯科は個人情報の取り扱いが厳格であり、日本語問診や国内決済、領収運用などの要件が多い。まずは国内提供で医療向けの解説が整ったサービスから始め、要件を満たした上で選択肢を広げるのが安全である。