
デンツプライシロナの口腔内スキャナー「プライムスキャンコネクト(Primescan Connect)とは?価格や使用感、カタログを解説
夕方の診療終盤、補綴の印象採得が立て込みスタッフも医師も慌ただしく動いていた。ある患者では嘔吐反射が強く、印象材を口腔内に留めることが困難で何度も採り直しとなった経験はないだろうか。従来のアルジネートやシリコン印象では型取りに数分を要し、その間の不快感や変形リスクがつきまとう。印象が不十分であれば補綴物の適合不良や再製作にも直結し、院内の生産性や収益を圧迫する。こうした臨床現場の課題に対し、デジタル印象によるワークフロー革新が注目されている。デンツプライシロナの口腔内スキャナー「プライムスキャン コネクト (Primescan Connect)」は、同社の高性能スキャナー技術をラップトップPCで扱える形に凝縮した新モデルである。本記事では、その臨床的メリットと経営的含意を多角的に解説し、読者が翌日から適切な導入判断・運用改善に活かせる知見を提供する。
要点の早見表
項目 | 内容 |
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機器概要 | Dentsply Sirona社の高精度口腔内スキャナー。専用カート型「Primescan」の性能をそのままに、ラップトップPC接続型としたモデル。2023年発売。 |
臨床適応 | インレー・クラウン・ブリッジ・インプラント上部構造・矯正用モデルなど歯科補綴全般の印象採得に利用可能。嘔吐反射の強い患者や咬合力で印象変形が生じやすい症例でも有用。 |
禁忌・注意 | 無歯顎の患者への全面的な応用(補助マーカー無しの完全義歯印象)は精度確保が難しい。開口量が極度に小さい患者ではスキャナー先端が届かず撮影困難な場合がある。重度の出血や唾液コントロール不良の状態ではスキャン品質が低下するため事前対応が必要。 |
特徴的な性能 | 測定深度最大20mmの高い描画力と約100万3Dポイント/秒の高速データ処理により、支台歯の深いマージンやインプラントのアバットメントも高精度に記録。広視野カメラと独自のコントラスト解析技術(HFCA)でフルアーチも短時間でスキャン可能。先端部に防曇ヒーター搭載で長時間の連続撮影でもレンズの曇りを防止。パウダーレスで金属修復物や濡れた表面も直接スキャン可能。 |
ワークフロー | スキャナーをUSB経由でノートPCに接続し使用。口腔内を直接撮影し即座にカラー3Dモデルを生成。そのままクラウド「DS Core」へ自動アップロード可能で、ラボや専門医とデータ共有が容易。必要に応じて院内設置のミリングマシンで即日補綴物製作も可能(別途ソフト・機器導入時)。 |
安全管理 | 非放射線の光学撮影であり被ばくなし。先端スキャナー部は患者ごとに交換可能なディスポーザブルスリーブ(滅菌済カバー)または金属スリーブ(オートクレーブ滅菌対応)を装着し交叉感染を防止。医療機器クラスIIに分類され、法規上は管理医療機器として院内管理者配置と定期点検が求められる(特定保守管理医療機器)。 |
導入コスト | スキャナー本体標準価格約2,400,000円(税抜)。初期設定費用120,000円、トレーニング費用(任意)150,000円。PCは別途高性能なものを用意(推奨スペックを満たす必要あり)。保守サービス「DS Core Care」契約により故障時の迅速交換や破損補償対応も可能。消耗品は使い捨てスリーブ(約1,000円/個)等。 |
収益への影響 | 保険適用の拡大によりCAD/CAMインレーで光学印象を行った場合に1歯あたり100点の加算収入(2024年6月~)が可能となった。自費診療では高精度な補綴提供による再製作削減・患者満足度向上が期待できる。従来の印象材費用や外注モデル作製料の削減、チェアタイム短縮による回転率向上も収益に寄与し得る。 |
導入形態の比較 | 自院導入のほか、近隣技工所でのスキャンサービス利用や他院との共同利用も検討可能。ただし患者移動やデータ連携の手間を踏まえると診療所内に設置する意義が大きい。既存CERECユーザーは本製品を追加導入し複数チェアで運用するケースも。 |
ROIの目安 | 自費補綴の割合やCAD/CAMインレー件数によって異なる。例えば月に自費クラウン20本・CAD/CAMインレー10歯程度をデジタル化する医院では、再印象削減や加算収入を含めておよそ3~5年での機器償却が視野に入る。リース活用時は月額リース料と想定増収を比較検討する。 |
理解を深めるための軸
プライムスキャン コネクトの価値を評価するには、臨床的な軸と経営的な軸の双方から検討することが重要である。臨床面では、スキャナーの精度や速度が診療アウトカムに与える影響を整理する。例えば、どの程度まで正確にマージンや咬合関係を再現できるか、それによって補綴物の適合精度や調整時間がどう改善するかといった点である。また患者体験の向上も見逃せない。嘔吐反射による苦痛軽減や、スキャン直後に3Dモデルを患者と確認できることで説明同意が円滑になるという効果が考えられる。
一方、経営面では投資に見合う収益性と運用効率の評価が軸となる。初期導入費用に対し、どれだけのコスト削減や収入増加が得られるかを数値で捉える必要がある。具体的には、印象材や石膏模型の材料費・外注費の削減額、再治療や補綴物再製作の減少による無償手直し時間の圧縮、そして保険加算や自費診療拡大による収益増が指標となる。また、チェアタイムの短縮により一日あたりの診療回転数を増やせる可能性や、先進機器導入による医院ブランディング効果(新患増加や紹介増)など、定量化しにくい要素も含めて検討したい。
この両軸は時にトレードオフとなる。例えば最高の精度を追求してフルアーチのスキャンを念入りに行えば時間がかかりすぎ、収益効率を下げる可能性がある。逆にスピード優先で粗いデータでは補綴物の精密さを損ない臨床リスクとなる。プライムスキャン コネクトは、従来機Primescan譲りの高速・高精度スキャンを武器にこのトレードオフを小さくすることを目指した機器である。以下、具体的なトピックごとに臨床と経営の観点を統合しながら掘り下げる。
代表的な適応と禁忌の整理
プライムスキャン コネクトは口腔内のあらゆる補綴領域で活用可能である。代表的な適応として、う蝕治療後のインレー・アンレー、小~大臼歯部のクラウン・ブリッジ、インプラント症例の上部構造製作、さらに矯正用モデル採得やマウスピース製作のための全顎スキャンなどが挙げられる。従来のシリコン印象では難渋しがちな長大ブリッジや多数歯補綴も、継ぎ目なくスキャンデータを取得できるため、模型の変形や収縮を気にせずフルマウスケースに対応できる。また隣接する残存歯の形態や対合歯との咬合関係も同時にデジタル記録できるため、技工指示用の咬合採得も簡便である。
一方で、禁忌というほどではないが注意を要するケースも存在する。完全無歯顎の症例に対しては、口腔内に固定的なランドマークが少ないためスキャンデータが不安定になりやすい。他社製も含め口腔内スキャナー全般の課題だが、無歯顎では粘膜の可動による変形や位置合わせの難しさから、総義歯の最終印象には未だ従来法が選択される傾向がある。もっとも一次印象から個人トレーや咬合床を製作するステップでデジタル技術を組み合わせる試みも始まっている。部分的な欠損補綴では基本的に適応だが、残存歯がほとんど無い広範な欠損では無歯顎に近い問題が生じるため注意したい。
その他、小児や開口困難な患者ではスキャナー先端(約16×16mmの撮影窓と先細部を含め全長約25cm)の挿入に苦労することがある。従来機よりスキャナー先端は細く改良されているが、それでも奥歯遠心や口蓋部を撮る際に患者の協力が不可欠である。また重度の歯肉出血や唾液過多の状態では画像が乱れやすいため、スキャン前の止血措置や開口器・唾液エジェクターの活用で視野を安定させることが重要となる。以上を踏まえれば、一般的な補綴治療には広く適応でき、禁忌らしい禁忌は少ない機器である。ただし万能ではない点(特に無歯顎領域)と症例ごとの事前準備の大切さを認識しておくべきである。
標準的なワークフローと品質確保の要点
スキャン手順
プライムスキャン コネクトはUSB接続でノートPC上の専用ソフトウェア(Digital Impression Software)を起動して使用する。起動後すぐに口腔内撮影が可能で、スキャナーを歯列にかざすとリアルタイムにフルカラーの3Dモデルが画面に構築されていく。上顎・下顎・咬合と順次スキャンし、必要に応じ不鮮明な部位を追加入力する。広い一回の撮影範囲と高性能な画像処理により、全顎スキャンでも1~2分程度で完了することが可能である(慣れれば従来印象採得より短時間の場合も多い)。スキャン完了後はソフト上で不要なデータのトリミングや欠損部の補完ができ、クラウド経由で技工所に送信したり、そのまま院内で設計・加工工程に進むこともできる。
品質確保のポイント
高精度なデジタル印象を得るには、機器性能だけでなく術者のテクニックと適切な準備が重要である。まず支台歯形成の段階でマージンが明瞭に見えること、軟組織の圧排が十分であることが前提となる。従来印象と同様、必要に応じて歯肉圧排コードやジンジバルミシン(歯肉圧排ペースト)を用いて辺縁部を露出させる。唾液や血液が多い場合は乾燥させ、鏡面反射が強いメタルコアなどはパウダースプレーを薄く吹くと読み取り精度が上がる場合がある(基本的にはパウダーレス設計だが、術者裁量で補助可能)。プライムスキャン コネクトは防曇機能により長時間のスキャンでもレンズが曇りにくいものの、口腔内が狭いと先端が粘膜に触れやすくなるため、可能な限り患者には大きく開口してもらう。
撮影中のポイントとして、スキャナーの保持方法も精度と速度に影響する。比較的重量があるため(約500g弱)、ペングリップで細かく動かすか、パームグリップで安定させるか術者により使いやすさが異なる。手ブレが起こるとデータにノイズが発生するため、肘を固定し落ち着いて操作する。全顎を一気に撮ろうとせず、適宜画面上で欠損部がないか確認しながら部分ごとに確実にスキャンすることが再撮影防止につながる。またキャリブレーションにも留意が必要だ。機種出荷時に較正はされているが、定期的に付属の校正用モデルで較正チェックを行うことで常に最適な精度を維持できる。ソフトウェアもアップデートにより性能向上や不具合修正が図られるため、メーカーからの更新情報を確認し適宜アップデートする。
データ管理
撮影後のデータは患者IDに紐づけてPC内およびクラウドに保存される。診療直後に必ずデータのバックアップと送信が正常に行われたか確認し、万一のデータ消失リスクに備える。DS Coreを利用すれば、自動でクラウドにアップロードされるため院内サーバーに依存しない安全な保管が可能である。ただしクラウド未使用の場合は自前で定期的に外部ストレージ等へのバックアップを取る運用を徹底したい。以上のように、精度確保には術前準備・スキャナー操作・校正とデータ管理の全てが欠かせない。高性能とはいえ機械任せにせず、人による品質管理サイクルを組み込むことで、常に安定したデジタル印象を提供できる。
安全管理と説明の実務
患者安全と感染対策
プライムスキャン コネクト自体は光学機器でありX線を使わないため、患者への放射線被ばくは一切ない。これは従来のレントゲン撮影等と異なり説明が容易な利点である。患者口腔内に挿入するスキャナー先端部については、専用のスリーブを介して清潔に保つ。金属製スリーブはオートクレーブ滅菌可能で繰り返し使用できるが、傷や劣化が生じた場合は画像品質低下を招くため定期交換が必要だ。ディスポーザブルスリーブは使い捨てで患者ごとに新品と交換することで最高水準の感染対策となるが、コストとのバランスを各医院で検討したい。50個入り約5万円程度で提供されており、1症例あたり1,000円前後の費用となる。感染リスクの高い患者や免疫低下者の場合にはディスポーザブルの使用が望ましい。装着時にはスリーブのしっかり装着されていること、破損や穴あきが無いことを確認する。使用後のスリーブ廃棄や機器表面の消毒はスタンダードプリコーションに則って確実に行う。
患者への説明と同意取得
デジタル印象は患者にとって比較的新しい概念であり、事前の分かりやすい説明が信頼関係構築に繋がる。「お口の中を小型の3Dカメラで撮影し、歯型をデジタル記録します」といった平易な表現で説明すると理解されやすい。従来の粘土状の型取り材を使わないため「吐き気を感じにくく、短時間で終わります」と利点を伝えると、多くの患者が安心し協力的になる。実際、嘔吐反射の強い患者ほどこの方法に救われるケースが多い。加えて、スキャン後すぐ画面上に自分の歯の立体像が映し出されるため、「この部分を治療します」「このように被せ物が乗ります」と視覚的に説明できる。患者自身が現在の口腔状態をリアルに把握できることは同意取得を円滑にし、場合によっては治療への積極的参加意識を高める。
一方でデジタルならではの留意点もある。取得したデータがクラウド「DS Core」にアップロードされる仕組みを利用する場合、患者情報(スキャンデータや氏名など)が院外のサーバーに保存される。これは患者プライバシー保護の観点から事前に説明し同意を得るべき事項である。DS Coreは高度なサイバーセキュリティ対策が施されており信頼性は高いとされるが、患者には「データは暗号化され安全に管理され、治療以外の目的には使用しません」と保証することが望ましい。また、デジタルデータも診療記録の一部として一定期間保存が義務付けられている。紙の印象と異なり劣化しないメリットはあるが、データ消失には注意し、バックアップ方針も含め説明できると良い。総じて、患者に対してはデジタル技術の利点を強調しつつ、安全管理策やプライバシー保護に万全を期している点を伝えることで安心して治療を受けてもらえる。
費用と収益構造の考え方
初期費用の内訳
プライムスキャン コネクト導入にかかるコストは主に本体代と付帯費用に分けられる。本体標準価格は約240万円(税抜)であり、カート一体型の旧来モデル(約600~790万円)と比べれば大幅に低価格化されている。これに加え、現地設定やユーザートレーニング費用が必要だ。デンツプライシロナ社では初期設定サービス料として12万円、希望に応じて操作トレーニングが15万円/回と提示されている。また、接続に用いるノートPCはユーザー側で用意する必要があり、高速処理が可能なグラフィック性能・メモリ容量を備えたものが推奨される。一般的にCore i7以上のCPUと16GB以上のRAM、GPUもミドルクラス以上を搭載した最新Windows PCが望ましい。メーカー推奨スペックを満たすPCは30~50万円程度を見込む。さらに感染対策用品(スリーブ類)やキャリブレーション用モデル、ソフトウェア保守契約費などが初年度から発生する。
ランニングコスト
運用上の継続費用としては、ソフトウェアライセンスやクラウド利用料が挙げられる。プライムスキャン コネクト本体の使用自体に月額ライセンス料はないが、オプションで活用するDS Coreクラウドサービスは基本プランが無料でも、データ容量や機能拡張によって有料プラン加入が必要となる場合がある。また、ソフトウェアアップデートやサポートを受けるための保守契約(いわゆるソフトウェア保守料)を設定しているメーカーもあり、導入後数年おきに更新費用が発生する可能性がある。ハード面ではスキャナー先端スリーブの消耗と、数年に一度の本体メーカー点検・修理費用を計画しておきたい。DS Core Careと呼ばれるサービスプランに加入すると、故障時の翌営業日交換対応や不慮の破損時の補償が含まれる。その費用も年間契約料として予算化する必要があるが、ダウンタイムを最小化し安心して機器を運用する上では有用な投資と言える。
収益構造と回収シナリオ
投資回収(ROI)を考える際、直接的収入増と間接的効果の両面から試算する。直接的には、前述の通り2024年よりCAD/CAMインレーの光学印象に100点(1,000円相当)の保険点数が付与されるようになった。例えば月に20本のCAD/CAMインレーを行う場合、単純計算で月2万円・年24万円の増収となる。また近い将来、CAD/CAMクラウンやブリッジへの光学印象加算も拡大される可能性が高く、適用範囲が広がればさらなる収入増が期待できる。自費診療においては、光学印象そのものを追加料金とするケースは少ないが、高品質なデジタル補綴物の提供により補綴物の単価設定や付加価値サービスで収益性を高めることができる。具体的には「最短◯日でセラミッククラウン提供」など即日治療メニューを整備したり、デジタル技工物の精度を訴求して集客につなげる戦略が考えられる。
間接的な経済効果も見逃せない。印象材・トレー・石膏模型といった消耗品コストの削減、外注模型作製や宅配便送料の減少は月数万円規模でコストダウンにつながる。さらに再印象・補綴物再製作が減ることで材料と技工料金の二重支払いを防ぎ、担当スタッフや技工所との追加調整の手間も省ける。チェアタイム短縮による一日あたり診療可能患者数の増加も重要だ。従来印象では硬化待ち時間に数分間患者は拘束されるが、光学印象ならその間に説明や他処置へ移行でき、予約スケジュールにゆとりが生まれる。例えば1症例あたり5分短縮できれば、1日10症例で50分、週5日で250分(約4時間)もの時間創出となる。これを追加の診療枠に充てれば売上向上も見込める。また「最新機器導入」をアピールすることで医院の先進性を訴求でき、他院との差別化による新患獲得や紹介増にもつながる可能性がある。もっとも、これら効果はすぐには数値化しづらく、導入後にKPI(インレー件数、再製作率、患者満足度アンケート等)を設定し検証していく姿勢が大切である。
外注・共同利用・導入の選択肢比較
デジタル印象の利点は理解できても、高額な設備投資に踏み切るか迷う読者もいるだろう。実際には、自院でスキャナーを保有しなくともデジタル技術を活用する道は存在する。ここでは自院導入以外の選択肢と、それぞれのメリット・デメリットを整理する。
外注スキャンサービス
一部の歯科技工所やCAD/CAMセンターでは、歯科医師から送られた患者の石膏模型をラボ側でスキャンしデジタルデータ化するサービスがある。この場合、医院側は従来通り印象採得→模型作製まで行い、その模型を外注先に送ることでデジタルデータ化と設計・加工を依頼する形となる。初期投資なしでデジタル補綴の恩恵を受けられる点は魅力だが、一方で従来の印象工程が省けるわけではない。また模型輸送に数日を要し即日治療には繋がらない。コスト面でも外注費用が発生するため、長期的には自院導入より割高になる可能性がある。
近隣医院・共同利用
地域の歯科医院同士で設備を共同利用するケースも考えられる。例えば近隣の歯科が既に口腔内スキャナーを導入しており、必要な時に借用させてもらう、あるいは患者を紹介し撮影だけ依頼するという方法である。これにより設備投資リスクを負わずにデジタル印象を経験できる。ただし患者にとっては他院へ出向く手間が生じること、他院との間でデータや責任のやり取りが発生する煩雑さがデメリットだ。また頻繁に利用するようになると先方にも負担となり、長期的な運用は難しいかもしれない。複数医院で共同購入しシェアする案も理論上は可能だが、機器の搬送や使用スケジュール調整、安全管理上の責任分担など課題が多い。
自院導入の価値
やはり一番の理想は自院内にスキャナーを備え、リアルタイムに活用することである。診療チェアから離れることなく即座にスキャンができる利便性は患者サービス向上のみならず、データ確認→補綴設計のスピードアップに直結する。プライムスキャン コネクトはラップトップ型ゆえに医院内の複数診療室で持ち運びが容易である。必要に応じてオプションのフレックスカートに搭載し、移動式ワゴンのように各ユニットへ転がして使うこともできる。大型の据置型機器と異なり導入スペースの問題も小さい。電源も通常のAC100Vコンセントがあれば足り、エアや配管工事も不要である。こうした取り回しの良さは医院規模に関係なく恩恵となる。小規模クリニックでも設置場所に困らず導入でき、将来的に医院移転やレイアウト変更があっても柔軟に対応可能だ。
以上の比較から、外注や共同利用はスポット的な解決策にはなり得ても、恒常的にデジタルデンティストリーを展開するには自院導入に勝る選択肢はないと言えるだろう。特に近年の保険算定要件では「院内に光学印象機器を有すること」が施設基準となっており、デジタル対応を標榜するには自前で機器を持つ意義が増している。投資対効果に確信が持てない場合でも、内覧会やデモ機貸出を積極的に活用し、自院スタッフ全員で使用感や運用フローを体験して判断することを勧めたい。
よくある失敗と回避策
新しいデジタル機器導入には成功事例ばかりでなく失敗例から学ぶことも多い。プライムスキャン コネクトに関して想定される運用上のつまずきと、その対策を考えてみる。
【ケース1】「思ったより使われない」
ある医院では高額なスキャナーを導入したものの、歯科医師が多忙でアポイント時間内に操作する余裕がなく、結局ほとんど活用されなかったという声がある。従来法に慣れたスタッフも敬遠し、宝の持ち腐れになってしまうパターンだ。これを避けるには、導入前に十分なトレーニング計画を立てることと、運用プロトコルの見直しが必要である。例えば補綴物セット時の調整を短縮できることを念頭に、印象採得に+5分割り当てるなどスケジュール配分を変える。また最初は比較的簡単な症例(小さなインレー等)からデジタル印象を試し、成功体験を積むことでスタッフの心理的ハードルを下げることも有効である。院長自ら率先して使いこなす姿勢を示し、歯科衛生士や助手にも工程のどこまで協力できるか役割分担を決めておくと良い。日本では歯科医師以外が直接口腔内スキャンを行うことに法的議論もあるが、安全を担保しつつ助手が補助できる範囲を検討することでチーム全体で効率化を図りたい。
【ケース2】「精度が出ず結局再印象」
導入当初、データの穴埋めが不十分なままラボに送付してしまい、補綴物適合が悪く結局やり直したケースも報告される。これは術者の確認不足やスキャン戦略の未熟さが原因と考えられる。回避策として、スキャン後には必ず画面上で3Dモデルを回転・拡大して細部をチェックする習慣をつける。マージンラインが不鮮明な場合はその場で追加スキャンし、必要であれば一部を削除して撮り直す(リファインスキャン機能を活用)。プライムスキャンのソフトにはマージン自動表示支援などの機能もあるが、人任せにせず自ら全周確認することが肝要だ。また、咬合採得(咬合関係のスキャン)も省略せず行うことで、技工士がデジタル咬合器上で正確に再現できるようにする。もし印象精度に不安が残る場合には、一旦データを仮想モデルに変換し自院で3Dプリント出力してみる方法もある。プリント模型上で適合を事前検証すれば、ラボ納品物のトラブルを未然に防げる。精度検証のプロトコルを導入初期に確立し、それに沿ってチェックを怠らないことが成功への近道である。
【ケース3】「PCトラブルで診療停止」
ラップトップ型ゆえのトラブルとして、PC側の不具合やソフトウェアエラーでスキャナーが使えなくなり診療スケジュールが狂った例も報告される。突然ソフトが落ちデータ消失、あるいはWindowsアップデートにより周辺機器認識不良などIT機器にはつきものの問題だ。対策として、まず推奨スペックを満たす安定したPC環境を整えることが前提となる。その上で、重要なのは定期的なメンテナンスとバックアップである。診療前にスキャナーとPCの接続を確認し、異常があれば再起動や予備ケーブルで即座に対処する。データもリアルタイムにクラウドへ保存される設定にしておけば、PC障害時も別端末でアクセス可能だ。加えて、DS Core Care等のサポート契約で代替機の迅速提供を確保しておけば最悪本体故障時も翌日には復旧できる。念には念を入れ、万一スキャナーが使えない場合でも従来法に切り替えて診療続行できるよう、印象材等の在庫も一定量保持しておくことが望ましい。ハイテク機器に頼り切るのではなく、バックアッププランを用意しておくことがトラブル発生時の医院リスクマネジメントとなる。
導入判断のロードマップ
プライムスキャン コネクトのような先進機器を導入するか否か、意思決定には多面的な検討が求められる。以下に、導入判断のためのステップを段階的に示す。
【Step 1】現状ニーズと課題の洗い出し
まず自院の診療内容を分析する。月あたりの補綴物症例数、その中でCAD/CAM冠・インレーの占める割合、印象採得で問題を感じている点(嘔吐反射によるキャンセルや再印象頻度など)を書き出す。例えば「嘔吐反射で型取り困難な患者が毎月数名いる」「インレーの印象変形で補綴やり直しが年◯件ある」等、デジタル化が解決し得る具体的課題を認識する。
【Step 2】導入目的と目標設定
上記課題を踏まえ、デジタル印象導入で何を達成したいか目標を定める。臨床面では「再製作率を◯%減らす」「患者満足度アンケートで型取りに関する苦情ゼロにする」といった指標、経営面では「年間◯件のCAD/CAMインレー加算取得」「補綴関連コスト◯円削減」など具体的なKPIを設定する。これら目標が明確になると、投資に対する期待効果が数字で見えるようになる。
【Step 3】製品情報収集と比較
Primescan Connectを含め、主要な口腔内スキャナーの情報を収集する。国内で流通するMedit, 3Shape TRIOS, iTero等のスペックや価格、サポート体制を一覧化し、自院の重視ポイント(精度、価格、操作性、サイズなど)と照らし合わせる。例えばPrimescanは精度・速度はトップクラスだが重量や価格面でやや上位レンジにある。他社は軽量コンパクトだがクラウドサービスやソフト連携で劣る点があるかもしれない。そうした長所短所を評価し、優先順位を付ける。
【Step 4】デモンストレーション体験
候補機種が絞られたら、ぜひ実機デモを依頼する。メーカーや販売店に連絡すれば院内デモや貸出機対応が可能な場合が多い。実際に自分やスタッフの手で患者役モデルにスキャンしてみて、操作感やデータ品質を確かめる。特にPrimescan Connectはハンドピース重量や先端サイズがあるため、デモでその感覚を事前につかむことは有益である。デモ時には院内Wi-Fi環境やユニット周りのスペースなど設置条件も確認する。複数機種試すことで違いが鮮明になり、現場に適した一台が見えてくるだろう。
【Step 5】投資対効果のシミュレーション
導入機種を決めたら、改めて費用対効果を数値でシミュレートする。初期費用(機器代+関連機器工事費等)を耐用年数5年程度で減価償却し、月々のコストとする。対して、Step 2で設定した目標値に基づき増収・コスト減少額を試算する。例えば「保険加算で月2万円増、材料費削減で月1万円減、再製作減で月1万円相当効果」のように積み上げる。その結果、月々の収支差額がプラスになるか、マイナスでも広告宣伝効果等で回収見込みが立つかを検討する。リースを利用する場合は月額リース料との比較も忘れずに行う。
【Step 6】導入決定と院内準備
シミュレーションで導入の合理性が確認できたなら、最終意思決定となる。発注後、納品までに院内体制を整える。まずスペース確保:ノートPCを置くカウンターや、必要ならフレックスカート(移動台)の設置場所を決める。電源コンセントやケーブル経路を確認し、足元に配線が散乱しないよう配慮する。またスタッフ向けに操作研修日程を調整する。メーカーのトレーナーによる初期講習は有用なので、診療に支障ない時間帯に設定する。院内マニュアルも作成し、スキャン前後の流れや清掃手順、トラブル時の連絡先などを書面化して共有する。
以上のロードマップに沿えば、場当たり的でない計画的な導入が可能となる。要は「なぜ導入するのか」「導入してどう医院を良くするのか」を関係者全員が理解し、準備と練習を重ねることが成功の鍵である。デジタル化は道具を入れて終わりではなく、そこから診療フロー自体の変革が始まる。その意識をもって計画を推進してほしい。
出典一覧
- フォルディネット: 製品詳細「プライムスキャン コネクト」 (2025年8月確認)
- Dentsply Sirona: 「Choose! 口腔内スキャナー/CEREC ラインナップ」カタログ (2023年4月版)
- シラネ: 「2024年 中部日本デンタルショー見所紹介」記事 (2024年)
- デジタル歯科ブログ: 「IOS注目の新商品登場!① Primescan2」 (2024年9月12日)
- 厚生労働省・ヤマキン学術財団: 「2024年6月診療報酬改定 デジタル技術関連」解説 (Y-News, 2024年更新)
- モリタ デンタルプラザ: プライムスキャン コネクト 製品説明 (2023年)
- Dentsply Sirona: 公式サイト「Primescan Connect」紹介ページ (2025年8月現在)
- OralStudio: プライムスキャン コネクト 製品情報 (2024年)