1D - 歯科医師/歯科技師/歯科衛生士のセミナー視聴サービスなら

モール

3Shapeの口腔内スキャナー「TRIOS(トリオス)」とは?価格・費用や性能、シリーズの違いは?

3Shapeの口腔内スキャナー「TRIOS(トリオス)」とは?価格・費用や性能、シリーズの違いは?

最終更新日

ある日の保険診療の合間、印象採得(型取り)に手間取ってチェアタイムが押してしまい、患者も不快感を訴える。そのような経験を持つ歯科医師は少なくないであろう。口腔内スキャナーによるデジタル印象ならば、こうした煩わしさを大幅に軽減できると知りつつ、「導入費用に見合う効果があるのか?」「自院の診療スタイルで使いこなせるのか?」と不安に感じることも自然である。特に3Shape社の「TRIOS(トリオス)」シリーズは高性能ゆえ価格も高く、さらに世代やモデル(TRIOS 3・4・5・Core・6など)の違いも多岐にわたり、どれが自院に最適か悩むところである。本稿では、TRIOSシリーズ各モデルの特徴と性能、そして医院経営への影響までを掘り下げて解説する。臨床現場で直面する悩みに寄り添いながら、デジタル投資の判断材料と活用のヒントを提供したい。

製品の概要

3Shape TRIOSはデンマーク3Shape社が開発する口腔内スキャナー(デジタル印象採得装置)である。正式な薬事区分は「デジタル印象採得装置」として管理医療機器(特定保守管理医療機器)に分類され、日本でも3Shape Japan合同会社を選任製造販売業者として承認を取得している。TRIOSは2011年頃に初代モデルが登場して以来、約10年強で第5世代まで進化し、さらに2025年には第6世代も発表された。現行ラインナップには、実績ある従来型の TRIOS 3(有線モデル)、わずかなハード改善を経た TRIOS 4(無線対応モデル、現在一部市場のみ)、大幅刷新された最新世代の TRIOS 5(無線)、低価格エントリーモデルの TRIOS Core(有線)、そして2025年発表の TRIOS 6(無線)が含まれる。いずれも口腔内の歯列や軟組織をカラー撮影し、高精度の3次元データ(STLやPLY形式)を即座に生成する機器であり、補綴治療(クラウン・ブリッジ・インレー)、インプラントの術前シミュレーションやガイド製作、マウスピース矯正や補綴物設計用のデジタル模型作製などに幅広く応用できる。なお、日本国内ではTRIOSによるInvisalign(インビザライン)症例の公式スキャン送信には対応しておらず(米国などでも非対応)、マウスピース矯正には他社アライナーや自社矯正システムとの連携が前提となる点に注意が必要である。

主要スペック

TRIOSシリーズ各モデルのスペックは年々向上しているが、基本的な性能指標としてスキャン精度・撮影速度・操作性が挙げられる。まず精度に関しては、3Shape独自の検証および各種文献により、口腔内スキャナーとしてクラウン適合に十分な高精度(数十ミクロン精度)を備えていることが証明されている。実際、TRIOSは世界中の歯科医院で信頼されており、米国では歯科医の約53%が何らかの口腔内スキャナーを使用しているという普及率が報告されている。撮影スピードは世代によって大きく異なり、例えば1秒あたりの撮影枚数はTRIOS 3で約1,875枚、TRIOS 5では約2,400枚、エントリーモデルのTRIOS Coreでも1,400枚以上に達する。高速撮影と高度な画像合成アルゴリズムにより、熟練すればフルアーチ(全顎)でも30秒以内でスキャン完了が可能だとされる。操作性の面では、第5世代TRIOS 5で従来比30%軽量化・20%小型化(バッテリー込み重量約299g、TRIOS 4は約375g)を実現し、ユニットチェア上でも取り回しやすくなった。ハンドピース先端には加熱防曇機能が内蔵され、スキャン中に先端ミラーが曇らない構造である。さらにTRIOS 5以降はスキャナー本体が発熱しにくく改良されており、連続使用後に冷却時間を置く必要もなくなった。カラー撮影機能も全モデルが搭載しており、RealColor技術による鮮明なカラー印象とシェード(歯の色調)測定が可能である※。上位モデル(TRIOS 4・5・6)ではう蝕検出支援機能も追加されている。例えばTRIOS 4以降のハードウェアは蛍光画像による齲蝕検知に対応し、TRIOS 6では近赤外線(NIRI)も組み合わせたハイパースペクトルイメージング技術を導入、可視光・蛍光・近赤外の3種類の光で同時にスキャンして歯の表面だけでなく近接面の内部変化も捉えられる。これらにAI診断ソフトウェア(TRIOS Dx Plus)を組み合わせることで、う蝕の有無や進行度、経時的な変化の検出、歯の摩耗や歯列の動的解析など、単なる印象採得を超えた包括的な口腔内診断プラットフォームへと進化しつつある。このようにTRIOSシリーズ各機種は精度・速度・機能の点で少しずつ差異はあるものの、総じて臨床必要十分な基本性能と、先進的な付加機能を備えている点で共通している。

※TRIOS Coreのみ、一部の色調測定・アプリ機能が省略されている。

互換性と運用方法

データ互換性の高さはTRIOSシリーズの大きな強みである。スキャンで取得した3次元データはオープン形式でエクスポート可能で、STLやPLY形式の模型データとして出力すれば、歯科技工所のCADソフト(例:3Shape Dental System、exocad、各社クラウドポータルなど)で幅広く利用できる。実際、3Shapeのクラウドプラットフォーム「Unite」を通じて世界で25,000以上の歯科技工所や100以上のパートナー企業と直接連携できるエコシステムが構築されている。これはデータ送信の手間を大幅に簡略化し、スキャン後ワンクリックで指定ラボへ処理依頼を送ることも可能である。また、Unite経由で症例データをクラウド保存すれば、院内の他PCや他のデジタル機器とスキャン情報を共有・同期することも容易である。院内の患者管理システム(PMS)との連動にも対応しており、TRIOSの患者データと診療録を統合管理する仕組みも整備されている。

ハードウェア運用に関しては、TRIOS 3やTRIOS CoreはUSB接続の有線モデルで、付属の専用ポッド(USBハブ兼電源スタンド)経由でノートPCやタワーPCに繋いで使用する。TRIOS Coreでは最新設計のPodが採用されており、前世代より10%小型・30%軽量化され携行性も向上した。TRIOS 5以降はワイヤレスモデルであり、バッテリー駆動によりケーブルの煩わしさなく診療チェア間を自由に持ち運んでスキャンできる。TRIOS 5には着脱式バッテリーが3本付属し、1本で最大66分間(最大33人分)の連続スキャンが可能とされる。充電は1時間で約80%まで達し、2時間以内に満充電となる高速仕様である。また未使用時に自動スリープモードへ移行することで最大7日間バッテリーを保つ省電力設計となっている。バッテリー運用の不安を解消しつつ、有線モデルと同等の安定稼働を実現している点は臨床現場でも高く評価されている。

キャリブレーション(校正)については、TRIOS 5および6では内部構造の密閉化・光学系の改良により日常的なキャリブレーション不要を謳っている。従来機(TRIOS 3やCore)は専用のキャリブレーションツールによる光学系およびカラー精度の定期調整が必要で、目安として500症例ごとまたは8週間ごと(早い方のタイミング)に実施することが推奨されている。これは煩雑なようにも思えるが、適切なキャリブレーションは精度維持に直結するため、スタッフに手順を周知しルーチンに組み込めば大きな負担にはならない。

チップ(先端部)の管理も押さえておきたいポイントである。TRIOSのスキャナーチップは患者ごとに滅菌可能で、TRIOS 3およびCoreのチップは最大150回までオートクレーブ滅菌使用可能とされる。複数個のチップを用意しておき、使用済みチップを滅菌している間に予備のチップで次の患者をスキャンすることで、診療の流れを止めずに済む。なおTRIOS 5/6では密閉型チップとなり構造が刷新されているが、滅菌または使い捨て(シングルユース)の両運用に対応しており、感染対策と作業効率のバランスがとりやすくなっている。TRIOS 6では出荷時に使い捨てチップも同梱される予定で、より厳格な院内感染対策ニーズにも応えようとしている。

ソフトウェア面では、TRIOSスキャナーにはスキャン用基本ソフト「Dental Desktop(3Shape Unite)」が付属する。洗練されたシンプルなUIで、スキャンの開始から咬合調整、データ確認、マージンラインのマーキングなど必要な機能がひと通り揃っている。さらにUnite上で利用できる各種アプリ(Patient Monitoring, Smile Design, Ortho Simulator等)が用意されており、患者説明や治療計画に役立てることができる。ただし、エントリーモデルのTRIOS Coreはコスト最優先の設計のため、これら高度なアプリ機能(患者向けシミュレーション等)やワイヤレス、う蝕検出機能、Invisalign送信連携、シェード自動測定などが省かれている点に注意が必要である。TRIOS Coreはあくまで「スキャンしてデータをラボ送信する」ことに特化しているが、それでも3Shapeソフトウェアの基幹部分は共通であり、10年以上改良を重ねた信頼性の高いスキャンソフトやクラウドサービスは他モデル同様に利用できる。このようにTRIOSはオープンかつ包括的なデジタルワークフローを提供しており、院内完結からラボ委託まで柔軟に運用できる。

経営インパクト

高性能なTRIOSシリーズだが、やはり気になるのは導入コストとその投資対効果(ROI)であろう。まず本体価格について、TRIOSシリーズは数ある口腔内スキャナーの中でも最高額クラスに位置すると言われる。例えば第4世代モデルのTRIOS 4(ワイヤレス版)は発売当時、日本国内で定価820万円(税別)と案内されていた。最新のTRIOS 5は海外市場で約$26,000(約380万円, 2022年時点)という価格情報もあるが、日本国内では販売代理店経由の価格設定となるため実際は付帯品込みで500万~600万円台になるケースが多い。実際、国内代理店の一つである京セラ(株)はTRIOS 5本体を560万円(税抜)で提供しており、これにスキャナー用PCや初期セットアップ費用等を含めたパッケージ価格がおよそ630万円前後で提示されている。こうした高額機器の購入はクリニックにとって一種の設備投資であり、減価償却やリースを含めた長期的な支出計画が必要になる。

一方、エントリーモデルのTRIOS Coreは価格が抑えられており、「250万円を少し下回るレベル」との調査報告がある。具体的には他社の廉価版スキャナー(Medit i600やAoralscan 2等)の価格帯に近く、3Shape製品としては破格の設定である。この価格帯であれば、中小規模の保険診療主体の医院でも初期投資額のハードルがかなり下がるため、デジタル印象導入への心理的・財政的な障壁を下げる効果がある。

ランニングコストと保守費についても考慮しなければならない。3Shapeでは「TRIOS Care(トリオスケア)」という包括的なアフターサービスプランを提供しており、新規購入時には通常このプランの初年度加入が無償付帯する。TRIOS Careに加入すると、メーカー保証の延長、故障時の迅速な交換機サービス、ソフトウェアのアップデート、定期トレーニング支援などが受けられ、まさに「安心を買う」内容となっている。2年目以降は有償契約(年額ないし月額料金)となるが、サポート無しのプラン(TRIOS Only)に切り替えて都度サポート料を払う選択肢もある。クリニックのデジタル活用方針に応じて最適な保守プランを選べる柔軟性があるものの、維持費として年間数十万円規模の予算計上は見込んでおく必要がある。なおスキャナーチップなど消耗品の補充費用も微々たるものではないが、仮にチップ1個あたり数万円としても数百回使用できるため、1症例あたりに慣らせば数百円程度と試算できる。

ROI評価の観点では、「デジタル化によって何がどれだけ改善し、それが収益にどう影響するか」を多角的に分析する必要がある。まず時間コストの削減効果が顕著である。海外の研究によれば、単冠修復のワークフローでデジタル法に切り替えた場合、術者の実作業時間が約38.4%削減され、初診から最終補綴装着までの総治療期間も60%以上短縮されたと報告されている。また技工物製作の納期も劇的に短縮(75~85%短縮)し、患者の快適性に至っては89%の患者がデジタル印象を支持するというデータもある。チェアタイムの短縮はそのまま他の患者診療や追加処置に充てることができ、人件費あたりの生産性向上や患者回転率アップに貢献する。また治療期間の短縮は再来院の手間を減らし、患者満足度の向上やリコール率アップによる長期的な収益向上にもつながる。例えば、従来法では補綴物装着までに2~3回の通院が必要だったものが、デジタルワークフローなら1~2回で完了できるケースもある。患者にとって時間的・肉体的負担が減れば、そのクリニックに対するロイヤリティは高まり、口コミや紹介で新患増加も期待できるだろう。

再製率(やり直し)の低減も見逃せないポイントである。シリコン印象では歪みや気泡混入による適合不良が時折発生し、補綴物の再製作や調整に追われて利益を圧迫することがある。デジタル印象ではスキャンデータ上でマージン不鮮明な箇所を即座に確認し、その場で補足スキャンできるため、後戻りの発生率が下がる傾向がある。結果として技工所からの「もう一度型取りをお願いします」といった連絡が減り、無償再製作のコストや患者の信頼低下リスクを抑制できる。仮に再製率を数%でも削減できれば、材料代・技工代の節約効果は年間で数十万円規模になり得る。

新規収益機会の創出もROIの重要な側面である。例えば、TRIOSを導入することで即日修復(ワンデー治療)をメニューに加えることができる。口腔内スキャンから院内CAD設計・ミリング加工までを一貫して行えば、その日のうちにセラミック修復物を提供することも可能となり、これは自由診療で大きな付加価値となる。高度なデジタル設備を備えること自体がクリニックのブランディングにも寄与し、「最新のデジタル歯科医療を提供している医院」として差別化できる。特に審美歯科やインプラント治療など、高額自費分野においてはデジタル活用が患者への訴求ポイントとなりうる。患者が治療前後のシミュレーション画像やスキャン3Dデータを見て理解を深めることで、自費治療の受容性が高まったり、追加治療(例えば矯正相談や咬合再構成への誘導)の機会も広がる。

総合すると、TRIOS導入の経済的効果は(1)コスト削減(時間・材料・再治療減)、(2)売上増加(高付加価値メニュー展開・患者満足度向上による増患)、(3)長期的資産形成(デジタルデータの蓄積活用)に分類できる。もちろん導入費用自体は高額だが、これらの効果を数年スパンで積み上げていけば投資回収は十分に現実的である。重要なのは、購入後に宝の持ち腐れとしないよう戦略的に活用することであり、その具体策は次章以降で述べる。

使いこなしのポイント

高価なTRIOSを導入したからといって、すぐに診療効率が倍増し利益が上がるわけではない。現場で使いこなすには計画的なトレーニングとワークフローの最適化が不可欠である。まず導入初期は、院長自身とスタッフへの教育に時間を割くべきである。3Shape社や販売代理店から提供されるオンボーディングトレーニングや講習会を積極的に利用し、基本的なスキャンテクニックから機器メンテナンス方法まで習熟する。幸いなことにTRIOSの操作性は高く、直感的なUIとシンプルなプロセス設計のおかげで短期間での習得が可能である。筆者の経験では、アナログ経験のみだった歯科衛生士でも模型で数日練習した後には患者スキャンをこなせるようになった。初めは誰しもスキャンの途切れ(データの取りこぼし)や細部の取り残しに戸惑うが、「口腔内を一筆書きするように滑らかにスキャナーを動かす」「高低差の大きい部位では角度を変えて重ね撮りする」といったコツを掴めば精度良く撮れるようになる。TRIOS 5の場合、内蔵のLEDリングの色と振動フィードバックが適切なスキャン距離や動きをガイドしてくれるため、初心者でも効率的にコツを体得できる。導入直後の数週間は保険の小さな補綴ケースからデジタル印象を試し、院内でワークフローを調整しながら徐々に適用範囲を広げていくと安全である。

院内体制の整備も重要だ。スキャン業務は必ずしも歯科医師が行う必要はなく、むしろアシスタントや衛生士に任せることでドクターは他の処置に専念できる。TRIOSをカウンセリングや予防処置に活用している医院では、衛生士が定期検診時に全顎スキャンを行い、患者に口腔内の経年変化を見せながらセルフケア指導をする、という運用例もある。これは患者の関心を高めると同時に、衛生士のスキルアップとモチベーション向上にもつながっている。誰がどのタイミングでスキャンを担当するか、院内プロトコルを明文化しておくと運用がスムーズになる。

機器のメンテナンス管理も習慣づけよう。キャリブレーションやチップ滅菌のスケジュールはユニット清掃や滅菌パック管理のルーティンに組み込み、漏れなく実施する。特に無線モデルではバッテリー残量の管理が肝要で、予備バッテリーの充電を切らさないよう昼休みに交換・充電する運用を徹底したい。ソフトウェアも定期的にアップデートし、新機能やバグ修正を適用して常に最適な状態で使うことが望ましい。3Shapeから年数回リリースされるアップデート情報には目を通し、新しい機能(例えばAI診断の強化や操作性向上のツール)が追加された際には積極的に活用してみると良い。アップデートやトラブル対応の問い合わせ先も事前に確認し、何かあれば迅速にサポートを受けられるよう準備しておくと安心である。

最後に、患者への伝え方にも工夫したい。デジタルスキャナーは患者にとってまだ物珍しい存在であり、「これはどんなことをする機械なのか?」という関心と不安が混在している。説明の際には「従来の粘土のような型取り材を使わず、カメラでお口の中をスキャンする方法です」と伝え、嘔吐反射が起きにくく負担が軽いことや、精密な治療に役立つことをわかりやすく説明する。実際のスキャン中も随時モニターに映るカラー立体像を見せながら、「ここに虫歯の跡がありますね」「この歯と歯の間もきちんと撮影できています」と声かけすることで、患者の安心感とデジタル診療への納得度が上がる。得られたデータを使ってその場で簡単な治療シミュレーションや色合わせを行い、患者と一緒にゴールイメージを共有することも有効だ。TRIOSシリーズには治療シミュレーションや笑顔設計ができるアプリ(Patient MonitoringやSmile Design等)が用意されているので、これらを活用すれば患者とのコミュニケーションツールとしても威力を発揮するだろう。もっとも、TRIOS Coreのようにアプリ非対応のモデルもあるため、自院の活用方針に合わせて必要な機能を持つモデルを選定することが大事である。

適応と適さないケース

TRIOSによるデジタル印象は多くの臨床状況で有用だが、得意なケースと不得意なケースを理解しておく必要がある。得意とするのは補綴物やインプラントの印象採得全般である。単冠や小~中規模ブリッジの支台歯印象は高精度に取得でき、咬合関係もその場で確認修正できるため、クラウン・オンレー・ラミネートべニア等の補綴治療で大いに威力を発揮する。インプラント治療でも、スキャンボディを用いたポスト印象から補綴設計までシームレスに進められ、アナログ印象と比較して工程短縮や精度向上が見込める。部分的な欠損からフルマウスリコンストラクションまで、症例の大小を問わず応用可能であり、TRIOS自体は無歯顎のスキャン(総義歯症例の印象採得)にも対応している。実際には無歯顎の場合、機種や術者の熟練度によっては難易度が上がるものの、TRIOS Coreの記事によれば無歯顎顎堤も「問題なく処理できる」とされている。特に吸着型義歯の機能印象など粘膜の圧迫具合が治療結果に影響するケースでは、現時点ではシリコン印象材での採得が主流だが、今後は歯科医師が患者口腔内で圧迫した状態をスキャンするワークフローや、粘膜に適切な圧力をかけるスキャン用デバイスの進化が期待される。

一方、適さないケース・注意が必要なケースとしては、まず明瞭な視野の確保が困難な場合が挙げられる。深い歯肉縁下に達する支台歯(サブジンジバルマージン)では、従来法でも歯肉圧排や電気メス処置が必須だが、デジタルでも同様であり無対策では正確なマージンを再現できない。粘血が著しい抜歯直後の部位や歯肉縁上に大量の唾液が溜まる症例でも、スキャン像が乱れやすいため、従来以上にクリアでドライな視野確保を心がける必要がある。また、光学印象は光沢の強い金属面や透過性のある素材(ゴールド修復、グラスファイバー支台など)をそのままでは捉えにくいことがある。そのためスキャン専用の反射防止スプレー(一般的には二酸化チタン系の微粉末スプレー)を吹き付けてマットな状態にするなど一手間かけることもある。特に他院作製のメタルコアが入った根管治療歯のスキャンなどでは、この処置を怠るとスキャンデータ上で不自然な欠損が生じる恐れがある。だが実際には近年のTRIOSソフトウェアの改良で多少の光沢は自動補正されるようになっており、筆者自身は反射防止スプレーを用いる場面は減ってきている。

もう一つの観点は治療プロトコルとの適合性である。例えばInvisalignの公式プロバイダーとしてマウスピース矯正を多数扱うクリニックでは、残念ながらTRIOS 4や5のデータをAlign社に直接送信できない(国内外で未対応)ため、iTeroスキャナー等の使用を検討するか、TRIOSでスキャン後にアライナー用モデルを作製・スキャンし直す等の工夫が必要になる。また患者個々の状況によっては、アナログ印象の方が効率的な場合も依然存在する。極端な開口障害がある方、高度な嘔吐反射がどうしても出てしまう方、小児や認知症で長時間の口腔内スキャンに協力が得にくいケースなどでは、迅速に alginate や silicone で型取りを済ませた方が良い場合もある。デジタルとアナログを適材適所で使い分ける柔軟性が臨床家には求められる。

読者タイプ別導入判断の指針

歯科医院ごとに診療の方針や重視する価値は異なるため、TRIOSの各モデルが「誰に向いているか」「誰には不要か」をクリニックのタイプ別に考察してみたい。

➀ 保険診療が中心で効率最優先の医院

日々多数の患者を回し、保険の補綴や処置が大半を占める医院では、時間短縮による回転率アップが経営の鍵となる。このタイプにはTRIOS Coreがマッチしやすい。初期投資を最小限に抑えつつスキャンスピードと精度は十分確保できるため、従来のアルジネート印象から置き換えるだけでも一症例あたりのチェアタイムが短縮できる。例えばレジンインレーやクラウンの印象採得で毎回10分短縮できれば、1日数件の積み重ねで診療枠にゆとりが生まれる。Coreはカラー表示やクラウド送信など基本機能は備えるものの、高度なアプリや無線機能が省かれているため、凝った患者説明ツールまでは必要としない現場主義の院長には割り切って使いやすいモデルである。ただしInvisalign連携が無い点は矯正需要への対応に制約となるため、将来的にマウスピース矯正を扱いたい場合は上位モデルか他社機の検討も必要だろう。総じて保険中心型の医院では、「確実なスキャン性能を最も経済的に手に入れる」ことが重視され、TRIOS Coreや有線版TRIOS 3のような実用本位の選択肢が有力となる。

➁ 自費診療を強化したい高付加価値志向の医院

セラミック修復や審美治療、インプラント、矯正など自費比率が高い医院では、患者満足度の向上とプレミアムな体験の提供が重要となる。このタイプにはハイエンドのTRIOS 5あるいは将来展望を含めTRIOS 6が適している。TRIOS 5はその小型軽量ボディと無線運用で患者に負担を感じさせず、LEDライトとバイブレーションによるフィードバックで術者もストレスなくスキャンを進められる。治療中に患者へリアルタイムでカラー3Dデータを見せ、「精密な型採りでピッタリ合う歯を作ります」と説明すれば、医院への信頼感と付加価値の高さを印象づけることができる。さらにSmile Design(審美シミュレーション)や咬合モニタリングなどの患者エンゲージメント用アプリを駆使すれば、カウンセリング時に患者自身が将来の笑顔を具体的にイメージでき、自費治療受諾への心理的ハードルを下げられる。TRIOS 6は診断支援が強化されており、う蝕の可視化や経時比較が可能なため、予防歯科やメインテナンス型歯科にも訴求できる。例えば定期検診時に毎回スキャンしておき、1年後の来院時に「ここに新しく虫歯の兆候があります」「この歯は去年より摩耗が進んでいます」と具体的に示せれば、早期治療や咬合再構築の提案がスムーズになる。高付加価値路線の医院では、最新機能を駆使して患者体験を向上させ、それを収益に結びつける戦略が有効であり、その意味でTRIOSの上位モデルは強力な武器となるだろう。

➂ 外科処置・インプラント中心の医院

口腔外科手術やインプラント治療を多数行うクリニックでは、術前シミュレーションと精密なガイド製作が成功のカギを握る。このタイプには信頼性の高いTRIOS 3(有線)やTRIOS 5が推奨できる。TRIOSで得たデータは3Shape Implant Studioや他社シミュレーションソフト(Nobel ClinicianやSimPlant等)に取り込み、CTデータとマッチングさせてサージカルガイドを設計できる。特に全顎的なインプラント計画では、フルアーチの高精度スキャンが要求されるが、TRIOSシリーズはフルアーチにおいても精度が高いとの報告があり、多歯欠損症例でも安心感がある。外科主体の医院では、患者説明用のビジュアル機能よりも確実なデータ取得とワークフロー連携が重視されるため、堅実に実績を積んだTRIOS 3の有線モデルなども候補となる。無線にこだわらなければTRIOS 3は価格的にも少し導入しやすく、しかもInvisalign連携(海外ではTRIOS 3は認定済)が可能なため、インプラント主体でも矯正も併設する場合には選択肢となり得る。一方、TRIOS Coreはインプラント埋入位置のシミュレーション用ソフト(Implant Studioなど)を追加購入すれば基本的には活用できるものの、先述の通り色調取得やアプリ機能が限定されるため、オールラウンドに活用したい外科系クリニックでは上位機のほうが適合する場面が多いだろう。まとめると、外科・インプラント中心型では精度・安定性を最重視してモデルを選び、ワークフロー全体(CT・CADCAMとの連携)で効果を発揮させる視点が重要である。

よくある質問(FAQ)

TRIOSのスキャン精度は信頼できますか?長期的な予後に関する根拠はありますか?

はい、TRIOSの精度は各種研究や臨床使用実績から高い信頼性が確認されている。3Shape社の社内検証では、従来印象と同等レベルの精密さで補綴物製作が可能であることが示されている。また世界的に多数の歯科医院がTRIOSを採用しており、米国では歯科医師の約53%がなんらかの口腔内スキャナーを日常診療に取り入れている。これは裏を返せばデジタル印象の有用性が広く認められている証拠である。さらにTRIOSを用いた補綴治療の臨床研究では、辺縁適合や患者満足度の面で良好な結果が報告されている。長期予後に関しても、定期的なスキャンデータ蓄積により微小な変化を把握できるため、むしろ予防的な観点で患者の口腔内を長く守るのに役立つと考えられる。

TRIOSで取得したデータは他社のシステムやソフトウェアでも利用できますか?

はい、TRIOSのスキャンデータはオープンフォーマットでエクスポートでき、他社のCAD/CAMソフトやクラウドサービスと互換性が高い。標準的な出力形式はSTL形式であり、これは業界共通の3Dデータ形式であるため、国内外のほとんどの歯科技工所やソフトウェアで読み込んで設計に使用できる。実際、3Shape Uniteプラットフォーム経由では世界中の2万5千以上の技工所や100を超えるパートナー企業(インプラントメーカーやアライナーメーカー等)と直接データ連携が可能である。またPLY形式(カラー情報付きの点群データ)での保存にも対応しており、カラー情報を活かした設計やシミュレーションが必要な場合にも柔軟に対応できる。Align社のInvisalign用データ送信には現状直接対応していないものの(日本国内含む)、Invisalign以外のマウスピース矯正ブランドや各種デジタル矯正ソフトとは提携が進んでおり、取得データを活かせる場面は非常に幅広い。

導入後の保守やサポートはどのようになっていますか?

3Shape社はTRIOS Careという包括サポートプログラムを提供しており、新規購入時には通常このサービスの初年度利用権が付帯する。TRIOS Careに加入すると、ソフトウェアのアップデートや電話・オンラインでのテクニカルサポート、万一の故障時のスキャナー即時交換サービス、定期トレーニング支援などが受けられる。初年度以降も継続してTRIOS Careに加入することでこれらの手厚いサービスを受け続けることができ、保証期間も延長されるメリットがある。一方で、ランニングコストを抑えたい場合はTRIOS Onlyという基本プラン(定期料金不要)に切り替えることも可能で、その場合はソフトのアップデートは受けられるがサポートは都度有償となる。いずれにせよ、3Shape Japan合同会社および販売代理店のサポート体制は充実しており、日本語での問い合わせやオンサイトサポートにも対応している。導入時に保守契約内容をよく確認し、自院に合ったプランを選択すると良いだろう。

スタッフが機械に不慣れですが、使いこなせるようになるでしょうか?教育負担は大きいですか?

多くの場合、スタッフは短期間のトレーニングで十分に使いこなせるようになる。TRIOSの操作は直感的で、タッチパネル操作やボタン操作もシンプルに設計されている。筆者の関与した医院でも、デジタル未経験だった歯科衛生士が模型での練習と数症例の実践でスキャン業務を習得した例が複数ある。3Shape社はオンラインのチュートリアル動画やウェビナー、ユーザーコミュニティを提供しており、独学でも学びやすい環境が整っている。また販売代理店によっては導入時に現地での操作説明やスタッフ向けハンズオントレーニングを実施してくれる場合もある。教育負担については、最初の1~2週間程度は意識的に練習時間を取る必要があるが、それを過ぎれば日常診療の中で自然とスキルが向上していく。重要なのは院長がデジタル活用の方針を明確に示し、スタッフとともに段階的に挑戦していく姿勢である。失敗してもアナログ印象に切り替えればよいので、まずは気負わずにトライすることが上達への近道である。

導入にあたってのリスクや注意点はありますか?

主なリスクは「機器を十分活用できないまま高額投資が無駄になる」ことである。これを避けるためには、導入前に本稿で述べたような経営的シミュレーションを行い、自院の症例数・診療内容でどれだけ効果が見込めるかを検証しておくことが重要だ。また、導入後も定期的に利用状況をチェックし、宝の持ち腐れになっていないか確認することが肝要である。加えて、機器トラブル時のバックアッププランも用意しておきたい。例えばスキャナーが万一故障した場合に備え、従来の印象材も一定量ストックしておくことや、重要な補綴ケースの前にはTRIOS Careのホットライン連絡先を手元に置いておくなどの対策である。TRIOS自体の信頼性は高く滅多にダウンしないが、電源トラブルやPC不調など周辺要因も含めゼロとは言えないため、「最悪アナログに戻れる」二重の体制は安心材料となる。最後に、機器の陳腐化リスクも考慮点である。デジタル機器は数年ごとに新モデルが登場するため、常に最新機種を追い求めると投資負担が増えてしまう。TRIOSの場合、旧モデルでもソフトウェアアップデートで一定期間最新機能に追随できることが多いので、導入時期のモデルを5年以上じっくり使い倒すつもりで臨めば、大きな問題はないだろう。メーカーも下位互換やサポート期限を明示しているので、購入前にその点を確認し、安心して長く使える計画を立てることが大切である。