
歯科用CTの機器の値段はいくらぐらい?メーカーによる相場を解説
インプラント治療や埋伏歯の抜歯を控えた患者への説明で、歯科用CT撮影の必要性を痛感する場面がある。一方で、高額な機器投資となる歯科用CTの導入には躊躇がつきまとう。本記事では、歯科用CTの価格相場を主要メーカー別に解説するとともに、臨床上のメリットと医院経営上の視点を統合し、明日からの意思決定に資する実務的知見を提供する。
要点の早見表
歯科用CT装置(パノラマ・セファロ複合機)の設置例。専用のX線室と十分なスペースが必要になる。
項目 | ポイント概要 |
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主要メーカー別価格相場 | モリタ(Veraview X800 等) :約1,000〜1,800万円(機種・構成により変動。ヨシダ(エクセラSmart3D 等) :約1,000〜1,500万円(セファロ付加時。朝日レントゲン(SOLIO シリーズ):約1,500〜2,000万円(最大級モデル。ジーシー(Aadva GX-100 等):約1,000〜1,500万円 |
臨床での有用性 | インプラント計画、埋伏智歯抜歯、難治性根管治療や顎骨病変の診断に不可欠な三次元画像を提供する。パノラマでは得られない骨の厚みや歯根形態の情報が得られ、安全で精密な治療計画に寄与する。 |
適応症と使用上の注意 | 適応症例:変形性顎関節症、顎骨嚢胞、顎骨骨折、中等度以上の歯周病(根分岐部病変)、水平埋伏智歯、難治性根管治療など。これらは保険適用でCT撮影可能な主なケースである。注意点:被ばく量がデンタルX線の約10倍と高めであるため、臨床的意義が高い場合に限定し、不要な撮影を避ける。金属アーチファクトにより画像診断が制限される場合もあり、補綴物やインプラント周囲の読影には注意が必要である。 |
運用・安全管理上の要点 | 設備要件:装置重量150〜250kg、設置スペース約2.5m四方が必要。床補強や遮蔽壁工事、AC200V電源工事が伴う。被ばく管理:撮影時は鉛エプロンや頸部プロテクタを着用し、照射野(FOV)の最小化や低線量モードで被ばく低減に努める。装置の定期点検と精度管理が必須で、年1回程度の保守点検契約(相場約20万円/年)が推奨される。 |
導入コストと保険算定 | 初期費用:装置本体価格に加え、設置工事費・備品で合計約800万〜1,600万円超となる。リース活用や自治体の導入補助金制度の検討も有用。保険算定:歯科用CT撮影1回あたり約3,000〜5,000点(2024年現在)で算定可能。患者負担額は3割負担で約3,000〜4,000円。適応症外(インプラント等自費診療目的)の撮影は保険適用外となり、患者自費負担は相場8,000〜10,000円程度。 |
医療機関経営者向けに臨床的価値と経営的視点
歯科用CT導入の判断には、臨床的価値と経営的合理性という二軸の分析が求められる。臨床面では、CT画像により得られる精密な情報が治療予後を左右する。例えば難度の高い埋伏智歯抜歯では、CTによる隣接神経や血管との位置関係の把握が偶発症リスクの低減に直結する。他方、経営面では導入費用と維持費を診療報酬や自費収入で回収できるかが重要である。CTを用いた診断が不要不急のケースまで常態化すれば被ばく増大と患者負担増につながり、臨床上も倫理的問題が生じる。そのため、臨床上「どうしてもCTが必要な症例」を精査しつつ、経営上「投資に見合う利用頻度」が確保できるかを検討する必要がある。
両軸の差が生じる理由の一つに保険算定の制約がある。現行の診療報酬ではCT撮影の点数は約3000〜5000点に過ぎず、高額機器の減価償却を考慮すると収益貢献は限定的である。一方でインプラントや再生治療など自費分野ではCT活用が治療成績を向上させ患者満足にも繋がるため、経営的には長期的な自由診療収入の拡大要因となり得る。このように臨床ニーズの高さと費用対効果を天秤にかけ、双方から導入の是非を吟味することが求められる。
主要メーカー別の価格帯と特徴
歯科用CTはメーカーやモデルによって価格帯に大きな差がある。ここでは国内で流通する代表的メーカー4社について、その相場価格と特徴を整理する。
モリタ(Morita)
国産大手で品質・サポートに定評がある。最新機種のベラビューX800は低被ばく性能や高解像度撮影を特徴とし、メーカー公表の標準価格は約960万円(基本構成)からである。オプションでセファロ撮影ユニットや広範囲撮影モードを追加すると総額1,200〜1,800万円程度になる。価格は高めだが、国内メーカーならではの迅速な保守対応ネットワークを備えており、長期運用の安心感がある。
ヨシダ(Yoshida)
歯科総合商社として海外製品の輸入販売も手掛ける。自社ブランドのCT複合機としてエクセラ(X-era)Smart 3Dシリーズがあり、標準モデルで約1,280万円、セファロ付モデルで約1,530万円の定価が設定されている。ヨシダは仏アクテオン社や韓国製CTの代理店でもあり、幅広く取り揃える。価格帯はおおむね1,000〜1,500万円が中心で、機種によりエントリークラス(1,000万円弱)も存在する。被ばく低減機能やコンパクト設計を売りにしたモデルもあり、限られたスペースの小規模医院にも提案可能としている。
朝日レントゲン工業(Asahi)
国内唯一の歯科用X線専門メーカーであり、大学病院や口腔外科向け高性能機を製造する。最新CTラインナップのSOLIO XZ IIは定価1,500万円(税別)、最大撮影野を誇るSOLIO X MAXIMは定価1,900万円(税別)に達する。他社に比べ装置サイズが大きめで、高い剛性と安定した画質が特徴である。自社一貫開発による信頼性と細かな要望に応えるカスタマイズ性を強みとする。手厚いエンジニアサポートも評価が高く、CT画像のリモート読影支援など独自サービスを展開している。
ジーシー(GC)
歯科材料最大手だが、デジタル機器分野では欧州製品の代理店として存在感を持つ。Aadva GX-100 3DはフィンランドPlanmeca社の「ProMax 3D」をベースとした3-in-1撮影機で、用途に応じてスタンダード(ST)仕様と拡張(MX)仕様が選べる。価格は公表されていない(オープンプライス)ものの、概ね1,000万前後から構成によって1,500万円程度とみられる。特徴は多彩な撮影モードとソフトウェア連携で、歯科CAD/CAMや矯正シミュレーションとのデータ統合に強みがある。ただし海外メーカー機ゆえ、部品調達や修理対応に時間がかかる場合がある点には留意が必要である。
以上のように国内主要メーカーでも1台あたり1,000万〜2,000万円と幅がある。高価なカテゴリではドイツのシロナ社(デンツプライシロナ)のCTが1,500〜2,000万円超とされる。一方、韓国Vatech社やDentium社のCT装置は400〜800万円台というモデルも存在する。例えばDentium社製のBright CTは撮影視野が広いにもかかわらず約700万円という価格とされる。また、導入時は価格だけでなく必要十分な性能を備えるかを慎重に見極める必要がある。
歯科用CTの代表的な適応症と禁忌
歯科用CTの利点が最大限発揮されるのは、従来の2次元X線では情報不足な症例である。代表的適応としては以下が挙げられる。
インプラント埋入計画
骨の厚み・密度や神経管位置を三次元的に把握できるため、埋入ポジションや深度を決定できる。CTなしでは把握困難な下顎管との距離も明確に測定できる。術後の埋入位置評価やサージカルガイド作製にもCTデータが役に立つ可能性がある。
埋伏智歯(親知らず)の抜歯
水平埋伏や異常傾斜した智歯が下顎管や隣接歯根と接近しているケースでは、CTによる立体的な位置関係の把握が役に立つ可能性がある。CT画像により歯根形態や骨の厚さを把握することで、抜歯の難易度評価と術式の選択に役立つ。特に下顎水平埋伏智歯の抜歯ではCT撮影が保険適用となっている。
難治性根管治療
通常のデンタルX線では写らない根管の湾曲や側枝、根尖病変の範囲をCTで立体的に評価できる。過去の根管充填材の遺残や根破折の有無や再治療計画に三次元画像が役に立つ可能性がある。CT撮影は難治性根管治療の保険適用条件にも含まれている。
顎関節や骨病変の評価
変形性顎関節症で関節骨の形態変化を捉えたり、顎骨嚢胞・腫瘍の範囲把握にもCTは役に立つ可能性がある。これら病変の診断目的で撮影する場合は保険算定が認められる。
一方で歯科用CTの撮影を避けるべきケースもある。妊娠中の患者や、小児で必要性の低い場合には被ばくリスクを考慮して代替手段を検討すべきである。また、金属修復物が多数存在する口腔では、CT画像にアーチファクト(乱れ)が生じ診断価値が下がる場合がある。このような症例では無理にCT撮影しても有益な情報が得られない可能性があり、適応を慎重に判断する必要がある。さらに閉所恐怖症の患者には、撮影時の固定具や狭い空間が心理的ストレスとなる場合があるため、事前の十分な説明と配慮が望まれる。
標準的なワークフローと品質確保のポイント
歯科用CT撮影のワークフローは、一般に(1)撮影計画の立案 → (2)患者の体位固定 → (3)X線照射・データ取得 → (4)画像再構成・解析という流れで行われる。この一連のプロセスにおいて品質を確保する要点を解説する。
まず撮影計画では、必要最小限の範囲(Field of View, FOV)と解像度を設定する。例えばインプラント1歯分の評価であれば直径5cm程度の小FOVで十分であり、広範囲を撮影すれば良いというものではない。必要部位だけを高解像度撮影することで被ばく低減と画像鮮鋭度向上の両立を図ることに役立つ可能性がある。撮影条件の事前設定として、金属アーチファクト低減モード(MAR機能)の有無も確認する。メーカーによってはインプラント周囲の画像乱れをソフト的に補正する機能があり、装置選定時のポイントとなる。
患者の体位固定では、モリタ製など一部機種で採用される水平照射型は頭部動揺の影響が少なく鮮明な像を得ることに貢献する。いずれの装置でも、顎位固定具やヘッドサポートにより患者が動かないようセットし、撮影中はオペレーターはX線室外からモニタで姿勢を確認する。撮影時間は機種により4〜20秒程度で、近年の機種はスキャン時間10秒前後と短く被ばく低減に貢献する。撮影中は患者に動かず自然呼吸でいるよう声掛けを徹底し、再撮影の必要が出ないよう一発で成功させることに期待できる。
撮影後の画像再構成・解析では、専用ソフトウェア上で必要な断面を表示し計測やシミュレーションを行う。インプラント埋入計画ではCTデータ上にバーチャルフィクスチャーを配置し、神経管との距離や角度をシミュレートする。これにより手術の安全域を確認し、場合によってはサージカルガイドを製作する。また矯正治療分野では頭蓋骨全体の3D画像からセファロ分析を行う活用も進んでいる。いずれの場合も画質の経時劣化を防ぐ品質管理が必要で、装置のX線管球やフラットパネルセンサーの性能点検、幾何学的精度校正を定期的に実施する。メーカー提供の精度管理ツール(ファントム撮影テストなど)を用い、解像度や距離精度が所定の範囲内か検証し続けることが、長期間にわたり診断品質を維持する鍵となる。
安全管理と患者説明の実務
歯科用CTの運用にあたっては、他のX線装置以上に放射線防護と患者説明が重要となる。まず被ばく線量について、歯科用CT1回の被ばくは医科CTの約1/10程度とはいえ、デンタルX線写真に比べれば格段に多い。具体的にはパノラマX線がおおよそ数μSvオーダーなのに対し、歯科用CTは数十〜百数十μSv程度になる(撮影範囲や機種による)。これは日常生活で自然に受ける放射線量(年間2,100μSv前後)のごく一部ではあるものの、患者への事前説明では被ばくについて触れるべきである。「歯科用CTは放射線量が極めて低く、安全性に配慮されています」と説明するだけでなく、「○○の診断に必要なため、通常のレントゲンでは得られない情報を確認する目的で撮影します」と必要性と有益性を具体的に伝えることが肝要である。患者が納得し安心して撮影に臨めるよう、目的・安全性・費用の三点を丁寧に説明する責任がある。
法律面では、歯科用CTの設置には各都道府県へのX線装置設置届出が必要で、防護措置や線量測定の報告義務が課される。X線防護主任者の選任や定期的な線量モニタリングも含め、医療法・労働安全衛生法の規定を遵守しなければならない。診療用放射線を扱う歯科医師として、被ばく低減(ALARAの原則)の努力義務があり、スタッフへの教育も欠かせない。具体的には、不要な高出力撮影を避け低被ばくモードを活用すること、妊娠の可能性がある患者には撮影前に確認を取ること、妊婦や小児では代替の診断法がないか再検討するといった配慮が求められる。また撮影後の画像データ管理にも注意が必要で、個人情報として適切な保存・バックアップを行う。近年では撮影データをクラウド経由で共有するサービスもあるが、患者同意の範囲内で慎重に運用すべきである。
医療機関経営者向け、費用と収益構造の考え方
歯科用CT導入の損益分岐を考える上で、初期投資額とランニングコストを正確に把握し、予測される利用件数から収益を見積もる必要がある。初期費用は装置本体価格に加え、X線室の改装・遮蔽工事費、電源工事費、周辺機器(ビューア用PCや画像管理ソフト)の費用を含めて算出する。例えば本体1,000万円のCTを導入する場合、付随する工事・機器で数百万円は追加となり、総額で1,200〜1,400万円規模になることも珍しくない。これらは減価償却資産となるため、会計上は法定耐用年数(医療用機器は5年)で償却する計画を立てる。一括購入が難しければリース契約も選択肢であり、月々のリース料を機器利用収益が上回るか検討することになる。
ランニングコスト面では前述の保守契約費用約20万円/年のほか、故障時の修理費やX線管球の寿命交換費用が発生し得る。管球の交換は数百万円単位となる機種もあるため、耐用年数内に一度交換が必要かどうか、メーカー保証は何年かを確認しておく。またソフトウェアのアップデート費用やPCの更新費も見込んでおくべきである。これらを年換算し、年間コスト(減価償却相当額+保守費等)を算出した上で、撮影1件あたりコストに落とし込む。仮に初期1,200万円・5年償却、年間保守20万円とすると、単純計算の年間負担は約260万円、月あたり約22万円となる。1件のCT撮影で得られる収入は保険診療なら約1万円強(技術料+フィルム代点数)であり、自費なら医院により数千〜数万円と幅がある。保険のみで回収するには月20件以上の撮影が必要になる計算で、一般的な歯科医院で毎月それだけのCT適応症例が発生するかは慎重に見極めねばならない。
しかし収益構造は単純な撮影料だけでは計れない。CTを院内に備えることでインプラントや高度外科処置の受け入れが可能となり、それらの自費治療収入が大きく増える可能性がある。例えば従来CT設備がなくインプラント症例を他院に紹介していたケースでは、導入によって自院完結できるようになれば1症例あたり数十万円の収入増となり得る。またCTを保有していること自体が差別化要因となり、外科処置に積極的な医院との評価を得て紹介患者が増加することも考えられる。さらには大学病院や近隣クリニックからの撮影依頼を受け付けることで1件数千円でも外部収入を得て稼働率を上げる方法もある。このように直接の撮影料だけでなく、CT導入がもたらす波及的な収益効果まで含めて総合的に評価することが望ましい。
ROI(Return on Investment)のシミュレーションを行う際には、楽観的・悲観的それぞれのシナリオで何年で投資回収できるかを計算してみるとよい。例えば「インプラントを年間○本増やせる」「紹介患者が月○人増える」等の仮説を立て、それが実現した場合の追加粗利益を算出する。その上で5年や7年といったスパンで初期投資額を回収できるか試算し、難しければ導入見送りや他の選択肢(外部委託のままにする、より安価な機種を検討する)に舵を切る判断も必要である。特に保険診療中心の医院では、収益面だけで見るとCT導入は分の悪い投資になりかねないため注意が必要である。
医療機関経営者向け、外注撮影・共同利用と自院導入について
歯科用CTを自院に置かず、必要時に他機関へ撮影を依頼する「外注撮影」は、多くの開業医が採用してきたオプションである。近年は地域の歯科放射線センターや口腔外科クリニックがCT撮影サービスを提供しており、紹介状を書いて患者に受診してもらう形で対応できる。この方法の利点は、初期投資ゼロで高度画像診断を活用できる点である。撮影費用は患者が直接支払うか、紹介先から画像を提供してもらい自院で保険請求することも可能である(この場合は紹介先と収益分配の取り決めが必要)。経営的リスクは皆無だが、一方で患者にとっては来院の手間や費用負担が増えるため、小さな虫歯治療などではCTを勧めづらいといった制約がある。また撮影タイミングが自院でコントロールできず、その場で画像を確認して診断するといった即時性に欠けるのもデメリットである。
共同利用(シェア)モデルとしては、複数の歯科医院が出資して地域にCT装置を設置し共同で運用するケースも一部で見られる。例えば医療モール内の共用部にCTを置きテナント歯科で使う、あるいは歯科医師会などが中心となり地域診療所向けCTセンターを設立する、といった形態である。この場合、各医院の負担は1院あたり数百万円程度に抑えられ、利用料を払い合って維持管理することで経済的メリットがある。ただし機器の選定や費用分担で利害調整が必要であり、利用頻度に偏りが出ると不公平感が生じるリスクもある。また患者情報の扱いなどで参加医院間のルール策定が求められ、運営が煩雑になる傾向がある。現実には利点より調整コストの方が大きくなりやすく、日本ではあまり一般的ではない。
これに対し自院導入の最大の利点は、臨床フローに組み込みやすいことである。診察中に疑問が生じれば即座にCT撮影を行い、その画像を見ながら患者説明や治療方針決定ができる。この迅速さと説得力は他に代え難い。また他院に依頼していた撮影費用(自費の場合で患者1万円前後)を院内収入に振り替えられるため、稼働率次第では出費以上の経済効果を生む。さらにCTを所有していること自体が医院の技術力アピールとなり、広告規制の範囲内であってもホームページ等で設備紹介をすることで間接的な集患効果が期待できる。もっとも注意すべきは、導入しても宝の持ち腐れにならないよう運用を定着させる点である。スタッフが撮影オーダーの受付から画像処理まで円滑に行えるよう教育し、院内プロトコルにCT利用のフローを組み込む必要がある。せっかく高額投資しても活用頻度が低ければ経営を圧迫するだけなので、「この分野の症例には積極的にCTを用いる」などの基準をチームで共有し、機器を遊休化させない工夫が求められる。
よくある失敗パターンと回避策
歯科用CT導入における失敗例から学べる教訓も多い。以下にありがちな導入失敗パターンと、その回避策を示す。
【失敗例1】「宝の持ち腐れ」
CTを導入したものの活用せず、月に数件しか撮影しないまま年月が過ぎるケースである。設備投資は回収できず、宝の持ち腐れとなる。この背景には「スタッフが操作を習得しておらず敬遠する」「術者自身が撮影適応の判断に自信がなく使いこなせない」ことがある。回避策として、導入前に十分なスタッフ教育を計画し、メーカーの操作トレーニングを複数回受講することが重要だ。導入直後は積極的に症例を選んで撮影し、習熟度を高める。さらに院内で「このような場合はCT撮影する」というプロトコルを定め、運用を軌道に乗せる必要がある。
【失敗例2】「機種選定ミスマッチ」
高機能機種を導入したが自身のニーズにはオーバースペックで持て余す、あるいは逆に廉価機種にした結果必要な画質や視野が得られず結局買い替える、といったケース。例えば顎顔面全体の評価が必要な症例が多いのに小FOV専用の安価なCTを選んでしまうと対応しきれない。一方でインプラント数本分の撮影が主目的なのに買っても費用対効果が低い可能性がある。回避には、想定症例に適した撮影範囲・解像度を備えた機種を選ぶことが肝要である。複数メーカーからデモ撮影を取り寄せ、自院の典型的症例で比較検討するとよい。加えて、将来的に適応拡大の予定があるなら拡張性も考慮する。例えば当初セファロ不要でも、後に矯正診療を始める可能性があるなら後付け可能なモデルを選ぶなど、長期目線での選定が望ましい。
【失敗例3】「患者説明不足によるトラブル」
CT撮影に関する患者への事前説明が不十分で、撮影後に「聞いていなかった」「料金が高い」とクレームになるケースもある。特に保険適用外で自費料金を請求する場合や、被ばくへの不安が強い患者には細心の注意が必要だ。回避策は、事前説明と同意取得を徹底することである。撮影の必要性・有用性、放射線リスクはわかりやすい言葉で丁寧に説明し、費用も含め書面で同意を得るのが望ましい。また撮影結果を患者と共有し、3次元画像を見せながら現在の状態や治療方針を説明することで、患者の納得感を高める努力をする。CT画像は患者教育ツールとしても有用であり、患者との信頼関係構築にも繋げたい。
医療機関経営者向け、歯科用CT導入判断のロードマップ
歯科用CTの導入判断は、衝動的に決めるのではなく段階を踏んだ分析が必要である。以下に導入検討のロードマップを示す。
1. 自院症例ニーズの分析
まず過去半年〜1年の症例データを振り返り、CTがあれば有用だったケースの頻度を算出する。インプラント、埋伏歯抜歯、根管難症例、顎関節症例などの数を数え、それが将来も見込めるかを評価する。月平均CT適応症例数が一桁台前半であれば、自院購入より外部委託の方が合理的かもしれない。一方で二桁に迫るなら導入による恩恵が大きいと考えられる。
2. 近隣環境とリファラル状況の確認
周囲に歯科用CTを利用できる施設があるか、紹介関係は良好かを把握する。近隣に大学病院や画像診断センターがあり円滑に紹介できているなら急がずとも良い。ただ紹介に時間がかかったり患者が不便を感じているなら、自院設置の価値が高まる。また同じエリアの競合歯科医院がすでにCTを導入している場合、後れを取ることで患者流出に繋がっていないか検討する。逆に周囲にCTが少なければ、自院が先駆けて設置することで地域のハブ的存在になれる可能性もある。
3. 機種選定と見積取得
候補となるメーカー数社にコンタクトし、カタログと見積を取り寄せる。診療室のスペース寸法を伝え、設置可能か(床補強や天井高の要件含む)確認する。可能であれば実機デモを依頼し、画質や操作性を実際に体験する。各社の提案を比較し、初期導入費用だけでなく保守契約内容・保証期間・ソフトウェアアップデート費用の有無まで細かくチェックする。価格交渉もこの段階で行い、可能な値引きやキャンペーン適用を探る。
4. 搭載機能と拡張性の評価
機種ごとの撮影モード、解像度スペック、セファロ付加の可否、他のデジタル機器との連携(例えば口腔内スキャナーやマイクロスコープ映像との統合)など、自院の方針に合致するか評価する。特にソフトウェアの使い勝手は診断効率に直結するため、複数社の操作画面を比較し直感的に扱いやすいものを選びたい。将来的にクラウドサービスやAI診断支援が提供される計画があるかなど、長期の発展性も考慮する。
5. 採算シミュレーションと意思決定
上記の情報が揃ったら、改めて収支シミュレーションを実施する。初期費用と年間コストに対し、月○件のCT撮影があれば何年で回収できるか、感度分析を行う。不確定要素には幅を持たせ、悲観シナリオでも致命的な損失とならないか確認する。また定量面だけでなく診療の質向上効果も考慮する。CTがあることで救える可能性のあるトラブルや、患者満足度向上による間接的な利益は数字に表しにくいが、医院のブランド価値に寄与する重要な要素である。総合的に判断し、導入メリットが上回ると確信できればゴーサインを出す。
出典一覧(参考情報)
- ORTC歯科セミナー 「歯科レントゲンの金額完全ガイド」 – レントゲン各種の価格帯・維持費・保険算定を解説(2025年3月公開)
- 田中歯科器械店 「TRADデンタルフェア2022 モリタ」 – モリタ社ベラビューX800の標準価格(960万円〜)を掲載
- OralStudio製品情報 「エクセラ Smart 3D」 – ヨシダ社エクセラSmart3Dの標準価格(1280万円、セファロ付1530万円)
- フォルディネット 「朝日レントゲン SOLIOシリーズ」 – SOLIO XZ II(1500万円)およびSOLIO X MAXIM(1900万円)の定価情報
- 吉田歯科クリニック院長ブログ 「新しいCT Bright CT 導入のお知らせ」 – 国内外CT機種の価格比較(シロナ1500〜2000万、モリタ1200〜1800万、NAOMI 800〜1500万、プランメカ※価格言及なし、Dentium約700万)
- インプラントネット 「歯科用CTの費用と保険適用」 – 保険適用となるCT撮影症例(顎関節症、嚢胞、骨折、重度歯周病、水平埋伏智歯、難治性根管など)と患者負担額(約3000〜4000円)、自費時の費用相場(約8000〜10000円)
- インプラントネット 「歯科用CTのメリット・普及率」 – 歯科用CTの被ばく線量(医科CTの1/10程度)、2017年時点の歯科医院CT普及率約10%との記載
- デンタルブログ 「第46話 Ciメディカルが提供するVatechのCT」 – 海外製CTの価格例(Kavo製で2000万超、Vatech製は400万円台と言及)(※個人ブログのため参考情報)
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