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口腔内スキャナー「iTero Lumina(アイテロルミナ)」とは?価格や性能、Proの違いを解説

口腔内スキャナー「iTero Lumina(アイテロルミナ)」とは?価格や性能、Proの違いを解説

最終更新日

ある日の保険診療でクラウンの印象採得をした際、シリコン印象材に気泡が入りやり直しとなった経験はないだろうか。限られたチェアタイムが延び、患者にも不快な思いをさせてしまう。従来法の煩わしさを減らし精密な型どりを迅速に行う手段として、口腔内スキャナーの導入を検討する歯科医師は増えている。中でもiTero Lumina(アイテロルミナ)は最新モデルとして注目を集めている。本稿ではその性能と価格、さらに上位機種「Lumina Pro」の違いまで、臨床的価値と経営的視点の両面から深く解説する。新しいデジタル技術が日々の診療にどのような変化をもたらすのか、自身の医院への導入を具体的にイメージしてほしい。

患者の口腔内に挿入するスキャナー先端部(ワンド)は従来モデルの半分のサイズであり、約45%軽量化されている。長時間のスキャンでも術者の手が疲れにくく、小児や嘔吐反射の強い患者にも配慮した形状である。このような洗練されたデザインと新技術の採用により、スキャン体験そのものが変わり始めている。

iTero Luminaとは何か

iTero Luminaはアライン・テクノロジー社(インビザライン・ジャパン合同会社が販売)による口腔内光学スキャナーである。歯列や咬合を光学的に高速かつ高精度にデジタルデータ化し、矯正治療や補綴治療のワークフローに活用できる次世代モデルである。正式な一般的名称は「デジタル印象採得装置」で、歯科用CAD/CAMシステムやアライナー矯正向けに用いられる。日本における薬機法上の区分は管理医療機器(クラスII)であり、インビザライン・ジャパンが製造販売業者として承認を取得している(承認番号30SOOBZX00270000)。すなわち、安全管理面で特定保守管理医療機器にも該当し、定期点検や適切なメンテナンス体制の下で運用すべき医療機器である。

この製品には2つのバリエーションが存在する。標準モデルのiTero Luminaと、上位版のiTero Lumina Pro(アイテロルミナ・プロ)である。両者の基本的なハードウェアとスキャン性能は共通だが、Lumina Proには近赤外線による隣接面う蝕検出機能(NIRI)が搭載されている点が最大の違いである。このNIRI機能によりレントゲンを使わずに歯間部の初期虫歯を発見する補助診断が可能となり、予防や早期治療に役立つ可能性が広がる。一方、標準のLuminaはNIRIを除いたスキャナーとして位置付けられるが、いずれも高精細なカラー3Dデータ取得やインビザライン治療への対応といった基本機能は共通して備えている。臨床ニーズに応じてどちらを選択すべきかは後述するが、まずは両モデルに共通する性能面を詳しく見てみよう。

進化した主要スペックと臨床的意義

高精度・高速スキャン

iTero Lumina最大の革新は、新開発のiTero Multi-Direct Capture™技術である。先端のワンド内部に6基の小型カメラを内蔵し、複数角度から同時に撮影するマルチアングルスキャニングを実現した。これにより一度に取得できる視野が飛躍的に広がり、従来機(iTero Element 5D)比で約3倍の範囲をカバーできる。奥歯遠心部から対側まで歯列全体を連続的にスムーズに撮影可能で、スキャン時間も約2倍のスピードアップを達成した。被写界深度も最大25mmと深く、狭い口蓋や部分欠損、半埋伏歯といった複雑な口腔内形態でも、ワンドを大きく傾けずに確実なデータ採得が可能である。非臨床下の評価では、全顎スキャンの長距離精度の平均誤差が0.03〜0.24%程度と極めて小さく、単冠やインレーの精度も平均1%未満に収まっており、ADA/ANSIの規格要件を満たす高精度が示された。これは従来より「一次印象で適合する補綴物」を得やすい予見性を意味し、再製作・調整の手間削減による臨床アウトカム向上が期待できる。

フォトリアルなカラーイメージ

Luminaは高解像度のカラー撮影に対応し、写真のように精細なフルカラー3Dスキャンデータが得られる。歯面の質感や軟組織の状態まで視覚的に把握できるため、補綴物のシェードマッチングやう蝕の有無、歯肉の健康状態をその場で評価しやすい。特にインビザラインなど矯正治療の事前記録として、従来は口腔内写真が必須であった場面でも、得られた3Dモデルを多角的に表示することで代替し得ると報告されている。別途カメラや口角鉤を使用して撮影する手間を省ければ、診査・記録の効率化につながる。さらに、スキャン中にHDモードで静止画キャプチャすることで、口腔内カメラとしての役割も果たす。例えば補綴処置前後の部位を高精細画像で記録し、電子カルテや患者説明用資料に活用するといった運用もこの一台で完結できる。

Lumina Proの追加機能

上位モデルのLumina Proに搭載された近赤外線画像(NIRI)による隣接面う蝕検出補助は、これまでレントゲン撮影に頼っていた歯間部の虫歯の可視化を可能にする新技術である。近赤外線はエナメル質内部の不均一性を検知できるため、咬合面からは見えない歯と歯の間の初期う蝕も検出しやすい。Lumina Proでは3Dスキャンと同時にNIRI画像も取得され、スキャンデータ上で虫歯の疑いがある箇所をモノクロの透過像として表示できる。これにより患者に虫歯の存在を視覚的に説明したり、経過観察が必要な部位を早期に把握したりすることが容易になる。ただし、この機能はあくまで診断の補助であり、X線画像を完全に代替するものではない点に留意が必要である。実際、Align社の内部データではNIRIはバイトウイングX線より約66%高感度との報告があるが、臨床適用に際しては他の検査所見と合わせた総合判断が求められる。とはいえ被曝のない虫歯検出ツールをスキャナーに統合した意義は大きく、予防歯科やMI治療に積極的な医院には魅力的な特徴である。

他機器との互換性と運用方法

データ形式と連携

iTeroシリーズは長らくインビザラインとのシームレスな連携が強みであった。Luminaでもスキャン後直ちにInvisalign送信用データをクラウド経由で送付でき、模型の発送やスキャンデータ変換の手間なくアライナー治療を開始できる。また補綴用途にも対応するため、オープンなデータエクスポート機能が提供されている。標準的なSTL形式の3次元データとして書き出しが可能であり、自費補綴物製作を行う歯科技工所や院内CAD/CAMシステムと連携できる。アライン社傘下のexocadなどCADソフトウェアとの互換性も考慮されており、形成した支台歯のマージンライン設定から補綴設計・削り出しまで、デジタルワークフローを院内完結させることも可能である。さらに最新ソフトウェアでは、義歯症例など従来アナログ工程が多かったケースにも対応すべく、印象床や咬合床のデジタル設計への応用も模索されている。今後のアップデートにより、取得データを活用した幅広い診断・治療プラン作成支援が期待できる。

機器構成と院内ネットワーク

iTero Luminaはカート型とモバイル型の2種類の筐体構成で提供される。カートタイプは専用ワゴンに高解像度ディスプレイとPCを内蔵し、診療ユニット脇に設置して使用するオールインワン構成である。モバイルタイプは持ち運び可能なノートPCやタブレットと接続して使用するスタイルで、院内の複数ユニット間でスキャナー部のみを融通したい場合や出張先でのスキャンに適する。いずれの構成でも基本性能は同じであり、医院のオペレーションに合わせて選択できる。スキャンデータは全てクラウド上に保存され、院内LANを経由してどの端末からでも閲覧・活用できる。例えば診療室でスキャンしたデータを即座にカウンセリングルームのモニターに表示し、患者説明に用いることも可能だ。セキュリティ面では、データ通信は暗号化されメーカーのクラウド環境に保管されるため、取り扱いには個人情報保護の観点での留意が必要だが、オンサイトのサーバ管理負荷は軽減される。

メンテナンスと感染対策

機器の運用に際して注意すべきは、スキャナーチップの衛生管理である。Luminaではワンド先端部に使い捨てのプロテクティブ・スリーブ(カバー)を装着して使用する設計となっている。患者ごとに新しいスリーブを取り付け、使用後は廃棄することで交叉感染を防ぐ。スリーブは光学面の清浄さを保つ役割もあり、これを怠るとスキャン精度に影響が出るので留意したい。スリーブ1枚あたり数百円程度のコストが発生するが、従来の印象材やトレーを用いた場合の材料コストと廃棄物処理手間を考えれば、許容範囲と言えるだろう。またワンド先端のレンズ部分は繊細なため、メーカー指定の方法で定期的な清掃・較正を行う必要がある。万一光学系が損傷すると精度低下を招くため、取り扱いには注意したい。メーカーでは装置購入時にサービスプランへの加入を推奨しており、遠隔サポートや故障時の迅速な部品交換、ソフトウェアの定期アップデート提供などが含まれる。高額なデジタル機器を安心して使い続けるためにも、導入時に保守契約内容を確認し、必要に応じて利用すべきである。

導入コストと医院経営へのインパクト

初期投資の概要

iTero Luminaは先進的な機器ゆえ価格も高位に位置する。米国市場では約4.6万〜5万ドル程度の価格帯とされ、日本国内でも標準価格で700万円台半ばと、他社を含め現行スキャナーの中でも最高クラスである。例えばLumina Pro(カート/モバイルいずれも)の標準価格は税抜約746万円とされており、これに消費税を加えると800万円超の支出となる。加えて、購入価格には初年度のソフトウェア使用料やクラウドサービス利用料が含まれるが、13か月目以降は月額ライセンス料が発生する点にも注意が必要だ。従来のiTeroシリーズでは1年経過後に補綴・矯正モード継続のため約4万円/月の費用が設定されており、Luminaでも同程度のランニングコストが見込まれる。このライセンス料には最新ソフト提供やサポート費用が含まれるため、投資対効果(ROI)を評価する際は初期費用だけでなく年間維持費も織り込んで試算することが重要である。

一症例あたりの費用対効果

高額な導入費用に見合うメリットとして、Luminaは一症例あたりの時間短縮と材料費削減による効果が期待できる。例えば従来のシリコン印象では、印象材・トレー・接着材など消耗品に数百円〜千円単位のコストがかかり、硬化時間も含めて型採りに10分程度要することが多い。対してLuminaならスキャン自体は慣れれば数分で完了し、前述の使い捨てスリーブ代以外の材料コストは発生しない。仮に1症例あたり5分のチェアタイム短縮が実現し、歯科医師・スタッフの人件費やユニット稼働コストを1分あたり数百円と見積もれば、年間の症例数次第では相当な経費節減となる。また、迅速なデータ送信による補綴物のリードタイム短縮も見逃せない。印象を宅配便で技工所に送る場合と比べ、即時にデジタル送信することで往復の輸送日数が不要となり、患者への装着までの日数を減らせる。これは患者満足度向上に直結し、医院の信頼性向上や口コミ促進といった間接的な収益効果も期待できる。

新たな収益機会の創出

最大の経営インパクトは、デジタルスキャナー導入によって自費診療メニューの拡充や患者受診数の増加が見込める点である。例えば、iTeroを導入することでインビザライン矯正を本格的に提供できるようになり、1症例あたり数十万円以上の自費収入につながる。仮に年間に数件の矯正ケースを新規獲得できれば、それだけで初期投資回収の糸口となる。また補綴分野でも、デジタル印象ならではの即日治療や高精度補綴を広告でき、質に敏感な患者層のニーズを捉えることが可能になる。Align社の調査によれば、口腔内スキャナーを活用して患者への視覚的説明(アウトカムシミュレーターやタイムラプス経時変化提示)を行うことで、治療受諾率が向上し月あたりの自費売上が増加したとの報告もある。もちろん地域性や患者層によって効果は様々であるが、デジタル機器の導入は単なる経費ではなく将来への投資という視点が重要である。ROIを最大化するには、機器を活用した新サービス(マウスピース矯正、精密補綴、予防プログラム等)を積極的に展開し、他院との差別化に結びつける戦略が求められる。

使いこなしのポイント:導入初期から最大限に活用するには

十分なトレーニング

高性能な機器ほど、真価を発揮させるには使用者側のスキル習得が鍵となる。iTero Lumina導入時には、メーカーが提供するハンズオントレーニングやオンライン教材をフル活用しよう。初めはスタッフ間で模型を使った練習を重ね、スキャン手順を身体で覚えることが大切である。特にマルチアングル撮影に慣れるまでは、ワンドの適切な距離と角度を保つことに注意したい。従来型のスキャナーでは歯面に近づけて舐めるように動かす操作が主流であったが、Luminaではカメラの被写界深度が深いため、ある程度離した位置から一度に広範囲を撮影できる。最適なワンド〜歯面間距離(約10〜20mm)を保ちつつ、歯列全体を途切れなく捉えるスキャニングストラテジーを身につければ、驚くほどスムーズに全顎スキャンが完了するはずだ。メーカー担当者によれば、平均的なユーザーは数十症例の経験で飛躍的に速度と精度が向上するという。院内で複数スタッフが扱う場合は、習熟度に差が出ないよう情報共有し、互いにコツを教え合う文化を醸成したい。

ワークフローへの組み込み

新機器は単に買っただけでは宝の持ち腐れになりかねない。診療フローの中にLuminaをどう組み込むか、院内で明確に決めておく必要がある。例えば補綴では、「初診時に光学印象を取得して治療計画に活かす」「支台歯形成後ただちにスキャンして技工指示書を送信する」といったプロトコルを事前に定める。矯正では「相談時に口腔内スキャン+シミュレーションを行い即日見積提示する」ことで契約率を上げる工夫も考えられる。これらを実践するには、担当スタッフの段取り力も重要だ。アポイントの流れの中でどのタイミングなら数分間のスキャン時間を確保できるか、患者誘導や前処置との兼ね合いを考慮しながら決めていく。最初は試行錯誤が必要だが、診療毎にフィードバックを重ねれば自然と効率的なルーチンが確立されるだろう。

患者への巻き込み

デジタル機器は患者とのコミュニケーションツールとしても威力を発揮する。スキャン中はモニターに逐次カラーの3Dモデルが表示されるため、患者も自分の口腔内の様子をリアルタイムで目にすることになる。「今こんな状態ですよ」と声をかけつつ処置を進めれば、不安を和らげ主体的な関与を促せる。スキャン完了後には結果を一緒に確認し、虫歯や摩耗の部位を指し示しながら説明すると理解度が大きく向上する。特にLumina ProのNIRI画像やタイムラプス機能は「見えない問題」を可視化する強力な武器だ。例えば「この奥歯の間に黒い陰がありますが、初期の虫歯が疑われます。一度経過を見て、変化するようなら治療しましょう」といった提案は、患者に予防意識を芽生えさせる。患者自身がデータを見て納得すれば、治療方針の同意も得やすく、結果的に治療の受諾率や来院継続率が上がる傾向にある。導入当初は時間に余裕を持って説明に活用し、徐々にトークスクリプトを洗練させていくと良い。

院内チームでの活用

機器の操作は歯科医師だけでなく、歯科衛生士や助手でも適切な教育の下で担当可能である。スキャナーの運用ルールを明文化し、誰でも一定の品質でスキャンできる体制を築こう。例えば「毎朝キャリブレーションを実施」「スキャン前に必ず歯面清掃と乾燥を行う」「スキャン後は所定のクラウドフォルダに症例名で保存確認する」等の手順を共有する。また、スタッフ間で症例写真やデータを見ながらディスカッションすることで、デジタルデータの読み取り力も向上する。iTeroが取得する情報は歯科技工士とのコミュニケーションにも有用だ。咬合接触の強さを示すカラーマップ(オクルーゾグラム)を確認しながら補綴設計を依頼すれば、咬合調整の手戻りが減るかもしれない。デジタル化は医院全体のチーム医療を底上げするチャンスでもあるのだ。

適応症例と注意すべきケース

iTero Luminaが得意とする領域

Luminaはオールラウンドに活用できるが、その性能が真に活きるのは精密さとスピードが要求されるシチュエーションである。代表的なのがマルチユニットの補綴やインプラント症例だ。全顎的な補綴治療では従来、一度に広範囲を採得しようとすると精度低下が問題であったが、Luminaの高精度スキャンは長いスパンの症例でも安定したデータを供給できる。顎全部のインプラント症例(All-on-4など)でも、ピックアップ印象やフォトグラメトリ専用機器に匹敵する精度で治療計画用のデータを取得できたとの報告もある。また矯正分野では言うまでもなくインビザライン症例との親和性が高い。矯正専門医院にとってiTeroは事実上スタンダードとなっており、患者もそれを期待して来院するケースさえある。印象材による歯型採得が困難な嘔吐反射の強い患者や、小児の萌出直後の臼歯列なども、小型ワンドで素早くスキャンできるLuminaは有用だろう。さらに予防歯科の文脈でも、定期検診毎に口腔内をスキャン保存して経年変化を比較する活用法が広がっている。iTeroのタイムラプス機能で歯肉退縮や歯列の僅かなシフトを把握できれば、患者自身のセルフケア意識向上にもつながる。

不得意なケース・代替手段

一方で、デジタルスキャンが万能ではないケースも存在する。例えば歯肉縁下の深い辺縁を有する支台歯では、光学的に全周を明瞭に捉えるのは難しい。しっかり排唾・乾燥し歯肉圧排を行っても、わずかな出血や唾液があると映像にノイズが乗り精度が落ちる。そのような場合、従来通りシリコン印象材とワイヤー圧排による採得に切り替えた方が確実なこともある。また多数歯欠損で支持組織がほとんど無い症例(例えば下顎無歯顎で粘膜誤差が問題となる総義歯印象)は、現状では光学印象だけで最終義歯の適合を出すのは難易度が高い。この場合は義歯安定剤を使った機能印象などアナログ手法との組み合わせが現実的だ。さらに大きな金属修復が多数ある口腔内では、スキャン時に光の乱反射や欠損が生じやすい。Luminaは複数角度からの照射である程度克服できるものの、どうしてもデータが欠ける部位はスキャン後に補綴物を除去して撮り直すといった工夫も必要だ。加えて、歯科医師側の問題として術者のデジタル活用意欲が低い場合、宝の持ち腐れになる点も強調したい。導入後に使いこなせず結局従来法に逆戻りでは投資が無駄になるため、購入前に自院で本当に活用できるかチームで話し合っておくべきである。逆に言えば活用する意志と準備さえあれば、大抵のケースはiTeroで十分に対応可能であり、少なくとも「従来より悪くなる」ことはほとんど無いだろう。

どんな医院に向いているか

保険診療中心で効率最優先の医院

日々多数の患者を回し、う蝕処置やクラウン・インレーなど保険補綴が診療の主体となっているクリニックでは、投資対効果を見極めた慎重な判断が必要だ。メリットとして、2024年度の診療報酬改定で小臼歯部インレーへの光学印象が保険算定可能となり、今後デジタル印象が標準的技術となる流れがある点は見逃せない。院内技工やCAD/CAM冠製作を行う施設では、生産性向上のためにスキャナー導入がむしろ必須とも言える。iTero Luminaはスキャンスピードが速く一件あたりの所要時間を短縮できるため、多数の保険症例を捌く診療所でも回転率アップに貢献しうるだろう。しかし懸念点はコストである。高額な初期投資と毎月のランニング費用を、保険診療報酬の範囲内でまかなうのは容易ではない。ROI確保のためには、自費治療への転換や患者数増加といったプラス要素が必要になる。もし現状そうした展望が描きにくい場合、もう少し低価格帯のスキャナーで基本性能を確保する選択肢もある。Luminaはスペック的にはオーバースペックで宝の持ち腐れになる恐れもあり、院内のデジタル活用度や将来の方向性を踏まえて検討すべきだ。

高付加価値の自費診療を志向する医院

審美補綴やインプラント、マウスピース矯正など自費率の高いクリニックにとって、iTero Luminaは競争力強化の切り札となる。まずインビザラインを提供するにはiTeroによるスキャンが最も円滑で、ClinCheck作成から治療開始までのリードタイム短縮と精度向上が図れる。加えて患者への提案時にはOutcome Simulator(矯正治療後の歯列予測シミュレーション)をその場で表示でき、契約率アップに寄与する。補綴分野でも、高精細なスキャンデータはラボでの設計精度を押し上げ、初回セット時の適合に直結する。これは再来院の手間削減や患者満足度の向上につながり、医院のブランド価値を高める好循環を生む。費用面も、自費治療であれば1症例分の収益が何十万円単位となるため、数件の追加成約で機器の減価償却費は十分ペイできる計算だ。むしろ最新の機器を備えていること自体がマーケティングになり、「常に最先端の治療を提供している医院」として患者に選ばれる要因となる。高価格帯の治療を提供する医院ほど、Luminaの持つ先進イメージと総合力を活かせる場面は多い。もちろん導入すれば自動的に利益が上がるわけではなく、スタッフ教育やプロモーションとセットで考える必要はあるが、長期的に見れば導入メリットが大きいタイプの医院と言える。

口腔外科・インプラント中心の医院

サージェリー主体でインプラント埋入から補綴まで一貫して行うクリニックにも、Luminaは魅力的な選択肢である。特にフルアーチのインプラント即時負荷など高度な治療では、従来フォトグラメトリーシステムなど数百万円規模の専用機器が必要だった。Luminaの高精度全顎スキャンは、こうした特殊領域にも手が届く可能性を示している。実際に多くのインプラント症例を手がける歯科医からも「長いスパンの難症例でLuminaは力を発揮し、何度も苦労していた全顎印象が容易かつ高速に完了した」といった声が聞かれる。術後のプロビジョナル製作や即時補綴の場面でも、手早く正確なデジタル印象が取れればオペ室での患者負担軽減につながるだろう。ただし留意すべきは、インプラント分野では既存設備とのすみ分けである。既に口腔内スキャナーや技工用スキャナーを導入済みであれば、Luminaが全てを置き換えるわけではない。例えば埋入ポジション決定にはCT撮影とサージカルガイドが不可欠だが、iTeroデータはガイド設計にも活用できる。加えて、フォトグラメトリーほどのハード精度は保証されないため、全顎インプラントの最終補綴フィッティングには微調整が要るかもしれない。それでもオールインワンの汎用機としてここまで対応範囲が広がった恩恵は大きく、インプラント難症例を多数抱える医院ほどLumina Proの性能を十全に活かせるだろう。

その他のケース

一方で、外科中心で補綴は他院に依頼しているようなスタイルの口腔外科クリニックでは、スキャナー導入の優先度は下がる。デジタルで型を取っても結局補綴は外部に回すなら、必要に応じて補綴担当の歯科にスキャンしてもらえば済む話になるためだ。また開業間もないクリニックで資金に余裕がない場合、まず他の必須設備(ユニットやエックス線等)を整えてからでも遅くはない。iTeroに限らずデジタル機器は年々進歩するため、「今すぐの導入でどれだけリターンが得られるか」をシビアに見極め、無理のないタイミングで投資することが肝要である。

よくある質問(FAQ)

Q1: iTero Luminaと従来型スキャナーでは本当に補綴物の適合精度が向上するのか?

A1: Luminaは非臨床試験ながら全顎スキャンで誤差0.25%未満という極めて高い精度を記録している。これは従来型スキャナー(共焦点方式)の弱点であったロングスパン症例での累積誤差が大幅に改善されたことを意味する。実際の臨床でも、長いブリッジや多数歯補綴で適合の良さを実感した声がある。もっとも補綴物の精度は最終的に技工工程にも左右されるため、デジタルデータを正しく扱える歯科技工士との連携が重要である。総合的に見て、Luminaの導入はファーストタイムフィット(一度で適合する補綴)の確率を高め、調整や再作製のリスク低減につながると考えられる。

Q2: iTero Luminaで取得したデータは他社システムでも利用できるか?

A2: はい。iTeroでスキャンしたデジタル印象は、業界標準のSTL形式でエクスポート可能である。したがって3Dプリンターで模型を出力したり、セレックなど他社CAD/CAM装置で補綴設計に用いたりすることもできる。インビザライン以外のマウスピース矯正業者に対しても、希望があればSTLデータを提供し製作してもらうことが可能だ。ただしiTero独自のクラウドシステム(MyiTero)を介してデータ共有する方が安全かつ便利であり、提携技工所にはクラウド経由でアクセス権を付与できる。つまり基本的にはオープン運用が可能だが、インビザラインとの連携の容易さがiTero最大の強みである点も押さえておきたい。

Q3: Lumina Proと標準モデルでは具体的に何が違うのか?

A3: 最大の違いは近赤外線画像(NIRI)による隣接面う蝕検知機能の有無である。Lumina Proは光学スキャンに加えて歯間部の虫歯を可視化する画像が取得でき、予防・診断ツールとして活用できる。一方、標準のLumina(NIRI非搭載モデル)は通常のカラー3Dスキャナーとしての機能に特化している。両者ともスキャン精度や速度、インビザライン連携といった基本性能は共通であり、得られる3Dデータそのものに差はない。また価格面ではLumina Proの方が高額になる(NIRI搭載分の上乗せ)とみられる。既にLumina標準機を導入済みの場合でも、後からPro相当の機能追加が可能なアップグレードプログラムが提供される予定であり、将来的に必要と感じた時点でNIRI機能を拡張する選択肢も考えられる。

Q4: 機器の保守やトラブル時の対応はどうなっているか?

A4: iTeroシリーズは販売元による充実したサポート体制が整っている。導入時には操作説明や初期設定を支援してくれ、オンラインまたは電話でのテクニカルサポートも利用できる。故障時には保守契約に基づき代替機の貸し出しや迅速な修理対応が受けられるため、臨床への支障を最小限に抑えられる。日常の手入れとしてはワンド先端の清掃とスリーブ交換が主で、専門業者による定期点検は必要に応じて実施される。ハードウェア面では可動部が少なく耐久性は高いが、ソフトウェアは随時アップデートが提供されるため適用を忘れないようにしたい。万一スキャナーが使用できない場合でも備えとして従来の印象材をストックしておけば、大きなリスクにはならないだろう。総じて、適切なメンテナンス契約の下で運用すれば長期にわたり安定して使える機器である。

Q5: スタッフが使いこなせるか不安だが、習熟は難しい機器なのか?

A5: Luminaは従来機種より操作性が洗練されており、習熟しやすい設計と言われる。実際、初めて口腔内スキャナーに触れるスタッフでも、基本的なトレーニングで短期間のうちに扱えるようになった例が多い。タッチパネル画面の操作やデータ保存も直感的で、エラーが出た箇所は画面上に色付きで表示され再スキャンも簡便だ。特にLuminaはワンドが小型軽量で取り回しやすくなったことで、体格の小さいスタッフや女性でも長時間の操作負担が軽減されている。もっとも最初から完璧にこなす必要はなく、症例を重ねる中で徐々にコツを掴めば良い。メーカーも導入後の追加トレーニングやQA対応を行っているので、不明点は積極的に相談しスキルアップに繋げてほしい。院長一人に頼らずチームで使い倒すことが、機器導入の成功の鍵である。