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口腔内スキャナー「Medit i700(メディット)」とは?価格や性能を正直レビュー

口腔内スキャナー「Medit i700(メディット)」とは?価格や性能を正直レビュー

最終更新日

製品概要(正式名称・型番・適応・薬事区分)

Medit i700(メディットi700)は、歯科用のデジタル印象採得装置である。正式な販売名は「i600 & i700 オーラルスキャナ(i700モデル)」で、2021年に有線モデルi700が発売され、翌2022年にワイヤレスモデルi700 Wirelessが登場した。想定される適応は、クラウン・ブリッジやインレー、インプラント補綴、矯正治療用の歯型採得など、従来の印象材を用いたあらゆる症例のデジタル化である。薬事上は管理医療機器(特定保守管理医療機器)に分類されており、一般的名称は「デジタル印象採得装置」として承認を受けている。患者にとっても印象材不要のスキャンは嘔吐反射の軽減につながり、安全・快適な印象採得手段となる。

価格と販売形態

Medit i700シリーズは高機能ながら競合機種に比べ導入コストが低いことが特徴である。有線モデルi700本体の標準価格は約2,500,000円(税込)と公表されている。ワイヤレスモデルはバッテリーや無線ユニットを含む分だけ価格が高く、300万円台前半程度と推定される。両モデルとも基本的に買い切り型の販売であり、専用ソフトウェア「Medit Link」のライセンス料や年間保守費用は無料である。そのため維持費は抑えられ、導入後に継続的なサブスクリプション費用が発生しない点は経営上のメリットである。

販売は国内では特約店(歯科ディーラー)経由で行われており、購入時には標準セットとしてスキャナー本体、接続用ケーブル一式(有線ではUSB-Cケーブルと電源アダプタ等)、キャリブレーション用ツール、滅菌可能な交換チップ複数、設置用ホルダー類などが付属する。ワイヤレスモデルでは加えて交換式バッテリー(通常3個)と充電器、PC接続用の無線ドングルがセットになっている。標準保証は1年間だが、販売店によっては最大5年の延長保証やサポートプランが用意されており、万一の故障時の修理対応や代替機の貸出などを受けられる体制が整っている。

主要スペックと臨床での意味

Medit i700の主な仕様として、スキャン精度・速度、再現性、重量・デザイン、操作性が挙げられる。まず精度は非常に高く、メーカーの検証ではフルアーチ(全顎)スキャンの寸法誤差が平均約10µm程度(±1µm未満)とされている。これほどの高精度データ取得が可能であることは、補綴物の適合精度に直結する。細部まで再現性の高いデジタル印象により、クラウンやインレーのフィットが向上し、調整や作り直しのリスク低減が期待できる。

次にスキャン速度は毎秒70フレーム(70FPS)という高速撮影性能を持ち、上下顎+咬合のフルマウスを約2分程度で取得できる。短時間で採得が完了することで患者の椅子上の拘束時間(チェアタイム)を大幅に短縮でき、患者負担軽減と診療効率アップにつながる。また術者にとってもスピーディーなスキャンは業務の流れを妨げず、予約の回転率向上にも寄与する。

再現性(精密さ)についても安定しており、同じ対象を繰り返しスキャンした場合のデータのばらつきは極めて小さい。これは高品質な光学系とキャリブレーション設計により、日々の使用でも精度が維持されることを意味する。臨床的には、例えば複数ユニットのブリッジやインプラント症例でも、一貫した精度でデジタル印象を再現できる信頼性につながる。

本体重量は有線モデルで約245gと軽量コンパクトである(従来機種比で約12%の軽量化)。小型のハンドピースは手の小さい術者や女性スタッフでも無理なく保持できる重さであり、長時間の連続使用でも手首への負担が少ない。ワイヤレスモデルはバッテリーを内蔵する分やや重く約328gとなるが、それでも他社同等クラスのスキャナーと比べて軽量な部類である。加えて重量バランスの最適化設計により、無線化による重心の偏りを感じにくく、ケーブルレスの自由度とトレードオフにならない操作性を実現している。

操作性の面では、Medit i700はエルゴノミクス(人間工学)デザインと細部の工夫が光る。スキャナー先端のチップは180°リバーシブル構造で、着脱して向きを反転させ装着することができる。これにより上下顎それぞれのスキャンで持ち替えやすい角度に調整でき、奥歯遠心部などのアクセスがしやすい。またチップはオートクレーブ滅菌に対応しており、患者ごとに確実な滅菌処理が可能で感染対策上も安心である。さらに本体にはリモートコントロールボタンが搭載されており、指先で本体をひねる操作によりPC画面上のスキャンソフトを制御できる。スキャン開始・停止やデータの回転・拡大縮小などを手元で行えるため、術中にキーボードやマウスに触れる必要がなく、グローブをしたまま清潔に操作が完結する。これは院内感染予防の観点でも優れた工夫であり、チェアサイドでのスムーズなワークフローに貢献する。

そのほか臨床的メリットのある仕様として、UV-C LEDライト内蔵が挙げられる。スキャナー内部に紫外線照射による殺菌機能が備わっており、使用後に内部光学系周辺の除菌が自動的に行われる(電源オフ時に作動)。これもまた器材内の衛生管理レベルを高め、患者ごとの清潔なスキャン環境を保つ助けとなっている。

またカメラはフルカラー撮影に対応しており、取得データには歯や歯肉の色情報も含まれる。カラーでの3Dスキャンは、肉眼でのマージン確認や患者説明用の視覚資料として有用である。例えばスキャンデータ上で虫歯の部位や治療前後の比較をカラー表示できるため、患者への視覚的な説明ツールとしても活用できる。

接続方式・対応ファイル形式・ソフトウェア・保守体制

Medit i700有線モデルはUSB接続式であり、同梱のUSB 3.0 Type-Cケーブル一本をPCに挿すだけで使用できる(PC側がUSB Power Delivery対応ポートであれば電源ハブ不要の“Plug & Scan”が可能)。ワイヤレスモデルはスキャナー本体とPC間を無線通信(Wi-Fi)で接続する仕組みで、付属の専用レシーバーをPCに取り付けて使用する。通信の遅延なくリアルタイムにスキャンデータ転送が行えるよう設計されており、操作時に有線との差を意識することはほぼない。ワイヤレス運用時のバッテリー持続時間は、連続スキャンで約1時間、待機状態で最大8時間程度とされる。付属バッテリー3個をローテーション使用すれば一日中フル稼働も可能で、万一バッテリーが切れた場合でもケーブルを接続すれば有線モードに切り替えて継続利用できる柔軟性がある。

対応ファイル形式はオープンかつ多彩で、標準的なSTL形式のほかOBJ、PLYといったカラー情報付きの3Dデータ形式でエクスポートが可能である。スキャン後のデータはMedit Linkと呼ばれるクラウド連携型の専用ソフトウェアで管理・活用する。Medit Linkはオープンプラットフォームであり、取得データを任意の歯科技工所やCADソフトに共有しやすい点が特徴である。具体的には、Medit Link上で症例ごとのスキャンファイルを保存し、クラウド経由で技工所に発注したり、CADソフト(例えばexocadや3Shape等)で読み込んで補綴物設計に用いたりできる。エクスポートしたSTL/PLYファイルを他社システムに取り込むことも自由であり、特定メーカーのワークフローに縛られない柔軟な運用が可能である。

さらにMedit Link内には様々な付加機能アプリが統合されている。例えば「矯正シミュレーション」ではスキャンした歯列模型上で歯の移動をシミュレーションし、矯正治療の術前後比較を患者に動画で示すことができる。「スマイルデザイン」では顔写真と歯列データを組み合わせ、補綴治療後の笑顔の見え方をシミュレーションすることが可能である。これらアプリは追加費用なしで利用でき、患者説明や治療計画立案のプレゼンテーションに活用すれば自費治療の成約率向上にも貢献し得る。

清掃・校正・保守面についても、導入当初に知っておくべきポイントがある。清掃に関しては、患者ごとに取り外したチップをオートクレーブ滅菌し、本体表面はアルコール含浸ワイプ等で清拭消毒する。特に先端部の小さな鏡面は唾液や血液で曇りやすいため、症例間できめ細かく清掃・乾燥させることが重要である。i700にはアンチフォグ(防曇)コーティングが施されているが、必要に応じて使用前に温水でチップを温めるなど曇り止め対策を行うと確実である。

キャリブレーション(校正)は付属の校正用具を用いて定期的に行う。メーカーは月1回程度のキャリブレーションを推奨しており、特に初期導入時や本体を落下させた後などは必ず実施する。不適切なキャリブレーション状態で使用すると精度低下を招く恐れがあるため、習慣的な校正プロセスの社内ルール化が望ましい。

保守体制としては、Medit製品は国内代理店(例:トクヤマデンタルやヨシダ等)が窓口となりサポートを提供する。故障時の点検・修理や、ソフトウェアのアップデート情報提供、操作トレーニングの開催など、導入後もバックアップが受けられる。また前述のように年間ライセンス費が不要なため、最新ソフトウェアへのアップデートも無償で継続提供される。ユーザーは常に最新の機能拡張やバグ修正を適用でき、時間とともにむしろ性能向上していく恩恵を受けられる。これはランニングコストの面だけでなく、デジタル機器として長く陳腐化せず使い続けられるという価値につながっている。

想定導入費用・ROI試算・症例あたりコスト

Medit i700の導入に際して必要となる投資は、スキャナー本体の価格に加えて対応PCや周辺機器の準備費用がある。推奨スペックを満たすWindows PC(高性能なCPU・GPU、十分なRAMとSSD容量を備えたもの)が必須で、概ね20〜30万円程度の予算を見ておく。また院内ネットワークやクラウド活用の環境整備も望ましい。初期導入費用の目安として、本体価格約250万円+PC等周辺30万円+トレーニング等諸経費を含め、総額300万円弱が想定される。

チェアタイム短縮による収益向上効果を試算してみる。例えば、1症例あたり従来の印象採得にかかっていた時間を約5分短縮できると仮定する。1日あたりの患者数が多い診療所では、この蓄積で1日数十分〜1時間の診療時間短縮が実現できる可能性がある。その時間を別の有収入の診療に充てれば、時間収益の向上となり投資回収に貢献する。

また印象材・石膏模型の材料コストや管理コストも削減される。シリコン印象材やアルジネート、トレー、梱包発送費など、1症例あたり数百円〜千円程度のコストがデジタル化によって不要または減少する。現像時間や模型の保管スペースも省略できるため、見えにくい経費の節減効果も含めれば無視できない。

具体的に1症例あたりコストを試算すると、例えば本体・付帯設備合計300万円の投資を5年間で減価償却すると年間60万円となる。月間30症例(1日あたり1〜2件のデジタル印象利用)で運用した場合、年間360症例となり、機器償却費は1症例あたり約1,667円となる。これに対し従来の印象材コストが仮に1症例あたり800円だったとすれば、差し引き約800〜900円/症例がデジタル化による追加コストとなる。しかし前述したチェアタイム短縮による生産性向上でもし1症例あたり5分の時間が捻出できれば、その5分を他の診療に充てることで十分に800円以上の収益を生み出せる可能性が高い。月30症例ペースで運用した場合、時間短縮効果による増収は年間約30時間分に相当し、保険診療でも十分機器コストを相殺し得る計算である。

さらに月50〜60症例といった高頻度で活用できれば、機器コストの1症例あたり負担は1000円以下に低減し、材料費削減分とほぼ相殺される。つまりある程度の症例数をこなす医院であれば実質的なランニングコスト増加なしにデジタル化メリットを享受でき、むしろ無形の価値(時間短縮や精度向上によるトラブル減)を考慮すればROI(投資回収)は数年以内に十分達成可能と考えられる。

加えて、自費診療への波及効果も見逃せない。高精度なデジタル印象により補綴物の適合が向上すれば、再装着や調整にかかる手間・コストが削減され、患者満足度が向上することでリピートや紹介増にもつながる可能性がある。これら定量化しづらい効果も含めると、Medit i700の導入は単なる機器購入ではなく、将来的な収益向上への投資と位置付けられる。

導入初期の課題と臨床現場での対策

高度なデジタル機器であるMedit i700も、導入初期にはアナログ法との勝手の違いからいくつかのつまずきが生じることがある。しかしそれらは周到な準備と慣れで乗り越えられるものであり、現場の工夫次第でスムーズな立ち上げが可能である。

スキャン操作の習熟がまず最初のハードルとなる。従来の印象採得と異なり、口腔内をカメラで舐めるように動かして全域を撮影する必要があるため、初めのうちはスキャン漏れやデータの乱れ(ズレ)が発生しがちである。特に隣接面や歯頸部など複雑な形態の部分は、適切な走査経路(スキャンパス)で撮影しないとデータに穴が開いたり、位置合わせエラーが起きたりする。対策として、導入直後は模型やスタッフの口腔内で十分な練習を積むことが重要である。Medit Linkには不十分なスキャン箇所をリアルタイムで色表示する「スマートスキャンガイド」機能が搭載されているため、それを頼りに漏れなく撮影するコツを身体で覚える。メーカーや販売店が提供するハンズオントレーニングに参加し、正しいスキャンストラテジー(例えば奥歯から前歯へ扇状に動かすなど)を習得すると良い。習熟すればフルアーチでも1〜2分で滑らかにスキャンできるようになり、従来の印象と比べて短時間で安定した結果を得られるようになる。

術式上の注意点としては、従来以上に術野の明示的な確保が求められる点が挙げられる。光学スキャナーは目に見える範囲の情報しか取得できないため、歯肉縁下のマージンがある場合にはリトラクションコードの挿入や圧排ペーストの使用で確実に露出させる必要がある。また唾液や血液が多い環境では撮影が妨げられるため、ラバーダム装着や口腔内バキュームで乾燥状態を維持することが極めて重要である。これは従来印象でも同様だが、デジタルではごまかしが効かない分シビアになると心得たい。特に高速スキャン中は補助者に随伴してもらいながらエアブローで曇りを飛ばす、舌や頬粘膜をミラーで避けてもらうなど、チームアプローチで理想的な撮影視野を作ることが望ましい。

患者への説明も導入初期のポイントである。突然見慣れない機械を口に入れることに不安を示す患者もいるため、事前に「お口の中をカメラでスキャンします」「レントゲンとは違い光学的に形を記録するだけなので痛みもなく安全です」といった説明を行い安心感を与える。従来の印象採得で嘔吐反射に苦しんだ経験のある患者には、トレーや印象材を使わない方法であることを伝えると喜ばれる。またスキャン中もリアルタイムで画面に3Dモデルが構築されていく様子が見えるため、患者と一緒に映像を確認しながら「ここが今回治療する歯ですね」と声掛けするなどコミュニケーションを取ることで、デジタル機器を使った先進的な診療への興味や信頼を醸成できる。

スタッフ教育も不可欠である。i700は歯科医師が直接操作する場面が多い機器だが、周辺業務(スキャン前後の準備片付け、データ送信、患者への説明補助など)は歯科衛生士やアシスタントが担う部分も大きい。院内でデジタル印象のプロトコルを整備し、誰がどの段階を担当するか役割分担を決めておくと良い。例えば、術前に補助者が患者にスキャナーの概要を説明し同意を得る、術者がスキャン操作に集中する間に別のスタッフがPC画面でデータのリアルタイムチェックをする、術後に衛生士がMedit Linkからデータ送信や技工所依頼を行う、といった具合である。こうした連携体制を作ることで診療全体の流れが滞りなく回り、機器のポテンシャルを最大限活かせる。メーカーから提供されるマニュアルやオンライン講習資料も積極的に活用し、スタッフ全員がデジタル機器に苦手意識を持たず使いこなせるよう支援することが院長の役割となる。

最後に、安全面での留意点も触れておく。Medit i700は基本的に光学スキャンであり放射線被曝は伴わない安全な機器であるが、ペースメーカーや植込み型医療機器を装着した患者の場合、ごく近距離での強力な無線通信が影響を及ぼすリスクについて留意する。i700 Wirelessは技適認証済みの無線モジュールを搭載しており通常使用で問題ないとされるが、該当患者には事前にリスクを説明し、必要に応じ有線接続で使用するなど慎重な対応を行う。これは極めて稀なケースではあるが、医療安全上の観点から導入時に頭に入れておきたい事項である。

得意症例・不得意ケース

Medit i700は一般的な歯科領域の印象採得を幅広くカバーできるが、機器の特性上、得意とするケースと不得意なケースが存在する。メーカーの添付文書等に準拠しつつ、その具体例を整理する。

まず得意な症例としては、歯の存在するケース全般が挙げられる。一本歯から部分的な歯列を対象とする補綴治療(単冠修復、ブリッジ、インレー・アンレー、ベニアなど)は、隣接する歯や咬合面といった特徴点が豊富なためスキャンしやすく、非常に高精度なデジタル印象が得られる。矯正治療においても、全顎の歯列を短時間でスキャンできるi700は適している。マウスピース矯正(アライナー)や矯正用模型作製のための印象採得では、患者負担の少なさとデータの即時共有(歯科技工所やアライナーメーカーへのオンライン送信)により治療開始までのリードタイム短縮が図れる。またインプラント症例も得意分野の一つである。一次治癒後のインプラントポストにスキャンボディを装着して撮影すれば、アナログ印象に匹敵する精度でインプラント位置のデジタル記録が可能である。特に単冠や少数本のインプラント補綴では問題なく適合する上部構造を作製できることが臨床で確認されている。さらに、従来法で嘔吐反射や恐怖心の問題が大きかった患者にも適応しやすい。例えば強いオエッとなる反射のある患者、高齢者・要介護で長時間口を開けていられない患者、小児や発達障害のある患者など、印象材の使用が困難なケースではカメラで素早く撮影できるデジタル印象のメリットが際立つ。粘膜調の軟組織を含まない硬組織主体のケース、すなわち歯やインプラントが主要なターゲットである場合、i700は極めて有用であり高い再現性を発揮する。

一方、不得意なケースとして代表的なのは、無歯顎(歯のない顎)の症例である。顎堤のみが残存する総義歯製作のための印象採得では、口腔内にスキャンの目印となる構造が少なく、3Dデータの位置合わせが難しくなる。Medit i700には無歯顎スキャニングモードや撮影ストラテジーのガイダンスが用意されており、熟練すれば全く不可能ではないものの、粘膜や移行部を含む広範囲の精密なデジタル印象には依然テクニックと工夫が必要である。そのため総義歯や顎補綴の症例では、従来通り個人トレー+シリコン印象で採得した印象体を後からスキャンする「インプレッションスキャン」の方法が現実的な代替手段となる。実際、Medit Linkの機能にも石膏模型や印象体をスキャンして口腔内スキャンデータと合成する機能が搭載されており、無歯顎の辺縁封鎖の細部などは物理印象で補完することが推奨される。

また深い歯肉縁下の支台歯を含むケースもデジタル単独では不得意と言える。光学式は見えていない部分の情報は取れないため、例えば歯周病などで歯肉が下がり大きく露出している支台歯は撮影しやすいが、健康な歯肉に覆われた深いマージンは難易度が高い。術前に圧排と乾燥を徹底してもなお視認が困難な場合には、印象材で一次印象を取りマージン部だけ転写する方法も検討する。また、口腔内に強く光を反射する素材が多い症例もスキャンエラーの原因となる。例えば全顎的にメタルクラウンが装着されている患者などでは、光沢面でセンサーが迷いデータ欠損が生じやすい。このような場合、スキャンパウダーを軽く吹き付けて反射を抑えるといったアナログ的対策も有効である。もっともi700は前世代機よりカラーセンサー性能が向上しており、多少の唾液下でもメタル面でもかなり強引にデータ取得できるため、よほど極端なケースを除き大きな問題にはなりにくい。全体として、明視野で硬組織が存在する領域ならおおむね得意、広範な軟組織領域や視認困難な領域では工夫が必要、というのがi700の適応の目安である。以上の留意点を踏まえつつ使用すれば、臨床家と患者双方に有益な結果をもたらすだろう。

読者タイプ別の活用シーンMedit i700が適する医院像

Medit i700口腔内スキャナーはコストパフォーマンスに優れ、かつ多機能であるため、幅広いタイプの歯科医院で導入メリットが得られる。その中でも、いくつかの医院像ごとに活用シーンをイメージしてみよう。

まず保険診療中心の一般歯科医院の場合。保険治療主体だと高額なデジタル機器導入に慎重になることも多いが、i700は低コスト路線のため比較的導入しやすい。保険収載のCAD/CAM冠やインレーの光学印象が認められた現在、デジタルスキャナーを持つことはむしろ標準的な診療インフラになりつつある。日々多数の患者を診る保険型クリニックでは、i700によるチェアタイム短縮の効果がダイレクトに生産性向上に結びつく。例えばレジンインレーの印象に従来15分かけていたものが5分で済めば、浮いた時間で他の患者対応や衛生業務が可能となり、診療所全体の回転率が上がる。また、高齢者や嘔吐反射のある患者が多い傾向にあるのも保険中心医院の特徴だが、そうした患者へのサービス向上として口腔内スキャナーを導入する意義も大きい。誤嚥のリスクなく安全に型取りできることは周術期管理加算等の観点からもプラスであり、地域医療に貢献する姿勢としてアピールできる。実際、訪問歯科の現場でも携行型のi700が活躍し始めており、誤嚥・窒息事故を防ぎつつ義歯調整に役立てるケースも報告されている。総じて保険診療メインの医院でも、i700は「低コストで始められる働き方改革ツール」として有用であり、忙しい日常診療の中に余裕を生み出してくれる存在となる。

次に自費診療を強化している医院では、Medit i700はまさに収益拡大の切り札となる。審美補綴やインプラント、矯正など自由診療を多く提供するクリニックでは、精度とプレゼン力に優れたデジタル技術の導入が競争力に直結する。i700であれば精密なスキャンデータを活用した高度な補綴物設計が可能なだけでなく、前述のシミュレーションアプリにより患者への分かりやすい治療提案が実現する。例えば審美歯科ではスマイルデザインをその場で見せて患者の共感を得たり、インプラントでは術前後の状態を3Dで説明して不安を取り除いたりといった使い方ができる。こうした付加価値は、自費治療の成約率アップや単価アップにも貢献するだろう。

また、他社ハイエンドスキャナーに匹敵する性能を持ちながら低コストなi700は、浮いた予算を他の設備(ミリングマシンや3Dプリンタ等)に回せるという利点もある。トータルなデジタルラボ環境を院内に構築し、即日補綴やone-dayインプラントなど先進的なメニューを展開したい医院にとって、i700は最初の一台として最適な選択肢である。結果としてクリニックのデジタル化イメージが向上し、テックに敏感な患者層や紹介元から「最新設備の整った医院」と評価されマーケティング面でもプラスに働く。

最後に外科系(インプラント・口腔外科中心)医院での活用像である。外科処置を多く手掛ける医院では、術前シミュレーションやガイドサージェリーのニーズが高い。i700で取得した口腔内スキャンデータをCBCTの画像とマッチングさせれば、正確な3次元計画の下でインプラント埋入や骨造成が行える。サージカルガイド製作もフローが迅速になり、デジタルガイドの即日発行すら可能となる。また全顎的な咬合再建やAll-on-4/6などのケースでも、仮義歯や治療用デンチャーをスキャンして得たデジタルデータを活用することで、咬合採得から最終補綴まで一貫してデジタルで管理できる。こうしたデジタル外科ワークフローは、精密かつ再現性の高い手術と補綴を提供するうえで不可欠になりつつあり、i700はそのエントリーポイントとして有用だ。

さらに外科系処置では術後の経過説明も重要だが、i700で取得した治療前後の口腔内データを比較することで、患者に術後の変化(傷の治癒や咬合の改善など)を視覚的に示すことができる。これは術者と患者の間の信頼関係を深め、次の治療提案やメインテナンス受診の動機付けにもつながる。外科系医院にとって、Medit i700は安全性と効率を高めるテクノロジーであると同時に、患者とのコミュニケーションツールとしても価値を発揮するのである。

以上のように、Medit i700は診療の質と効率を両面で向上させるデジタル機器である。薬機法および医療広告ガイドラインを順守した表現でまとめれば、「高精度かつ迅速なデジタル印象が可能となり、診療の生産性と患者満足度を高める医療機器」であると言えるだろう。実際に本機を導入すれば、従来のアナログ手法では得られなかった多くのメリットを享受できるはずだ。患者の負担軽減と満足度向上、術者の作業負荷軽減と生産性向上、そして医院経営の健全化という三方良しを実現し、デジタルデンティストリー時代の新たな診療スタイルを切り拓いてくれる存在である。Medit i700がもたらす未来像を具体的に思い描きながら、自院に適した活用方法を検討してみてはいかがだろうか。