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Deltanの口腔内スキャナー「神楽」の実力とは?価格や性能を解説

Deltanの口腔内スキャナー「神楽」の実力とは?価格や性能を解説

最終更新日

シリコーン印象では確実だったマージンが、スキャンだとわずかに甘くなる。金属補綴の反射で迷子になり、咬合付与でデータがずれてやり直しになる。こうした経験はないだろうか。チェアサイドでのやり直しは患者体験を損ない、人件費と機会損失として経営にも響くので、口腔内スキャナーの導入可否は臨床と経営の双方で検討する必要がある。

本稿ではDeltanの口腔内スキャナー「神樂 KAGURA」を取り上げ、公開一次情報を基に仕様と適応、運用と保守、価格と保守プランを整理し、臨床面の意味と医院経営への波及を考察する。結論先取りは避け、数値は出典に基づき、必要な箇所は仮定を明示して式で示すこととする。

製品の概要

製品名は神樂 口腔内スキャナである。一般的名称はデジタル印象採得装置に該当し、管理医療機器で特定保守管理医療機器として取り扱われる。医療機器の認証番号は30500BZI00002000である。製造販売業者はFUSS合同会社、製造業者は資陽頻泰医療設備有限公司である。

販売はDeltan株式会社が担い、ラインアップは神樂 KAGURAとKAGURA Smartの二機種構成である。価格は公表値で神樂 KAGURAが税別138万円、KAGURA Smartが税別168万円である。年間ライセンス料は不要と案内されている。

主要スペックと臨床上の意味

サイズと重量の意味

神樂 KAGURAは本体サイズが長さ216ミリ、幅40ミリ、高さ36ミリ、重量246グラムである。KAGURA Smartは長さ221ミリ、幅27ミリ、高さ25ミリ、重量138グラムである。細身軽量のハンドピースは小口腔や開口制限症例での舌側アプローチや遠心側の走査姿勢をとりやすくし、術者疲労を抑える。特にSmartの138グラムは長時間の全顎走査でも手指の保持安定に寄与する。

精度表現とデータの扱い

メーカー公表仕様では、全データを圧縮しない出力ポリシーにより0.02ミリまでの表現が可能で、反復精度は単独歯で10マイクロメートルとされる。出力形式はSTLとPLYであり、マージン形状の鋭敏な再現や色付きメッシュを伴うPLY活用が補綴設計の情報量を高める。色情報を伴うPLYは咬合接触や辺縁歯肉の状態説明でも視認性が高い。

光学方式と被写体深度の管理

本体は構造化光で三次元座標を取得する。被写体深度は15、18、21ミリのモードが用意され、照明強度と併せて走査中に調整できる。金属補綴や湿潤面での迷子からの復帰性能は、深度とライトの最適化が鍵となる。光源は450ナノメートルと520ナノメートルの波長が用いられる。

ソフトウェア機能の臨床解釈

マージンラインの描画、インプラントのスキャンボディ撮影モード、アンダーカット分析、咬合分析、基底面付加による模型作成などを備える。exocadをベースにした開発思想が示され、ラボとの情報伝達を意識した設計である。矯正用途では外部サービスのアカウント作成により歯列シミュレーション動画の生成も可能とされる。これらはチェアサイド説明と技工指示の一貫性を高め、再製作リスクの低減につながる。

互換性と運用方法

データ連携とクラウド運用 出力はSTLとPLYで一般的なCADソフトと互換性が高い。クラウドのデータ管理ツールであるDELTAN ORDERが案内され、院内外のIOSデータを一元管理する運用も想定されている。exocadベースのワークフローに馴染むラボであれば導入初期から摩擦が小さい。

PC要件と安定稼働

推奨PCはWeb案内でCPUがCore i7、GPUはRTX4060以上、メモリ32GB以上である。一方、添付文書の推奨ではWindows 10のCore i7、GTX1060以上、メモリ16GB以上とされ、規制文書側は下限スペックに近い。実運用では症例データが増えるほどGPUとメモリの余裕が有効であるため、Web推奨に準拠する方が安全である。

校正と感染対策

添付文書では設置後や輸送後に三次元キャリブレーションを行い、以後は少なくとも毎月のキャリブレーション、カラーキャリブレーションは2週間毎とされる。プローブヘッドはオートクレーブ20回を上限とし、規定回数後は交換する。これらは画質と寸法精度を維持し交差感染を防ぐ最低条件である。

価格と保守

価格は神樂 KAGURAが税別138万円、KAGURA Smartが税別168万円である。保守は最大5年間30万円の本体保守保証が案内され、過去のプレスでは1年10万円、2年20万円、3年30万円の案内もある。契約条件は購入時限定であり、最新条件は見積時に確認すべきである。

経営インパクトの考え方

本体の投資額と保守費を耐用年数と月次稼働で按分し、症例当たりの機器コストを算出する。年間ライセンス費が不要である点は固定費の読みやすさに寄与する。症例当たり機器コストは次式で表せる。症例当たり機器コスト=〔本体価格+保守総額〕÷〔耐用年数(月)×月間スキャン症例数〕である。

従来印象からの置換で材料費と発送費の削減が見込める。チェアサイド再調整時間の短縮はスタッフ人件費の圧縮に直結するが、時間単価の設定は各院の給与体系に依存するため、医院の実数で代入し算出するのが安全である。利益貢献は症例当たり機器コストと材料・発送・時間コストの削減額の差し引きで評価すると現実的である。

新規売上の観点では、アライナーやデジタルデンチャー、サージカルガイドなどデジタルワークフローの受注比率が上がるほど回収は早くなる。神樂はマージン線描画やスキャンボディ撮影モードを備え、ラボ側の再設計や再製作を減らせる構成である。結果として患者再来院回数の削減と満足度の向上が期待できるが、これらは運用と技工連携の熟度に依存する。

使いこなしのポイント

導入初期は毎日の始業時にキャリブレーションを習慣化し、週次でカラー校正を行う。これだけで像質のばらつきが減り、マージンの読みやすさが安定する。プローブヘッドは滅菌20回を目安に交換し、傷や曇りを放置しないことが精度維持の基本である。

走査は咬合面の連続トラッキングを優先し、頬側と舌側はスキャンの破綻を招きやすい部位から先に取得すると迷子復帰が速い。金属やレジンの反射で認識が落ちる場合は、被写体深度とライトをその場で微調整する。ロックエリア機能を使い追加走査を局所化するとデータ整合が乱れにくい。

チェアタイム短縮の鍵は、マージンラインの院内確定である。術者がその場でマージンを引き、ラボと同一視点で確認するフローにすると再製作率が下がる。基底面付加で院内3Dプリント模型へ展開すれば、補綴説明や暫間修復の精度担保にも使える。

適応と適さないケース

添付文書上の使用目的では、クラウン、インレー、アンレー、べニア、5ユニットまでのブリッジ、インプラントのサージカルガイド用歯列模型が対象である。これを超える長大なブリッジや無歯顎の全顎補綴は適応外であり、用途を逸脱した使用は避けるべきである。

注意事項として、強い光を眼に向けないこと、プローブヘッドの落下後は使用しないこと、毎月のキャリブレーションと定期保守を怠らないことが記載されている。アライナーに関しては日本矯正歯科学会の指針参照が求められている点も確認しておきたい。

導入判断の指針

効率最優先の保険中心の医院では、材料費と発送費の削減、咬合調整の短縮が主たる効果であり、ライセンス料が不要な価格体系は固定費管理に適する。PCはWeb推奨の構成で余裕を持たせ、規定の校正とヘッド交換を徹底するとよい。

高付加価値の自費強化を狙う医院では、マージン線描画とPLYの活用で美学的な相談と合意形成を効率化し、模型作成やシミュレーション表示を患者説明に組み込む。外部サービスの活用要件も導入前に確認しておくと移行が滑らかである。

口腔外科やインプラント中心の医院では、スキャンボディ撮影モードと被写体深度調整を使い分け、金属面の反射対応と粘膜の読みの両立を図る。ラボ側のexocad運用経験が導入効果を左右するため、事前にデータ受け側のフローも整備したい。

よくある質問

Q1 価格はいくらか

A 神樂 KAGURAは税別138万円、KAGURA Smartは税別168万円である。年間ライセンス料は不要と案内されている。最新条件は見積時に確認する。

Q2 データ形式とラボとの互換はどうか

A 出力はSTLとPLYである。exocadベースの設計フローに適合しやすく、色情報を伴うPLYは指示や説明の解像度を上げる。

Q3 校正と滅菌の運用はどうするか

A 三次元キャリブレーションは設置後や輸送後に実施し、以後は毎月行う。カラー校正は2週間毎である。プローブヘッドのオートクレーブ滅菌は20回を上限とし、その後は交換する。

Q4 推奨PCはどの程度か

A 規制文書ではCore i7、GTX1060以上、メモリ16GB以上が目安である。Web案内ではRTX4060以上、メモリ32GB以上が推奨であり、運用の安定性を考えればWeb推奨に寄せるのが安全である。

Q5 適応と注意点は何か

A 対象はクラウン、インレー、アンレー、べニア、5ユニットまでのブリッジ、サージカルガイド用歯列模型である。強い光を眼に向けない、落下後のヘッドは使用しない、毎月の校正と定期保守を遵守するなどの注意が記載されている。