
シャイニング3Dの口腔内スキャナー「Aoralscan 3」とは?価格や性能を解説
印象材を外した瞬間にマージンが欠けていた、義歯の咬合面が若干ズレて再印象になった、そんな経験はないだろうか。チェアサイドでのやり直しは患者満足と回転率の両方に響く。光学印象に切り替えると決めても、各社の仕様と価格の情報が断片的で、投資判断に迷う場面が多いはずである。
本稿はシャイニング3Dの口腔内スキャナー「Aoralscan 3」と無線版「Aoralscan 3 ワイヤレス」を取り上げ、公開一次情報に基づいて臨床性能と導入コストを整理する。撮り方のコツや運用面の注意も交えて、導入後の失敗を最小化する視点を提示する。公式仕様と国内の薬事情報、ディーラー公開価格を根拠に記載する。
製品の概要
正式名称はAoralscan 3で、有線版とAoralscan 3 ワイヤレスの二系統がある。日本では管理医療機器に区分され、一般的名称はデジタル印象採得装置である。認証番号は30400BZI00006000で、添付文書には標準タイプとワイヤレスタイプが明記されている。
国内販売は複数ディーラーが取り扱い、シャイニング3Dの公式サイトには日本語の製品ページとワイヤレス専用ページが公開されている。無線モデルはWi‑Fi 6を内蔵し、バッテリー駆動に対応する。
主要スペックと臨床的意味
視野とスキャン深度は印象の取りきりに直結する
スキャン領域は標準チップで16×12×22 mm、ミニチップで12×9×22 mmである。被写界深度は先端出口面から約−2〜20 mmのレンジが示され、深いマージンやインプラントのスキャンボディ周囲で「取り切れる」余裕が得やすい。被写界深度が浅い機種では歯肉圧排の質にスキャンの成否が左右されやすいが、本機では術者側の許容範囲が広がる。
スキャン速度と操作系はチェアタイム短縮に寄与する
公式ページでは全顎スキャンのおおよその所要時間を短時間で示しており、高速スキャンアルゴリズムとAIによる不要データ除去、モーションセンシングでPCに触れずに操作できる点が特徴である。操作手の移動が減るため、アシスタント不在の時間帯でもテンポを落としにくい。
無線化は動線と説明体験を変える
Aoralscan 3 ワイヤレスはWi‑Fi 6通信を採用し、同室約5 mの有効距離で連続2時間のスキャンが可能とされる。付属バッテリーが3本のため、長時間の連続使用や複数チェアの持ち回りにも対応しやすい。無線化によって患者への説明姿勢を崩さずに画面操作ができ、カウンセリングの流れが途切れにくい。
チップ滅菌と曇り止めは衛生管理と安定運用を支える
スキャナチップは最大100回のオートクレーブ滅菌が可能で、曇り止めのためのヒーターはウォームアップ手順が添付文書に詳記されている。加熱が不十分な場合は通知が出る設計で、冬季の曇りに伴うスキャン中断を減らしやすい。
データ形式と色調再現は技工連携の自由度を左右する
出力はSTL、OBJ、PLYのオープンフォーマットに対応し、exocadなど一般的なCAD環境との連携が容易である。色調はフルカラー表示でマージン読影の補助となり、辺縁形態の共有にも有利に働く。
互換性や運用方法
データ連携とクラウド運用
オープンフォーマットであるため、技工所側のCADシステムに縛られない。国内ディーラー提供の無償クラウドを介してデータを送信する運用例もあり、遠隔技工所とのやり取りを標準化しやすい。テレデンティストリーの文脈でも、症例データの共有がスムーズになる。
PC要件と院内ネットワーク
推奨PC構成はWindowsでCore i7クラスと独立GPUを前提に掲示されている。ワイヤレス運用では院内の無線環境の品質が体験を左右するため、アクセスポイントの帯域や配置も点検したい。
校正、感染対策、清掃手順
初回使用時および最低2週間に1回のキャリブレーション、チップの洗浄からオートクレーブ、消毒薬の種類と浸漬時間まで添付文書に記載がある。法令とメーカー手順に沿ったSOPを作り、誰が担当しても同じ品質で回る体制を整えることが導入直後の転倒を防ぐ。
経営インパクト
本体価格、更新費、保守の公開例
有線版の本体価格はディーラー公開例で215万円の掲示がある。ソフトウェアライセンスは不要、ソフト更新は1回3万5千円、保守管理は5年で20万円という例が示されている。ワイヤレス版は国内ディーラー情報で本体標準価格が税別245万円の掲示がある。実勢は販社やキャンペーンで変動するため、見積比較を推奨する。
一稼働時コストと減価償却の考え方
減価償却は税務区分と耐用年数の設定で年額が変わるため、会計士と個別相談が前提となる。本稿では仮に上記の公開価格と院内の月間スキャン件数、年間稼働月数を自院の数値で当てはめる式のみを示す。 一稼働当たり機器コストは〔本体購入費+保守費+年間更新費〕を〔耐用年数の総稼働件数〕で除して算出する。チェアタイム短縮の効果は〔一症例の短縮分〕に〔人件費単価〕と〔月間症例数〕を掛けて推定し、年間で機器コストと相殺して判断する。数値は各院の賃金体系と稼働状況に依存するため、ここでは式のみ提示し、恣意的な仮定値の記載は避ける。公開価格の根拠は前段のディーラー情報に準拠する。
自費率と収益化のシナリオ
クラウンやラミネート、インプラント上部構造の説明時にカラーの三次元データを活用し、追加撮影のやり直し率を下げられれば、材料原価だけでなく再予約に伴う機会損失を抑制できる。オルソシミュレーションや口腔健康レポートなど可視化機能をカウンセリングに織り込めば、自費メニュー提案のコンバージョン向上を狙える。これらはソフトウェア機能として公開されている。
使いこなしのポイント
撮り方の基本動線
ウォームアップ通知が消えたことを画面で確認し、咬合面は90度、頬舌側は45度を目安に、先端は歯面から15 mm以内を保つ。大臼歯遠心から連続的に咬合面、頬側、舌側の順で一筆書きに近い動線をつくると破綻が少ない。スキャンが途切れたら同一点に戻り再認識させるのが早道である。
インプラントやサブジンジバルの配慮
被写界深度の余裕を活かすには、圧排と乾燥の質が依然として鍵になる。スキャンボディ装着時は頬側と舌側から角度を変え、マージン近傍の反射を減らすため唾液コントロールを徹底する。メタルスキャン機能で金属面の再現性を高める手当てが用意されている。
衛生と故障予防
チップは100回のオートクレーブを上限とし、所定回数に達したら計画的に交換する。ミラー面の取り扱いと消毒手順は添付文書に示される方法に従い、界面活性剤の使用禁止などの禁止事項もスタッフ教育に含める。
適応と適さないケース
適応は補綴、矯正、インプラントサージカルガイド用模型の設計製作まで幅広い。大量出血や唾液コントロールが困難な状況、歯肉縁下の深いマージンで圧排が不十分な場合は、印象材との併用や段階的スキャンを検討する。禁忌や注意事項は添付文書に従い、キャリブレーション頻度、光源直視の禁止、落下時の再使用禁止など安全面の遵守が必要である。
読者タイプ別導入判断の指針
効率最優先の保険中心運用では、有線のAoralscan 3がコストを抑えつつ日常臨床のやり直し削減に貢献しやすい。公開価格のレンジが明確で、更新費も単発で読みやすい。
高付加価値の自費強化を狙う院では、ワイヤレスを軸にカウンセリング導線を最適化し、オルソシミュレーションや健康レポートを椅子上で見せる体験設計が有効である。チェア間の持ち回りが多いレイアウトにも適合しやすい。
口腔外科やインプラント中心では、被写界深度やメタルスキャン、ミニチップの活用でトラブルショーティングの幅を持たせたい。深めの部位でも一筆書き動線と乾燥の徹底で再現性を担保する。
よくある質問(FAQ)
Q1 Aoralscan 3の薬事区分と認証番号は何か。
回答 管理医療機器で、認証番号は30400BZI00006000である。標準タイプとワイヤレスタイプが添付文書に明記されている。
Q2 出力データはどの形式に対応しているか。
回答 STL、OBJ、PLYのオープン形式に対応し、一般的なCAD環境と連携しやすい。
Q3 有線と無線で性能差はあるか。
回答 スキャン領域と被写界深度は同等の仕様が公開されている。ワイヤレスはWi‑Fi 6通信、同室約5 mの有効距離、連続約2時間の駆動など運用面の差が主である。
Q4 価格と保守の目安はどの程度か。
回答 有線はディーター公開例で本体215万円、更新1回3万5千円、保守5年20万円の掲示がある。ワイヤレスは本体標準価格の掲示例で税別245万円が見られる。実勢は販社条件で変動するため、必ず見積で確認する。
Q5 撮り方のコツはあるか。
回答 ウォームアップ完了表示を確認し、咬合面は90度、頬舌側は45度、先端は歯面から15 mm以内を目安に連続走査する。チップの滅菌上限や清掃手順は添付文書の方法に従う。