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デンツプライシロナの口腔内スキャナー「Primescan(プライムスキャン)」とは?価格やデメリット、耐用年数を解説

デンツプライシロナの口腔内スキャナー「Primescan(プライムスキャン)」とは?価格やデメリット、耐用年数を解説

最終更新日

歯科医院での印象採得(いわゆる型取り)において、「嘔吐反射で患者がつらそうにしていた」「石膏模型を作ったが気泡でマージンが不明瞭だった」といった経験を持つ先生は少なくないだろう。従来のシリコン印象は技術習熟や患者負担の面で課題があり、再採得や補綴物の適合不良による手直しは診療効率と院経営の両面で損失となる。こうした悩みを背景に、近年急速に普及しているのが口腔内スキャナーによるデジタル印象だ。その代表格がデンツプライシロナ社の「Primescan(プライムスキャン)」である。本稿では、このPrimescanの特徴を臨床と経営の両面から分析し、価格やデメリット、耐用年数まで踏み込んで解説する。デジタル技術への投資判断に悩む開業医の先生方に、現場目線のヒントを提供したい。

Primescanの製品概要

Primescan(プライムスキャン)は、デンツプライシロナ社が開発した最先端の口腔内スキャナーである。初代モデルは2019年に「CEREC Primescan」として発表され、従来機(Omnicam)から精度・速度が大幅に向上した。Primescanは患者の口腔内をカメラで撮影して高精度な3次元データを取得し、クラウンやブリッジ、インプラント上部構造、矯正用モデルなど各種補綴物・装置の製作に用いるデジタル印象採得装置である。

日本における薬事区分では管理医療機器(特定保守管理医療機器)に分類され、正式には「セレック プライムスキャン AC」の名称で承認・販売されている。適応範囲は非常に広く、歯科補綴全般(インレー、クラウン、ブリッジ、ベニアなど)、インプラント補綴、マウスピース矯正や各種ガイド・スプリントに至るまで、口腔内の型取りが関わる分野を網羅する。ただし、本製品自体はあくまでスキャナー(カメラ)部分であり、取得データの活用には別途CADソフトや技工所との連携が必要となる。Primescan単体では直接補綴物を製作する機能はなく、チェアサイドで即日修復を完結したい場合は、取得データを設計ソフト(例:CERECソフトウェア)や歯科用ミリングマシン(Primemillなど)へと繋げる運用となる。

Primescanシリーズにはいくつかのバリエーションが存在する。従来は専用カート一体型の「Primescan AC」(Acquisition Center)として提供されていたが、2022年にはノートPC接続型の廉価モデル「Primescan Connect」が登場した。さらに2024年には次世代機の「Primescan 2(プライムスキャン2)」が海外で発表され、世界初のクラウドネイティブなワイヤレススキャナーとして注目を集めている(日本での発売も準備中とみられる)。このようにPrimescanは日進月歩で進化しており、デジタルデンティストリーの中核を担う製品ラインとなっている。

Primescanの主要スペックと特徴

Primescan最大の特徴は、その高い光学精度とスキャンスピードである。メーカーによれば、フルアーチ(上下顎全体)のスキャンが1分以内で完了する高速性を備えており、臨床現場でのチェアタイム短縮に直結する。スキャン方式は同社独自の「スマートピクセルセンサー」技術を採用し、1秒間に100万以上の3Dデータポイントを取得することが可能だ。これにより写真のように鮮明で精密なカラー3Dモデルが瞬時に生成される。従来の光学印象では金属修復物や濡れた歯面でノイズが生じやすかったが、Primescanはリアルタイムのアーティファクト除去機能を搭載し、高反射面(例えばメタルインレー)や深い窩洞部でも乱れの少ない正確なデータ取得が可能である。実際、Primescanは複数の精度検証研究において高精度スキャナーのゴールドスタンダードの一つと評されており、単冠から部分的無歯顎のインプラント症例まで安定した精度を示すと報告されている。

スキャナー本体のカメラ先端部(チップ)は、旧モデル(Omnicam)に比べて視野が16×16mmと広く、かつ被写界深度も最大20mmに達する。これは臼歯部の遠心側ややや歯肉縁下のマージンでもピントを合わせやすいことを意味し、複雑な形態の支台歯でも一度で鮮明なスキャン画像を得やすい。チップ先端は常時セルフヒーティング(自己加温)されており、患者口腔内で鏡面が曇って途中停止するといったトラブルも起こりにくい。ハンドピース部の寸法は全長約25cmとやや大型だが、滑らかなラウンド形状で握りやすくデザインされている。重量は約457g(ディスポーザブルスリーブ装着時)で、一般的な他社スキャナー(300g前後)より重めではあるものの、バランス設計により実用上は許容範囲との声が多い。なお2024年発表のPrimescan 2では人間工学的デザインがさらに改善され、小さな口腔内へのアクセス性向上が謳われている。

データ精度に関連して特筆すべきは、Primescanが深いエリアの精密把握を得意としている点である。例えば従来、歯肉縁下に及ぶ支台歯マージンの印象は難易度が高かったが、本機は最大20mmの測定深度と動的焦点調整レンズにより、適切な排液と歯肉圧排ができていれば肉眼で見えにくい深部もシャープにスキャンできる。この性能はインプラントの深部アバットメントや、フルマウススキャン時の遠心部まで有用で、肉眼確認が難しい部分もデジタルデータ上で拡大して評価できる。カラー撮影にも対応しており、スキャンデータ上でう蝕や補綴物、歯質の色調を識別できるため、技工士へのシェード指示補助や、患者説明用の視覚情報としても役立つ。

Primescanのデメリット(短所・注意点)

優れた性能を持つPrimescanだが、導入にあたって留意すべきポイントも存在する。まず機器コストが高額であることは小規模医院にとってハードルになりうる。後述するように、標準的なカート一体型モデルは本体価格が数百万円台後半に及び、同クラスの他社製品と比べてもトップクラスの価格帯である。また、ハンドピース重量・チップサイズが大きめな点は小さな開口量の患者ではスキャン操作がしにくい場合がある。特に開口維持が難しい高齢者や小児では、奥歯の撮影にコツが必要だ。操作面ではスキャンテクニックの習得が必要不可欠で、初心者がいきなり使用するとデータの欠損やエラーが出て再スキャンを要することもある。アナログ印象と同様、唾液や出血への対策(排唾・圧排)はデジタルでも重要であり、血液や唾液が付着するとその部分のデータは取得されない。従って、特に歯周病で出血しやすいケースや抜歯即時インプラントなどの術後スキャンでは、従来以上の止血と視野確保が求められる。

さらに適応症例の見極めも必要である。多数歯欠損でランドマークが乏しい症例(例えば無歯顎の義歯製作)では、スキャンデータを正確に統合することが難しく、まだ従来法に利がある場合もある。Primescanは精度面では高い評価を得ているものの、完全無歯顎の印象採得や軟組織のみの形態再現(義歯の機能印象に匹敵するような領域)は不得意であり、症例によっては補助的にアナログ印象や特殊なデジタル手法を組み合わせる必要がある。また、Primescan Connect(PC接続型モデル)については単体では即日修復に移行できない点も留意点である。Connect版はスキャナー単体の構成でチェアサイドCADソフトが付属せず、後からミリングマシンを追加してもそのままでは院内で設計・切削が行えない(ソフトウェアライセンスの問題で)ため、将来的に即日補綴ワークフローを志向する場合は上位モデルへの買い替えが必要になる。このように、Primescanは高性能である反面、価格や習熟、症例選択などでクリアすべき課題があることも事実である。

データ互換性と運用方法

データ互換性(連携性)の面で、Primescanは比較的オープンなスキャナーである。同社の従来製品は自社システム内での使用が主眼とされたが、Primescanでは取得データをSTL形式でエクスポート可能であり、サードパーティのCADソフトやラボにも自由に提供できる。実際、デンツプライシロナはPrimescanを主要な他社ラボ用ソフトウェア(3Shape社、exocad社など)のバリデーション済みスキャナーとして位置づけており、Connect Case Center(コネクトケースセンター)やDS Coreといったクラウドサービスを介して、簡便かつセキュアにデータ連携できる仕組みを提供している。たとえば院内でスキャンしたデータを即座にクラウドへアップロードし、ラボ技工所がそれをダウンロードして設計・造形するといったワークフローが可能である。従来のように印象や模型を配送する時間と手間を省けるため、補綴物の納期短縮にもつながる。なお、Primescan(特にConnect版)は基本的にオンライン環境での使用が推奨される。オフラインでもローカルPCにデータ保存はできるが、最新のPrimescan 2では常時インターネット接続とDS Core契約が事実上必須となっており、データは直接クラウド上に保存・管理される方式へ移行している。このため、院内ネットワークインフラの整備や通信環境の安定性にも気を配る必要がある。

運用管理の観点では、口腔内スキャナー特有のメンテナンス事項がいくつかある。まず衛生管理として、Primescanは用途に応じた3種類のスキャナースリーブが用意されている。標準付属のステンレス製スリーブ(サファイヤガラス窓付き)は繰り返し使用可能で、乾熱滅菌や高水準消毒で清潔を維持するタイプである。その他、オートクレーブ可能なステンレススリーブ(ディスポーザブルプラスチック窓付き)や、完全使い捨てのディスポーザブルスリーブも選択でき、それぞれ追加購入が可能だ。ディスポーザブルタイプは毎症例廃棄するためコストはかかるが確実な感染対策となる。一方、再利用タイプでも交換用窓や定期的な滅菌による劣化管理が必要で、メーカーはスリーブの使用期限や耐用オートクレーブ回数を設定している(約2年あるいは〇〇回滅菌など、製品により規定あり)。日常のルーティンとしては使用後の清拭・滅菌とキャリブレーションである。Primescanは基本的に出荷時校正済みだが、一定期間使用後や大型アップデート後にはキャリブレーション(校正作業)が必要になる場合がある。専用の校正用モデルをスキャンして補正を行う手順で、これにより常に精度を担保する。メーカーは少なくとも3年ごとに性能点検(再校正やファームウェア更新含む)を受けることを推奨しており、特に長期使用時には販売店の保守サービスを利用して内部光学系のチェックを行うと安心である。

また、院内で複数スタッフが使用する場合には操作トレーニングも重要な運用要素だ。Primescanは直感的な操作性を重視して設計されており、最新ソフトではスキャン手順のガイド表示や自動欠損補完のAI機能もあるため、基本的なコツさえ掴めば歯科医師でなくても歯科衛生士・アシスタントへのタスクシフトが可能と言われる(もちろん各国の法規に準拠した範囲で運用する必要がある)。新人スタッフでも扱いやすいよう、社内研修用の教材やデモンストレーションを活用し、院内に「スキャナーチャンピオン」となるキーパーソンを育てることが有効だ。初期には模型やスタッフ同士で練習し、スキャンデータをソフト上で確認して精度を評価するプロセスを踏むことで、本番症例での失敗を減らせる。院内ネットワークやPC環境の準備も忘れてはならない。Primescan Connectの場合はメーカー指定のラップトップが提供されるケースもあるが、一般に高画質3Dデータを扱うため高性能なPCと十分なストレージ、バックアップ体制を整備したい。特にクラウド未使用でローカル保存中心の場合、データ消失リスクへの対策が必要である。これら運用面の工夫によって、機器本来の性能を安定して引き出すことができ、ひいては臨床効率と精度の向上に直結する。

導入による経営インパクトとコスト試算

デジタル機器の導入は臨床面だけでなく医院経営に大きな影響を及ぼす。Primescanのような高額機器の場合、その投資がどのような経済的リターンを生むかを慎重に見極める必要がある。まず初期投資額であるが、標準的なPrimescan(カート一体型)の本体価格は約600~700万円(税別)とされる。実際には付属ソフトウェア構成によって変動し、例えば単なるスキャン専用構成(DIスタンドアロン)で約600万円前後、CEREC設計ソフトを含むセットでは約690万円(デザインソフト込み)との販売実績情報がある。一方、低価格版のPrimescan Connectは本体価格約240万円(税別)と大幅に廉価で、初期設定料などを含めても300万円弱に収まる。これは「スキャナー単体」であるためで、チェアサイドCADによる即日修復を行わずスキャンデータを主に外注利用するのであれば、Connect版は初期費用を抑える選択肢となる。ただし前述のようにConnect単体では院内製作への拡張性が限定される点には注意が必要だ。さらに最新のPrimescan 2は海外での報道によれば2万5千ドル程度(約300~400万円)の価格帯と見られ、ワイヤレス機能やクラウドサービス利用料(DS Coreのサブスクリプション)を含めた新モデルとして提供される見込みである。クラウド利用料については地域によって異なるが、Primescan 2ではDS Core契約が必須で、これは年間数十万円規模のランニングコストになる可能性がある。したがって、導入時には本体価格+関連ソフト費用+サブスク費用+保守費まで含めた総コストを把握し、医院の予算計画と照らし合わせることが重要である。

一症例あたりのコスト試算を行ってみよう。例えばPrimescan Connect(約240万円)を購入し5年間で減価償却すると仮定すると、年間減価償却費は約48万円となる。月あたり4万円、1ヶ月に20日診療日があるとすれば1日あたり約2千円の設備コストだ。1日のうちスキャンを使う補綴症例が仮に2件あったとすると、1症例あたり約1千円が機器の償却コストに相当する計算になる。これにディスポーザブルスリーブ代(1回あたり数百〜千円程度)や必要ならサブスク費用の按分を加味すれば、デジタル印象1回あたり約1千〜2千円程度の直接コスト増となる。一方で、従来法でもシリコン印象材やトレイの材料費が発生するが、それらは1症例数百円〜千円程度であり、単純材料費だけ見ればデジタルの方がやや高くつく可能性はある。しかし、デジタル導入による経済効果はコスト削減だけでは測れない。例えば再印象の削減による材料浪費や技工の作り直し費用の削減、補綴物適合精度向上による再調整・再装着の手間削減が期待できる。また印象採得時間が短縮されれば1アポイントあたりのチェア稼働効率が上がり、浮いた時間で別の患者を診療できる可能性もある。仮にデジタル化で1件あたり5分の時短が実現した場合、1日10件で50分の余裕が生まれる計算となり、その時間で追加の診療(例えば小さな処置や検診)を行えば新たな売上に繋がるだろう。さらに、Primescan導入により自費診療メニューの拡充が可能になる点も見逃せない。例えばマウスピース矯正(アライナー治療)や高度な審美修復は、精密な光学印象が前提となるケースが多い。スキャナーを持たないがために提供できなかった自費治療を新たに院内サービスとして開始できれば、その売上は直接ROI(投資回収)に貢献する。

定量的なROI評価は各医院の状況によって異なるが、一つの目安として「ラボ代削減」と「患者増加効果」を挙げられる。即日修復システムまで導入した場合、自院で補綴物を設計・切削できるため技工所への外注コスト(技工料)が大幅に減る。例えば1本あたりのクラウン技工料が保険で数千円、自費で数万円だとすれば、年間何百本と製作する医院では合計技工コストが大きな負担となっている。CERECシステムによりこれを院内で賄えれば、材料費を除いた技工料相当分が利益に転嫁される計算だ(ただしミリングマシンやブロック材料費・維持費も別途考慮が必要)。また、同システムで即日治療(One Day Dentistry)をアピールすれば、新規患者の来院動機づけや他院との差別化にも繋がりうる。実際、「その日のうちにセラミック修復物が入る」という利便性に対して追加料金を支払う患者は一定数存在し、欧米では即日クラウンを自費メニュー化している例も多い。日本の保険診療内では即日であっても算定上の利益は変わらないが、患者満足度の向上や口コミ効果による長期的な増患・自費率向上が期待できるだろう。さらに、デジタルデータ活用による補綴物の長期安定性(適合精度向上による二次う蝕リスク低減や破損率低下)が実現すれば、保証期間内の無償再治療などのコストも削減できる可能性がある。以上を総合すれば、Primescan導入は単なる経費増ではなく診療品質向上と経営効率化への投資と位置づけられる。もちろん回収には計画が必要だが、使いこなすことで十分ROIに見合うリターンを生み出し得るだろう。

Primescanを使いこなすポイント(臨床・運用のコツ)

高価なデジタル機器も、宝の持ち腐れでは意味がない。Primescan導入後にその価値を最大限引き出すための使いこなしのポイントをいくつか挙げたい。

1. 導入初期のステップ

まずは十分なトレーニング期間を確保することだ。購入後すぐ本番症例で使い倒したい気持ちもわかるが、最初の数日はスタッフ間で模型を使った練習や院内相互実習を行い、機器操作に慣れることが肝心である。例えば支台歯のスキャンでは、咬合面→隣接面→舌側面といった順序でカメラを動かす、広い無歯顎部は一気に撮ろうとせず区画ごとにスキャンして後でマージ(統合)する、などスキャン戦略の基本を身につける。メーカーや販売代理店が提供するハンズオントレーニングに参加したり、操作ガイド動画をスタッフ全員で視聴したりして共通理解を深めておくと良い。またキャリブレーション手順やデータ保存方法についても初期に確認しておき、機器トラブルやユーザーミスによるデータ消失を防ぐ体制を整える。初症例への適用は比較的簡単なケース(例:単独クラウン)から始め、徐々にブリッジやインプラントといった難易度へステップアップすると成功体験を積みやすい。

2. 術中の工夫

臨床でPrimescanを扱う際は、従来以上に「術野の明瞭さ」を追求する姿勢が求められる。デジタルは正直なもので、肉眼では何となく見えている箇所も、スキャナーは僅かな血液や唾液膜すら「情報欠損」として認識する。したがって印象材を用いていた頃以上に、確実な圧排と乾燥を徹底することが成功の鍵だ。具体的には、二本の糸による歯肉圧排法で深いマージンも露出させ、必要に応じて電気メスやレーザーで肉芽を除去するなど、スキャンしたい部位の視認性を高める。また補綴物の一時的試適などで出血が生じた場合は、スキャン前に止血剤や圧迫で十分に止血し、清潔な洗浄と乾燥を行う。この点、Primescanのカメラ先端は防水仕様だが、唾液が多量に付くと正確に読み取れないため、口腔内バキュームの補助やエアブローを駆使して常にクリアな視野を保つと良い。術者の目線で鏡を見るようにスキャナーを動かし、リアルタイム表示される3Dモデルを逐一確認しながら不足部分を埋めていくスキャン手法が望ましい。表示画面上で穴(スキャン漏れ)があれば角度を変えて追加撮影し、全ての必要形態が撮れたことを確認してから患者を離席させる習慣をつけたい。万一データに欠損が見つかっても一部再スキャン(追加取得)は可能だが、患者退出後だと対処困難なため、その場での即時チェックが重要である。

3. 患者コミュニケーションへの活用

Primescanは単に技工用のデータを取るだけでなく、患者説明ツールとしても非常に有用だ。スキャン後すぐに患者と一緒に画面上で3Dモデルを見ることで、自身の歯列状態を直観的に理解してもらえる。例えば「この割れている歯です」とその部位を拡大表示すれば、従来の口頭説明よりも説得力が増す。実際、デジタル印象を経験した患者の多くが「もう粘土のような型取りには戻りたくない」と述べるほど好評であり、ある海外調査では患者の84〜85%が従来印象よりデジタル印象を好むとの結果も報告されている。特に嘔吐反射の強い患者や若年層にはスキャナーの評判は良く、医院のサービス満足度向上に寄与する。導入当初は、「最新のデジタル技術で快適に型取りできます」といったアピールをカウンセリング時に盛り込み、患者の興味を引くことも効果的だ。さらに、Primescanで取得したデータから治療予測をシミュレーションして見せる活用も可能である。例えば矯正治療前後の歯並び比較や、補綴治療後の仕上がり予測などをソフト上で提示すれば、患者は治療の必要性や有用性を理解しやすくなる。こうしたデジタルデータの視覚効果は患者の治療受容性を高め、結果として治療ケースの成約率アップにつながるだろう。

4. 院内体制と役割分担

前述のように、スキャン操作自体は慣れればスタッフでも行えるため、院内のデジタル推進チームを作るのも一案だ。具体的にはデジタル機器に興味のあるスタッフを中心に、Primescanのエキスパートを育成し、周囲へノウハウを共有してもらう。院長自身が全てスキャンしていては忙しい日には逆に滞る恐れもあるため、口腔内写真撮影と同じ感覚で衛生士に任せられる部分は任せることも検討したい(ただし国内法規で歯科衛生士等による印象採得が認められているか十分確認する必要がある)。また、バックアップのアナログ手段も用意しておくことはリスク管理上大切だ。システム不調やスキャナーの破損が起きた際に診療が止まってしまっては本末転倒であるため、当面は従来のトレー印象材もストックを切らさないようにし、急な機器メンテナンス時にはアナログ印象に切り替えられる柔軟性を残しておくと安心である。いずれにせよ、デジタル機器は「使ってナンボ」である。医院全体で積極的に活用し、日々の診療フローに組み込んでいくことで初めて投資対効果が発揮される点を念頭に置いてほしい。

Primescanが適する症例・適さない症例

適応が得意なケースとしては、基本的に単独歯から中等度の複数歯欠損ケースまでの補綴が挙げられる。具体例として、インレー・アンレー、クラウン、3〜4ユニット程度までのブリッジはPrimescanの真価を発揮しやすい領域である。こうしたケースでは支台歯形態や隣接関係、咬合面形態が高精細に記録できるため、適合の良い補綴物作製が期待できる。実際、単冠レベルではアナログ印象と遜色ない適合精度との研究報告もあり、補綴物装着時の調整量が減ったとの臨床報告も聞かれる。またインプラント補綴にも積極的に活用可能だ。各社のスキャンボディ(口腔内スキャナー用の転写体)に対応しており、Primescanデータからそのままインプラント上部構造のCAD設計が行われる。複数本のインプラントでも3〜4本程度までなら高い精度で位置関係を記録できるため、スクリュー固定のブリッジなども製作可能である(メーカーもPrimescanは複数ユニットのインプラント補綴に公式にバリデート済みとしている)。さらにマウスピース矯正(アライナー)では全顎の歯列印象を迅速に取得できるため大幅な時間短縮となり、矯正治療の初診カウンセリング当日にスキャン→データ送信まで完了できるメリットがある。加えて、部分床義歯の設計にも活用され始めている。クラスプの係合部や支台装置周囲の形態をデジタルデータで精密に取れるため、CADによるメタルフレーム設計・造形(3Dプリンタや鋳造)と組み合わせた新しいデンチャー製作法も広まりつつある。これら得意領域に共通するのは「残存歯が適度に存在し、固有の形態特徴がある」ケースだと言える。ランドマークとなる要素が多いほどデータ統合が正確にできるため、Primescanは天然歯がある症例で真価を発揮しやすい。

一方で適さない(不得意な)ケースもある。代表的なのは完全無歯顎の印象採得である。上下いずれかの歯が全くない場合、頬粘膜や歯槽骨稜など反復パターンの少ない組織ばかりをスキャンすることになり、データの位置合わせ誤差が蓄積しやすい。特に無歯顎の総義歯製作では、辺縁封鎖や機能印象といった要件もあるため、現時点では従来の個人トレー+シリコン採得に軍配が上がる場合が多い。ただし、一部では無歯顎患者に対して義歯安定用のシリコン素材を塗布してスキャンするなど工夫した報告もあり、今後ソフトウェアの発達で改善される可能性はある。加えて、長大なブリッジやフルマウス補綴も慎重な取り扱いが必要だ。例えば10ユニットを超えるような全顎修復では、咬合支持や補綴順序の計画が重要で、必要に応じて分割印象(数ブロックに分けてデータ取得し結合)を行う、もしくは一時的に仮歯でセグメント毎につないでからスキャンするなどの工夫が考えられる。Primescan自体の精度は高いが、大規模修復の場合は臨床的・生物学的要因(咬合圧による顎位変動や歯の微動など)が精度に影響するため、印象方法の選択は術者の経験に依存する部分が大きい。また前述のように出血が止められない状況ではスキャンを諦めて従来印象に切り替える柔軟さも必要だ。たとえば抜歯直後のインプラント埋入オペで同時に型取りまで…というプランでも、創部からの出血が想定以上であればデジタルは難しく、カバースクリューで一旦封鎖して後日スキャンする判断も求められるだろう。禁忌症については、機器自体の禁忌というより上記のようなケース選択上の注意となる。製品添付文書上も特段の禁忌症は示されていないが、患者が協力的に開口できない場合(極度の開口障害や小児で怖がって拒否する等)は実質的に使用が難しい。またMRIやCTと異なり光学スキャンは人体への有害性がないため妊娠中でも問題なく使用できるが、強いて言えば光に過敏な疾患がある患者(ごく稀なケース)では避ける程度である。総じて、Primescanはほとんどの歯科治療の印象に適応可能だが、症例によっては従来法や他の補助的手段との使い分けが必要というのが現状である。

導入判断の指針(クリニックのタイプ別)

Primescan導入の是非は、その医院が目指す診療スタイルや経営方針によって判断基準が異なる。いくつかのタイプ別に、導入のメリット・デメリットを整理してみよう。

保険診療中心で効率最優先の医院

毎日の診療スケジュールが保険のう蝕処置やクラウン・ブリッジで埋まり、とにかく回転率と診療効率を上げたいという医院では、Primescanは時短ツールとしての価値がある。保険診療では直接的な収入増には結びつきにくいものの、先述のようにチェアタイム短縮や補綴物の再製作減少による間接的なコスト削減効果が期待できる。例えば1本の印象にかかっていた時間が半分になれば、その分だけ他の処置に時間を充てられる。実際、あるデータではデジタル印象の導入で治療全体の時間が約60%短縮できたという海外報告もあり、特に複数ユニットの補綴を同日に行う際の時短効果は大きい。また、患者回転率の向上は患者満足度の向上にもつながる。忙しい会社員患者などは「早く終わる治療」を好む傾向があり、短時間で精度の高い処置が提供できれば紹介やリピートにも良い影響を与えるだろう。一方、設備投資の負担は経営を圧迫しかねないため、導入にあたっては費用対効果のシミュレーションが必要だ。保険診療中心の医院では高額機器の償却原資を捻出しにくい場合も多い。その場合、Primescan Connectのような廉価モデルから導入し、スキャナーのみでまず運用してみるのも現実的な策である。Connectで慣れた後、十分な利用頻度と効果が見込めればフルセットへのアップグレードを検討するステップも取れる。総じて、効率最優先の医院では「導入コストに見合う十分な活用頻度が確保できるか」が判断のポイントとなる。毎月のクラウン等補綴症例数が多く、スタッフ含めデジタル活用に前向きな環境であれば、Primescanは日々の診療を力強く支えてくれるだろう。

高付加価値の自費診療を強化したい医院

セラミック修復やインプラント、矯正治療など自費診療に力を入れている、またはこれから強化したい医院にとって、Primescan導入は患者満足度と競争力を飛躍的に高める武器となる。このタイプの医院では一件あたりの治療収入が高いため、設備投資の回収も比較的容易だ。例えば1本10万円以上のセラミッククラウンを月に10本追加で受注できれば月商+100万円となり、600万円の機器でも数年で元が取れる計算になる。実際、デジタル技術に積極的な医院では「最新の3Dスキャナーで精密なセラミック治療を提供」といった付加価値を打ち出し、高額治療の成約率を高めているケースがある。患者心理としても、高額な自費治療を受けるなら最新機器のある医院で安心して任せたいと考えるものだ。Primescanによる即日審美修復(ワンデートリートメント)をメニュー化すれば、「仮歯で過ごす期間なしでその日にセラミック装着可能」という大きな訴求点となり得る。忙しいビジネスパーソンや遠方からの患者にとって、通院回数が減るメリットは測り知れない。また、アライナー矯正やデジタル矯正システム(例えばInvisalignなど)の導入にはスキャナーが必須だが、Primescanであればそれら複数のデジタル自費メニューのプラットフォームとして機能する。つまり1台で補綴と矯正、インプラントシュミレーションと多用途に活躍し、自費売上全般の底上げに貢献できる。さらに、医院のブランディングという観点でもメリットは大きい。最新機器を揃えている医院はWebサイトやSNSでも話題にしやすく、患者から見た信頼感・先進性のイメージアップにつながる。デメリットとしては、保険中心医院に比べ導入後にフル活用できる症例が限られる場合があることだ。例えば自由診療の患者数そのものが少なければ、せっかくの機器も遊んでしまう恐れがある。したがって、このタイプの医院では「デジタルを起爆剤にして自費患者を増やす」という明確な戦略が求められる。導入前からターゲットとする自費メニューを絞り込み、マーケティング施策(ホームページ刷新や広告)と連動してデジタル導入をアピールするといった経営的視点が成功のカギとなるだろう。

インプラント・口腔外科中心の医院

インプラント埋入や骨造成、親知らず抜歯など外科処置を多く手がける医院でも、Primescanは有用なツールとなり得る。まずインプラント治療では、手術前からスキャナーが活躍する。口腔内スキャンデータとCBCT(3Dレントゲン)データをマッチングさせてサージカルガイド(インプラント埋入用ガイド)を設計・作製するデジタルワークフローが広がっており、Primescanで取得した精密な歯列データはガイドの適合精度を左右する重要な要素だ。特に部分欠損症例では隣在歯の情報が正確に取れるため、ガイドがピタリとハマる安心感は大きい。また、フルマウスリハビリテーションを伴うインプラント症例でも、デジタル印象による補綴計画がスムーズになる。術前に全顎をスキャンして咬合平面や顎間関係を分析し、Wax-upのようなモックアップもデジタル上でシミュレーションできる。All-on-4のような無歯顎インプラント治療では高精度な光学印象と専用ソフトがあれば即日仮補綴の設計・3Dプリント出力まで可能であり、Primescan導入でこうした先端治療に踏み出す土台が整うと言える。一方、外科中心の医院では補綴や矯正に比べスキャナー利用の頻度が低くなる懸念もある。しかし実際には、インプラント埋入後の印象採得(アバットメントレベルまたはフィクスチャーレベル)は必須であり、むしろ複雑な印象採得が多い分デジタル化の恩恵は大きい。複数本の直列インプラントの印象も、Primescanなら短時間で患者の負担少なく完了できる。従来、外科系の先生からは「印象手技は不得意なので技工士に任せたい」という声も聞かれたが、デジタルなら術者自身がリアルタイムに形態を確認できるため、補綴のフィードバックを得ながら外科処置を進めることが可能になる。これはすなわち、外科と補綴のシームレスな融合であり、包括的な歯科医療の提供につながる。強いてデメリットを挙げれば、フル無歯顎インプラントブリッジのような高度なケースでは追加機器が必要な点である。例えば複数インプラントを正確に連結してスキャンする専用の口腔内測位デバイス(フォトグラメトリ)などが存在し、Primescan単体では難しいケースも高額な追加投資でカバー可能だが、導入判断は悩ましいところだろう。総じて、インプラント・外科系の医院では「より安全・確実な外科と補綴の融合」を目指すなら導入価値ありといえる。高度なデジタル外科計画や即時荷重プロトコルを志向するクリニックにとって、Primescanは強力なインフラとなるだろう。一方、外科に特化し補綴は全て他院や技工所任せというスタイルであれば、活用範囲が限定的になるため慎重な検討が必要かもしれない。

よくある質問(FAQ)

Q. Primescanで採得した印象の精度は従来のシリコン印象と比べてどうですか?

A. 多くの研究で、Primescanを含む最新の口腔内スキャナーの精度はシリコン印象と同等か、それ以上であると報告されている。単一歯や短いブリッジであれば、ほぼアナログ印象と遜色ない適合精度が得られる。実際、筆者の周囲でもPrimescan導入後に「クラウン装着時の調整が減った」「補綴のfitが良く再製作が減少した」との声がある。ただし精度を最大限発揮するには術者の適切な操作と良好な術野条件が必要だ。歯肉縁下の深いマージンなどでは、圧排や乾燥を十分にしてスキャンしないとデータが欠損し、結果として適合不良の原因となり得る。逆に言えば、適切な環境下で正しく使用すればPrimescanの精度は非常に信頼できる。特にマージン明瞭性や咬合面形態の再現性は高く、複雑な咬合調整が減る傾向が見られる。なお、フルアーチ(全顎)など大きな範囲では若干誤差累積が起こりうるため、症例に応じた使い分け(必要に応じセクションごとのスキャンや補綴設計の工夫)も考慮すべきだろう。

Q. 取得したスキャンデータは他社システムやラボで活用できますか?互換性はどうでしょうか?

A. Primescanで取得したデータはオープンフォーマットであるSTLファイルとして出力・保存が可能で、基本的にどのCADソフトやラボシステムでも読み込んで活用できる。デンツプライシロナ社自身もPrimescanを他社含む主要ラボ用CADとの接続性テスト済みとしており、院内でデータをクラウド送信すればラボ側は自社のソフト(3Shape社のDental Systemなど)でそのデータを開いて設計・加工できる。実際の運用では、Connect Case CenterやDS Coreといった専用ポータルを使う方法と、単純にSTLファイルをエクスポートしてメール送付やファイル共有する方法とがある。どちらでも目的は達成できるが、ポータル経由の方がセキュリティやデータ管理の面で安全だ。互換性で一点注意するとすれば、Primescanはカラー情報付きのPLY/OBJ形式ではエクスポートできない(現行ではSTLのみのエクスポート)ため、色情報を活かしたワークフローを外部でするのは難しい。ただしラボ技工では通常色付き3Dデータでなくとも業務上問題ないため、大きな障害ではないだろう。総じて、Primescanは「Sirona製だから他と繋がらない」という心配は不要で、オープンプラットフォームとして他社システムと遜色なく連携できる。

Q. 機器の耐用年数やメンテナンスについて知りたいです。どのくらい使える投資と考えるべきでしょうか?

A. 公式に「何年使える」という耐用年数が明示されているわけではないが、一般的に5〜7年程度は第一線で活躍できると考えられる。Primescan初号機(2019年発売)も、2024年現在でも多くの医院で現役使用されており、光学系が突然劣化して使えなくなるような報告は聞かない。ハード的にはステンレスやサファイヤガラスといった高耐久素材を用いており、丈夫に作られている。ただしテクノロジーの進化が早いため、5年も経つと次世代機(実際Primescan 2が5年後に登場)が出現し、性能向上や新機能の差が出てくることは留意したい。従って会計上も5年償却で計画し、以降は状況に応じてリプレース(買い替え)やアップグレードを検討するのが現実的だろう。メンテナンス面では、定期校正と消耗部品交換がポイントになる。先述のスキャナーチップ(スリーブ)は繰り返しの滅菌で劣化するため、メーカー指針に従い適宜新品と交換する必要がある。また内部のカメラセンサーやミラーも経年で微調整がずれる可能性があるため、数年おきに点検・キャリブレーションをメーカーまたは代理店に依頼すると安心だ。保証期間は通常1〜2年程度だが、延長保証や保守契約を結べば期間内の修理費用などのリスクをある程度ヘッジできる。現実には大きなトラブルは少ないものの、もしもの故障時に代替機をすぐ用意できるか(保守契約内容による)も確認しておくと良い。総合すると、5年は主力選手、その後数年はバックアップ選手くらいの気持ちで、技術進歩に合わせて柔軟に更新を検討するのが望ましい。大きな故障なく使い倒せれば7年以上働いてくれる可能性もあるが、ROI観点では5年で十分回収できる活用を目指すと健全だろう。

Q. Primescan導入後、使いこなせず失敗する例はありますか?リスクや注意点を教えてください。

A. 高価な機器を導入したものの、「思ったほど使わず宝の持ち腐れになった」という失敗談は、口腔内スキャナーに限らずデジタル機器全般で耳にする話である。主な原因は院内での運用ルールや習慣が確立できなかったことにある。例えば院長先生お一人だけが使えて他スタッフは敬遠してしまい、結局繁忙日に使えないまま…というケースや、最初に数回トラブルがあって怖じ気づき、それ以降押入れ状態…といったケースだ。こうした失敗を避けるには、導入前から院内教育と運用フローをしっかり計画し、導入後は多少のトラブルは想定内と割り切って乗り越える姿勢が大事だ。メーカーのサポートを積極的に活用し、初期設定やトレーニングを受けることでスタートダッシュを図りたい。また並行期間を設けることも有効だ。最初から全症例をデジタルに振るのではなく、まずは簡単なケースから始め、徐々に割合を増やすことで、現場スタッフも違和感なく移行できる。機器トラブルに備えたバックアッププラン(従来印象への切替手順)を準備しておけば心理的安心感にもつながるだろう。総じて、Primescan導入自体で大きなリスクは少ないが、「使いこなせないリスク」はゼロではない。そのため、購入を決めたら腹を括って“毎日必ず何かしらスキャンする”くらいの気持ちで臨むことをお勧めする。幸い、操作自体は直感的で難しくなく、最初の壁さえ越えてしまえばスタッフからも「もうアナログには戻れない」と言われるほど日常に溶け込むはずだ。

Q. Primescan 2など新しいモデルが出ていますが、今あえて初代やConnectを買う意味はありますか?

A. 2024年に発表されたPrimescan 2は、世界初のクラウドネイティブ・ワイヤレススキャナーとして大きな進化を遂げたモデルだ。性能面でもソフトウェアの刷新によりさらなる効率化が図られている。しかし、現時点で日本で入手できるのは従来のPrimescan(有線タイプ)およびPrimescan Connectであり、新モデルの国内展開や価格・サービス体系が明確になるまでには時間を要する可能性がある。今すぐデジタル化して恩恵を受けたいのであれば、現行モデルを導入する意義は十分にあると言える。初代Primescanの実力は既に多数の臨床で証明されており、たとえ数年後に新型へ置き換えを検討するとしても、その間の数年間で得られる効果(効率化・患者満足の向上)は見逃せない。また、Primescan Connectは低コストで導入できる現行選択肢として魅力的だ。将来的に本格的な即日補綴システムへ発展させたい場合には直接CEREC Primescan ACを導入する手もあるが、まずはConnectで運用を試し、ゆくゆく買い替える計画も堅実である。新旧モデルの差としてPrimescan 2はDS Coreのサブスク必須など運用コスト面の変化もあるため、最新=常に最善とは限らない面もある。要は医院のニーズに合致しているかが重要だ。現在明確な課題があって早期にデジタル化で解決したいなら、現行機を導入するメリットは大きい。一方、「どうせ買うなら最新がいい」と時間に余裕があるならPrimescan 2の国内情報を待って比較検討するのも選択肢だ。いずれにせよ、デジタル化の潮流自体は待ってはくれないので、現行機種であっても導入による学習や院内ノウハウ蓄積は決して無駄にはならないはずだ。必要な時が導入の適齢期と考え、現行Primescanでも十分高性能であることを踏まえて判断すると良いだろう。