
iPad対応の歯科用電子カルテ主要13製品を比較してみた
歯科診療中にカルテ入力のたびにパソコンに向かい、患者との会話が中断してしまった経験はないだろうか。あるいは、口腔内写真やレントゲン画像を見せるために診療ユニットから離れてモニターのある場所まで移動し、せっかく盛り上がった説明の流れが途切れたこともあるかもしれない。歯科医院のデジタル化が進む現在でも、「もっと直感的で効率の良い方法はないのか」と日々模索している先生も多い。そこで注目されるのがiPad対応の歯科用電子カルテである。
本記事では、臨床の現場感覚と医院経営の視点を融合し、iPadなどタブレットで扱える主要な歯科用電子カルテを徹底比較する。各製品の特徴を客観的データに基づいて分析し、診療の質と経営効率の両立を実現するヒントを探っていく。診療スタイルに合った最適なシステムを見極め、導入コストに見合うリターンを得るための戦略を紹介するので、電子カルテ選びに悩む先生方はぜひ参考にしてほしい。
iPad対応歯科電子カルテの比較サマリー
まず、iPadなどタブレット端末で利用できる代表的な歯科用電子カルテ13製品について、臨床面と経営面の主な特徴を一覧表にまとめる。各製品の提供形態(クラウドかオンプレミスか)、タブレット対応状況、際立った機能、医院経営へのメリット、導入コストの目安を確認しておこう。
製品(提供形態) | iPad対応状況 | 臨床面の特長 | 経営効率への寄与 | 導入費用(目安) |
---|---|---|---|---|
Dentis(クラウド) | タブレットで見やすい画面構成・PCレス運用可 | Web予約~会計まで一元管理、患者コミュニケーション機能も充実 | 事務作業を大幅省力化→対話時間確保で満足度向上、新患リコール増にも期待 | 月額制(要問い合わせ) |
iQalte(クラウド) | iPad単独でカルテ作成から会計まで完結、紙カルテ風UI | 1号・2号紙そのままの画面で歯式入力、指先タッチ中心の直感操作 | シンプル操作で入力時間短縮→チェアタイム減、紙運用から移行しやすい | 月額¥20,000前後+初期機器費(要構築) |
POWER5G(クラウド) | PC・スマホ・タブレット問わずインターネット経由で利用可能 | レセコン機能を中心にカルテ・会計基本機能を網羅、安全なクラウド環境 | 場所を選ばず入力可→訪問診療でも活用、サーバ不要でハード更新コスト削減 | 月額制(クラウド利用料のみで初期負担軽微) |
ジュレア(クラウド) | ブラウザ経由でPC・タブレット利用、院内設備とも連携可能 | カルテ作成から介護請求・経営分析まで1システムで完結 | 予約システム・レントゲン・釣銭機等と連携→事務効率向上、契約縛りなしで低リスク導入 | 月額制(数万円〜、利用機能に応じ課金) |
Opt.One3(オンプレミス) | 多彩な入力方法:院内PC主体+音声入力・iPad連携オプションあり | AIが治療計画を自動提案、レントゲン画像をワンクリック添付、訪問診療にも対応 | 治療計画自動化→自費提案スムーズ、データ蓄積を分析し経営改善にも活用 | 初期¥1,900,000+月¥28,600(保守含む) |
WiseStaff(オンプレミス) | 院内限定でiPadビューア利用可(閲覧用)、基本操作はPC | Linux採用で高速安定動作、歯式をタッチ入力、レセコン一体型の多機能システム | 専任スタッフの導入支援と保守で安心運用、画像・予約ソフト等と連携し情報集約 | 初期導入費(要見積)+保守料(年額) |
TDM-maxV(オンプレミス) | 音声入力アプリでスマホ活用可(タブレット入力はPC画面遠隔等で対応) | 1画面で部位・処置を完結入力、SOAP方式できめ細かく記録、スマホ音声入力に対応 | 算定チェックで入力漏れ防止→減収リスク低減、手書き不要&音声活用でチェアタイム短縮 | ライセンス購入型(要問合せ)+年次保守料 |
電子カルテシステムWith(オンプレミス/クラウド) | クラウド版「With EPOCH」により遠隔からタブレット利用可 | SOAP形式で情報整理、薬剤チェックやアラート機能など安全性重視の設計 | クラウド版はISMS認証取得でセキュリティ安心、算定漏れ防止機能で収益ロス防止 | オンプレ版:初期費用あり(要見積)/クラウド版:月額制(要問い合わせ) |
Hi Dental Spirit XR-10i(オンプレミス) | 訪問先からノートPCやタブレットでカルテ入力可、スマホ問診・決済に対応 | 視診・歯周検査の結果や画像を用いた説明資料作成、自由診療の提案機能や見積書作成まで統合 | 患者のスマホ問診で来院前準備短縮→院内回転率向上、オンライン診療・決済で通院困難な患者にも対応し機会損失防止 | 初期費用あり(要見積)+保守契約またはクラウド連携料 |
Sunny-NORIS Cloud(クラウド) | インターネット経由で訪問先から利用可、院外でもリアルタイム入力 | 訪問歯科向け機能が豊富:居宅療養管理書を現地で入力・プリント、介護保険請求も標準対応 | 訪問診療の記録を往診中に完結→帰院後の事務負担激減、レセプト点検代行サービスで再請求の手間削減 | 月¥60,000〜(300件レセ点検込)+初期¥296,000(設定費) |
カルテメーカー(クラウド) | Mac/Windows/iPad/Androidすべて対応(マルチデバイス利用可) | 現役歯科医師が開発、必要十分な機能に絞り直感操作を実現、電子レセプト・電子保存も対応 | マニュアル要らずの簡単操作→スタッフ研修時間短縮、手持ちデバイス活用で余計な設備投資不要 | 月¥15,000(税別) |
Denty-SEED EX(オンプレミス) | 任意の端末をクライアント利用可能(院内ネット経由でタブレット閲覧等) | コピー&ペーストやドラッグ操作中心で直感入力、3Dアニメーション機能で分かりやすいインフォームドコンセント | サーバ障害時もレプリカで業務継続→ダウンタイムゼロ、常に最新バージョン維持で保守簡便 | 初期導入費+年次サポート料(要問合せ) |
HAPPY ACTIS-ERD(オンプレミス) | 基本は院内PC利用(タブレット利用は限定的) | 衛生士のPMTC記録や指導内容も含め全情報を一画面で共有、見やすいグラフ表示で患者説明にも有用 | 多職種で情報共有→チーム医療の生産性向上、大規模病院用システムとも連携し他科との連携治療が可能 | 大規模向けパッケージ(要個別見積) |
DOC-5 Procyon3(オンプレミス) | Windows環境中心(タブレット操作の公式対応はなし) | モリタ製機器と統合されたオールインワン、継続的バージョンアップで「便利」で「快適」な運用性を追求 | 画像機器とのシームレス連携で入力・検索の手間減少、老舗メーカーによる安心サポートで長期的運用リスク低減 | 機器一括導入プラン等(要問い合わせ) |
歯科電子カルテ比較のポイント
上記の通り一口に「電子カルテ」と言っても、多種多様な製品が存在し、提供形態から機能まで千差万別である。ここでは、臨床面と経営面の双方に関わる主要な比較軸について解説する。各軸で何が違い、それが診療現場の成果や医院収益にどう影響するのかを確認しておきたい。
クラウド型かオンプレミス型か
電子カルテの提供形態は、大きく分けてクラウド型(オンライン)とオンプレミス型(院内設置)の2種類がある。クラウド型は院外のデータセンター上のシステムをインターネット経由で利用する方式であり、初期費用を抑えつつ場所を選ばない運用が可能である。一方、オンプレミス型は院内サーバーを設置するため導入コストは高いが、自院のカスタマイズがしやすく、インターネット接続に左右されない安定稼働が強みである。
例えば、新規開業で資金を設備に多く割けない場合や、訪問先や自宅からカルテを参照・入力したいニーズがある場合にはクラウド型が魅力的である。クラウドなら院長が帰宅後に治療計画を見直すことも容易で、時間の有効活用につながる。一方で通信トラブル時にはアクセスできないリスクがあり、万一ネット回線が不安定だと診療に支障を来す恐れがある点には注意が必要だ。
一方、オンプレミス型は初期投資は大きいものの、院内LAN上で完結するため通信障害の影響を受けにくくレスポンスが高速である。レントゲン画像の読み込みが多い場合や、大量の処置を素早く入力する必要がある保険診療中心の医院では、動作の機敏さが診療効率に直結する。また、自院専用サーバーゆえに独自のテンプレート作成や他システムとの特別な連携などカスタマイズの自由度が高く、大規模な医療法人で他科と連携したい場合などにはオンプレ型でなければ難しいケースもある。ただし、サーバーやソフトの更新・保守には定期的なコストと労力がかかるため、長期的な視野でリプレース周期も考慮した計画が必要である。
操作性・入力インターフェース
電子カルテの操作性は、日々の診療効率とスタッフのストレスに大きく影響するポイントである。特に歯科では、歯式図や口腔内所見の描画がカルテ記載の中心となるため、この操作がいかに直感的に行えるかが重要だ。従来、マウスとキーボードでの入力に不慣れなスタッフにとって電子カルテへの移行はハードルが高かった。しかし、iPadをはじめタブレット対応の製品では、指先やペンで直接画面上の歯をタッチしたり描き込んだりできるものが増えている。紙カルテに近い感覚で入力できれば、ベテランスタッフでも抵抗なく使い始めることが可能である。
操作性向上のメリットは、単に使いやすさだけではない。入力の迅速化とミス低減という形で診療時間とクオリティに直結する。例えば「カルテメーカー」のように最短のクリック数で処置入力が完了するUIであれば、一人当たり数十秒の短縮が積み重なり、1日あたりでは数人分の診療時間を生み出すことも夢ではない。音声入力に対応した「TDM-maxV」のようなシステムなら、処置中に要点を口述録音し後でテキスト化するといった使い方も可能であり、診療と記録を並行して進めることができる。
一方、操作が煩雑なシステムでは、本来なら患者説明や技術に集中できる時間がシステム対応に奪われ、患者待ち時間の増加やスタッフの残業につながる恐れがある。直感的に使える電子カルテはスタッフ教育の時間も短縮し、導入後スムーズに定着させる鍵となる。結果的にヒューマンエラーを減らしつつチェアタイムを短縮でき、患者満足度と医院の回転率向上の両方に寄与するのである。
機能の統合性と拡張性
電子カルテ単体の操作性だけでなく、他の院内業務システムとの連携も重要な比較ポイントである。歯科医院では予約管理、レントゲン・口腔内カメラ画像の管理、会計、さらにはリコール葉書や在庫管理など、多岐にわたる業務が存在する。これらがバラバラのシステムで運用されていると、同じ患者情報を各所に入力する二度手間が生じたり、情報が分散して見落としにつながったりしがちである。電子カルテが他機能と一体化していれば、そうした重複作業を減らしスタッフの負担を軽減できる。
例えば「Dentis」や「Hi Dental Spirit」のようにWeb予約、問診票、会計、決済まで網羅するシステムなら、受付で患者を待たせずスムーズに診療に入れる。患者が自宅でスマホから入力した問診情報がそのままカルテに反映されていれば、スタッフが聞き取り転記する時間も不要だ。これにより患者一人あたりの受付〜会計時間が短縮し、1日に対応できる患者数の増加や待ち時間短縮による満足度アップが期待できる。
また、インフォームドコンセント支援機能も収益機会に直結する。例えば「Denty-SEED EX」のように治療内容を説明する3Dアニメーションが備わっていれば、患者が治療の必要性を理解しやすくなり、自費治療の提案にも前向きに応じやすくなる。見積書作成機能を持つシステムでは、その場で治療プランごとの費用提示ができ、患者が迷って持ち帰るケースを減らせるだろう。これは治療受注率の向上、ひいては医院の収益アップにつながる。
さらに、データ分析機能にも注目したい。カルテ内の診療データや会計データを分析し、診療傾向や収益構造を可視化できる製品(例:「ジュレア」は経営分析機能を搭載)は、院長の経営判断をサポートしてくれる。どの治療が利益率が高いか、リコール率はどのくらいか、といった指標を把握すれば、的確な経営戦略を立てることが可能だ。このように、単なるカルテ記録を超えて医院全体をデジタルで統合管理できる製品は、忙しい院長の経営管理時間を減らしつつ、収益機会の拡大を後押ししてくれる。
保険請求・自由診療への対応力
歯科ならではのポイントとして、保険請求業務の煩雑さと自由診療メニューの多様さが挙げられる。電子カルテ選びの際には、この両面への対応力も見逃せない。まず保険請求については、算定ルールのチェック機能やレセプト一体型かどうかが重要だ。経験の浅いスタッフでも安心して入力できるよう、算定漏れや矛盾をリアルタイムに警告してくれるシステム(例:「TDM-maxV」や「With」の算定チェック機能)は、レセプト返戻や機会損失を防ぎ医院の安定収入に寄与する。
一方で、自費治療の割合を今後増やしていきたい場合には、自由診療項目の管理やコース設定が柔軟にできることが望ましい。ホワイトニングや矯正などで回数コースを提供する医院であれば、回数消化の管理機能がある「MEDIBASE」のような製品が適している。料金シミュレーションや分割払い計算などの機能があれば、患者に提案しやすく成約率アップにつながる。また、保険適用外の材料や薬剤もカルテ上で管理できれば、材料原価の把握や適切な価格設定にも役立つ。
訪問診療を行っている場合は、訪問時に必要な居宅療養管理指導書や明細書の発行に対応しているかも重要だ。これに対応しない一般的な電子カルテでは、訪問診療だけ別途手作業になり非効率である。「Sunny-NORIS Cloud」のように訪問先で所定の帳票を入力・印刷できるシステムなら、訪問診療の収益管理を漏れなく行える。今後高齢患者が増える中で、訪問診療の拡大にも耐えうる電子カルテを選んでおけば、将来的な収益チャンスの拡大にも備えられるだろう。
サポート体制と習熟性
高機能な電子カルテも、使いこなせなければ宝の持ち腐れである。実際に「導入してみたもののスタッフが操作に戸惑い、結局紙カルテ併用に逆戻りした」という失敗談も業界では耳にする。こうした事態を避けるため、ベンダーのサポート体制と、製品の習熟しやすさは事前に確認しておきたい。
老舗メーカーの製品(例:「WiseStaff」や「モリタDOCシリーズ」)は、導入時に専門スタッフが院内に来て操作指導を行ってくれたり、導入後も電話や遠隔操作で手厚くフォローしてくれるケースが多い。一方、新興のクラウド製品でも、オンラインサポートやチャットによる迅速な支援を提供している会社もある。重要なのは、トラブル発生時や疑問点が生じた際にどの程度迅速に対応してもらえるかである。診療を止めないためには、サポートの質も投資額に見合う価値と考えるべきだ。
また、日々の運用でスタッフが使い続けてくれるかどうかは、どれだけ簡単にシステムに習熟できるかにかかっている。「カルテメーカー」のように開発者自身が「マニュアル不要」と謳うほどUIを研ぎ澄ました例もあり、そうした設計思想の製品は直観的に覚えやすい。逆に多機能ゆえに設定項目が煩雑なシステムでは、院長だけが使いこなせても他のスタッフは敬遠し、結局アナログな運用から脱却できない懸念もある。導入前には必ずデモ機を使ったトライアルを行い、現場スタッフの反応を確かめることが肝要だ。誰もが抵抗なく使えると実感できる製品こそが、長期的に見て最良の投資対効果を生む電子カルテと言えるだろう。
iPad対応電子カルテ主要製品の個別レビュー
次に、上記で登場した主要な電子カルテ製品それぞれについて、臨床面と経営面からもう少し踏み込んで解説する。各製品の強みと弱みを客観的に整理し、どのような歯科医師にマッチするかを考察する。読者自身の診療スタイルや医院方針を思い浮かべながら、各製品レビューを読んでみてほしい。
Dentis(デンティス)
「Dentis」はオンライン診療サービス等で知られるメドレー社が提供する歯科医院向けクラウド統合システムである。電子カルテとレセコン機能はもちろん、Web予約、決済、リコール管理、さらにはオンライン診療機能までパッケージ化されているのが特徴だ。院内業務のほとんどを1つのプラットフォーム上で賄えるため、各種データが統合管理され院全体の効率化につながる。
臨床面では、カルテ画面のUIがタブレットで俯瞰しやすいレイアウトになっており、チェアサイドでiPadを手に持ったままでも患者情報を一覧できる。歯式や所見の入力もシンプルで、直感的な操作感を重視して設計されている。診療記録だけでなく、撮影した口腔内写真やX線画像の管理、治療計画の立案補助といった機能も搭載し、診療の質と患者説明の充実を支えてくれる。
経営面では、業務効率化と患者満足度の向上が両立できる点が魅力だ。Web予約やリマインド機能により患者の来院率を高め、キャンセル減少と増患を期待できる。また、院内の事務作業(受付書類の記入、会計処理など)の多くが自動化・電子化されるため、スタッフの負担が軽減し人的コストの削減につながる。スタッフが空いた時間を患者対応に充てればサービス品質が上がり、口コミで新患が増える好循環も生まれるだろう。
Dentisがフィットするのは、患者とのつながりを重視し医院成長を図りたいクリニックである。例えば、最新のITツールでスマートな医院運営をアピールしたい都市部の自費中心クリニックや、開業に合わせて一気にデジタルトランスフォーメーションを図りたい先生にはうってつけだ。ただし高機能ゆえに、Web予約やオンライン診療を使いこなすにはスタッフ側のITリテラシーも求められる。機能が多岐にわたる分、不要な機能まで含めたコスト負担になる可能性もあるため、自院に必要な機能の優先順位を明確にして導入を検討したい。
iQalte(アイカルテ)
プラネット社の「iQalte(アイカルテ)」は、はじめからiPadで全操作ができるよう設計された異色の歯科用レセコン・電子カルテである。カルテ入力から会計・レセプト発行まで一貫してiPad上で行えるため、煩雑なマウス操作やキーボード入力に煩わされることがない。画面デザインは紙の1号カルテ・2号カルテ様式をそのまま電子化したようなレイアウトで、紙カルテに親しんだ歯科医師でも違和感なく使えるのが大きなメリットだ。
臨床面の特筆すべき点は、そのシンプルさと直感性である。例えば、処置を入力する手順は紙カルテのプロセスに倣い、「処置部位を選ぶ→傷病名を選ぶ→処置内容を選ぶ」という流れになっている。メニュー操作は極力ボタン類を排し、指で直接選択肢をタッチするだけという簡潔さで、初めて触るスタッフでも短時間でマスターできる。カルテ記載した情報はそのまま会計・レセプトに反映されるため、入力が終われば自動で請求書やレセ電データが出来上がっている。これはレセコンとカルテが完全一体化しているiQalteならではの効率といえる。
経営面では、省スペース・省設備によるコストメリットが見逃せない。iPadさえあれば診療ユニットごとに端末を配置できるため、各ユニットに高価なPCを置く必要がない。また、操作が直感的なおかげでスタッフ教育コストも低減できる。紙のように扱えるため従来カルテからの移行期でもスタッフの抵抗感が少なく、移行に伴う業務停滞リスクも小さいだろう。
iQalteは、小規模~中規模の歯科医院で「シンプル&スマート」に運用したい場合に最適である。たとえば院長一人とスタッフ数名で切り盛りするクリニックでは、煩雑なIT管理に時間を割かず診療に集中することができる。一方で、より複雑な機能(例えば細かな経営分析や特殊なカスタマイズ)が必要なケースでは物足りない可能性もある。また、iPad主体とはいえ院内ネットワークやバックアップ用PC等の最低限のITインフラ構築は必要なので、導入時は専門業者のサポートを受けると安心だ。総じてiQalteは「誰でも使える」ことに主眼を置いた革新的製品であり、ITが苦手なベテラン歯科医師にとっても有力な選択肢となるだろう。
POWER5G
デンタルシステムズ社の「POWER5G」は、歯科向けのクラウド型レセコンシステムである。名称に「レセコン」とある通り、本来は保険請求や会計処理に強みを持つ製品だが、現在では電子カルテ機能も備え、歯科診療の基本業務をクラウド上で一括管理できる。インターネット回線さえあれば、診療所のPCはもちろん、自宅のパソコンや移動中のタブレット・スマートフォンからでもアクセス可能という手軽さが特徴だ。
臨床面の機能はオーソドックスで、患者基本情報、歯式・処置内容の記録、会計・レセプト発行といった一連の流れを標準的にカバーしている。特筆すべきはその堅牢なセキュリティ体制で、医療機関向けクラウドとして世界トップレベルのデータセンター環境を謳っている点である。患者データを安全に管理できるのはもちろん、クラウド上のデータは常時バックアップされているため、院内でバックアップ作業をする手間も不要だ。
経営面では、ハードウェアコストと保守負担の軽減によるメリットが大きい。クリニック側でサーバー機を用意する必要がなく、定期的なサーバー更新やシステムバージョンアップ作業もサービス提供側で行われる。これにより初期投資を抑えられると同時に、常に最新のシステムを利用できる。さらに、場所を問わず入力・閲覧ができるということは、たとえば往診先から帰院せずに直ちに入力を完了させたり、院長が出張中でも診療録を確認できたりと、時間の有効活用につながる。スタッフのテレワーク活用も可能になるため、産休中の衛生士が在宅でレセプト点検業務を手伝う、といった柔軟な働き方にも資するだろう。
POWER5Gは、「とにかく手間を省いて安全に運用したい」クリニックにマッチする。IT管理者を置けない小規模医院でもサーバーメンテナンスの心配がなく、地方でインフラが脆弱な場合でもNTTデータ提供のネットワーク(@OnDemand)を利用することで安定運用が見込める。ただしインターネット接続が前提となるため、万一回線がダウンしたときにはオフラインでは使えない点は留意したい。総合すると、信頼性と手軽さを両立したクラウド電子カルテとして、幅広い医院に検討価値のある製品である。
ジュレア
ピクオス社の「ジュレア」は、歯科医院向けクラウドレセプトシステムとして開発された製品である。クラウド型ながら電子カルテ、レセコンに加え、介護保険請求や売上分析まで単体で行えるオールインワン性が売りとなっている。月額制の料金体系で契約期間に縛りがなく、必要に応じて短期間から導入・解約ができる点もユニークだ。
臨床面では、歯科の保険診療に必要な一通りの機能を備えつつ、介護保険の請求業務にも対応しているため、訪問歯科や老健施設提携などを行う医院には心強い。また、予約システムやデジタルレントゲン、さらには自動精算機(釣銭機)等とも連携実績があり、院内機器の連動性が高い。例えば患者来院時に予約システムから情報が自動取り込みされたり、治療後に会計情報が連動して釣銭機が動作するといった具合に、各装置・ソフト間のシームレスな連携が図られている。
経営面で特筆すべきは、クリニック経営の見える化だ。ジュレアには診療実績や売上を分析する機能が含まれており、例えば月ごとの診療点数や自費売上の推移、処置内容別の利益率などをグラフ化して確認できる。これにより、院長は数字に基づいた経営判断(どのメニューに注力すべきか、新たな設備投資の回収見込みはどうか等)を行いやすくなる。また、月額利用料のみで使えるため、必要なくなれば解約して他製品に乗り換えることもでき、導入のハードルが低いのも魅力だ。
ジュレアは、コストを抑えつつも歯科医院の業務を丸ごと効率化したい医院に向いている。例えば開業まもなく資金繰りに慎重な時期でも、クラウドなら初期費用を最低限にして始められる。また、介護施設往診など幅広い診療形態に取り組む医院では、介護請求機能を備えた数少ない選択肢として有力だ。注意点としては、クラウドサービスゆえにカスタマイズ性は限定的であり、特殊な運用には対応しきれない場合もあることだ。しかし標準機能内で完結する範囲であれば、ジュレアは必要十分な機能と柔軟性を備えた歯科医院の頼れる経営パートナーと言えるだろう。
Opt.One3
オプテック社の「Opt.One3」(オプトワンスリー)は、AI搭載の歯科用電子カルテシステムとして注目を集めるハイエンド製品である。院内サーバー型(オンプレミス)ではあるが、最新のクラウドサービスと遜色ない機能拡張性とデータ活用能力を持ち、特に治療計画立案のサポートに強みを持っている。初期導入費は約¥1,900,000と大きいが、AI支援など独自性の高い機能を求める医院には検討する価値があるシステムだ。
臨床面では、Opt.One3に搭載されたAIが患者ごとの最適な通院回数・治療内容のプランを瞬時に提示してくれる点が革新的だ。たとえば多数歯欠損の患者であれば「この部位にはインプラントが有効」といった提案がなされ、治療完了までのステップをタイムラインで示してくれる。これにより、術者の見落としを防ぎつつ患者への説明も視覚的に分かりやすくなるため、インフォームドコンセントが円滑に進む。加えて、訪問診療モードや介護保険請求にも対応し、院内のみならず往診先でもノートPCやiPadを用いてカルテ入力ができる柔軟性も備えている。
経営面では、高額な投資を回収し得るだけのROIを描けるかが鍵となる。Opt.One3の場合、AIによる包括的な治療提案が自費治療の受注率アップに貢献する可能性が高い。患者にとってベストな治療計画を提示することで、例えば「放置していた欠損部にインプラントを検討する」といった新たな治療需要を喚起できれば、医院の売上拡大に直結する。また、システム内に蓄積された膨大な診療データは経営分析にも活用でき、地域のニーズに合ったメニュー展開やリコール間隔の最適化などデータ駆動型の経営判断が実践できるだろう。
Opt.One3が真価を発揮するのは、先進的な歯科医療を提供し差別化を図りたい医院である。インプラントや再生医療など高度な診療に注力するクリニックでは、患者ごとの治療戦略を立てるのにAIアシストが大きな力となるだろう。ただし高度な機能ゆえに、導入・運用には一定のITリテラシーとスタッフ教育が不可欠であり、小規模な保険診療中心の医院にはオーバースペックとなり得る。またコスト面でも、初期投資と月額費用を賄うには相応の患者数・単価が必要だ。導入前に自院の症例数や自費診療割合を見極め、投資対効果の試算を十分行うことが望ましい。
WiseStaff(ワイズスタッフ)
ノーザ社の「WiseStaff」は、1980年代から歯科用コンピュータを手がけてきた老舗メーカーによるオンプレミス型電子カルテ・レセコン統合システムである。特徴はその安定性と導入支援の手厚さにあり、専用機器とLinuxベースOSによる軽快な動作、そして経験豊富なスタッフによるサポートで、安心して長く使い続けられる環境を提供している。
臨床面の機能は歯科診療に必要なものを網羅している。特に、歯式入力のしやすさに定評があり、画面上の歯列図を直接タッチして欠損や充填を入力できるため、複雑な歯科所見も素早く記録できる。また、カルテ情報はレセプトと連動しているため処置入力と同時に請求項目が自動計上される。会計時には領収書・明細書・説明書類をワンクリックでまとめて印刷でき、患者を待たせないスムーズな会計が可能だ。レントゲン画像管理ソフトや予約システムとの連携オプションも用意されており、既存の院内機器資産を活かしつつ電子カルテ化できるよう配慮されている。
経営面では、抜群の安定稼働による診療ロス回避が大きなメリットだ。Linux OS採用によりWindowsアップデート等による突然の不調が少なく、診療時間中にシステムが固まって入力が滞るといったストレスから解放される。これは患者回転率の維持やスタッフの精神的負担軽減に繋がり、間接的に医院のサービス品質向上にも寄与する。また、ノーザ社の専任スタッフが導入前後に密にサポートを行ってくれるため、システム移行に伴う業務停滞リスクが低いのも経営上ありがたいポイントだ。保険請求の最新改定にも随時アップデートで対応しており、常に正確な請求業務が行える安心感がある。
WiseStaffは、「システムは黒子に徹し、トラブルなく動いてほしい」と考える医院に適している。多忙な保険診療主体のクリニックでは、結局シンプルで安定したシステムが一番と感じることも多い。特に、地域で長年診療を続け患者を抱えているような医院で、今さら大きく運用を変えたくないが効率化は図りたいという場合、WiseStaffの堅実なアプローチは安心感をもたらすだろう。ただしクラウド型ではないため院外からカルテ閲覧は基本できず、データバックアップやサーバ機器の更新は数年ごとに必要となる。その点も含めて、同社の担当者と相談しながら計画的な運用を考えていけば、電子カルテ初心者にも優しい心強い味方となってくれるはずだ。
TDM-maxV
OEC株式会社の「TDM-maxV」は、音声入力機能を備えたオンプレミス型の多機能電子カルテである。一画面に歯式図と処置入力欄を収めることで直観的な操作を実現しており、さらにスマートフォンを活用した音声入力連携で入力補助するなど、ユニークな特徴を持つ。
臨床面では、まずSOAP形式(主観的情報・客観的情報・評価・計画)での記録に対応している点が目を引く。口腔内所見や診断結果を体系立てて残せるため、情報共有や後日の見直しがスムーズだ。また部位選択から算定可能な処置の候補がリアルタイムで強調表示されるチェック機能があり、入力漏れや記載ミスを未然に防止できる。極めつけは音声入力機能で、スマートフォンの専用アプリに向かって所見を話せばテキスト化され、スワイプ操作一つでカルテ本体に送信できる。例えば術中に気づいた所見をその場で口述保存し、後からカルテに反映するといった使い方が可能で、診療と記録の両立を助けてくれる。
経営面では、TDM-maxVの機能は人的ミスによる損失を防ぎ生産性を上げる方向に作用する。チェック機能のおかげで算定漏れや不正請求といった事故が起きにくく、安定した保険収入を確保しやすい。また、音声入力による効率化はスタッフ数が限られる医院では特に威力を発揮する。歯科医師がアシスタントを呼ばずとも独力で所見記録を進められるため、人件費の節減やスタッフ配置効率の向上につながる可能性がある。
TDM-maxVは、最新技術を活用してでも診療記録に手間をかけたくない先生に向いている。紙カルテ時代から「診療後のカルテ記載に追われて残業」という経験をしてきた開業医にとって、音声で記録を代行できる利便性は魅力的だろう。ただし、音声認識の精度は話者や環境音に左右されるため、過度な期待は禁物だ。専門用語が多い歯科領域では多少の誤変換は避けられないため、結局あとで手修正が必要になるケースもある。また本システム自体が豊富な機能を持つため、全機能を使いこなすには慣れも必要だ。導入に際してはメーカーのトレーニングを受け、まずは基本機能から徐々に活用範囲を広げていくとよい。
電子カルテシステムWith
メディア株式会社の「電子カルテシステムWith」は、歯科診療の質向上と安全管理を重視した電子カルテシステムである。1980年代からの実績を持つ老舗メーカーによる製品で、長年培われたノウハウが詰め込まれている。オンプレミス版に加えクラウド版の「With EPOCH」も登場し、時代に合わせた進化を続けている。
臨床面では、With最大の特徴はSOAP方式に基づく入力画面だ。患者から得た主観的情報、客観的な所見と診断、評価、治療計画という流れでカルテ記載でき、情報が整理された形で残るため後から見返した際も要点を把握しやすい。カルテ入力中には薬剤アレルギーや併用禁忌薬のチェック、複数の処置の組み合わせルールの自動検証など、安全性を担保するアラート機能が随所に盛り込まれている。例えば処方薬の相互作用チェックにより重大な投薬ミスを未然に防ぐことができるのは、医科も手がけるメディア社ならではの配慮と言える。
経営面では、医療トラブルのリスク低減と効率的な診療運営に寄与する点が評価できる。チェック機能のおかげでヒヤリハットや返戻が減れば、賠償リスクや余計な業務の発生が防げて収益性が上がる。また、With EPOCH(クラウド版)を利用すれば院外からカルテ参照が可能となり、往診や急な問い合わせ時にも対応できる柔軟性が得られる。オンプレミス版であっても、長年の導入実績から各医院に合わせた細かな設定(たとえば独自の処置マスタやテンプレート作成)にも対応してくれるため、使い勝手の良い運用が可能だ。費用は導入規模や選択機能によって変動するが、そのぶん無駄なくカスタマイズできるとも言える。
Withは、歯科医療の安全と質を重視する医院にこそフィットする。たとえば、全身管理に注意を要する障害者歯科や、有病者の治療を積極的に受け入れる医院では、薬剤チェック機能は極めて心強いだろう。またスタッフが複数の歯科医師でカルテを共有する際もSOAP形式なら抜けやブレが少なく、チームで患者を診る体制に向いている。ただし多機能であるがゆえに、使い始めのとっつきにくさを感じるかもしれない。ベンダーのサポートを活用し、自院用マニュアルを用意するなどの工夫で乗り越えれば、長く頼れる相棒となるシステムである。
Hi Dental Spirit XR-10i
東和ハイシステム社の「Hi Dental Spirit XR-10i」は、患者向けサービス機能と訪問歯科機能が充実した歯科用電子カルテ統合システムである。院内の電子カルテ・レセコン機能に加え、スマートフォンやタブレットを活用した最先端のオンライン機能が組み込まれている点が大きな特徴だ。
臨床面では、口腔内の視診結果や歯周ポケット検査結果をグラフや図でわかりやすく表示でき、患者への説明ツールとして優秀である。さらに、自由診療提案のサポート機能があり、例えば歯の色調や並びのシミュレーション画像を用いてホワイトニングや矯正を提案する、といったことも可能だ。見積書もその場で発行できるため、患者は治療内容と費用をワンセットで理解しやすい。訪問診療時にはモバイル端末からカルテ入力が可能で、帰院後にまとめて記録する手間を省ける。スマホ予約・問診・決済などの機能では、患者が自分のスマートフォンで予約取得から問診記入、治療後のクレジット決済まで完結できるよう連携しており、クリニック受付のデジタル化を強力に推進する。
経営面では、このようなデジタル患者サービスの充実が患者満足度と医院ブランド力の向上につながる点が見逃せない。例えば、スマホ決済やオンライン相談に対応している医院は利便性で他院と差別化でき、口コミや紹介で新患を呼び込みやすくなる。また、訪問診療でのカルテ入力効率化により、1日に訪問できる件数を増やすこともできるだろう。自由診療提案機能によって自費率が向上すれば、投資回収も加速する。さらに、同社は医科向けシステムも手掛けているため、大規模医療法人で医科歯科連携を図る場合などにもシームレスにデータ共有でき、包括的な地域医療展開にも役立つ可能性がある。
Hi Dental Spirit XR-10iは、最新ITで患者サービスを高度化しようとするクリニックに最適だ。特に、自費治療に注力しつつ訪問歯科も手広く行うようなクリニックでは、本システムのポテンシャルを最大限発揮できるだろう。ただし多機能ゆえの初期費用と運用コストも大きく、十分な収益アップを見込める医院でないと負担が大きい可能性がある。また、高齢の患者層ばかりではスマホ連携機能が宝の持ち腐れになるため、自院の患者属性を考慮して導入を判断したい。とはいえ、今後の歯科医療のデジタル化の方向性を先取りしたシステムであることは間違いなく、成長志向の医院にとって有力な選択肢となる。
Sunny-NORIS Cloud
サンシステム株式会社の「Sunny-NORIS Cloud」は、訪問歯科診療にフォーカスしたクラウド型電子カルテ/レセコンである。高齢化社会においてニーズが高まる在宅歯科医療に対応すべく設計されており、居宅療養管理指導の書類作成や介護保険請求機能など、他にはない特徴を持つ。
臨床面では、訪問先での使い勝手を徹底追求している。ノートPCやiPadを持ち出して患者宅で処置内容を入力し、その場で必要書類をプリントアウトできるため、紙の帳票に手書きして後日事務員がパソコンに転記する、といった非効率を解消できる。インターネット経由のクラウドシステムなので、訪問先から直接データが共有され、院に戻った際にはすでにその日のカルテ入力と請求準備が完了している状態にできる。介護保険の請求業務も標準搭載しているため、訪問診療でありがちな医科・歯科・介護の複雑な請求も一元管理が可能だ。
経営面で大きなメリットとなるのは、訪問診療業務の効率化による生産性の向上と請求漏れリスクの軽減である。従来、訪問診療では診療後にクリニックへ戻ってから事務処理が発生し、その日のうちに終わらなければ残業や持ち帰り仕事になるケースもあった。Sunny-NORIS Cloudを活用すれば、それらの事務作業が訪問中に完結するため、スタッフの残業削減や働き方改善につながる。さらに、オプションの「Cloud+」プランでは、毎月一定枚数までレセプト点検や指導対策をプロの事務スタッフが代行してくれる。これにより、返戻や指導是正による減点を防ぎ、安定した収入確保が期待できる。
Sunny-NORIS Cloudは、訪問診療を柱に据える歯科医院にとっては頼もしい武器となる。実際、施設往診専門で1日数十件をこなすようなケースでは、このシステムなしには回らないほど業務効率に差が出るだろう。ただし、一般外来が中心で訪問は月に数件程度という医院だと、費用対効果の観点で導入ハードルが高いかもしれない。料金も本格運用プランでは月額¥60,000程度と高めであるため、導入前に訪問診療の件数や今後の展開を見極めたい。将来的に訪問診療を拡大するビジョンがあるなら、早めにこうした専用システムを整備してスタッフに慣れてもらうことは、先行投資として有効と言える。
カルテメーカー
「カルテメーカー」は、実際に歯科臨床に携わる歯科医師が開発したことで知られるクラウド型電子カルテである。Mac、WindowsからiPad、Androidタブレットに至るまで幅広いデバイスで利用でき、月額¥15,000(税別)という明瞭な価格設定も相まって、近年利用医院を増やしている新鋭システムだ。
臨床面では、開発者自身が診療現場で本当に欲しい機能だけを盛り込んだと公言するだけあって、UIは極限まで簡潔かつ効率重視で設計されている。煩雑なメニュー階層を廃し、主要な機能にワンクリックで到達できる導線が確保されているため、マニュアルを読まなくても直感で操作方法がわかるほどだ。もちろん電子レセプトや診療録の電子保存にも対応しており、法的要件はしっかり満たしている。クロスプラットフォーム対応ゆえに、院長は診療室でMacを使い、受付はWindows機、衛生士はiPadミニで患者データ参照、といったデバイスミックス環境も柔軟に実現できる。
経営面では、そのコストパフォーマンスの高さが光る。初期費用は抑えられ、既存の手持ちデバイスを流用可能なため余計な設備投資が不要だ。例えば院長が個人で使っていたiPadをカルテ用に回せば新たにPCを買う必要もなく、医院規模によっては数十万円単位の節約になるだろう。また、操作習熟が早いことで導入初月からほぼ通常ペースで診療を回せるため、切り替えによる機会損失が最小限に済むメリットもある。アップデートはオンラインで自動適用されるため、追加費用なく機能改良が享受できる点も見逃せない。
カルテメーカーは、小規模医院やITが苦手なスタッフがいる職場でもスムーズに電子化を進めたい場合にうってつけだ。必要最小限の機能に絞られているとはいえ、一般的な保険診療から簡単な自費までカバーできるため、多くの開業医にフィットするはずだ。ただし大手メーカー製品に比べるとユーザーコミュニティもこれからであり、サポート体制の規模も未知数な部分がある。困ったときに気軽に相談できる周囲の同業が少ない可能性もあるため、導入に際しては公式サポートをフル活用し、問い合わせ対応のスピード感などを確かめておくとよいだろう。総じてカルテメーカーは「現場目線」に立った良心的なシステムであり、電子カルテデビューのお供として有力な選択肢となる。
Denty-SEED EX
富士フイルムの「Denty-SEED EX」(デンティシードEX)は、ユーザーフレンドリーな操作感と強固な信頼性で定評のある歯科用電子カルテシステムである。レセコン機能を含むオンプレミス型だが、随所に工夫を凝らした設計で日常診療のストレスを軽減し、安心して使い続けられる製品となっている。
臨床面では、直感的な操作性を追求している。例えば、カルテへの所見記載はコピー&ペーストやドラッグ&ドロップ主体で行え、複雑なコード入力は必要ない。紙カルテの余白に付箋を貼るような感覚でメモを残せる「付箋機能」も搭載されており、患者さんごとの細かな注意事項やスタッフ間の申し送り事項も視覚的に整理できる。また、保険請求のオンライン請求に標準対応しており、レセプトの送信から返戻管理までシームレスに行えるため、煩雑な請求業務がスマートになる。
Denty-SEED EXの真骨頂は、システム稼働の安定性と保守性である。サーバーが万一停止しても、即座にバックアップサーバー(レプリケーション機能)に切り替わり通常通り操作を継続できる仕組みを持つため、診療が中断するリスクを極限まで抑えている。また、ソフトウェアのバージョンアップはネット経由のダウンロードで完結し、診療後の空き時間に自動更新して常に最新状態を維持できる。これらにより、システムダウンや更新忘れによるトラブルを起こさずに済むので、院長もスタッフも安心して日々の診療に専念できる。
経営面では、安定稼働によって生まれる無駄のなさがメリットだ。突然システムが使えなくなって患者対応が滞る、といった事態がなければ、患者を逃すこともスタッフが右往左往する時間もなくなる。これは患者満足度を下げないためにも極めて重要である。また、富士フイルムという大手企業の製品であること自体が一種の信頼感を生み、将来にわたるサポートや法改正対応の確実性について心配が少ない点も、経営者にとっては見えない安心材料だ。価格は個別見積もりだが、高性能なだけに安価ではない。しかし「止まらないシステム」による時間・機会損失の防止を価値と考えれば、十分検討に値する投資と言えるだろう。
Denty-SEED EXは、歯科医院のITインフラに妥協したくない院長にマッチする。患者数が多く一日たりとも診療を止められないような大型クリニックや、自費治療中心で1件のキャンセル・クレームも避けたい医院では、その信頼性が心強い武器となるはずだ。操作もわかりやすいためスタッフ受けも良く、幅広い世代の歯科チームに受け入れられやすい。導入後も定期的なメンテナンス契約で最新状態を保てるため、長期にわたり医院の成長を陰から支えてくれる存在となるだろう。
HAPPY ACTIS-ERD
キヤノンメディカルの「HAPPY ACTIS-ERD」は、歯科医院運営に必要な機能を幅広く搭載した統合電子カルテである。特に歯科衛生士を含めたチーム医療と、病院歯科など他診療科との連携に強みを持つ製品で、大規模な環境で力を発揮するよう設計されている。
臨床面では、歯科医師だけでなく歯科衛生士の業務効率化にもつながる電子カルテである。衛生士の診療記録や患者への指導内容などをはじめ、すべての情報をひとつの画面で参照できる。わかりやすい図・グラフが用意されており、患者への説明に効果的だ。患者の歯1本1本の情報や歯周病の記録はもちろん、受付業務にも対応している。また、薬剤や材料に関する算定情報もチェックでき、確実性を担保した会計業務も遂行可能。大規模病院なら「HAPPY ACTIS」と連携することで、他の科目をまたいだ運用ができる。
経営面では、主に大規模環境での情報共有効率と安全管理がメリットとなる。複数の歯科医師・衛生士がいる医院では、情報をリアルタイムで共有できることでカンファレンスの時間短縮やミスコミュニケーションの防止につながる。また、医科電子カルテや医事会計システムとデータ連携できるため、総合病院の歯科口腔外科で採用すれば入院患者の全身情報を参照しつつ歯科診療を行うことが可能だ。薬剤や処置の重複投与チェックなど医療安全面のサポートも充実しており、大規模施設のコンプライアンス要件にも応えられる。
HAPPY ACTIS-ERDは、チェア数の多い大型歯科医院や病院内歯科での利用を想定したシステムである。そのため、一般的な開業医にとっては機能過剰でコストも見合わない場合が多いだろう。実際の導入は数百万円以上の規模になるとみられ、導入プロジェクトも大掛かりになることが予想される。しかし、分院展開する医療法人が将来的に患者データを統合管理したい場合や、医科との連携診療で地域包括ケアに参画したいケースでは、このようなハイエンドシステムが必要になることもあるだろう。まさに「大艦巨砲主義」的な電子カルテであり、スケールメリットを最大限享受できる環境でこそ真価を発揮する製品である。
DOC-5 Procyon3
モリタ社の「DOC-5 Procyon3」(プロキオン3)は、歯科医療機器大手のモリタが提供する統合型電子カルテ&レセコンシステムである。モリタが築いてきた歯科医院向けトータルソリューションの一部として位置づけられており、ユニットやデジタル機器と密接に連携するのが特徴だ。
臨床面では、モリタ製のデジタルX線装置や口腔内カメラとスムーズに連携し、撮影した画像が即座にカルテ画面に取り込まれるなど、機器間の境目を感じさせない運用が可能だ。カルテ画面上でチェア番号ごとの患者状況を一覧表示でき、院内全ユニットの稼働状況を把握しながら診療を進められるため、複数ユニットを効率よく回すのに役立つ。また、モリタが長年培った歯科診療フローの知見が反映されており、処置入力や会計処理も洗練されたUIで直感的に行える。
経営面では、同社のコンサルティングサービスや他製品との連携を含め、新規開業から運用サポートまでワンストップで受けられる点が強みだ。例えば、新規開業時にユニットや器材とセットでDOC-5を導入すれば、院内ネットワーク構築からスタッフ研修まで一貫してモリタが支援してくれる。これにより、各種機器とソフトの相性問題に悩まされることなく、スムーズにデジタル化された医院運営をスタートできる。導入後も歯科ディーラー網を通じたサポートが期待でき、トラブル時も迅速な対応が受けられる安心感がある。
DOC-5 Procyon3は、設備もソフトも含めて歯科医院を総合プロデュースしてほしいと考えるケースに向いている。特に、モリタ製品で医院を統一している場合には、その親和性の高さから最もストレスのない選択肢となるだろう。ただしiPad等モバイル端末からの操作は正式には想定されておらず、クラウド連携も基本的にはないため、院内で完結したシステム環境となる。逆に言えば、外部との接続が少ない分セキュリティ管理がしやすく、院内LAN上で閉じた堅牢な運用が可能だ。費用感は決して安くはないが、歯科医療の老舗ブランドによる信頼と一体的な運用に価値を見出すなら、検討に値するだろう。
よくある質問(FAQ)
Q. クラウド型とオンプレミス型では、結局どちらを選ぶべきだろうか?
A. それぞれメリット・デメリットがある。クラウド型は初期費用が安く、インターネット環境さえあれば場所を問わず利用できる反面、ネット障害時に使えないリスクがある。オンプレミス型は院内ネットワークで完結するため高速で安定しているが、サーバー機器の購入や維持費が必要だ。院内IT環境や予算、リモートアクセスの必要性などを踏まえて判断すると良い。迷う場合は、ハイブリッドでクラウド連携可能な製品や、クラウド・オンプレ両プランを提供するメーカー(例:With)を選び、将来切り替えられる柔軟性を確保する手もある。
Q. 紙のカルテや他システムから移行する際に、過去のカルテ情報はどう扱えばいいのか?
A. 過去データの取り込み方法はシステムによる。紙カルテからの場合、必要最低限の情報(初診日、既往歴、処置履歴のサマリーなど)は新システムに手入力し、詳細な経過は紙カルテをスキャンしてPDF添付しておく医院も多い。他の電子カルテから乗り換える場合は、患者基本情報や歯式データをCSV出力して新システムにインポートできるケースもある。メーカーによっては有償でデータ移行サービスを提供しているので、移行経験が豊富か確認し、可能な限り自動移行してもらうと安全だ。いずれにせよ、旧カルテは一定期間保管義務があるため、紙であれ電子であれ過去カルテ原本は捨てずに保管しつつ、徐々に新システム中心の運用にシフトしていくと良い。
Q. インターネットやサーバーがダウンしたら、診療業務は止まってしまうのか?
A. クラウド型の場合、ネットワーク障害時には基本的にシステムを利用できない。ただし、事前にカルテ内容を印刷出力しておく、予備のモバイル回線を用意しておく等である程度の対策は可能だ。一方オンプレミス型の場合、院内サーバーがダウンするとカルテ入力はできなくなるが、Denty-SEED EXのようにバックアップサーバーで即時代替できる製品もある。万一に備え、定期的なデータバックアップや予備機材の準備をしておくのが賢明だ。最悪システムが使えない場合でも紙カルテで一時対応し、復旧後に入力する二重手間は発生するが、患者診療自体を継続するための緊急プロトコルを用意しておくと安心である。
Q. スタッフに高齢者やパソコンが苦手な人がいるが、電子カルテ導入についていけるだろうか?
A. 近年の電子カルテは操作性が向上し、パソコン初心者でも使いやすい製品が増えている。例えばiPadベースのiQalteや、シンプルUIのカルテメーカーなら、紙カルテ感覚で入力できるため抵抗が少ないはずだ。導入時にはメーカーの担当者による初期研修を受け、練習期間を設けて段階的に移行することで対応可能である。また、スタッフが関与するタスク(受付、会計、衛生士記録など)に絞って使い方マニュアルを整備し、得意なスタッフをサポーター役に育成すると社内フォロー体制ができて安心だ。何より、実際に使ってみれば「思ったより簡単」「むしろ紙より楽」という声も多く、一度慣れれば高齢のスタッフでも問題なく使いこなしている例はたくさんある。心配な場合は試用段階で十分トレーニングし、自信を持って本番移行することが大切だ。