
歯科用CTメーカーのシェアをリストアップ! CTのトップシェアはどのメーカーか?比較の参考にも
インプラント手術の診断でパノラマX線だけに頼って不安を感じた経験はないだろうか。埋伏した智歯の抜歯で神経との位置関係が読み切れず、ひやりとしたこともあるかもしれない。患者を大学病院に紹介してCT撮影を依頼したものの、結果的に治療計画が先延ばしになり、患者の不安が高まってしまった。そんな場面に心当たりのある先生も多いはずである。
一方で、歯科用CTの導入は数百万円規模の投資となり、院長としては 「本当に元が取れるのか」 という悩みも尽きない。高額な設備だけに、「どのメーカーを選べば失敗しないか」「国内で実績のある機種はどれか」を知りたくなるのは当然である。本記事では、主要な歯科用CTメーカーのシェアや特徴を客観的データに基づきリストアップし、それぞれの臨床的メリットと医院経営への影響を検証する。読者の先生方が自身の診療スタイルに最適なCTを選択し、精度の高い診療と賢い設備投資の両立を実現できるよう、臨床的ヒントと経営的戦略を提供する。
主要歯科用CTメーカーの早見表
まず現在、日本国内で導入例の多い主な歯科用CTメーカー5社を一覧にまとめる。それぞれのメーカーの市場シェア(国内)と代表的な特徴を、臨床面と経営面の双方から簡潔に示した。なお市場シェアは正式な公開データがない場合が多いため、推定や業界評価となる点をご了承いただきたい。
メーカー(代表CT機種) | 国内シェア※ | 臨床面の主な特徴 | 経営面の主な特徴 |
---|---|---|---|
モリタ(Veraview X800) | 国内有力 | 高解像度80μmボクセル撮影、低被ばく技術に強み | サポート拠点が全国14か所と充実、安定稼働で信頼性高 |
ヨシダ(Trophyパン Excel 3D) | 国内有力 | コンパクト設計で設置しやすい、必要十分な画質 | 価格帯は中堅でコスパ良好、保守サービス網も全国対応 |
朝日レントゲン(AUGE/SOLIO) | 国内有力 | 国産初期からの専門メーカー、0.1mmスライスなど高精細 | 専門メーカーならではの迅速サポート、機能開発にも積極的 |
デンツプライシロナ(Orthophosシリーズ) | 世界的メーカー | 世界で使われているグローバル機種、CAD/CAM連携可能 | 製品価格は高めだが統合ワークフローを提供、ブランド力あり |
GC(Aadva GX-100 3D) | 国内新規参入 | 歯科材料大手のデジタル機器、3in1撮影(CT/パノラマ/セファロ)対応 | 海外機種のOEMで比較的安価、デジタル歯科トータル提案を強化 |
※シェアは推定値や業界情報に基づく。正式な公開データがないメーカーは「非公開」とした。
この表から、モリタだけでなく、ヨシダや朝日レントゲンといった国産勢も根強い実績を持ち、デンツプライシロナ(シロナ)など外資系も一部で導入が進む。GCは材料で知られる国内大手だが、近年デジタル機器分野に参入した新顔である。それでは次章から、具体的なポイントを掘り下げて解説しよう。
歯科用CTを選ぶポイントとは
歯科用CTの性能や導入効果を評価する際には、いくつか重要な軸が存在する。臨床面では画像の鮮明さ(解像度)や撮影範囲(FOV)、被ばく線量などが診断精度と直結する。また医院経営の視点では、操作性やワークフロー効率、導入コストとランニングコスト、さらには保守サポート体制や他のデジタル機器との連携も見逃せない。ここでは、それら主要項目について順に検討する。
画質・解像度と診断精度の違い
歯科用CTの「画質」は、骨や歯の細部構造をどれだけ鮮明に捉えられるかを左右する最重要ポイントである。一般に解像度はボクセルサイズ(立体画素の一辺の長さ)で表され、数値が小さいほど高精細である。例えば国内シェアトップのモリタ製「Veraview X800」は最小ボクセル約0.08mm(80μm)の超高解像度撮影を実現している。これは微細な根尖病変や根管の分岐、微小な骨の変化も捉えられるレベルであり、難易度の高い根管治療や再植術の術前評価にも心強い。また金属アーチファクト(補綴物の金属による画像乱れ)を低減するフィルタを搭載し、インプラント埋入部位の骨状態もクリアに確認できる。朝日レントゲンの「AUGE」シリーズもスライス厚0.1mm程度の高精細撮影が可能で、国産CT黎明期から画質に定評がある。デンツプライシロナやGC(実質的には欧米製機種)も標準で0.1mm前後の分解能を備え、インプラント計画や歯周病の骨吸収評価には十分な精度である。
一方、解像度が高まるほどデータ容量や処理負荷が増し、撮影時間も若干延びる傾向がある。加えて高精細モードは被ばく線量も増すため、日常的な診断には適度な解像度とのバランスが必要だ。ヨシダの「Trophyパン Excel 3D」などは「インプラントに使うならこれで十分」との設計思想で、必要十分な解像度(例えば最小ボクセル0.125mm程度)を確保しつつ撮影時間とデータ量を抑えている。実際、多くの一般開業医にとってインプラント埋入や難抜歯に必要な情報が得られれば支障はなく、それ以上の超高精細はエンドや専門領域でこそ真価を発揮するものだろう。大切なのは「そのCT画質が自分の診療ニーズに適しているか」である。もし日常的にマイクロスコープレベルの精密治療を行うならハイエンド機の画質が武器になるが、そうでなければ中堅機種でも十分実用に耐える。画質の優劣は各メーカーがしのぎを削る部分であり、実際の症例画像を比較検討して自院に必要なレベルを見極めたい。
撮影視野(FOV)と対応できる症例範囲
次に「どこまで写るか」という撮影視野(Field of View, FOV)の違いも重要だ。歯科用CTは機種によって撮影できる範囲(直径〇cm × 高さ〇cm)が異なる。小さいFOVでは上下顎各々数歯から1顎全体程度をカバーし、大きいFOVでは両顎同時や顎顔面全体まで撮影可能である。一般歯科医院で主に必要とされるのはインプラント埋入部位や埋伏智歯周囲の評価で、多くの場合は片顎内の局所撮影で足りる。しかし矯正治療や顎関節症、顎変形症の診断には頭部全体の像が必要になるため、矯正歯科や口腔外科領域も視野に入れるなら大型FOV対応機が望ましい。
例えばシロナのCT「Orthophos SL 3D」や「Axeos」は可変FOVを搭載し、小範囲の高解像度撮影から最大径10cm超の広範囲撮影まで1台で切り替え可能である。これにより「普段はインプラント用に小範囲、必要に応じて両顎全体」と柔軟に対応できる。モリタの従来機「3D Accuitomo」は極小範囲の高画質撮影に特化した機種だったが、後継の「X800」ではパノラマ・セファロ一体型のオールインワン機として最大径150mm程度までカバーするモデルも用意し、汎用性が増している。ヨシダの「Excel 3D」は両側の埋伏智歯を一度で撮影できる歯列全体の視野を確保しており、コンパクト機ながら日常臨床の範囲は十分だ。朝日レントゲンの新製品「SOLIO XZII」も、用途に応じ複数の撮影モード(I-モード=インプラント用、A-モード=顎顔面用など)を持ち、必要最小限の線量で必要最大限の範囲を撮れるよう工夫されている。
自院の導入目的に適したFOVを持つ機種を選ぶことが大事である。インプラント中心であれば小~中規模FOVで画質優先の機種が合理的だが、将来的に矯正や高度外科にも取り組む予定があるなら、大型FOV対応機への投資が長期的な備えとなる。撮影範囲が広い機種は価格も上がる傾向があるため、現在の症例構成と将来の展望を踏まえたうえで「どの範囲を撮れれば十分か」を判断したい。
被ばく線量と安全性への配慮
歯科用CTはX線被ばく量が大幅に少ないとはいえ、患者への安全配慮も欠かせないポイントである。各メーカーとも被ばく低減の技術開発に注力しており、具体的な数値では歯科用CBCTの被ばく線量は医科用CTの約1/10~1/50程度に抑えられる。実際、保険適用のCT撮影料を算定するための厚労省リストにも、大半の歯科用CT装置が名を連ねており、一定の低線量基準を満たしていることがわかる。
モリタの「X800」や「Veraviewepocs 3Df」は管球電圧やフィルタ材質の改良により従来比で最大40%の被ばく低減を実現している。具体的にはX線に銅フィルタを用いることで不要な軟X線を除去し、画質を維持しつつ線量だけを下げる工夫である。ヨシダやGC(Planmeca OEM)の機種にも低被ばくモードが搭載されており、小児や若年者の撮影時には出力を自動調整して線量を最小限に抑えることが可能だ。また短時間撮影も被ばく低減に寄与する。ヨシダのExcel 3Dでは撮影一巡の時間が比較的短く、被写体の動き(モーションアーチファクト)も抑えられるため再撮影リスクが少ない。朝日レントゲンも撮影効率向上によって「3秒での側貌セファロ撮影」を謳うなど、全体として「低線量・短時間」で撮る方向で各社が収斂している。
患者説明の場面では、院内にCTを設置していること自体が「安全な治療のために設備に力を入れている」という信頼感につながる。設備スペックではつい画質や値段に目が向きがちだが、患者の事を考えることも大切である。
操作性・ワークフローとチームへの馴染みやすさ
高性能な機械も「使いこなせなければ宝の持ち腐れ」である。日々の診療でスタッフがストレスなく撮影でき、得られた画像を迅速に診断・説明に活用できるか――その操作性とワークフローもCT選択の重要な軸である。
ヨシダのCTはまさにこの点を強調しており、対面でのポジショニングや分かりやすいアイコンのソフトウェアUIなど、現場の使いやすさにこだわっている。初めてCTを扱うスタッフでも短期間で習熟でき、撮影準備から画像取得までの所要時間が短いと評判である。具体的には患者さんを装置に誘導してから撮影完了までがスムーズで、従来型CTでありがちだった「位置合わせに手間取り患者を長く立たせてしまう」といったことが起こりにくい。これは院内のチェアタイム短縮につながり、1日に対応できる患者数や処置数を増やす効果も期待できる。
また撮影後の画像閲覧ソフトや診断支援ツールの出来も見逃せない。シロナは専用ソフトSidexis上で撮った3D画像から即座に鮮明なパノラマ再構成図を得たり、インプラント埋入シミュレーションができる。ヨシダも「Trophy」シリーズとして画像管理ソフトを統合しており、口腔内カメラや他のレントゲン画像も患者ごとに一元管理できる仕組みを提供している。特にインプラントプランニングでは、CTデータ上に多数のインプラント埋入シミュレーション用のデジタルインプラント体を表示し、多角的に検討できる機能が各社備わっている。こうしたソフトの操作性や機能拡張性はメーカー間で特徴が分かれる部分だ。例えば説明用ツールの充実(ヨシダは患者向け動画を標準搭載)、他社システムとのデータ互換(シロナは自社CAD/CAMと連携、GCのCTはSTL出力オプションで光学印象データと合成可能)など、自院のデジタル歯科の体制に合わせて検討したい。
ワークフロー全体で考えると、院内でCT撮影が完結すること自体が大きな時間短縮と業務効率化をもたらす。外部の撮影センターや病院に紹介していた頃に比べ、診断までのリードタイムが短縮され、患者をお待たせしないスピーディな治療開始が可能になる。これは患者満足度の向上のみならず、治療成約率の向上(診断から治療提案まで間を空けないことでキャンセルが減る)にも直結する。歯科用CTを導入する意義は、このように診断~説明~治療開始までの流れを円滑にすることで医院全体のオペレーションを底上げすることにあると言っても過言ではない。従って、選定時にはカタログスペックの数字だけでなく、スタッフが実際に操作するシーンをイメージして、なるべく簡便なシステムを選ぶことが望ましい。デモ機に触れたり先行導入医院の話を聞いたりして、各メーカーのUIの癖や使い勝手を試してみると良いだろう。
導入コストと経営効率のバランス
歯科用CTは設備投資として大きな額になるため、そのコストと投資対効果(ROI)を冷静に評価する必要がある。まず初期導入費用だが、機種によって幅があり安価な輸入モデルで600万〜700万円台、国産中堅機種で800万〜1000万円前後、ハイエンド機では1000万〜1500万円超の価格帯となっている。例えばモリタの機器は標準構成で約960万円から、フルオプション(セファロ付など)では1600万円超になるケースもある。一方、韓国製のVatech社「PaX-i3D Smart」のようにセファロ付きで税込約700万円程度という低価格を実現した例もあり、近年は価格競争も進んでいる。ヨシダやGCは海外メーカーとの提携により比較的手頃な価格設定を打ち出しており、「国産の信頼感を保ちつつ1桁台後半の予算に収めたい」というニーズに応えている。
初期費用だけでなくランニングコストも考慮したい。代表的なのは保守契約料で、CTやパノラマ装置の場合は年間約20万円前後が相場である。この契約により定期点検や故障時の修理対応が含まれ、装置を常に良好な状態で使い続けることができる。他にも撮影用センサーやX線管球には寿命があり、数年〜十数年で交換が必要になる(高額な部品だが保守契約でカバーされる場合も多い)。電気代はCT稼働による大きな差異はないものの、PCワークステーションの更新やソフトウェアのバージョンアップ費用なども見込んでおくべきだ。こうしたコスト面では、国内メーカーは部品調達が迅速でダウンタイムが少ないメリットがあり、また中古市場での売却価値も考慮するとシェアの大きい機種は有利になることがある。
では、このコストに見合うリターン(収益向上)はどう測ればよいだろうか。一つの目安は「CTがあることで増える診療収入」である。具体的にはインプラントや再生療法といった自費治療の提供数が増えることが挙げられる。院内にCTが無かった頃はインプラントを控えていた先生も、導入後に本格的に自費のインプラント治療に乗り出し、結果として年間症例数が倍増した例は珍しくない。またCT撮影自体も、保険適用の場合1回あたりおよそ3,000〜5,000点(3,000円〜5,000円相当)の診療報酬が算定可能である。インプラントや矯正のケースでは患者自費負担でCT撮影料を設定している医院も多く、例えば1症例あたり1〜2万円程度を撮影費用として収入化できる。仮に月に5件のインプラントにCTを活用し各1万円の撮影費を得れば月5万円、年間60万円となる。保険診療中心で撮影料が大きな収益源とならずとも、CTがあることで新たに得られる診療機会(難症例に対応でき紹介せずに済む、検査精度向上で治療精度が上がり再治療を防げる etc.)は計り知れない。「見えなかったものが見えるようになる価値」を金額に換算するのは難しいが、見逃していた疾患の早期発見や、より確実な診断による治療トラブルの回避は、長期的に見れば医院の信頼と経営安定に大きく寄与するはずだ。
経営効率の観点では、チェアタイム削減と院内完結によるスピード診療という効果もROIに繋がる。先述のように院内で完結することで治療開始までのリードタイムが短縮されれば、患者の離反防止や治療成約率向上が期待できる。さらに高度な診断設備を備えていること自体が広告効果となり、インプラント希望の新患やセカンドオピニオンの患者が増える傾向もある。これらを総合すれば、CT導入が生む付加価値は決して小さくない。もちろん投資額も大きいため、初期費用はリース契約(月々リース料を支払う方式)で5年程度かけて償却するのが一般的である。リースを組めば毎月の支出は平準化され、「インプラント〇件でリース料をペイする」という具体的な目標も立てやすい。メーカー各社はデモ機の貸出やリース紹介も行っているので、導入前に設備投資計画を綿密にシミュレーションしておくことが肝要である。
保守サポート体制とデジタル連携の違い
最後に、導入後のサポートと他システムとの連携についても大切だ。高額な機器だけに、万一の故障時にすぐ対応してもらえるか、ソフトの使い方を含めて継続的な支援があるかは、安心して長年運用するための重要ポイントである。
国産メーカー(モリタ、ヨシダ、朝日レントゲン、GC)の強みの一つは、国内各地にサービス拠点や代理店網を持ちきめ細かな保守サービスを受けられる点だ。例えばモリタは全国14か所にサービスセンターを置き、24時間体制で技術者がスタンバイしている。万一CTが動かないと診断や手術が止まってしまうため、この迅速な対応力は医院のリスク管理上も大きな安心材料となる。朝日レントゲンも専門メーカーとして培ったノウハウで、導入時の施設条件の確認からアフターサポートまで手厚くフォローすることで定評がある。シロナの場合、外資系ではあるが日本法人や正規代理店によるサポート体制が整っており、日本語での問い合わせ対応や定期メンテナンスも問題なく受けられる。サポート体制は見えにくい部分だが、シェアが高いメーカー=ユーザー数が多いということでもあり、情報交換や症例相談がしやすいメリットもある。 周囲に同じ機種を使う先生が多ければ、お互いに操作法のコツやトラブル事例を共有でき、結果として自院の運用も円滑になるだろう。
デジタル機器との連携面では、各社の戦略に違いがある。デンツプライシロナは自社で包括的なデジタル歯科エコシステムを構築しており、CTからCAD/CAM(CERECシステム)まで一貫したワークフローを提供している。これは、例えばCTデータをもとにサージカルガイドを設計・製作したり、術前の咬合シミュレーションに活用する際に、相性の良いソフト・機器が揃っているという利点になる。一方でシロナ以外の機器とは閉鎖的になりがちとの指摘もあったが、近年はDICOMデータの標準化により他社のインプラントプランニングソフト(NobelClinicianやSimplant等)とも互換性は確保されている。ストローマンや3Shapeなど他のデジタル製品を活用したオープンプラットフォーム戦略を重視する医院では、特定メーカーに偏らないデータ連携の柔軟性が求められる。その点、モリタやヨシダ、GCのCTは汎用性が高く、様々なソフトウェアと連携実績がある。例えばモリタCTで撮影したDICOMデータをAI診断ソフトに取り込み歯周病リスク解析を行ったり、他社インプラント埋入用ガイドサービスにデータ提供するといったケースでもスムーズに運用できている。
また導入後のトレーニングや研修もポイントだ。メーカー各社は操作講習や症例検討会を開催しており、モリタやノーベルバイオケアは年間数千名規模のセミナーでユーザー教育を支援している。新人スタッフでも撮影手順をマスターできる研修プログラムが用意されていれば、医院内の教育コスト削減になる。スタッフが安心して機械を扱えるようになれば離職率の低下にもつながるとの報告もあり、設備投資はハード面だけでなく人材育成やチーム医療の充実にも寄与するという好循環が期待できる。CT導入はゴールではなくスタートであり、導入後にそれを活用してこそ価値が生まれる。その意味で、「購入後にどれだけ伴走してくれるか」という視点でメーカーを選ぶのも賢明な方法である。
以上、歯科用CT選びの主なポイントについて見てきた。それでは次に、具体的なメーカー・製品ごとの特色と、どんな医院・先生に適しているかをレビューしてみよう。
主な歯科用CTメーカー5社の特徴と評価
ここからは前述の主要メーカー5社について、それぞれの代表的な製品や技術的特徴、強み・弱みを掘り下げる。単なるカタログスペックに留まらず、臨床現場でどう役立つか、医院経営にどう効いてくるかという観点で分析する。読者ご自身の価値観(重視ポイント)に照らし合わせながら読み進めていただきたい。
モリタ(J. Morita)
国内シェア40%超とも言われるモリタの歯科用CTは、その実績が示す通り多くの歯科医師に支持されている。代表機種は「Veraview X800」で、パノラマ・CT・セファロ撮影を一台にまとめたフラッグシップモデルである。モリタ最大の強みはやはり画質の良さにある。X800では80μmという極小ボクセル撮影が可能で、小さな根尖の病変や微細な骨の厚みもしっかり評価できる。さらにモリタ独自の水平照射方式によって金属インレーやインプラント体によるアーチファクトを軽減し、クリアな画像が得られる点は臨床的なアドバンテージだ。実際、エンド症例やサイナスリフト前の骨評価などで「さすがモリタ、細部まで見える」と評価する声は多い。
一方でモリタ機は価格が高めなのも事実である。X800クラスだと標準構成で約1000万円近く、フルセットでは1500万円前後になるため、予算に限りがあるクリニックには心理的ハードルが高いかもしれない。しかし設備の質は価格に比例する部分も大きく、「長期目線で見れば安い買い物だった」という先達の声も聞かれる。特にモリタは国内14拠点のサービス網による迅速なメンテ対応と24時間サポートを提供しており、万一のトラブル時にも安心感が違う。稼働率が高くトラブルが少ないことは、そのまま診療機会の損失防止=収益確保につながる。さらにユーザー数の多さから情報交換も盛んで、「困ったときは周りに聞ける」という心強さもある。
強み
「画質最優先で選ぶならモリタ」と言われるほど高精細な画像と低被ばく技術。長年の信頼に裏打ちされた故障の少ない機械品質。全国対応の手厚い保守網でダウンタイムを最小化できる点。
弱み
デジタル機器全般の包括提案では他社に委ねる部分があり、CAD/CAMや口腔スキャナーとの統合は自社単独では弱い。また価格がプレミア帯であるため初期投資額は大きく、ROI回収に時間がかかる場合もある。
こんな医院におすすめ
インプラントや難症例を多く手がけ、とにかく画像診断の質を追求したい医院。エンドや歯周、外科処置で妥協のない診断を目指す先生。資金にある程度余裕があり、長期的に見て安定運用・信頼性を重視する医院。また、既に他院や大学病院でモリタCTに慣れ親しんだ先生が開業する際、その延長で導入するとスムーズに活用できるだろう。
ヨシダ(吉田製作所)
歯科用ユニットやレントゲンで老舗のヨシダは、国産メーカーとしてモリタと並ぶ存在感を持つ。CT製品では「Trophyパン Excel 3D NEO」などパノラマ複合機を中心に展開し、価格帯はモリタより抑えめでコストパフォーマンスの高さが光る。ヨシダCT最大の特徴はコンパクトで設置しやすい点だ。2m四方ほどのスペースがあればパノラマ+CTが収まる設計で、開業医の限られたレントゲン室にも導入しやすい。画質もインプラント診断に十二分な鮮鋭度を持ち、金属アーチファクト低減機能(MAR)もオプション搭載されるなど、基本性能はきちんと押さえている。
ヨシダのもう一つの利点は操作の簡便さとソフトウェアの親和性だ。対面での患者セッティング、直感的なアイコン操作、3秒で撮れる高速セファロなど、現場の声を拾った改良が随所に見られる。画像閲覧ソフトも「データ一元管理」で院内の各種画像をまとめて扱えるため、説明時にいくつもソフトを行き来する煩わしさがない。さらに価格競争力も大きな武器だ。競合他社が口を揃えて「ヨシダさんほど安くはできないが…」と意識するほど、市場では性能の割に価格が抑えられているとの評価が定着している。実際、ヨシダが2016年に発売したCT複合機(エクセラスマート)は戦略的価格で大ヒットし、他社も値下げを検討したという逸話があるほどだ。
強み
中小規模クリニックでも導入しやすい設置性と導入費用。必要十分な性能を発揮しつつ、直感的に扱える操作系でスタッフ受けが良い。全国に販売網・サービス網があり、国産メーカーならではの安心サポートが得られる。コストパフォーマンスの高さは業界随一との声も。
弱み
最高画質や特殊機能の面ではプレミア機種に一歩譲る(「画質でヨシダに負けない」と競合が意識するくらいには差が縮まっているが)。またデジタル分野の展開は幅広いものの、自社開発というより海外製品(Carestream社のTrophyブランドなど)を取り入れた構成が多く、ソフトの独自性ではやや大手に見劣りする。
こんな医院におすすめ
開業まもない医院や中規模クリニックで、なるべく費用を抑えつつCTを導入したいケース。パノラマは日常的に使うがCTはインプラント時などスポットで使う、といった運用ならヨシダ機のお手頃さと手軽さは大きなメリットになる。スタッフ主体で撮影を回したい先生や、とにかく「使いやすい機械が一番」と考える医院にもフィットする。コンパクトなのでユニット台数が多くない医院でもレントゲン室に収まりやすく、スペース効率を重視する場合にも好適だ。
朝日レントゲン
国産で歯科用X線装置の開発を長年手掛けてきた朝日レントゲン工業は、歯科用CTの草分け的存在である。同社の「AUGE(オージェ)」「SOLIO(ソリオ)」シリーズは、日本で早くから3次元画像診断を普及させてきた。朝日CTの魅力は、専門メーカーならではの尖った技術力と先進機能にある。例えばAUGEではスライス厚0.1mmという当時画期的な解像度を達成し、小さな根尖病変も鮮明に映し出せることで注目を集めた。SOLIO XZIIでは新型センサーの搭載で更なる画質向上を図りつつ、AI技術の活用による自動診断支援など、トレンドを押さえた機能強化がなされている。
また低被ばく性能の追求も朝日の理念だ。医科用CTの1/10以下の線量で撮影できることを早くからアピールし、「国内歯科用CT市場でシェア50%」を誇った時期もあるとされる(現在はモリタにトップシェアを譲るが、依然有力メーカーである)。朝日は国内唯一の歯科専業X線メーカーというプrideもあり、国内歯科事情に即した製品開発に定評がある。例えば耳鼻科領域向けのCTも展開し、開業医のニーズに細かく応える柔軟性を持つ。ユーザーサポートも全国営業所・ショールームを構えて手厚く、専門メーカーゆえに技術的な問い合わせにも深い知見で応じてくれるのは心強い。
強み
歯科用CT一筋の専門企業による高い技術力。国産初期からの実績がありブランド信頼性が高い。画質・低線量・新機能など各面で革新的アプローチを続け、常に時代の先端を行く。導入からメンテナンスまで親身で専門性の高いサポートが受けられる。
弱み
製品ラインアップがやや複雑で、型番やモードが多岐にわたるため初心者には分かりづらいという声もある。価格帯も決して安くはなく、上位機は1000万円超になる。シェアが一時期より低下したため同業ユーザーの横のつながりは相対的に少なめかもしれない。
こんな医院におすすめ
先進技術に関心が高く、新しい機能を積極的に取り入れたい先生。例えばAI画像診断や顔貌スキャンとの連携など、デジタル歯科医療の次世代を見据えた設備投資を志向する医院には、朝日の尖った製品づくりがマッチする。かつてから朝日製品(パノラマX線等)を愛用してきた医院なら、CTも同じメーカーで揃えることでソフト連携や保守窓口の一本化ができ、安心感と利便性を享受できるだろう。国内開発の製品であることに価値を置く方にも適した選択肢である。
デンツプライシロナ
デンツプライシロナ(旧シロナ)は、世界の歯科市場をリードする総合メーカーであり、グローバルでの歯科用CTシェアも上位に位置する。日本国内では外資系ゆえ導入医院は限られるものの、「世界的に実績のある機種を使いたい」という志向の先生に選ばれている。代表的なCT機種は「Orthophos SL 3D」シリーズで、ドイツ製らしい堅牢なハードウェアと洗練されたソフトウェアが特長だ。シロナCTのメリットは何と言ってもデジタルワークフローの一貫性である。同社の強みであるCEREC(チェアサイドCAD/CAM)やプラント計画ソフト(Galileos/Simplant)とのスムーズな連携が図られており、CT画像からサージカルガイド作製まで自社システム内で完結できる。実際、「モリタCT+シロナCEREC」で自費補綴の生産性を飛躍的に上げたという成功例もあるが、シロナCTとCERECを組み合わせればメーカー間のデータ変換ストレスなく同等以上のデジタル治療が実現する。
またシロナは大型症例向けのFOVオプション(たとえばオーソフォスではΦ11cm×10cmなど)を用意し、全顎的な矯正や外科症例もカバーできる。画質も良好で、最近のモデルでは解像度向上と低被ばくの両立を図っている。さらにブランド力・患者への訴求力も無視できない。世界的メーカーの先進機器を導入していることは患者説明時にも説得力があり、特にインターナショナルな感度の高い患者層には響くものがあるだろう。
強み
CAD/CAMやマテリアルまで含めたトータルソリューション提供。統合ソフトによる効率的なデジタルワークフローが組める。グローバルスタンダードな製品クオリティで、将来的な機能拡張やアップデートも精力的。ブランドの信頼感が高く、高度な歯科医療を実践している印象を与えやすい。
弱み
機器価格や保守費用は高めの設定で、ROIを厳密に考えると導入ハードルは高い。またオールシロナで揃える前提だと他社システムとの互換性に制約が出る可能性もある(近年はオープン化が進んでいるが)。国内では販路やサポートが代理店経由になるケースも多く、対応が地域差・担当者差に左右される懸念もわずかながらある。
こんな医院におすすめ
デジタル歯科を包括的に展開したい医院。既にCERECや3Dプリンタ等を導入済みで、一貫したデジタル治療の中にCTを組み込みたい場合にシロナCTは理想的なピースとなる。インプラントだけでなく矯正や外科も専門的に行う大型クリニックや、グローバルな歯科ネットワーク(スタディグループ等)に属し世界標準の機器を使いたい先生にもマッチする。また、設備にこだわりを持つことで差別化を図りたい都市部の自費系クリニックにとって、シロナの名は一つのブランディング要素となるだろう。
GC(ジーシー)
歯科材料で知らない者のないGCだが、デジタルデンティストリー分野にも積極投資を行っている。歯科用CTに関しては「Aadva GX-100 3D」という製品を扱っており、これは3in1(CT・パノラマ・セファロ)撮影対応の多機能機種である。実際にはGCが海外メーカー(例えばフィンランドPlanmeca社など)の製品をOEM供給している形で、性能は欧州で実績のある装置に準じている。GC CTの魅力はまずバランスの取れたスペックだ。日常臨床からインプラント・矯正まで幅広く使えるオールラウンド機であり、FOVや解像度、ソフトウェア機能の面でも平均点が高い。特筆すべきはセファロ付きでも設置スペースがコンパクトで、画像処理用PCやモニタもセットになったオールインワンパッケージとして提供されている点だ。価格帯もセファロ無しモデルで500万円台後半〜と非常にリーズナブルであり、高性能かつ低価格路線の海外勢に伍して競争力を示している。
またGCは材料・機器を通じたトータルソリューション提案を得意としており、CT導入に際しても例えば「デジタル矯正やガイドサージェリーまで見据えたセット提案」をしてくれる。グループ会社のGCオルソリーでは矯正診断ソフトとの連携も含めてCT活用を支援しており、材料から機器、ソフトまで横断的なサポートを受けられるのは総合メーカーならではの利点だ。保守に関しても全国12拠点のサービス網があり、まだCT分野では後発とはいえ大手らしい抜かりない体制を整えている。
強み
歯科界トップクラス企業による安心感と資源投入。低価格で高機能な製品を世界中から選りすぐり提供しているため、導入コストを抑えつつ性能も妥協しない選択が可能。材料・他機器との連携を含め、包括的なコンサルティングが受けられる。
弱み
CTそのものの歴史は浅く、純粋な自社開発ではないため独自色がやや薄い。シェアもまだ限定的で、ユーザーコミュニティはこれから形成という段階。ブランドとして「CT = GC」を思い浮かべる歯科医師は現状多くないため、患者向けアピールでは他の伝統メーカーに一歩譲る。
こんな医院におすすめ
とにかくコストを抑えてデジタル設備を整えたい医院。例えば新規開業でCT・ミリングマシン・スキャナー等を一気に導入する際、GCのパッケージ提案は予算面で魅力的だ。また矯正やインプラントを新たに導入する保険中心の医院が、低予算で自費メニュー拡充を図りたい場合にも適している。材料から経営支援まで幅広く面倒を見てくれるメーカーとの付き合いを重視する先生にとっても、GCは心強いパートナーとなるだろう。
よくある質問(FAQ)
Q. 歯科用CTを導入すると保険診療点数はどのくらい算定できますか?
A. 保険診療で歯科用CT撮影を行った場合、「デンタル撮影(断層撮影)」としておおむね3000〜5000点程度が算定可能である。具体的な点数は撮影部位や目的により異なり、顎関節や歯列全体の撮影など所定の算定要件を満たす必要がある点に注意が必要である。ただしインプラントや矯正目的のCT撮影は基本的に自費診療となるため、保険収入だけで設備投資を回収するのは現実的ではない。自費治療の提供数増加による収益向上も合わせて考慮すると良いだろう。
Q. 歯科用CTの耐用年数や買い替え時期の目安はありますか?
A. 歯科用CTの法定耐用年数(減価償却上の年数)はおおむね5〜6年程度とされています。しかし実際には10年近くにわたり使用している医院も多くあります。X線管球やフラットパネルディテクタなど主要部品の寿命が7〜10年程度と言われるため、7年以上経過した頃に主要部品交換や新機種への更新を検討するケースが一般的です。技術進歩も早いため、7〜8年を過ぎたら新製品の情報収集を始め、10年程度を一区切りに買い替えを検討する医院が多いようである。
Q. 小規模なクリニックでもCTを置くメリットはありますか?
A. はい、小規模医院であってもCTを導入するメリットは十分にある。患者を外部に紹介せず院内で完結して精密診断できることは、医院の信用力向上に直結するからである。特にインプラントや難抜歯の症例では、CTがある医院とない医院では患者の安心感が違う。紹介先への往復時間が不要になりチェアタイム節約にもなる。もちろん導入コストとの見合いではあるが、「あの医院は狭いけどCTに力を入れている」といった評判が立てば差別化にもつながるだろう。最近はコンパクトサイズのCTも登場しており、ユニット2~3台規模のクリニックでも導入例が増えている。
Q. CT撮影に際して特別な被ばく対策や施設基準は必要ですか?
A. 歯科用CTは低線量とはいえX線装置なので、設置時には所定の放射線防護措置と行政への届出が必要である。具体的にはコンクリート壁の厚みや鉛当量など基準を満たす遮蔽が求められるが、多くの場合は既存のレントゲン室を流用できる。メーカーが事前に放射線シミュレーションを行い、必要に応じて壁面への鉛板貼付等の工事を提案してくれる。被ばく対策としては患者への防護エプロン装着やスタッフの退避はパノラマ撮影同様に行う。施設基準としては管理区域の設定とX線作業主任者の選任・届出が必要だが、これも通常のレントゲンと同じ手続き範囲である。要はパノラマ導入時と大差ない準備でCTも導入可能なので、過度に心配する必要はない。
Q. 開業時にCTを導入すべきか、それとも経営が安定してから導入すべきでしょうか?
A. これは医院のコンセプトと資金計画による。開業時からCTを導入すれば、高度診療を提供できる体制を最初からアピールできるメリットがある。特にインプラントや矯正など自費率を高めたい開業医にとって、CTは他院との差別化武器となる。一方で初期投資を抑え経営安定を優先したい場合、まずパノラマのみで開業し、数年後に収益が蓄積してからCT増設する方法もある。患者ニーズとしてCTが必須な治療を当面あまり行わないのであれば後からでも遅くはない。ただ近年はリースやレンタル制度が整っており、開業時でも月々の支払い負担は調整しやすい。総合すると、「開業直後からインプラント等を積極展開する計画なら導入」「保険中心で様子を見たいなら後から検討」というのが一つの目安である。いずれにせよ将来的に導入する可能性があるなら、レントゲン室のスペースや電源容量をCT対応できるよう確保して開業することをお勧めする。