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モリタで購入できる口腔内スキャナーはどれ?「iTero(アイテロ)」の取り扱いは?

モリタで購入できる口腔内スキャナーはどれ?「iTero(アイテロ)」の取り扱いは?

最終更新日

ある日のデンタルショーで、モリタのブースに最新の口腔内スキャナー「iTero(アイテロ)」が展示されている光景を目にした。矯正用アライナーのシミュレーションがその場で表示され、見入る来場者で賑わっていた。開業歯科医のA先生もその一人である。これまで口腔内スキャナーは直接メーカーから購入するものと思っていたが、モリタで扱えると知り興味を惹かれた。印象採得(歯型取り)のたびに嘔吐反射で苦しむ患者や、型取りの不精度から補綴物の再製作を経験するたびに、「デジタル化で改善できないか」と感じていたからである。また、近年はマウスピース型矯正(アライナー)の需要が高まり、自院でも提供を検討しているが、そのプランニングには高精度なデジタル印象が求められる。本記事では、モリタで購入可能な口腔内スキャナーとその特徴、臨床と経営への影響を解説する。A先生のように導入を検討する歯科医が、明日からの診療で役立つ知見と判断材料を得られることを目指す。

要点の早見表

以下に、モリタで購入可能な代表的な口腔内スキャナー2機種(iTeroとセレック プライムスキャン)の要点を比較する早見表を示す。臨床用途や特徴、導入コストといった観点で整理した。

製品名(メーカー)主な用途・特徴             導入費用目安(税込)維持費・サポート
iTero エレメント5Dプラス(アライン・テクノロジー社)矯正領域に強み:インビザライン等マウスピース矯正に最適。スキャン後すぐ治療シミュレーションを表示でき、患者説明やモチベーション向上に有用。近赤外線によるう蝕検知補助機能(NIRI)も搭載し、初期う蝕の可視化によるカウンセリングが可能。補綴にも対応し、取得データはSTL出力可能。約600~700万円前後(モデル・構成による)。例:5Dプラス(カート型)で約666万円。必須ライセンス料:初年度無料だが13か月目以降は月額4万円。ソフト更新・クラウド利用含む。モリタが販売代理店として導入研修・保守対応。
セレック プライムスキャン(デンツプライシロナ社)補綴領域に強み:高精度かつ高速なスキャンが可能。取得データを用いて即日補綴(ワンデイ治療)が可能で、専用CADソフトやミリング装置と連携すれば院内でクラウン等を即時製作できる。一度に広範囲を撮影でき、パウダーレスで扱いやすい。オープンシステムでSTL出力にも対応し、ラボへのデータ送信も容易。約600万円+オプション。基本セット約600万円。セレックCADソフト等を追加する場合、総額800万円超になる構成も。任意サポート契約:ソフトウェア更新やクラウドサービス(DS Coreなど)利用はオプション。保守点検はメーカー規定に沿いモリタが対応。ライセンス料必須ではないが、必要に応じ都度アップグレード費用等。

※上記金額は2025年現在の目安であり、為替や販売時期により変動する可能性がある(最終確認日: 2025年8月)。両製品とも管理医療機器(クラスII)に分類され、特定保守管理医療機器に指定されている。そのため導入後は法令に従い定期点検・記録保存が必要だが、販売代理店であるモリタから支援を受けられる。

理解を深めるための軸

口腔内スキャナー導入を検討するにあたり、臨床的な視点と経営的な視点の両軸から整理することが重要である。臨床面では「デジタル印象によって診療の精度と効率がどう変わるか」が論点となる。一方、経営面では「初期投資や運用コストに見合う収益改善や付加価値向上が得られるか」が鍵になる。

【臨床的な軸】精度・患者満足度と診療効率

従来法のシリコン印象では、変形や収縮による誤差、型どりや石膏模型作製の手間が避けられなかった。デジタルスキャナーは精密な3次元データを即座に取得できるため、補綴物適合精度の向上や再製作の減少が期待できる。例えばiTeroによる光学印象は、一度に多くの詳細データを取得でき精度が高いとされる。また患者にとっては嘔吐反射の負担軽減や採得時間の短縮など快適性向上に直結する。さらにiTeroのようにスキャン後すぐ治療シミュレーションを共有できる機種では、患者理解と同意形成がスムーズになり治療開始の意思決定を後押しする例も報告されている。ただし症例によっては制約もある。無歯顎症例や深い歯肉縁下の支台歯など、光学的に捉えづらい状況では従来印象の補助が必要になる場合がある。したがって、スキャナーの得意不得意を理解し症例選択することが臨床上のポイントである。

【経営的な軸】投資対効果と差別化

一方、経営面では投資対効果(ROI)のシミュレーションが欠かせない。高額な機器導入である以上、どの程度診療収入や経費節減に寄与するかを数値で捉える必要がある。例えばiTero 5Dプラスの場合、本体価格が約660万円、年間ライセンス料が約48万円と大きな固定費となる。これを回収するには自費診療の増加や作業効率化による生産性向上が求められる。インビザライン矯正に力を入れる医院であれば、iTeroによるシミュレーション提示で矯正治療への移行が促進され、新規症例の成約が増える効果が期待できる。一方、補綴中心の医院であれば、スキャナー導入により印象材コストや外注の回収物送料が削減される。またチェアタイム短縮により1日あたりの対応患者数増加や、スタッフの業務負担軽減による残業削減など間接的な経営効果も見込める。ただし、日本の医療保険制度上は2024年に一部CAD/CAMインレーで光学印象が算定可能となったものの加算はわずか18点(180円)に過ぎない。保険収入だけで元を取るのは非現実的であり、自費診療やサービス向上による差別化戦略と組み合わせて初めて十分なリターンが得られるだろう。要は、デジタル化が患者満足度向上や医院のブランド力向上につながり、それが新患増や自費率向上という形で収益に反映されるシナリオを描けるかが重要である。

以上のように、臨床の質と経営効率の両面からメリット・デメリットを可視化し、医院の方針に合致するかを見極める必要がある。本稿では、具体的な論点についてさらに深掘りしていく。

代表的な適応と禁忌の整理

口腔内スキャナーは適応範囲の広いツールである。臨床現場で代表的な活用領域は、大きく分けて以下のとおりである。

補綴領域

クラウン・ブリッジ・インレーの型採りをデジタル化し、技工所へ3Dデータ送信して補綴物製作に用いる。適合精度向上と再製作率低減が期待できる。特に単冠や小~中規模の修復ではスキャナーの効果が顕著である。一方、長大なブリッジや全顎的補綴では、咬合支持や変形の補正に高度なテクニックが必要となる。

インプラント

インプラント上部構造の印象にも活用できる。口腔内スキャナー用のスキャンボディを用いれば位置関係を高精度に記録可能で、アナログのトランスファーピックアップに比べ患者負担が少ない。ただし複数本のフルアーチインプラントでは誤差蓄積に注意が必要で、必要に応じて従来法との併用やハイブリッド印象も検討すべきである。

矯正治療

マウスピース型矯正では必須とも言える。インビザラインなど専用システムではスキャナーで取得したデータから治療計画(クリンチェック)を立案する。iTeroは矯正用機能が充実しており、シミュレーションで治療ゴールを可視化できる点が特長である。ワイヤー矯正でも模型作製や記録に応用可能。適応外としては、被蓋が深くバイト登録が困難な症例などは注意を要する。

補助診断

最新モデルではカリエスの検知補助や咬合の可視化といった診断用途も広がっている。iTero 5DシリーズのNIRI機能は、近赤外線によって歯質内部のう蝕を画像化し、従来の咬合紙やX線では得られない情報提供が可能である。また咬合圧の偏りをカラー表示する咬合解析も患者説明に有用とされる。ただし診断確定には従来の検査法を補完的に用いる必要があり、スキャナー単独で全てを判断することは禁物である。

以上のように、スキャナーは補綴から矯正、診断補助まで幅広く活用できるが、万能ではないことも念頭に置くべきである。禁忌とまでは言わないまでも不得意な状況として、完全無歯顎の印象(ランドマークが乏しくデータの安定取得が難しい)、著しく開口量が制限された患者(口腔内カメラが挿入できない)、および歯肉縁下深くまで及ぶ支台歯や出血コントロール困難なケース(光学情報が遮蔽される)などが挙げられる。その場合は従来法の補助を検討し、安全域をとった運用を行うことが推奨される。

標準的なワークフローと品質確保の要点

スキャナー導入後の一般的な診療フローは、おおむね以下のように変化する。例えば補綴物製作の場合、従来は印象採得→石膏模型→咬合採得→技工所へ発送という流れだった。デジタルの場合は、スキャン→クラウド送信→ラボで設計/製作という手順になる。院内ラボを持つ場合はそのまま設計・CAM加工まで自院で完結でき、最短即日の装着が可能になる。これにより患者の再来院回数を減らし、治療待ち時間を短縮できる点は大きなメリットである。

ワークフロー上の注意点としては、スキャンの習熟とデータ管理が挙げられる。スキャナー操作は直感的とはいえ最初は慣れが必要で、メーカーのトレーニングやスタッフ練習期間を設けるべきである。スキャン時には唾液や血液をきちんと排除し、光学的にクリアな視野を確保することが品質確保の第一歩である。マージン部はエアーで乾燥させ、必要に応じジンジバルトリミングで露出させておくと精度が向上する。取得したSTLデータはその場でリアルタイムに3D模型として確認できるため、欠損データや粗密度の偏りがないかチェックし、必要なら即座に再スキャンする。これは石膏模型作製後に気泡に気づく、といったタイムラグを解消しリテイク率を下げる効果がある。

また、各スキャナーにはキャリブレーション(校正)が定期的に必要となる。iTeroなどは基本的にメーカーサービスによる保守点検で精度維持されるが、TriosやPrimescanでは付属の校正用ブロックを用いてユーザー自身が定期校正を行う仕様である。校正不足のままではデータ精度が低下し、適合不良の原因となりかねないため、運用ルールに組み込むことが望ましい。画質や解像度の設定も品質に影響するが、多くの機種では自動最適化されており、ユーザーはスキャン範囲(フルアーチか部分か)を選択する程度である。例えばフルアーチスキャンでは部分スキャンに比べデータ量が多く処理負荷が高まるため、症例に応じて適切な範囲設定を選ぶことで効率と精度のバランスを取る。

データ送信と活用については、各メーカーのクラウドプラットフォームを理解しておく。iTeroの場合は専用ポータル「My iTero」を介してインビザライン発注やデータ管理が行われる。Primescanではデンツプライシロナのクラウド「DS Core」が用意され、ラボや専門医とポータル経由でシームレスにデータ連携できる。いずれも暗号化通信とアクセス制限が施されているが、患者データを外部クラウドに預ける形になるため、患者説明と同意取得、プライバシーポリシー整備などの対応が医院には求められる。トラブル時の代替手段も考慮しておきたい。ネット障害で送信できない場合は、一時的にUSBメモリ等でデータをラボ搬送する、機器故障時は従来印象に切り替えるなど、バックアッププランも用意することで診療の滞りを防げる。

安全管理と説明の実務

口腔内スキャナーは非侵襲的で被ばくもない安全な機器であるが、医療機器としての適切な管理が必要である。前述のとおりiTeroやPrimescanは特定保守管理医療機器に分類されており、使用にあたっては院内での責任者指定や保守計画の策定が義務付けられる。具体的には、メーカー(販売代理店)が推奨する定期点検スケジュールに従い、光学系や電子部品のチェック、ソフトウェアの更新を行うことになる。モリタから購入した場合、同社のサービスエンジニアがこれら点検・ソフト更新を担うため、導入医院は計画に沿って協力する形で安全性を維持できる。

感染対策上は、スキャナーの先端チップの滅菌管理が最重要である。多くのスキャナーは着脱式のチップを採用しており、高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)が可能になっている。例えばiTeroエレメント5Dではチップのオートクレーブ滅菌が繰り返し可能(一定回数まで)で、Primescanも交換式チップを滅菌して使用する設計である。それぞれ耐久回数が規定されており(一般に100回程度)、管理シートで使用回数を記録して寿命を迎える前に新品と交換する運用が望ましい。滅菌不十分な状態で再使用すると交差感染リスクがある点は、バーや印象トレイと同様にスタッフへ周知徹底すべきである。なお電子機器である本体は滅菌できないため、術者の手袋越しに扱うこと、および患者ごとに本体表面をアルコール等で清拭消毒することが基本となる。

患者への説明については、新しい機器ゆえに何をされているか分からないと感じさせない配慮が必要だ。スキャナーを口腔内に挿入する際、「小型カメラで歯型を記録します」など平易な表現で手順を説明し、強い光が当たることや機械音が少しすることを事前に伝えると安心感を与えられる。幸い多くの患者は「型取りの材料より楽だ」と好意的に受け止めるが、もし途中で気分不良を訴えた場合は直ちに中断し体勢を整えるなど柔軟に対応する。デジタル機器特有の留意点としては、取得データの扱いに関する説明も求められる。クラウド保存される場合、「データは安全に管理され、治療以外の目的に使われない」ことを明言して疑念を払拭する。また治療後には、患者に自身の口腔内データを画面で見せながら結果を説明することで、視覚的に理解を深めてもらえる。例えばスキャンデータ上で補綴物のフィット状況や矯正治療経過を確認すれば、術後説明とメインテナンス意識の向上にも役立つだろう。

費用と収益構造の考え方

導入コストの内訳を明確に把握することは、経営判断上不可欠である。初期費用として本体価格の他に、周辺機器やソフトウェア費用を含めて算出する。iTeroであれば前述の通りモデルにより500~700万円台となり、ノートパソコン型(エレメントフレックス)を選べばやや安価だがそれでも約480万円(税抜)である。一方、Primescanは基本構成が約600万円で、CADソフトウェア(セレックSW)が約190万円、さらにミリングマシン(セレックMC XLなど)を導入すれば数百万円単位の追加投資となる。結果として即日補綴のフルセットでは総額1,000万円を超える可能性がある。保守契約やライセンス費も忘れてはならない。iTeroは必須の月額ライセンスがあり、年間約48万円のランニングコストが固定的に発生する。一方Primescanはライセンス料こそ不要だが、CADソフトのアップグレード費用やクラウドサービス利用料(必要に応じて)など変動費用が発生する。これらを年間コストに換算し、減価償却費と合わせて試算すると、ざっくり年間100~150万円程度が維持費の目安となる。加えてスタッフ研修費や消耗品(スキャナーチップ交換代等)も予算計上しておくべきだ。

では、これら費用をどう回収するかが収益構造の分析となる。大きくは二通りのアプローチがある。一つはコスト削減効果である。具体的には、印象材・石膏・トレイ等の材料費、印象採得や模型作製にかかっていたスタッフ時間、さらには発送の手間や往復の宅配便費用などが軽減される。例えば印象材コストが1症例あたり数百円~千円程度とすると、月間100症例で数万円の節約になる計算だ。5年スパンでは数百万円規模となり馬鹿にできない。一方、スキャナー維持費がそれを上回る場合は差し引きコスト増となるため、削減効果だけに頼るのは危険である。

もう一つのアプローチは収入増加効果である。こちらが本命と言えるが、実現には経営戦略と連動した活用が必要だ。まず、自費診療の拡大が挙げられる。マウスピース矯正を積極展開するなら、iTeroの活用で患者への訴求力が増し矯正件数が増加すれば、大きな収益源となる。仮にインビザライン1症例の治療費を70万円とすれば、10症例増えるだけでも700万円の売上増であり、機器代を十分回収しうる。また補綴分野でも、「最新のデジタル技術による高精度な治療」をアピールすることで高額な自費補綴への移行を促すことができる。例えば自費クラウンの説明時に「精密な光学スキャンで型どりを行います」と付加価値として提示すれば、患者の安心感や納得感につながり、価格に見合うサービスとして受け入れてもらいやすくなる。

さらに見逃せないのはリコール率や紹介率への影響である。従来より快適かつ確実な治療体験を提供できれば、患者満足度が向上し定着率アップや口コミ紹介につながる可能性が高い。具体的な数値化は難しいが、「あの医院は最新設備が整っている」という評判が地域で広まること自体がブランディング効果を持ち、長期的には新患増につながるだろう。このように直接の診療収入+間接的な経営効果の両面を合計し、中長期で投資を回収できるかを判断することになる。上述の保険加算18点は微々たる額であり、現状では収益構造への寄与は限定的だが、将来的に適用範囲拡大により恩恵が増す可能性もゼロではない。例えばCAD/CAM冠やブリッジ等にも保険で光学印象が認められ、相応の技術料が設定されれば、公的収入面からも追い風となるだろう。とはいえ現段階では不確実要素であるため、確実に見込める自費分野の収益改善を軸にプランを立てるのが現実的である。

スペース・電源・法規要件

大型装置と比べ、口腔内スキャナーの導入は物理的ハードルが低い。専用スペースは診療チェアサイドのわずかな空きで足りる。カートタイプの場合でもユニット1台分程度の面積で、使用しない時は隅に寄せておける。ノートパソコン型であれば棚に収納も可能だ。強いて言えば、院内LAN環境の整備が準備事項となる。クラウドへ症例データを送る際に高速インターネット回線は必須であり、有線LAN接続が推奨される(無線Wi-Fiでも可能だが安定性に注意)。またデータは患者プライバシー情報でもあるため、ネットワークのセキュリティ対策(ファイアウォール、アクセス権限管理など)も再点検したい。

電源に関しては、通常のAC100V電源があれば十分で特別な工事は不要である。強電設備が必要なCTとは異なり、院内コンセントに挿すだけで稼働する手軽さはメリットと言える。停電時には当然使えないため、重要症例の前にはUPS(無停電電源装置)を用意するか、最低でも保存データのバックアップを取っておく程度の備えは考えたい。

法規制面では前述した管理医療機器としての取り扱い以外に、医療広告ガイドラインとの関係も配慮が要る。口腔内スキャナーの導入自体は施設基準のような届出事項ではないが、患者向け広告で「当院は最新の○○スキャナー完備」などと過度に強調すると優良誤認につながる恐れがある。事実を淡々と伝える分には問題ないが、「これで絶対精密な治療ができる」といった断定的表現は避けるべきである。説明会や院内掲示でのPRは適切な範囲で行うよう留意したい。また、デジタルデータの取り扱いは個人情報保護の観点からも重要で、保存期間や第三者提供の有無など、院内規定を作成してスタッフと共有しておくことが望ましい。

品質保証と保守サポートの実務

高額機器である以上、導入後の品質保証とサポート体制も慎重に確認しておきたい。まず保証期間だが、多くのメーカーは1年間の製品保証を付帯している。モリタで購入する場合、標準保証に加えて延長保証プランへの加入が可能なケースもある。例えば一部の機種では5年延長保証サービスが提供されており、所定の追加費用で故障時の無償修理や代替機貸出が受けられる(※Aoralscan3の例。iTeroやPrimescanでも販売代理店経由で類似の延長保証が検討できる)。クリニックのリスク許容度に応じて、延長保証や保険への加入も検討すべきだろう。

保守サポートについて、モリタは全国に営業所・サービス拠点を持つ歯科ディーラーであり、導入からメンテナンスまで一貫した支援が受けられる点は大きな安心材料である。特にデジタル機器に不慣れな医院では、初期設定やスタッフ研修を丁寧にフォローしてもらえるかが成否を分ける。モリタでは導入時に操作説明会を実施したり、必要に応じ院内デモを重ねてスタッフ習熟をサポートしてくれる。さらにトラブル発生時には、電話相談や遠隔操作でのソフト不具合対応、必要ならエンジニアの迅速な訪問修理が期待できる。メーカー直販の場合は問い合わせ先が限られることもあるが、ディーラー経由だと担当営業が窓口となり機器以外のことも含めて相談できるメリットがある。

品質保証上もう一点重要なのは、ソフトウェアのアップデート管理である。口腔内スキャナーの性能はハードだけでなくソフトによっても向上する。新しい解析アルゴリズムや機能追加が年々リリースされており、最新バージョンを適用することでスキャン精度や処理速度が改善することがある。iTeroの場合はクラウド連携しているため自動的にソフト更新されるが、Primescanや他社製は手動更新が必要なことも多い。アップデートを怠ると既知の不具合が残ったまま使い続けるリスクがあるため、メーカーからの通知に注意し早めに実施する。古いPCとの互換性にも留意し、ソフト要求仕様を満たすハードウェア環境を維持することが望ましい。

最後に、データのバックアップと移行も品質保証の一環である。スキャナーで取得したデータは患者の大切な記録であり、万一の機器交換やメーカー変更に備えてエクスポート機能で都度バックアップを取っておくと安心だ。STL形式で保存しておけば他システムでも閲覧可能である。クラウド上のデータも、退会時に全てダウンロードできるかなど規約を確認しておくと良い。これら地道な管理を怠らず行うことで、導入機の性能を長期間安定して引き出すことができ、最終的には高品質な歯科医療サービスの提供につながる。

外注・共同利用・導入の選択肢比較

デジタル化への対応として、必ずしも自院で機器を所有する以外の道も存在する。外注(アウトソーシング)と共同利用という選択肢である。それぞれメリット・デメリットがあるため、導入との比較検討材料として整理する。

まず外注だが、これは従来どおりアナログ印象を採得し、技工所側で光学スキャンしてもらう方法である。多くの歯科技工所は模型スキャナーや口腔内スキャナーを保有しており、医院から送られた印象や模型をデジタル化してCAD設計を行っている。医院側は機器投資ゼロでデジタル技工の恩恵を受けられるが、反面その場での確認やシミュレーション提示といった即時性のメリットは享受できない。またアナログ→デジタル変換の手間が技工所側で発生するため、技工料金にスキャン代が上乗せされるケースもある。しかし初期コスト負担がない点で、デジタルの波に乗り遅れないための現実解として有効な場面も多い。例えば保険診療主体で自費が少ない小規模医院では、この方法で充分ニーズに応えられるだろう。

一方共同利用は、文字通り機器を他院とシェアする形である。具体例としては、地域の開業医数名で協議し1台のスキャナーを購入、持ち回りで使用するといったケースや、歯科医師会やスタディグループ単位で機器を設置し予約利用する方法などが考えられる。実際に最新の高額機器(たとえば歯科用3Dプリンターやミリングマシン)では共同所有の例もある。ただ口腔内スキャナーの場合、日常診療で頻繁に使うことを想定すると共用はスケジュール調整が難しく、現実的にはあまり一般的ではない。むしろ考えられるのは期間限定のレンタル利用だ。モリタなど販売店によってはデモ機の貸し出しやレンタル契約を扱っている場合があり、試験的に数週間~数か月スキャナーを借りて使ってみることができる。これにより、自院スタッフの適応度や患者の反応、運用上の課題を事前に洗い出すことができる。導入判断に迷う際は、このようなトライアルを活用するのも賢い方法である。

最終的には自院での導入がもたらすメリットは大きい。リアルタイム性、患者説明力、ワークフロー短縮といった恩恵は、外注では得られにくい。また一度使い始めると従来の印象採得には戻れないほど効率的との声も多い。しかしそれは十分な症例数と活用計画があってこそ発揮される利点である。医院の規模・診療内容によっては、現段階で無理に導入せず様子を見る選択も決して間違いではない。周囲の導入状況や技術の成熟度を見極めながら、外注でデジタル技工に慣れておき、時機が来たら満を持して導入するというステップでも遅くはないだろう。

よくある失敗と回避策

新しいデジタル機器導入には成功例がある一方で、残念ながら失敗例も存在する。ここではよくある失敗パターンを挙げ、その回避策を考える。

【失敗例1】宝の持ち腐れ

高額なスキャナーを購入したものの、使いこなせず放置してしまうケースである。原因として多いのは、院長だけが張り切って導入したがスタッフが十分に教育されておらず、忙しさにかまけて結局従来法に戻ってしまう、というパターンだ。回避策として、導入前後のスタッフトレーニング計画をしっかり立てることが重要だ。メーカーやモリタの担当者と相談し、操作説明会を複数回開催する、エキスパートユーザーの医院見学にスタッフを派遣する、さらには資格制度の活用(例えばiTeroでは認定トレーニングプログラムがある)など、スタッフの習熟度向上に投資を惜しまないことが大切である。また導入初期は意識的に適応症例を選んで積極的に使うようにする。例えば毎週●曜日はデジタル印象デーと決め、簡単なケースからでも全てスキャンで行うといったルーティン化が効果的だ。

【失敗例2】ROI過大見積り

導入に際し過度に楽観的な収支予測を立て、期待したほど収益が上がらず機器代の回収に苦しむケースである。特に営業トークで「○件増でペイできますよ」と言われた数値を鵜呑みにしてしまうと危険だ。避けるには、悲観シナリオでも耐えられる資金計画を立てることだ。たとえば自費が思ったほど伸びなくても、印象材コスト削減だけで半分は元が取れる、といった複数の収益源に基づく計画にしておく。また機器は買ったら終わりではなく、年数とともに陳腐化するため減価償却期間内に十分稼働させる努力が必要だ。購入後数年放置してから使い始めてもROIは悪化するだけなので、導入タイミングを誤らないことも肝要である。

【失敗例3】患者説明不足によるトラブル

スキャナー自体が原因ではないが、新しい技術に対する患者の理解不足からクレームにつながる例もある。たとえば「従来の型取りより簡単と言われたのに、実際は長時間口を開けていてつらかった」等の不満が出る場合だ。これは術者側のコミュニケーション不足が招く問題である。回避するには、事前説明でメリットと手順を丁寧に伝えることだ。スキャン自体は基本的に患者負担が軽いが、症例によっては5~10分要することもある。その間じっとしてもらう必要がある旨や、場合によって従来印象に切り替える可能性もあることを説明しておけば、患者の構え方も違ってくる。また「最新機器を使えば完璧」という誤解を与えないよう、あくまで精度向上に資する道具であり最終チェックは人間が行う旨を伝えることも信頼維持には重要だ。

【失敗例4】複数機種導入による混乱

欲張って一度に複数のデジタル機器を入れ、院内ワークフローが追いつかず混乱するケースもある。例えばスキャナーと同時にミリングマシンや3Dプリンタも導入したものの、オペレーションが複雑化してスタッフが疲弊するといった事態だ。デジタル化は段階的に行い、一つずつ定着させてから次に進むのが望ましい。まずはスキャナーのみ導入し、ラボとのデータ連携がスムーズに軌道に乗ったら、次に院内製作機器の導入を検討するという具合である。順を追って慣れることで、最終的にはデジタルフロー全体を無理なく運用できるようになる。

以上、失敗例から学ぶ教訓は「計画・教育・コミュニケーション」の3点に集約できる。これらを怠らなければ大きな失敗は避けられるはずだ。

導入判断のロードマップ

ここまでの検討を踏まえ、実際に口腔内スキャナー導入の是非を判断するプロセスをロードマップ形式で示す。医院の状況に応じて柔軟にアレンジしていただきたいが、一例として以下のようなステップが考えられる。

【Step 1】現状ニーズの洗い出し

まず自院の診療内容と課題を棚卸しする。月あたりの補綴物件数、矯正治療の有無と潜在需要、印象採得に費やしている時間やストレスの程度、患者からの要望(「型取りが苦手」など)があれば記録する。これにより、スキャナー導入で恩恵を受ける領域がどこにあるかを明確化する。

【Step 2】導入効果の定量評価

次に、考え得る導入効果を数値で試算する。例えば「補綴の印象のうち○%をデジタル化し、再製作率を△%減らせれば年間◇件の減少、材料費○円節約」「インビザラインを年▲症例増やせれば売上◯円増加」といった具合である。これらの合計と費用(機器減価償却+維持費)を比較し、何年で回収できる計画かをシミュレーションする。悲観ケース(効果半減)でも破綻しないか確認しておく。

【Step 3】機種選定と情報収集

概算で採算の目処が立ったら、具体的な製品選びに入る。iTeroとPrimescanという二大選択肢について、特徴・費用・他院の評判など情報を集める。モリタの担当者に来院してもらい、製品デモや見積もり提示を受けるのも良いだろう。両機種ともモリタで取り扱っているため、一つの窓口で比較相談できる利点がある。自院のニーズ(矯正重視か補綴重視か)に照らしてどちらが合うか、迷う場合は導入済みの同業の先生に意見を求めるのも有用だ。

【Step 4】購入計画の具体化

機種を決めたら、資金計画である。自己資金で購入か、リース・分割払いを利用するか検討する。リースの場合、月額リース料とランニングコストを合算し、先の収益シミュレーションと照合してキャッシュフローを確認する。また納期や導入時期も調整する。繁忙期を避け、スタッフの手が空きやすい時期に合わせて導入できれば理想的だ。モリタと契約締結後、設置日や初期講習の日程を決める。

【Step 5】院内準備と研修

納品までに院内体制を整える。まずスペース確保とネット環境のチェックを済ませる(有線LANポートの増設など必要なら対応)。次にスタッフへの事前説明を行い、導入の目的と期待効果を共有してモチベーションを高める。資料や動画で基本操作を予習してもらうのも良い。メーカー側とも打ち合わせし、当日の研修内容(実際にスタッフが互いにスキャン練習する等)を確認する。

【Step 6】導入後のフォローアップ

機器が納入され研修を受けたら、さっそく日常診療で活用していく。初期には簡単なケースから使い始め、成功体験を積み重ねる。例えば補綴なら単独インレーなど小さなケースでスキャン・デザイン・装着までの流れを掴む。定期的にモリタ担当者がフォローに訪れてくれるので、不明点やトラブルは都度相談し解決する。導入3か月後・6か月後には収益面も中間評価し、当初の見込みとの差異があれば原因を分析する。スタッフの声も聞き、運用ルールの改善(スキャン担当の固定化やタイムチャート調整など)を図る。こうしたPDCAサイクルを回しながら、デジタルワークフローを医院文化に根付かせることが最終目標である。

以上のステップを踏むことで、大きなリスクを避けつつ計画的に導入の是非を判断できるだろう。ポイントは、数字と現場感覚の両方をバランス良く考慮することである。机上の計算だけでも、情熱だけでも適切な意思決定は難しい。現場の声を大切にしながら、しかし冷静な経営視点を失わずに導入を進めていただきたい。

出典一覧

  1. インビザライン・ジャパン ニュースリリース(2023年3月31日): モリタと口腔内スキャナー「iTero」およびインビザラインGoの販売代理店契約を締結(モリタでの販売開始は2023年5月8日)
  2. モリタ デンタルプラザ「近畿デンタルショー2023 モリタブースレポート」: モリタがインビザライン・ジャパンの口腔内スキャナー「iTero」を新しく取り扱い、デンタルショーで初展示(2023年5月8日より販売開始)
  3. Mセラミック工房「日本国内で流通している口腔内スキャナー全機種一覧」(2022年11月22日): デンツプライシロナ社のセレック プライムスキャンはモリタでも販売取扱いがあると記載
  4. フォルディネット 製品詳細「iTeroエレメントシリーズ インビザライン Go システム」: iTero各モデルの価格(エレメント5Dプラス約6,660,000円等)および補綴・矯正モード12か月後から月額40,000円のライセンス料が必要と明示
  5. フォルディネット 製品詳細「DI プライムスキャン」: Primescan本体価格6,000,000円、CERECソフトウェア1,900,000円など価格情報。医療機器承認番号と管理区分(特定保守管理医療機器)も記載
  6. モリタ デンタルプラザ デンタルマガジン記事(No.191 内田宏城医師): 「iTeroエレメントは一度に多くの精密な口腔内データを取得でき、矯正治療のみならず様々な臨床に用いることが可能」との記述
  7. 上記デンタルマガジン記事: 「スキャンした口腔内データは即座に現在の状況や治療の進捗を患者に伝えられる。スキャンスピードが速く精度も高いため治療時間短縮に寄与」との記述
  8. 上記デンタルマガジン記事症例2: iTeroで取得したデータを用いインビザラインGoの治療計画を立案。シミュレーションにより患者が治療を開始する動機付けになった旨の言及
  9. 上記デンタルマガジン記事症例3: iTeroの「咬合間隙ツール」により咬合接触の強い部位を可視化し、患者理解と治療正当性の説明に役立ったとの記述
  10. 技工士ドットコム「プロが解説!IOS導入で儲かるの?~CADインレー編~」(2024年2月27日): 2024年6月より光学印象が保険収載されCAD/CAMインレーで18点加算となること、従来の印象との差分が18点=180円の純増であると解説
  11. 上記記事: 200万円の廉価版スキャナー購入でもCADインレー適用のみでは回収に12,220本(約23年)かかり非現実的との試算を提示し、保険適用範囲が現状狭くROIは立たない点を指摘
  12. モリタデンタルプラザ internetDOカタログ「A-Oralscan3 ワイヤレス」: 5年延長保証に関する記述(※他社製品だがモリタ取り扱い機器の保証サービス例として言及)