1D - 歯科医師/歯科技師/歯科衛生士のセミナー視聴サービスなら

モール

口腔内スキャナー「iTero(アイテロ)」は中古で買えるか?

口腔内スキャナー「iTero(アイテロ)」は中古で買えるか?

最終更新日

開業から数年が経過した歯科医院で、院長はある悩みを抱えていた。矯正治療の相談が増え、インビザラインなどマウスピース矯正を導入する機会が出てきたものの、毎回の歯型採取で患者が嘔吐反射を起こし苦労する場面が続いていた。デジタルスキャナーの導入が頭をよぎるが、新品価格は500万円を超え経営的な負担が大きい。そんな折、2024年に光学印象が保険算定可能になったとのニュースを目にし、院内デジタル化の追い風を感じた。しかし、高額な投資に見合う十分な症例数があるのか、新品でなく中古のiTeroなら費用を抑えられるのか、判断に迷っている。臨床の質を上げつつ経営も守る選択をするため、本記事では口腔内スキャナー_iTero_導入の是非を臨床・経営両面から深く検討し、明日から使える意思決定のヒントを提供する。

要点の早見表

項目ポイント
臨床上の利点患者の嘔吐反射リスク軽減、リアルタイムで3Dデータを取得し補綴物の適合精度向上。治療シミュレーションにより患者説明が容易になり、補綴や矯正の診断・計画が視覚的に行える。
主な適応症マウスピース型矯正(インビザライン等)の型取り、クラウン・インレーなど補綴治療の印象採得、インプラント上部構造やマウスガード作製、経時的な歯列変化のモニタリング等。
適応外・注意点歯肉からの出血や唾液過多で歯面が露出しない場合は精確なスキャンが困難。開口量が極端に小さい患者、高度な歯周炎で歯の動揺が強い場合も注意。フルマウス無歯顎では参照点が少なく精度確保に工夫が必要。
運用・管理口腔内は非侵襲で被ばくなし。スキャナー先端にはディスポーザブルのカバー(スリーブ)を装着し交叉感染を防ぐ。使用後データはクラウド経由で保存・送信されるため、院内のネット環境と患者情報のセキュリティ管理が重要。
保険適用2024年6月よりCAD/CAMインレー製作時の光学印象が1歯あたり100点で算定可能になった(要届出施設のみ)。※2025年現在、適用可能な機器はiTeroエレメントのみ。保険請求には所定の施設基準届出と歯科技工所連携体制の構築が必要。
費用の目安iTero新品価格はモデルにより約480〜660万円(税別、初年度ライセンス料込)。中古は公式認定再生品が約182万円(税別)で提供され、スペックは限定的だが品質保証あり。非公式な中古流通品は更に割安例もあるが、メーカーサポートや動作保証はない。
タイム効率全顎スキャンは習熟すれば数分程度で完了し、印象材硬化や石膏模型作製の待ち時間が不要。初期研修が必要だが、スキャンデータを即座に確認できるため再採得率の低減が期待できる。患者の来院回数短縮や補綴物の適合調整時間削減にもつながる。
収益・経営インビザライン等の矯正を導入するならスキャナーは事実上必須の投資であり、導入により矯正症例数や自費率向上が見込まれる。補綴分野では印象材や再作製コスト削減、患者満足度向上によるリテンション効果が期待できる。一方、初期投資と月額4万円のライセンス料が継続発生するため、十分な症例数と収益計画を伴う導入が望ましい。
導入選択肢iTeroを新規購入する以外に、公式の中古再生品を購入する方法がある。さらにAlign社直営の短期レンタルプラン(3か月)や、同グループ医院で共同利用するケースも存在する。導入を見送る場合は従来通り物理印象と外注ラボで対応することになるが、競合医院との差別化や将来的なデジタル診療への対応も考慮する必要がある。

理解を深めるための軸

iTero導入の是非を検討するには、臨床的な視点と経営的な視点という二つの軸から評価することが重要である。臨床上は、デジタルスキャナーを用いることが患者の診療アウトカムや診療体験にどう寄与するかが焦点となる。一方、経営上は、高額な設備投資と維持費に見合う収益や効率改善が得られるかを見極める必要がある。中古購入の可否も含め、両軸の観点から差異が生まれる理由と、それぞれが医院にもたらす影響を整理する。

臨床の視点

臨床面では、iTeroによるデジタル印象採得がもたらす精度と速さが最大の魅力である。従来のシリコン印象では型取りミスや石膏模型の変形リスクがつきまとい、再印象や補綴物の再製作が生じることもあった。iTeroを用いれば微細な歯の形態まで高精度に記録でき、その場で欠損部の補綴設計や噛み合わせの確認が可能である。特に矯正治療では、スキャンデータから患者本人の歯列を動的にシミュレーションでき、治療ゴールを視覚的に共有できる点で臨床コミュニケーションを一変させる。患者は嘔吐反射や不快感から解放されるだけでなく、自身の口腔内の3D画像を見て治療への理解と納得を深めることができる。
一方で、中古の旧型iTeroを導入する場合は技術的な限界にも目を向ける必要がある。例えば古いモデルではスキャン速度が現行モデルより遅く、連続撮影による発熱や動作安定性の面で最新機種に劣る可能性がある。また、近赤外線によるう蝕検知(NIRI)機能や高精細カラー表示など新機能が搭載されていない場合、虫歯の早期発見や患者説明ツールとしての有用性が限定的となる。臨床現場では「とりあえず型取りができれば良い」というレベルから、「リアルタイムに診断情報まで提供できる」次世代機能まで幅があるため、自院の臨床ニーズに旧モデルの性能が適合するか見極めなければならない。また、スキャンデータの質はオペレーターの技術にも左右される。中古で安価に手に入れてもスタッフ教育が不足していては十分な活用は難しい。臨床的メリットを最大化するには、機器性能のみならず人材育成とプロトコル整備まで含めた導入が必要である。

経営の視点

経営面の軸では、iTero導入が費用対効果に見合うかが最大の関心事である。新品価格が数百万円規模である上に、13か月目以降は月額4万円のライセンス料が発生することから、導入に踏み切るには相応の投資回収計画が求められる。年間のランニングコスト(40万円超)に加え、ディスポーザブルスリーブ等の消耗品費用も積み重なるため、例えば年間何症例の矯正や補綴をデジタル化できるかという具体的な試算が不可欠である。矯正歯科領域ではインビザライン症例1件あたりの自費収入が大きいため、毎月数件のケースを獲得できれば早期に投資回収が見込める。他方、補綴中心の一般歯科では直接的な収益増よりも、作業効率化や再治療削減による間接的な経済効果を評価する必要がある。例えばデジタル印象で補綴の適合精度が上がれば再装着や調整にかかるチェアタイムが減少し、その分を他の診療に充てられる。結果として医院全体の生産性向上につながり、長期的には利益率改善をもたらす。
中古のiTero購入について経営の視点から考えると、初期コスト圧縮という利点がある一方で、注意すべきリスクも存在する。Align社は原則としてユーザー間での勝手な機器譲渡を認めておらず、公式の認定中古プログラムを通さない取得ではソフトウェア更新やサポートが受けられない恐れがある。中古品を安価で手に入れても、故障時の修理費やダウンタイムによる機会損失が大きければ結果的に高くつく可能性がある。経営上は、単に初期費用の安さに飛びつくのではなく、トータルコストで得失を計算することが重要である。公式リファービッシュ品であれば一定の保証や研修サポートが付随し、将来的なリスク費用を低減できるメリットがある。また、リース契約やレンタルサービスの活用もキャッシュフローの平準化に有効である。経営者としては、自院の収支バランスと設備投資計画を踏まえ、最適な導入形態を選ぶ必要がある。

トピック別の深掘り解説

以上の軸を踏まえ、iTero導入に関する具体的な論点を個別に検討する。適応症から日常運用、費用対効果、導入形態の選択肢まで、現場目線で掘り下げて解説する。

代表的な適応と禁忌の整理

iTeroを含む口腔内スキャナーは、多岐にわたる臨床用途に活用できる。代表的な適応は矯正治療におけるマウスピース型矯正の印象採得である。従来インビザライン用の歯型はシリコン印象→石膏模型→スキャンという工程が必要だったが、iTero導入により診療チェア上で直接デジタル印象が完結する。これにより発送時間が不要となり、アラインテクノロジー社のサーバーに数分でデータ送信できるため、治療計画作成のリードタイムが大幅に短縮される。補綴分野でも、単冠からインレー、ブリッジに至るまで幅広く利用可能である。特にCAD/CAM冠・インレーの分野では2024年より光学印象の保険算定が認められ、保険診療内でもスキャナーが役立つ場面が出てきた。また、インプラント治療ではアバットメントの印象採得にスキャナーを用いることで、印象材の引き抜きによる転位を防ぎ高精度な補綴物設計につなげられる。
一方、スキャナーの不得手なケースも認識しておく必要がある。口腔内が唾液や血液で湿潤している環境では光学印象の精度が落ちるため、特に深い歯周ポケットや抜歯直後の出血がある部位のスキャンは難しい。物理印象でも同様の難しさはあるが、デジタルでは可視範囲に写らない部分は情報として存在しない点でシビアである。歯肉縁下のマージンが長く延びる支台歯などは、適切な圧排と乾燥が確保できなければスキャンに不備が生じる恐れがある。また、全く歯のない無歯顎症例では、スキャナーが位置合わせの手がかりとする特徴点が乏しいため、模型スキャンや追加のマーキングが必要となる場合がある。極度に開口できない患者や小児で暴れてしまうケースでも十分なスキャンができず、安全に機器を操作することが困難になりうる。以上より、iTeroは多用途に有用なツールである反面、従来法の方が適している場面もある。こうした適応と禁忌の整理を踏まえ、デジタルとアナログを症例に応じて使い分ける判断力が求められる。

標準的なワークフローと品質確保の要点

iTero導入後の診療フローは、従来の印象採得プロセスと比べて大きく様変わりする。標準的なワークフローとしては、まずスキャン部位の歯面を乾燥させ、必要に応じて歯肉圧排やパウダーレススキャンの下準備を行う。スキャナーの細長いワンドを口腔内に挿入し、歯列や咬合面をなぞるように移動させて全体を撮影する。オペレーターはリアルタイムにモニター上で3Dモデルを確認し、不足箇所があればその部分を追加でスキャンする。全顎のフルスキャンでも5分程度で完了し、撮り直しが必要な場合もデジタルなら部分的に追加撮影できるため患者の負担は軽微である。得られたデータは直ちにクラウドへアップロードされ、矯正ならクリンチェック用のデータとして、補綴なら提携ラボへデジタル送信して技工に回すことができる。このように、一連の流れは院内ネットワークとクラウドシステムを介したシームレスなデータ連携によって進行する。
品質確保の観点では、機器とデータの両面で管理すべきポイントがある。まず機器については定期的なキャリブレーション(較正)が必要だ。iTeroには専用の校正用具が付属しており、推奨頻度に従って校正を実施することでスキャン精度の経時的なズレを補正できる。これは中古で購入した場合も同様で、納入時にメーカーまたは認定業者によるフルメンテナンスと較正が行われているか確認したい。また、スキャナー先端のレンズ部はデリケートなため、使用後はアルコール清拭など適切な方法で清掃し、埃や汚れの付着を防ぐ必要がある。データ面では、取得した口腔内スキャン情報が患者の個人情報であることを忘れてはならない。クラウド保存されるデータは暗号化やアクセス制限で保護されているが、院内でも取り扱いに注意が必要である。具体的には、診療録として必要なデジタルデータは適切にバックアップをとりつつ、不要になったデータは規定に従い削除し、患者から同意を得た目的以外に流用しないようにする。医療情報システム安全管理ガイドラインに準拠した運用を行い、万一データ漏洩が発生すれば説明責任を負うことをスタッフ全員で共有しておく。ワークフローを標準化しつつ品質を確保することで、デジタル機器への信頼性が担保され、日常診療に安心して組み込むことができる。

安全管理と患者説明の実務

iTeroはエックス線を使用しないため、放射線被ばくのリスクは皆無である。これは患者説明の際に大きな安心材料となる。妊婦や小児でも心配なく使用でき、「レントゲンではありませんので身体への影響はありません」と明確に伝えることで患者の協力も得やすくなる。ただし機器固有の安全管理事項として、スキャン時の感染対策と機器取扱いに関する注意が挙げられる。ディスポーザブルのスリーブは患者ごとに必ず新品と交換し、使い回さない。仮にコスト削減のために再利用すれば感染リスクとなり、医療事故に直結するため厳禁である。またスキャン中は患者が誤ってワンドに噛み付いて破損しないよう、「歯科用カメラで歯を撮影しますので楽に口を開けていてください」と前置きし注意喚起する。スキャン動作に集中するあまり、硬いワンド先端が粘膜を擦ったり喉を刺激したりしないように、適宜患者に声かけしながら進めることも大切である。
患者説明の面では、iTeroは単に記録用の機械ではなく有効なコミュニケーションツールとなる。例えばスキャン直後にその場で3次元モデルを回転表示し、「この部分の詰め物を作り直します」「矯正後はこのように歯並びが整います」といった説明を視覚的に行える。模型や写真だけでは理解しにくかった治療内容も、自分の口の中のリアルな映像を見せられることで患者の納得感が高まる。特にインビザラインの場合、シミュレーション機能を用いて矯正後の予測モデルを提示すると、患者のモチベーション向上に直結する。しかし、これらの説明は正しく使わなければ誤解を招くリスクもある。例えばNIRIで虫歯の疑いが見える画像を患者に見せる場合、「ここに黒く写っている部分は初期の虫歯の可能性があります」と伝えつつ、確定診断には他の検査も踏まえる旨を説明する必要がある。スキャナー画像は診断補助であり絶対ではないこと、また治療効果のシミュレーションはあくまで予測であることを丁寧に説明し、過度な期待や不安を与えないよう配慮する。安全に配慮した上で、患者理解を深める手段としてiTeroを活用すれば、診療のインフォームドコンセントと満足度向上に貢献するだろう。

価格レンジと費用構造の内訳

iTeroの導入費用は決して安くないが、その内訳を正しく理解しておくことが重要である。まず本体価格はモデルによって差があり、エントリーモデルの「エレメント2」や「エレメントフレックス」は約480〜530万円(税別)、上位モデルの「エレメント5Dプラス」は約600〜660万円程度がメーカー提示価格となっている。カート型(一体型PC搭載)のほうが高価で、ノートPC接続型(モバイルタイプ)はやや安価だが別途高性能PCが必要となる場合が多い。これらは初年度のソフトウェアライセンス料を含んだ価格であり、購入から1年間は追加費用なくフル機能を使用できる。一方で2年目以降は毎月ライセンス費用が発生し、補綴モード・矯正モードそれぞれ込みで月4万円(年間48万円)のサブスクリプション契約となる。この費用にはソフトウェアのアップデート提供、クラウドサービス利用料、リモートサポート等が含まれており、言わばiTeroを“使い続けるための維持費”である。ゆえに導入時には初期投資だけでなく、この固定的ランニングコストを事業計画に組み込む必要がある。実際、購入から年数が経過し症例利用が減ったために契約を打ち切る医院もあり、その場合デバイスは事実上使用不能となる(少なくともインビザライン送信等の主要機能は停止する)点に留意したい。
公式中古再生品(Certified Pre-Owned)はAlign社が再調整・整備した上で販売するもので、価格は約182万円(税別)と新品の半額以下に抑えられている。対象は旧世代モデル(たとえばエレメント・フレックスなど)だが、CAD/CAMインレーの保険適用機器として承認されたモデルであり機能的には基本的な光学印象採得を網羅している。初期費用を大幅に抑えられる反面、発売年度が古いためハードウェアの耐用年数や性能は最新機より劣る可能性がある。また、価格にライセンス料が含まれる期間については公表されていないが、購入後には結局月額契約への加入が必要になると考えられる。したがって「安い中古を買ってランニングコストも節約」という都合の良い話ではなく、本体代を節減できる代わりに維持費は新品と変わらない点を理解すべきである。さらに非公式な中古品、例えば海外で余剰となったiTeroを個人売買で安価に入手するといったケースでは、日本国内での承認を得た機器でない可能性もある。その場合、医療機器として国内で使用すること自体が薬機法違反となり得るため論外である。公式ルート以外で中古購入する選択は、費用面の一時的メリットに比して法規制やサポート面のリスクが大きく、実務的には勧められないと言える。

収益モデルと回収シナリオ

iTero導入によって得られる収益効果は、診療内容の構成によって異なる。矯正歯科を主力にする医院にとっては、iTeroは患者獲得と治療完遂のための戦略投資である。例えばインビザライン治療費を1症例あたり総額80万円と設定し、そのための検査・資料採得にiTeroを活用するとする。患者は従来の不快な印象材の型取りを回避できるため成約率が上がりやすく、症例数増加につながる。仮にiTero導入で年間10症例増えれば800万円の増収となり、初年度で投資を回収できる計算になる。実際にはマーケティングや患者層にもよるが、デジタル設備の有無が患者の医院選択に影響することは無視できない時代である。特に若年層ほど「最新機器が揃った先進的なクリニック」に価値を感じる傾向があり、iTero導入はブランディング効果も含めた収益モデル拡大の一手となり得る。
一方、一般歯科で補綴が中心のケースでは、直接的な自費収入アップは限定的かもしれない。その代わり、コスト削減と効率化による収益性向上がシナリオの核となる。デジタル印象に切り替えることで、高価なシリコン印象材や石膏・トレー等の消耗品コストが削減できる。また、印象不良によるやり直しが減り技工所からの追加請求や急ぎの再製作費用を避けられる効果もある。チェアタイム短縮により1日に対応可能な患者数が増えれば、それだけ売上機会も増大する。仮に補綴再装着率がiTero導入前の5%から導入後は2%に減少したとすれば、無駄な再診や材料費の削減分がそのまま利益となる。これらを定量化し、中長期的に何年で投資をペイできるかシミュレーションすることが大切である。例えば初期投資500万円+5年分ライセンス費240万円=計740万円に対し、年間15万円の材料費削減と20件の補綴増収(1件当たり自費5万円利益と仮定)で年間115万円の改善、といった試算を行う。そうすると約6.5年で回収見込みとなり、機器の耐用年数(7〜8年想定)と釣り合うか検証できる。このように、収益モデルは「増収型」と「経費削減型」の両面から描く必要がある。自院の診療実態に即したシナリオを複数用意し、最悪でも期間内にペイできる保守的なケースで判断しておくと、導入後に「元が取れない」という事態を防げる。

スペース・電源・法規要件

機器導入に際して見落としがちなのが、物理的・法的な設置要件である。まずスペースに関して、iTeroのカートタイプはユニット横に置ける程度のコンパクトさだが、それでもPC一体型のカートが1台増えるためレイアウト変更が必要になることがある。診療室に空きスペースがない場合、待合やカウンセリングルームでスキャンを行う運用も考えられるが、患者移動の手間を考えるとユニット近くに設置するのが理想である。フレックス(モバイル)モデルはノートPCとワンドのみなので省スペースだが、逆にPCの置き場(カウンター上など)を確保し、ケーブルが邪魔にならないよう配慮する必要がある。また、機器はキャスター付きでも重量があり段差の多い医院では移動が困難なため、院内で固定的に使う場所を決めておくと良い。
電源・ネットワークも重要な要件である。iTero本体は通常のAC電源につなぐだけで動作するが、高性能PCとモニターを含むため消費電力はそれなりに大きい。可能であれば専用の電源タップや無停電電源装置(UPS)を用意し、診療中の瞬停やブレーカー落ちによるシステムダウンを防ぐと安全である。さらにクラウドへのデータ送信にはインターネット回線が不可欠であり、アップロード速度の速い光回線等を推奨する。院内LANも含め通信環境が不安定だと、せっかくスキャンしてもデータ送信に時間がかかりリアルタイム性が損なわれる。ITインフラ面の整備も導入前に再点検したい。
法規要件としては、まずiTeroが「管理医療機器(クラスII)」に分類される高度管理医療機器ではないものの、医療機器として薬機法上の規制対象であることを認識する必要がある。正規品には承認番号が付与され(iTeroエレメント: 22900BZX00222000 等)、国内総代理店であるインビザライン・ジャパン合同会社が販売業者となっている。このため、許可なく他人に譲渡・転売したり海外から持ち込んだりすることは望ましくなく、万一不具合が起きた際の責任の所在や保証も不明確になる。基本的には購入時の契約者(届出医療機関)にひも付いた機器として運用されることを心得ておくべきである。さらに、2024年の診療報酬改定に伴い光学印象の算定を行うには、地方厚生局への届出が必要になった。具体的には「CAD/CAMインレー光学印象採得加算」の施設基準として、歯科技工所との連携体制や滅菌設備、院内教育の実施状況などが求められる。iTero導入後は忘れずに所定の書類を提出し、施設基準を満たして保険請求が可能な体制を整えることが肝要である。

外注・共同利用・導入の選択肢比較

デジタルスキャナーを自院で持つ以外にも、代替となる選択肢はいくつか存在する。それぞれメリット・デメリットが異なるため、導入判断の際に比較検討しておきたい。

まず外注の方法として、従来どおり物理印象を採得し外部の歯科技工所に模型スキャンを委託するケースがある。ラボが高精度な据置型スキャナーで模型をデジタル化しCAD設計する流れで、医院側は設備投資不要という利点がある。ただしこの方式では患者への説明やシミュレーションをリアルタイムに行うことはできず、また印象→模型の工程が入る分タイムラグも生じる。患者体験の向上や院内効率化という点では、自前でスキャンするのに比べ劣るのは否めない。

共同利用という選択肢もある。例えば複数の医院で出資し合って1台のiTeroを購入し、曜日ごとに持ち回りで使用するようなケースである。また、医療法人グループ内の本院に1台置いておき、分院の患者を必要時に本院へ送り込んでスキャンする、といった運用も考えられる。共同利用は購入コストや維持費をシェアできる反面、機器の移動や院間調整の手間、使用頻度の制約といった運用上のハードルが高い。特にインビザライン用途ではその場で患者に説明することが重要なため、別院でスキャンというのは現実的ではないとの指摘もある。共同利用するなら、補綴の一部をデジタル化する程度の限定的運用になるだろう。

次にリース・レンタルの活用だ。資金繰りに余裕がない開業医にとって、一括購入より月額払いの方が心理的負担が軽い。Align社自身も「Go Digital」プログラムとして3か月間のお試しレンタルや月額定額プランを提供しており、短期間使ってみてから本格導入を判断できる。リース契約では一般に5年や7年といったスパンで月々定額を支払う形となり、その間の保守サービス込みで提供されることが多い。総支払額は割高になるものの、経費計上がしやすく途中で機種アップグレードもしやすいという利点がある。なおリース期間満了後に手元に残らない(返却となる)のが通常であり、資産ではなくサービス利用と割り切った考え方が必要である。

最後に他社製スキャナーを導入するという選択も間接的には検討材料となる。もしiTeroを中古ででも入れるのが難しいほど資金制約がある場合、市場にはMeditや3Shape社Triosなど、比較的安価なオープン型スキャナーも存在する。特に自費矯正を扱わず補綴メインであれば、これら他社製を導入してランニングコストを抑える手もある。ただしインビザラインとの連携においては、2025年現在でもiTeroのシェアが圧倒的であり、他社スキャンデータを用いる場合はデータ形式の変換や手動アップロードが必要になるなどワークフローが煩雑になる。結果としてスタッフの手間やミスが増え、本末転倒となりかねない。よってインビザラインありきでデジタル化する医院では、事実上iTero一択といえるだろう。その意味で、中古購入というのは「どうしてもiTeroが必要だが新品は予算的に厳しい」という場合のセーフティネットと言える。逆に言えば、もし自院のニーズがそこまで高くないならば、無理に安い中古を探して導入するのではなく現行のアナログ運用を続ける選択も一考に値する。各選択肢のトレードオフを十分比較し、自院に最適な道を選ぶことが重要である。

よくある失敗と回避策

デジタル機器導入には華々しい成功談が語られる一方で、うまく活用できずに失敗するケースも少なからず存在する。iTeroに関してよくある失敗パターンの一つは、導入したものの宝の持ち腐れになるケースである。院長だけが張り切って購入したが多忙で自らスキャンする時間が取れず、スタッフにも教育していなかったため誰も使えない、といった事態だ。これでは数百万円の機械がほこりを被るだけなので、避けなければならない。回避策として、導入前に主要スタッフを巻き込んで勉強会やデモを行い、チーム全員が活用イメージを共有しておくことが有効である。特に歯科衛生士や助手がスキャン補助を担える体制を整えれば、院長不在時でもデータ採取が可能となり、機器稼働率が上がる。インビザラインの説明シミュレーションなどはDHが中心となって行う医院もあり、役割分担を明確にしておくと良い。
別の失敗パターンは費用計算の見積り違いによる後悔である。例えば十分な症例数がないのに「いつか増えるだろう」と楽観的に購入してしまい、結果として月額ライセンス料だけが経費を圧迫する状況だ。特に中古で安く手に入った場合、初期費用の安さゆえについ慎重な収支検討を怠りがちだが、先述の通り維持費は同等にかかる。導入前に悲観的シナリオでも黒字を保てるかシミュレーションし、設備投資が経営を圧迫しない範囲か冷静に判断する必要がある。回避策として、最初はレンタルプランで試験導入し、本当に活用できる手応えを得てから買取に移行する、といった段階的ステップを踏む方法がある。現にAlign社の短期レンタルを利用後に購入を決めた医院も多く、実地で試すことで経営リスクを減らすことができる。
さらに、機器トラブルへの準備不足も落とし穴となり得る。iTeroは精密機器であるため、故障や不具合が発生することもゼロではない。よくあるのはカメラ部の曇りや発熱による停止で、連続使用時に起こりやすい。公式サポートに加入していれば代替機の貸出や迅速修理が受けられるが、未加入だと復旧まで診療が滞る可能性がある。中古導入の場合、保証期間が短かったり無償サポートが付かないこともあるため、自院でどこまでリスク許容するか考えておくべきだ。対策としては、定期メンテナンス契約を結び故障リスクを低減する、万一長期停止しても従来法に切り替えられる体制(予備の印象材等の在庫)を確保しておく、といった準備が挙げられる。最悪の事態を想定してプランBを用意しておけば、機器トラブルにも柔軟に対応できる。

導入判断のロードマップ

以上の知見を踏まえ、最後にiTero導入の意思決定プロセスを段階的に示す。まず第一に行うべきは、自院のニーズと現状を客観的に把握することである。過去1年間に実施した補綴物や矯正治療の件数、その中でデジタル化できる見込みの症例を洗い出す。例えば年間レジンインレー〇〇本、インビザライン〇〇症例、補綴の印象再採得〇〇回といった具体的な数値を出し、潜在的な利用シーンの規模を把握する。次に、それら症例でiTeroを使うことで得られる収益増やコスト削減効果を試算する。可能であれば複数のシナリオ(楽観ケース・悲観ケース)を用意し、それぞれについて投資回収に要する期間やROI(投下資本利益率)を算出する。この段階では設備費だけでなく、前述したランニングコスト(ライセンス料等)も組み込むことを忘れない。
次に、市場環境と競合状況も考慮する。近隣に既にスキャナーを導入している歯科医院があるか、地域でインビザライン需要が高まっているかといった情報を集める。デジタル設備が充実した医院が周囲に少ないのであれば、いち早く導入することで地域の患者を惹きつけるチャンスとなる。逆に競合がみな導入済みであれば、遅れをとらないよう導入を前倒しにすべきかもしれない。こうした外部環境も意思決定の材料となる。
導入を前向きに検討する段階になったら、具体的な導入計画を立てる。Align社や販売代理店に問い合わせてデモンストレーションを受け、実機の操作感や画質を体験する。また、可能であればiTeroを既に使っている同業の先生に意見を聞き、現場での本音の評価や運用上の注意点を教えてもらうのも有益である。導入費用については、購入かリースか、また新品か認定中古かといったオプションを比較し、自院の資金繰りに合った方法を選択する。銀行からの開業融資の枠が残っていれば設備資金に充てることも検討し、金利や税制面も含めて最適な調達方法を決定する。加えて、スタッフへの研修計画もこの段階で準備しておきたい。メーカーの提供する講習やオンライン教材を活用し、導入初日からスムーズに使い始められるようシミュレーションしておく。
最終的な判断として、導入するか見送るかを決断する。導入する場合は、いつまでに機器設置し、いつから本格運用を始めるかスケジュールを引く。保険算定を行うなら届出書類の準備と提出も忘れずに行う。見送る場合でも、今後の技術進歩や価格動向を注視し、再検討のタイミング(例えば◯年後に症例数が一定超えたら等)を決めておくと良い。重要なのは、導入しない選択をするにしてもその理由を明確にしておくことである。「現状では費用対効果が合わないため○○年は従来法で対応するが、その間にデジタルに移行できる態勢づくりを進める」など、将来へのロードマップを描いておけば設備投資を保留する判断にも筋が通るだろう。以上のプロセスを踏めば、感覚や流行に流されない論理的かつ戦略的な意思決定が可能になる。

参照情報(最終確認2025年8月26日)

(1) インビザライン・ジャパン株式会社「iTeroエレメントでのCAD/CAMインレー光学印象採得が保険適用に」(ニュースリリース, 2024年6月3日)
(2) Align Technology社「iTero エレメント・フレックス Certified Pre-Owned(認定整備済み製品)」(日本語公式オンラインショップ, 製品ページ)
(3) フォルディネット 製品詳細「iTero エレメントシリーズ インビザライン Go システム」(メーカー希望価格・ライセンス料に関する情報, 2025年)