
歯科用CTとは?主要メーカー7選の価格や機能差を徹底比較!国内シェアや海外のシェア状況についても分かりやすく解説!
歯科用CTの導入には数百万円単位の高額な投資が必要であり、多くの開業歯科医が「本当に元が取れるのか?」と悩んでいます。実際、院内にCTがあれば診断精度は飛躍的に向上し、インプラントや難抜歯など難症例への適切な対応や、患者への分かりやすい説明が可能となります。一方で、装置選びを誤れば宝の持ち腐れとなり経営を圧迫しかねません。本記事ではまず歯科用CTとは何かを解説し、その上で主要メーカーの歯科用CTを比較していきます。読者である歯科医師の先生方が自身の診療スタイルに最適な1台を選べるよう、具体的な判断基準と選定戦略も網羅的に示していきます。
目次
歯科用CTとは?医科用CTとの違いと活用メリット
前提として、CTとはコンピュータ断層撮影法(Computed Tomography)の略称です。
歯科用CTは歯科領域専用に設計されたCT装置で、放射線の照射方式にコーンビーム(円錐状X線)を採用しているため「コーンビームCT(CBCT)」とも呼ばれます。
一般的な医科用CTと比べて被ばく線量が約1/8~1/50と大幅に少なく(機種により差あり)、撮影時間も約10秒程度と短いため患者への負担を大きく軽減できる点が特徴です。
歯科用CTは歯や顎骨の状態を三次元的に撮影・再構成できるため、歯が失われた部位の骨の厚み・深さ、上顎洞(副鼻腔)や下顎管までの距離を0.1mm単位で正確に測定でき、従来のレントゲンでは把握困難だった骨や歯の立体的形態まで把握することが可能です。
医科用CTのように患者さんが寝台に横たわる必要がなく、歯科用CTは座ったまま短時間で撮影が完了する点も異なります。
歯科用CTを導入するメリットは、平面的なパノラマX線画像だけでは得られなかった情報を入手し、診断の精度と確実性を高められることです。実際、以下のように様々な歯科診療シーンでCT画像が活躍しています
インプラント埋入手術の事前診査
骨の高さ・厚みや密度、神経管や上顎洞までの距離を正確に測定し、安全な埋入ポジションや適切なサイズのインプラント選定に役立てる。骨量不足が疑われる場合には骨造成の必要性評価も可能です。
親知らず(埋伏智歯)の抜歯リスク評価
親知らずの根の形態や下顎管(神経)の位置関係を立体的に把握し、麻痺等のリスクを事前に評価。抜歯難易度の判断や術式選択に有用です。
歯周病の重症度評価
顎骨の吸収状況や欠損の広がりを3Dで確認できるため、従来見えなかった骨欠損の形態を把握し適切な再生療法計画につなげる。
根管治療(歯内療法)の精密診断
根管の形態異常や根尖病変の有無・大きさを立体的に捉えます。X線では判別困難な細い根管の破折や副根管の検出にも有用で、治療の確実性向上に寄与します。
歯根破折の診断
歯根にヒビや破折線が入っている場合でも、3D画像ならばその位置や方向を確認しやすく、保存可能か抜歯すべきかの判断材料となります。
矯正歯科治療の検査・分析
埋伏歯や歯根の位置、顎骨の形態を的確に把握できます。矯正用アンカースクリューの埋入位置検討や、顎変形症手術のシミュレーション、気道(上気道)の評価など、歯科用CTは矯正治療計画にも欠かせません。
顎関節症の診断
顎関節の形態異常や関節円板位置の間接的推定、変形性関節症による骨の変化などを評価できます。従来の断層写真より詳細な情報が得られ、適切な治療方針決定に役立ちます。
このように、歯科用CTは従来の2次元レントゲンでは見逃していた情報を提供し、診断の確実性と治療の安全性向上に貢献します。結果として再治療のリスクや偶発症を減らし、患者満足度の向上や紹介患者の増加にもつながり得ます。一方で、各クリニックの症例に対して必要十分な性能のCTを導入することが重要です。過剰な高性能機を導入しても持て余す可能性があるため、自院の診療内容やニーズに見合った機種を選ぶことが肝要です。
歯科用CT主要モデルの比較一覧
まず、国内で導入例の多い代表的な歯科用CT装置7機種について、臨床スペックと費用目安を以下の一覧表にまとめます。各メーカーごとの特徴が一目で把握できるよう、解像度(ボクセルサイズ等)や撮影視野(FOV)、オプション機能(セファロ撮影対応の有無)などに加え、経営判断に直結する本体価格帯も併記しました。
| メーカー(モデル) | 特長的な性能・機能 | 最大撮影範囲(FOV) | セファロ撮影 | 本体価格目安(税別) | 
|---|---|---|---|---|
| モリタ(ベラビューX800) | 最小ボクセルサイズ約80µmの超高精細。水平照射の360°回転スキャンで金属アーチファクトを低減 | 最大径約15cm × 高さ14cm(※オプション装備時) | オプション対応(ワンショット方式) | 約960万円~(フルオプション時1,600万円超) | 
| ヨシダ(パノーラA1) | 管球焦点0.2mmの国産センサーで十分な解像度。わずか3ステップ操作の簡便さと業界トップクラスのコンパクト設計 | 直径12cm × 高さ10cm | オプション対応(※購入後3年以内なら後付け可) | 定価約826万円(基本構成) | 
| デンツプライシロナ(アクシオス) | HDモード搭載で高精細撮影が可能。最大17×13cmの広範囲3D撮影に対応し、CAD/CAM連携などデジタルワークフロー統合性も優秀 | 最大径17cm × 高さ13cm | オプション対応(別売セファロアーム) | 推定1,200万円前後(構成により変動) | 
| 朝日レントゲン(SOLIO XZ II) | IGZOセンサー採用で画素サイズ約76µmの超高画質。360°撮影で6秒高速スキャンを実現し、省スペース設計 | 最大径約10cm ※(詳細非公開) | モデルにより有(※MAXIMタイプはセファロ付) | 定価1,500万円(パノラマ+CT基本構成) | 
| ジーシー(Aadva GX-100 3D) | フィンランドPlanmeca社製。ボクセルサイズ可変(高速撮影モード~高精細モード)で用途に応じ画質調整可能。単歯から頭蓋全体まで多段階のFOV設定に対応 | 最小Ø5cm~最大頭蓋まで自由設定可 | オプション対応(※MX仕様でセファロ付属) | 定価880万円(ST基本構成) | 
| バテック(Green/Pax-i3Dシリーズ) | 世界最小約49.5µmボクセル(エンドモード)と超低被ばく撮影を両立。1回の撮影でCT・パノラマ他計5種類の画像を自動生成する独自機能搭載 | 機種により最大Ø12×8.5cm~Ø18×24cm(高さ方向拡張可) | モデルにより有(一部は標準付属あり) | モデルにより差異(例:旧モデルPaX-i3D Smartはセファロ付約658万円~) | 
| ケアストリーム(CSシリーズ) | 米国発グローバルブランド。独自の金属アーチファクト低減技術「CS MAR」でインプラント周囲のノイズを劇的低減。副鼻腔や側頭骨まで高精細に撮影可能 | 機種により4×4~16×17cmまで複数設定 | モデルにより有(一部モデルはセファロ一体型) | 概算1,000万円前後(モデル・構成による) | 
※FOVは各メーカー公表値に基づき記載。ただし実際の撮影範囲は撮影モードやセンサーサイズによって変動します。また上記の価格は標準構成での定価目安であり、実売価格は販売時の構成や交渉によって増減しますので留意してください。
現在の国内市場で大きな存在感を放っているのはモリタとヨシダです。ある調査によれば歯科用X線機器全体のメーカーシェアはモリタが約33%、ヨシダが約28%を占め、さらに朝日レントゲンを加えた上位3社で約78%に達すると報告されています。一方、外資系ではデンツプライシロナ(シロナ)やフィンランドのプランメカ製品(ジーシーが販売)が一定の支持を集めているものの、日本市場では依然として国内メーカー優位が際立ちます。こうしたシェアの背景には、装置そのものの性能だけでなく価格戦略や販売・サービス網といった経営面の要因もあります。
国産メーカーが強い日本市場ですが、世界全体で見ると韓国のVatech(バテック)が歯科用CT販売台数でトップシェアを誇ります。近年Vatech社は日本法人も設立し、本格的に国内市場に参入しています。グローバルで実績のある海外メーカー製品も選択肢に入れ、国内メーカーとのサービス体制や価格面の違いを比較検討すると良いでしょう。
以上を踏まえ、次章では歯科用CTを比較検討する際に重視すべきポイントを解説します。単純に「どの製品が一番高性能か」を比べるだけでなく、「各機種の強みが自院のニーズに合っているか」を見極める視点が重要です。そこで以下、臨床性能と経営効率の両面から歯科用CT選びの要点を整理します。
歯科用CTを選ぶ比較ポイント
解像度・画質による診断精度の差
各メーカーのCTは解像度(ボクセルサイズ)や画質に違いがあります。例えばモリタのベラビューX800は最小ボクセル約80µmの超高精細撮影が可能で、根尖部の微小構造までも鮮明に描出できます。また朝日レントゲンのSOLIO XZ IIも最新IGZOセンサーにより約76µmという極めて細かな画素ピッチを実現しており、金属修復物によるノイズ(アーチファクト)の低減にも360°撮影方式で工夫しています。一方、ヨシダのパノーラA1やシロナ(デンツプライシロナ)のアクシオスは「専用機並みの高画質」を目標に開発されており、実際に日常診療で十分な解像度を確保しています。過度に高精細な画像はデータ容量の増大や処理時間の延長を招くため、日常診療では宝の持ち腐れになり得る点にも留意が必要です。要は適材適所であり、例えば歯内療法中心で微細な根尖病変まで見逃したくないならモリタや朝日の超高精細機が心強いでしょう。一方、インプラント術前診査が主目的であれば各機種とも必要十分な解像度を備えているため、それ以外の要素を優先して選ぶ方が賢明です。
画質の差は単なる見た目だけでなく診断精度や再治療リスクにも直結します。高精細なCT画像があれば、従来のパノラマX線では見逃していた微小な骨欠損や根尖の陰影を事前に把握できるため、治療のやり直しや偶発症のリスク低減につながります。逆に画質が不十分な場合、せっかくCT撮影をしても「診断がつかず結局医科用CTを再撮影」となりかねず、患者の被ばくと医院の無駄なコストを発生させてしまいます。画質=投資回収力とも言えるゆえ、自院の主要な症例に照らして必要十分な画質を持つ機種を選ぶことが重要です。
撮影視野(FOV)と対応できる用途の広がり
CTの撮影可能範囲(Field of View: FOV)も比較の重要ポイントです。小さいFOVでは撮影部位を局所に限定でき、高解像度・低被ばくで有利ですが、一度に写せる範囲は限られます。例えばモリタの旧機種「3Dアキシオム(Accuitomo)」シリーズは径4~6cm程度の極小FOV撮影に特化し、根管や埋伏歯の局所診断で活躍してきました。一方、シロナのアクシオスやプランメカ製(GCのAadva)製品では径17cmクラスの広範囲撮影が可能で、上下顎全体から両側の顎関節まで一度にスキャンできます。どの程度の範囲を一度に撮影するニーズがあるかによって適したCTは異なります。
具体的には、インプラント埋入や親知らず抜歯が主な用途であれば局所撮影サイズで十分なケースが多いでしょう。むしろ範囲を絞ることで解像度を上げたり被曝線量を抑えたりできる利点があります。一方で、矯正歯科まで視野に入れるなら頭蓋骨全体や気道まで含めた大視野撮影が必要になります。例えばシロナのアクシオスは気道解析ソフトと連携し、睡眠時無呼吸症候群の評価にも活用できるなど、矯正・外科領域への用途拡大が図れます。また、複数歯にわたる全顎的な治療計画(フルマウスのインプラント治療や全顎的な補綴再構成)には大きなFOVが役立ちます。例えば上顎洞底挙上術(サイナスリフト)では左右両側の上顎洞を一度に把握できる方が診断・計画効率が良いでしょう。
経営面では、撮影メニューの多様性がそのまま収益拡大に直結する場合もあります。大きなFOVに対応する機種であれば、矯正用セファロ撮影や気道評価を含む新たな自費診療メニューを提供でき、医院のサービス幅を広げることが可能です。また「当院では頭頸部まで診られる高性能CTがあります」とアピールすることで、高度な総合歯科治療を求める患者層を集患するマーケティング効果も期待できます。ただしFOV拡大に伴って装置サイズも大型化し、設置スペースの確保やX線防護工事のハードルが上がる点には注意が必要です(後述の「導入準備」の項も参照)。
操作性・ワークフローとチェアタイム効率
日々の診療で実際に運用することを考えると、装置の操作性や撮影ワークフローの違いも比較すべき重要ポイントです。撮影操作や画像活用がスムーズに行えなければ、高価なCTも宝の持ち腐れになってしまいます。各メーカーとも近年は直感的に扱えるソフトウェアUIや患者ポジショニングシステムを整備していますが、細かな使い勝手には差があるのが実情です。
例えばヨシダ パノーラA1は「3ステップ撮影」を謳い、バイトブロックの付け替え程度の簡単操作でパノラマからCTまで撮影可能です。初めて扱うスタッフでも戸惑いにくく、患者のセットから撮影完了までの時間短縮が期待できます。朝日レントゲン SOLIOシリーズはヘッドサポート形状やレーザーガイド線を工夫し、患者の体動や再撮影リスクを減らす配慮がなされています。シロナCT(アクシオスなど)はソフトウェア統合性が高く、自社のCERECシステムと連携してインプラント埋入のガイデッドサージェリー計画を同一環境で完結できる点が強みです。複数のデジタル機器(口腔内スキャナーやミリングマシン等)がシームレスにつながることで、術前シミュレーション~患者説明~サージカルガイド作製まで一連のデジタルワークフローを効率化できます。
院内CTの有無はチェアタイム(治療に要する時間)にも大きく影響します。これまで院外の医科用CTに患者を紹介していた場合、その撮影予約や結果待ちに数日~数週間を要していたものです。それが院内で即日CT撮影・診断・治療計画まで完結できれば、患者の通院回数を減らし治療の早期完結につながります。これは患者満足度の向上だけでなく、医院にとってもユニット稼働効率の向上すなわち生産性アップを意味します。
また、装置自体の撮影スピードも見逃せません。CT機種によって撮影時間に差があり、例えば朝日レントゲンSOLIO XZ IIは最短6秒でCT撮影が完了します。短時間で撮れるほど患者の動きによるブレが減り、再撮影率の低下につながります。結果として無駄な被ばくや時間ロスを防ぎ、ひいてはスタッフの労力軽減と1日の診療件数増加にも寄与するでしょう。
導入コストとランニングコストの総合評価
最後に何と言ってもコスト面の比較は欠かせません。CT本体の初期導入費用はメーカーやモデルによって数百万円単位の差があり、クリニック経営へのインパクトは非常に大きいです。例えばヨシダ パノーラA1は基本構成で800万円台前半と手の届きやすい価格設定です。一方、モリタX800や朝日SOLIOはフラッグシップ機らしく1,000万~1,500万円規模の投資を覚悟する必要があります。シロナ アクシオスも海外製の高性能機ゆえ想定価格は1,000万円超です。これら価格差は単純に「高い・安い」というより含まれる付加価値の差と捉えるべきでしょう。高額機には広いFOVや高画質、ソフト統合、耐久性、充実したアフターサポートなど価格相応のメリットがあります。一方、低価格機は必要十分な機能に絞りコストパフォーマンスを追求しています。
初期費用だけでなくランニングコストも考慮が必要です。CT装置はX線管球などの消耗部品交換や定期点検が必要で、保守契約料は年額で数十万円(本体価格の約5~8%/年程度)かかるケースが多いです。また撮影用のPC・ソフトウェアも経年で更新コストが発生します(※ヨシダA1など一部は専用サーバ要)。さらにCTを設置するレントゲン室のX線防護工事費、場合によっては空調設備や電源工事費もかかります。機器代以外の付随費用も含めた予算計画を立て、総額で投資対効果を検討することが大切です。
投資回収という観点では、「そのCT導入でいくら収益が増えるか」をシミュレーションする視点も欠かせません。具体的には、CT撮影による保険・自費収入と、それに伴い増加し得る高額自費治療(インプラント等)の件数を試算します。歯科用CT撮影は保険適用下で1回約1万円強の点数(患者負担3割で3,000~4,000円程度)の収入となり、仮に月20件の撮影を行えば年間で24万円前後の増収です。一方、インプラント手術1件あたり数十万円の自費収入があることを考えれば、CTがあることで年間数件でも新たにインプラント症例を獲得できれば相当なプラスとなるでしょう。実際「CT画像を使って丁寧に説明することで患者の治療理解度・納得度が上がり、自費治療の受諾率が向上した」という報告もあり、見える化による説明効果で高額治療の成約率アップにつながる側面もあります。
ただし楽観的すぎる収益見込みは禁物です。CT導入による投資回収には時間がかかる場合も多く、またCT活用による治療レベル向上が口コミや信頼性向上を通じた長期的な増患効果を生むなど定量化しづらいメリットも存在します。重要なのは、自院の症例構成(インプラント症例数はどの程度か、難抜歯が多いか、矯正に取り組むか等)と患者層を踏まえて、CT導入がどれだけ診療メニュー拡充や質の向上につながるかを冷静に見極めることです。その上で、各メーカーの価格だけに惑わされず「この機種のこの機能にこの価格を支払う価値があるか」という視点で比較検討すると良いでしょう。
以上、解像度・視野・操作性・コストという主要な比較軸について述べました。ここからは実際の主要メーカーCTそれぞれの特徴を、臨床面・経営面の強みと弱み、および「どんな歯科医師に向いているか」という観点でレビューしていきます。
メーカー別歯科用CTの特徴
モリタ「ベラビュー X800」/高解像度と多機能性を両立した国産フラッグシップ
国内老舗メーカーであるモリタ(株式会社モリタ)の誇るフラッグシップCTが ベラビューX800 です。パノラマ・セファロ・CTの3機能一体型オールインワン機でありながら、CT画質は専用機に匹敵するレベルを目指してゼロから開発された意欲作です。実際、CT撮影では最小ボクセル80µmの高解像度を実現し、微細な根尖部の透亮像(透過像)まで鮮明に描出できます。さらに独自の水平照射方式による360°回転スキャンで、インプラント体や根管充填材による金属アーチファクト(画像ノイズ)も大幅に低減しています。画質と多機能性を両立したハイエンド機種と言えるでしょう。
ベラビューX800は顎全体を俯瞰する大視野撮影からエンド用の超高精細小視野撮影までモードを柔軟に切り替えられます。オプションでワンショットセファロを追加すれば頭部X線規格写真の撮影にも対応でき、インプラント・外科から歯内療法・矯正まで幅広い診療ニーズに応えられる万能型です。一方で、本体サイズはかなり大型(セファロ付で重量約220kg)になるため、開業医が導入する際は専用のレントゲン室スペースと床の耐荷重を十分確認する必要があります。価格もフルオプション構成では1,000万円を優に超え、国産CT中でも最高級ゾーンに位置します。また最新鋭機ゆえ、使いこなすまでに操作習熟のためのトレーニング時間を要する可能性もあります。
メリット
80µmの極細ボクセルによる圧倒的高画質と、パノラマ・CT・セファロを1台でこなす多機能性が最大の強みです。難治な根管治療から両顎にわたるインプラント計画、矯正分析まで「この1台で完結できる」という安心感があります。モリタは全国規模のサービス網を持ち保守対応が迅速な点も、長期運用設備として心強いポイントです。
デメリット
導入ハードルの高さが挙げられます。価格・サイズとも小規模クリニックにはオーバースペック気味で、「保険診療主体でCTは抜歯とインプラント時に使えれば十分」という医院には投資過多になりかねません。また設置要件(スペースや床強度、電源工事など)も厳しく、導入前準備に手間と追加費用がかかります。
このCTに向いている歯科医師
日常的に専門医レベルの高度な画像診断を必要とする先生、大規模な歯科医院で矯正から外科まで包括的に高度医療を提供したい先生に最適です。例えばエンド(歯内療法)専門で難症例の紹介を受ける先生や、口腔外科・インプラントを多数手掛ける先生には、その超高精細画像が診断の強力な武器となるでしょう。スタッフ含め複数ドクターが在籍し各分野でCTを活用するような大型クリニックであれば、フルスペック機への投資対効果は十分見込めます。
ヨシダ「パノーラ A1」/コスト重視のコンパクトCT
株式会社ヨシダの パノーラA1 は「パノラマX線+CT」複合機としてロングセラーとなっている国産機種です。その最大の特徴は何と言っても導入しやすさ(低コスト・省スペース・簡便操作)にあります。まず装置筐体が非常にコンパクトで、幅約0.86m×奥行1.15mのスペースがあれば設置可能です。多くの医院で既存のレントゲン室にほぼそのまま収まるサイズであり、大規模な改装工事なしに導入しやすい点は開業医にとって大きな利点でしょう。操作面でも、「3ステップ撮影」でパノラマからCTまで撮影できる簡便性を売りにしており、専用PCサーバーの設定など多少の準備は必要なものの、撮影プロセス自体は極力シンプルに設計されています。付属の3Dビューアソフトも直感的なGUIとなっており、スタッフ含め初めて扱う場合でもストレスなく使えるよう配慮された機種と言えます。
肝心の性能面でも、管球焦点0.2mmという仕様が示す通り基本的な画質は十分です。モリタX800等の最高級機に比べ公式なボクセルサイズ値は公開されていませんが、通常のインプラント診断や歯根破折の検出に支障ない解像度が確保されています。メタルアーチファクト低減機能も標準搭載されており、修復物やインプラントが多い高齢患者でもある程度クリアな画像が得られます。撮影範囲は径12cm×高さ10cmで、片顎全体から両側顎関節や上顎洞周囲まで一度に収められるサイズです。一般的な歯科診療で必要となる立体画像は概ねこの範囲で対応可能でしょう。ただしセファロ撮影はオプション対応(購入後3年以内に後付け可能)となっており、将来的に矯正を始める可能性がある場合は計画的な判断が必要です。
最大の強みはやはりコストパフォーマンスの高さです。定価ベースで800万円台前半という価格設定は、海外製を含め同クラスCTの中でも非常に競争力があります。他社メーカーが「ヨシダさんほど安くはできないが画質では負けない」と言及するほどで、競合各社の営業担当者が価格面を意識せざるを得ない存在となっています。言い換えれば「必要十分な機能に絞って価格を抑えた」戦略機種であり、開業医にとって導入ハードルを下げてくれる頼もしい選択肢と言えるでしょう。
メリット
コンパクトな設置サイズで院内改装の負担が少なく、価格も800万円台と導入コストが低い点が最大のメリットです。操作がシンプルで習熟しやすく、院長先生だけでなくスタッフでも扱いやすい設計です。基本的な画像解像度・画質も日常診療には十分で、国産メーカー(創業100年以上の老舗)ならではの安心感と広いサービス網も魅力です。
デメリット
スペックを究極まで高めた機種ではないため、「とことん高画質を追求したい」「全頭骨レベルの広範囲を一度に撮りたい」といったニーズには物足りない可能性があります。また、海外メーカー勢が差別化要素とするCAD/CAMやサージカルガイド連携などのデジタル統合機能は標準では非搭載です(※撮影データのDICOMエクスポートにより他社ソフトで活用することは可能)。セファロの後付けに期限(購入後3年以内)がある点も、将来的に矯正を視野に入れる場合は注意が必要です。
このCTに向いている歯科医師
「保険診療中心だがインプラントや難抜歯の際に的確な診断をしたい」と考える一般開業医にフィットします。チェアや内装への投資は抑えつつ、CT導入で診断力アップを図りたい先生にとって、パノーラA1の費用対効果は極めて高いでしょう。また「まずCTを導入して、自費治療の幅を広げ、徐々に設備投資を回収したい」という戦略にも適しています。例えば年間数件だったインプラント症例がCT導入後に倍増すれば、比較的早期にROI(投資回収)が達成できる可能性があります。ヨシダは創業100年超の国内老舗メーカーであり、販売・サービス網の広さから導入後のメンテナンス面でも安心です。
デンツプライシロナ「アクシオス (Axeos)」/大視野とデジタル連携が魅力のグローバル機
グローバル大手ブランドデンツプライシロナ(旧シロナ)による Axeos(アクシオス) は、欧米市場で2020年前後に登場した比較的新しい歯科用CTシステムです。特徴は何と言っても広範囲をカバーできる大きなFOVと、同社のデジタル機器群との高度なワークフロー統合にあります。アクシオスは最大直径17cm×高さ13cmもの3D撮影が可能で、片顎どころか上下顎全体や両側の顎関節、上気道領域まで一度でスキャンできます。これは矯正歯科や外科的処置、睡眠時無呼吸の気道評価など、頭頸部全体を視野に入れた包括的な診断に威力を発揮します。またオプションのセファロアームを追加すれば規格レントゲン写真も撮影可能なため、大学病院や大規模クリニックで求められるオールマイティな機能を備えています。
画質面でも、標準モードに加えてHD(高精細)モードを搭載しており、必要に応じてボクセルサイズを細かく設定した撮影が可能です(公式の最小ボクセル値は非公表ながら80µmクラスと推定されます)。さらに金属アーチファクト低減やノイズ除去の画像処理アルゴリズムも充実しており、大視野撮影時でも鮮明な画像が得られるよう工夫されています。撮影ワークフローについては、同社の画像ソフトウェア「Sidexis」上で他のデジタル機器データとシームレスに統合できるのが強みです。たとえば口腔内スキャナーで採得したデジタル印象データやCERECシステム上の修復物設計データとCT画像を組み合わせ、インプラントのガイデッドサージェリーをワンストップで計画・実施できます。複数の機器・ソフト間でデータ互換やエクスポートの手間が要らないため、完全デジタルワークフローを志向する医院には大きなメリットです。
メリット
非常に広い撮影範囲によって包括的な診査・診断が可能であり、特に矯正・外科・インプラント・補綴をワンストップで提供するような総合歯科に適しています。デジタル機器との連携がスムーズで、CTをハブとしたデジタルデンティストリーの構築に最適なプラットフォームとなります。ドイツ発祥のシロナブランドはグローバルでの実績と信頼性も高く、高品質なハードウェアと洗練されたソフトウェアUIを兼ね備えています。
デメリット
価格が1,000万円超と高額で、国内メーカー機に比べると導入コストのハードルが高い点は否めません。また装置サイズも大きく、防護工事や設置スペース確保は十分な計画が必要です。国内ではシロナの販売網・サービス拠点は広がりつつありますが、歴史ある国産各社に比べるとサポート体制の安心感で一歩譲るとの声もあります(※もっともデンツプライシロナ社は日本法人を持ち、トレーニングや保守にも力を入れているため大きな不安はないでしょう)。高度な機能を使いこなすにはそれ相応のITリテラシーも求められるため、デジタル機器に苦手意識が強い場合は宝の持ち腐れになる恐れもあります。
このCTに向いている歯科医師
矯正・インプラント・外科処置・デジタル補綴を包括的に行っている先生にとってアクシオスは心強い相棒です。とりわけマルチに診療する大規模クリニックの院長先生や、先進のデジタル歯科医療を掲げるクリニックに適しています。広視野やソフト統合のメリットを活かし、CT導入によって矯正や難症例外科など新たな分野に挑戦したい場合にも有力な選択肢となるでしょう。逆に「自院ではそこまで広範囲の撮影ニーズはない」という場合にはオーバースペックになり得るため、自院の診療内容とのマッチングを見極めて導入を検討すると良いでしょう。
朝日レントゲン「SOLIO XZ II」/高画質志向の省スペースCT
国産X線機器のパイオニア、朝日レントゲン工業の最新CTラインナップが SOLIO XZ II(ソリオ エックスゼット ツー) です。同社史上「最小サイズのCT装置」と銘打たれており、省スペース・短時間撮影を追求した製品です。具体的には設置に必要なスペースは約1.5m四方とされ、小規模な医院にも無理なく導入できるコンパクト設計となっています(従来の同社CTと比べ約30%のフットプリント縮小を実現)。それでいて撮影性能は極めて高く、搭載された新型フラットパネルセンサーは液晶技術のIGZO(イグゾー)を用い、画素サイズ約76µmという業界トップクラスの高解像度を誇ります。従来機に比べノイズ低減・高速読み出し・微細化が可能となり、より精細で診断しやすい画像を提供します。
SOLIO XZ IIは撮影方式にも工夫があり、360°フル回転撮影でも12秒、180°(半回転)なら最短6秒という高速スキャンを実現しています。撮影時間が短いほど患者の動きを抑制でき、ブレの少ない鮮明画像が得られるうえ、患者さんの負担軽減にもつながります。撮影後の画像再構成も迅速で、忙しい診療スケジュールの中でも即時にCT撮影→診断を行いやすい点は現場にとって大きなメリットです。なおSOLIOシリーズには頭部X線規格写真(セファロ)撮影に対応したSOLIO XZ II Maximというモデルもあり、矯正歯科用途にはこちらが用意されています。
メリット
業界最高水準の解像度(76µm)によるクリアな画像は、微細な骨梁の状態まで把握できるとされ、エンドからインプラントまであらゆる診断で武器となります。また6秒スキャンの高速撮影は患者負担の軽減と画像品質向上に直結し、1.5m四方という省スペースで院内に収まりやすい点も開業医に嬉しいポイントです。朝日レントゲンは日本の歯科用X線装置開発をリードしてきた老舗メーカーで、質実剛健な製品作りと手厚いサポートにも定評があります。
デメリット
本体価格が1,500万円(パノラマ+CT基本構成)と非常に高額で、国産機としては最も高いクラスに位置します。FOV(撮影視野)は径約10cm程度と公表されており、一度に撮影できる範囲が他機より限定される可能性があります(詳細非公開ながら片顎~両側下顎孔周辺が目安と思われます)。そのため広範囲の撮影には不向きで、主に部分的な高精細撮影ニーズに特化した製品と言えます。矯正用途ではMaximモデルを選ぶ必要があり、後から簡易にセファロ追加とはいかないため、導入時にモデル選択を誤らないよう注意が必要です。
このCTに向いている歯科医師
歯内療法や難度の高い保存治療に力を入れており、画質を最重視する先生に理想的です。例えばマイクロスコープ併用の精密根管治療を標榜するような歯科医院では、SOLIO XZ IIの超高精細画像が診断の信頼性を一層高めてくれるでしょう。またクリニックのスペースに制約がありつつも最高性能のCTが欲しいというケースにも適しています。逆に、インプラント中心で広範囲をまとめて撮影したい場合や、矯正も視野に入れる場合には、他機種(大視野対応機やセファロ一体型機)の方がマッチする可能性があります。
ジーシー「Aadva GX-100 3D」(Planmeca製)/柔軟なFOVと先進ソフトが武器
歯科材料大手のジーシー(GC)が扱う Aadva GX-100 3D は、フィンランド・Planmeca社の先進CTシステムを日本市場向けに展開したものです。同社のデジタル機器ブランド「Aadva(アドバ)」の一翼を担い、院内スキャナー(Aadva IOS)やミリングマシン(Aadva Mill)と並んで歯科デジタルソリューション群を構成する位置づけです。最大の特徴は、用途に応じて撮影視野(FOV)を自由に設定できる柔軟性にあります。最小径Ø5cmの限定撮影から、頭蓋全体までカバーするフルスキャンまで、多段階にFOVを調節可能で、エンド用の高精細撮影から顎顔面全体の包括診断まで1台で対応できます。また撮影モードも豊富で、低解像度の高速撮影から高解像度モードまでボクセルサイズを可変に設定でき、症例の要求に合わせて画質と被ばく量・撮影時間のバランスを取れる点も特徴です。
ソフトウェア面では、プランメカ社の統合ソフトウェア「Romexis」により高度な画像解析や各種シミュレーションが可能です。インプラントプランニングやサージカルガイド作製、顎関節や気道の評価、矯正分析など、多彩なモジュールを追加できる拡張性の高いプラットフォームとなっています。ジーシーは他にも口腔内スキャナーやCAD/CAM装置を「Aadva」シリーズで展開しており、各デバイスで得たデータを統合的に活用できるエコシステムを構築中です。そのためGX-100 3Dも、単なるCT装置に留まらずデジタル歯科診療の中核として位置付けられています。
メリット
FOVや解像度設定の自由度が高く、一台で様々な撮影ニーズに応えられる万能型です。小野(部分)撮影から頭頸部全体までカバーできるため、クリニックの診療内容が拡大しても対応力があります。ソフトウェアが高機能かつ拡張性に優れ、将来的に新しい分析やデジタル連携にもアップデートで対応できる柔軟さがあります。価格も定価880万円(基本ST仕様)とフルスペック機に比べれば抑えられており、性能とコストのバランスに優れた機種と言えるでしょう。
デメリット
国産機ほど国内ユーザー数が多くないため、日本語の情報や活用ノウハウの蓄積が若干少ない点が挙げられます。ただし販売元のGCが手厚くサポートする体制を整えているため、大きな不安材料ではありません。最高解像度や撮影スピードではモリタや朝日の専用機に一歩譲る部分もありますが、臨床上問題になるレベルではありません。セファロ撮影はMX仕様(上位モデル)で対応となるため、矯正用途がある場合は初めからMX仕様を選ぶか追加投資が必要です。
このCTに向いている歯科医師
幅広い症例に対応できる汎用性の高いCTを求める先生に適しています。普段はインプラントや一般診療が中心だが、将来的に矯正や外科も視野に入れているような場合、GX-100 3Dの柔軟性は大きな安心材料となるでしょう。既にジーシーのAadva IOS(口腔内スキャナー)等を導入している医院であれば、同じプラットフォームでデータ連携が容易になるメリットも享受できます。国内では国産機が強い市場ですが、グローバルで実績のあるPlanmeca社製である点も品質面で信頼がおけ、他院との差別化要素にもなるでしょう。
バテック「Green X / PaXシリーズ」/世界シェアNo.1、低被ばくと高コスパが魅力
韓国のVatech(バテック)社は歯科用CTの世界シェアNo.1メーカーであり、近年日本市場でも注目度が高まっています。同社の Green Xシリーズ(最新機種)および従来の PaX-i3Dシリーズ は、低被ばく撮影とコストパフォーマンスを武器に急成長した製品群です。例えばPaX-i3D Smartは2017年当時、セファロ付きでも600万円台という価格を実現し、高機能CTの低価格化を一気に押し進めました。現在のGreen X 12/18/21などのシリーズでも「Ultra Low Doseモード」により一般的なCTより最大70~85%の線量低減を可能にしつつ、圧縮センシング技術で画像の高精細さを維持する先進的なアプローチを採用しています。一部機種では世界最小49.5µmボクセルのエンドモードも搭載し、根管レベルの超高精細撮影も可能です。
Vatech製CTのもう一つの特徴は撮影ワークフローの合理化です。たとえばGreen X 12は1回のCT撮影からパノラマ画像やデンタル断層像など5種類の画像を自動生成する「Magic PAN」機能を備え、追加撮影の手間を減らす工夫がされています。複数サイズのFOVをボタン一つで選択できるマルチFOV機能や、AIによる画像セグメンテーション補助など、日々のオペレーションを効率化するアイデアが随所に盛り込まれています。こうしたユーザビリティの高さも、世界各国の開業医から支持を集めている理由でしょう。
メリット
競合他社を驚かせた導入ハードルの低い価格設定(旧モデルでセファロ付600万円台)は大きな魅力です。予算が限られる中でもCT導入を可能にし、多くの医院で3D診断環境を整える後押しとなっています。被ばく線量の低減技術にも優れ、患者説明時に「当院のCTは被ばくが少ない安全な機種です」とアピールできる点も安心材料です。画質・機能面でも年々進歩しており、高精細エンド撮影やAI機能など先進技術を積極的に取り込む姿勢も評価できます。グローバルNo.1メーカーの実績から、品質と信頼性も近年大きく向上しています。
デメリット
韓国メーカーということで、日本市場ではサービス拠点や流通網が国産大手に比べまだ発展途上な面もあります(※2023年に日本法人が設立され体制強化中)。製品マニュアルやユーザーコミュニティの日本語情報がやや少ない点は、初導入の場合に不安を感じる要素かもしれません。ただ、国内ではCiメディカル等の販売代理店が実績を重ねており、導入支援や保守サービスも整いつつあります。機種によっては他社比でFOVが若干狭いモデルもあるため(例:従来型の小型機は8×9cm程度)、購入時には希望する撮影範囲を満たすモデルを選定する必要があります。
このCTに向いている歯科医師
できるだけ低予算でCTを導入したいが、性能も譲れないという先生にとって有力な選択肢です。特に開業間もない若手歯科医師が初めてCTを導入する場合や、インプラント・外科症例が増えてきてそろそろ院内CTをと考えるケースで、VatechのCTはコストパフォーマンス最高クラスです。被ばく線量の低さを重視する先生にも適しており、高齢者や小児にも安心して撮影できる点は患者受けも良いでしょう。世界的な評価が高いブランドでもあるため、「最新のグローバルスタンダード機器を導入している歯科医院」として差別化したい場合にも一考の価値があります。
ケアストリーム「CS 8100/9600 シリーズ」/アーチファクト低減と信頼のグローバルブランド
ケアストリームデンタル(Carestream Dental)社は、元々Kodak社の歯科部門を前身とするアメリカの大手イメージング企業で、デジタルX線センサーやフィルムで古くから知られています。歯科用CTにおいても「Trophy」(トロフィー)ブランドでいち早く市場参入し、かつて世界的に高いシェアを誇りました。現行の CSシリーズ(主に小型機8100 3Dから大型機9600まで展開)は、長年の経験を活かした画像処理技術の高さが特徴です。特筆すべきは独自の金属アーチファクト低減技術「CS MAR」で、インプラントやクラウンによる画像ノイズを劇的に低減します。この機能により、金属修復物だらけの高齢患者でもクリアな断層像を得やすく、誤診や見逃しリスクを減らすことができます。
また高精度な副鼻腔・側頭骨撮影もCSシリーズの強みです。最上位機種のCS 9600は耳鼻科領域向けの専用撮影モードを備え、従来の医科用CTの数分の一の被ばく量で高品質な副鼻腔・側頭骨画像を撮影できるとされています。これにより、歯科領域に留まらず上気道や耳科領域まで院内で評価でき、全身的な視点での診療にも役立ちます。さらにCS 9600は患者が座ったまま撮影できる収納式シートを内蔵しており、体動を抑えて高精度なスキャンを実現するポジショニング補助機構もユニークです。ライブ映像での位置合わせをガイドするカメラや、自動的に適切位置へ調整してくれるSmartAuto機能など、初回で正確に撮影するための工夫も凝らされています。
メリット
歯科用CT黎明期から培われた信頼性の高い画像処理技術が最大の利点です。特にCS MAR機能によるノイズ除去は、他社に先駆け実用化されてきた分野であり、金属だらけの症例でも診断可能な画像を提供してくれます。ラインナップが豊富で、クリニック規模や用途に応じて小型エントリーモデルから大型ハイエンドモデルまで選択肢があるのも魅力です。グローバル企業ゆえソフトウェアのアップデートや製品改良も継続的に行われており、常に最新のテクノロジーが反映されます。日本でも旧トロフィー時代からのユーザーが多く、代理店ネットワークを通じたサポート体制も比較的充実しています。
デメリット
上位機種は他社ハイエンド同様に価格が高額で、フルオプションでは1000万円超になる点は中小規模医院には負担です。逆にエントリーモデルのCS 8100 3Dは価格的には導入しやすいものの、FOVが8×9cm程度と限られ用途も限定されます(主に一顎の部分撮影向き)。もし後からより広範囲撮影が必要になった場合は上位機種への買い替えを検討せねばならず、導入時に将来のニーズを見極めて機種選定する必要があります。海外メーカー製品ゆえUIや操作体系に癖があり、国産に慣れたユーザーには最初戸惑うこともあります。しかし操作マニュアル類は日本語整備されており、大きな障壁ではありません。
このCTに向いている歯科医師
金属修復物の多い高齢患者を多数抱えている医院や、上顎洞や顎関節も含めた包括的な診断を行いたい先生に適しています。例えばサイナスリフトやAll-on-4など副鼻腔近くでのインプラント手術を数多く手掛ける先生にとって、CSの高品質な副鼻腔画像は有用でしょう。根管治療専門医で再根管治療症例を多く診る場合なども、MAR機能で根管充填材の乱反射を抑えて評価しやすくなる恩恵があります。総じて、画質重視でグローバルスタンダードな装置を導入したい先生にとって有力な候補となるでしょう。
自院の診療戦略と将来計画に合わせた歯科用CTの選定指標
診療領域と症例層から選ぶ
CT選びではまず自院が主に扱う診療領域・症例の種類を考慮しましょう。どの領域に注力しているかで必要なCT性能が変わってくるからです。
精密な歯内療法や難抜歯が多い場合
微小な根尖病変まで逃さず診たいなら、モリタX800や朝日SOLIOのような超高精細タイプが強力な武器になります。エンド専用モードで歯根のひびまで描出できる機種が安心です。
インプラント診療が中心の場合
実はどの機種もインプラント術前診査に足る解像度は備えています。それよりも撮影ワークフローやコスト面の違いに注目しましょう。例えば短時間に撮影できチェアタイムを取らないヨシダA1や、デジタルガイド連携が容易なGC/Aadvaなど、他の要素で選ぶ方が賢明です。
矯正歯科や包括的治療を行う場合
頭部全体や気道まで写せる広視野タイプが必要です。シロナAxeosやプランメカ(GC)GX-100なら、セファロや上気道評価にも対応でき、矯正分析から外科的評価まで網羅できます。
経営目標とROIから選ぶ
経営方針もCT選定の大きな要素です。初期投資を極力抑え、保険診療内の少数症例から少しずつ回収したいなら、価格重視の国産CT(ヨシダなど)が適任です。逆に自費治療の拡大や高度医療で大きな収益増を狙うなら、高性能機への投資が報われるでしょう。また、CT導入で新たに可能になる診療(ガイデッドサージェリー、マウスピース矯正等)を見据え、その収益も織り込んでROI(投資利益率)を計算する視点が重要です。「CTで年間○件のインプラントが追加獲得できる」「説明効率向上で自費転換率が○%上がる」等、具体的な試算を行いましょう。
将来展望と拡張性を考慮
歯科医療はデジタル化が急速に進んでいます。購入時点の機能だけでなく、後から拡張できるかも判断材料となります。特に若い先生で今後診療の幅を広げたい場合、セファロを後付けできるか、新しいソフトウェアアップデートに対応できるかといった拡張性を重視しましょう。例えばヨシダA1は購入後3年以内ならセファロユニットを追加できます。将来本格的に矯正を始める可能性があるなら、このような後から機能追加可能な機種を選んでおくと長期的に設備投資を最適化できます。
以上、歯科用CTの基礎知識から機種比較・選定ポイントまで解説しました。最後に、読者の先生方からよくある疑問にQ&A形式でお答えします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 歯科用CT撮影は保険適用できますか?自費の場合、患者負担はいくらですか。
A1. 歯科用CT撮影は一定の条件下で保険算定が可能です。具体的には「通常のデンタルやパノラマX線では診断困難な症例で、CT撮影の必要性が医学的に認められる場合」に限り保険適用されます。例えば埋伏智歯が下顎管に近接しているケースや、大きな顎嚢胞の広がり評価が必要なケースなどが該当します。保険適用となった場合、患者負担3割でおよそ3,000~4,000円程度(撮影料の総点数は約1万円強)であり、患者さんにとって比較的低廉な負担で高性能な画像診断が受けられます。一方、インプラントや矯正治療目的のCT撮影は自由診療扱いとなり、その場合の費用は各医療機関が設定します。多くの歯科医院では1回のCT撮影につき5,000~15,000円程度の自費料金を設定しているようです(地域の相場やサービス内容によって異なります)。なお保険適用の可否判断は診断名と症例の状況次第であり、適用範囲は2012年に大幅拡大されるなど徐々に拡大傾向にあります。最新の診療報酬点数表を確認するとともに、適用可能か迷う症例では一度医科口腔外科等に相談すると良いでしょう。
Q2. CT装置のランニングコストや耐用年数はどのくらいですか?
A2. 機種にもよりますが、一般的に歯科用CTの法定耐用年数は約7~10年とされます。実際には10年以上にわたり使用している医院も多いです。ランニングコストの主な項目は保守メンテナンス料と消耗部品交換費用です。目安として、
保守契約料: 年間で数十万円(装置価格の5~8%/年程度が目安)。定期点検や故障時の対応を含みます。
消耗品: X線管球は撮影回数や年数に依存して寿命が来ます。早ければ数年、通常5~7年程度で交換時期となり、交換費用は100~200万円規模になることもあります。撮影用コンピュータもOS更新や性能向上に伴い5年おき程度でリプレースする医院が多く、その都度数十万円以上の費用が発生します。
その他維持費: レントゲン室の空調電気代の増加、画像保存用ストレージのコストなども僅かながらかかります。
以上を踏まえると、CT導入後の年平均維持費はざっくり本体価格の10%前後と見込んでおくと安全です。もちろん使用状況により変動するため、導入前にメーカーから部品の想定寿命や保守プランの詳細説明を受け、長期的な費用計画を立てておくことが大切です。
Q3. セファロ(頭部X線規格写真)は付けた方が良いでしょうか?
A3. これは医院の診療内容次第です。矯正歯科を本格的に行うならセファロ撮影装置はほぼ必須で、CTと並行して分析用の規格写真(頭部側面・正面)が求められます。近年はCTデータから頭部骨格の3D分析を行うケースもありますが、保険矯正等では依然としてセファロ写真が重要です。よって矯正専門医が在籍し本格治療を提供するなら、最初からセファロ付きモデル(あるいは後付け可能モデル)を選ぶべきでしょう。一方、矯正を扱わない一般歯科であれば無理に付ける必要はありません。後から簡易なセファロ装置を増設する(ポータブルタイプの頭部撮影機も市販されています)手もありますし、先述の通りヨシダA1のように購入後にセファロユニットを追加できる機種もあります。このように将来の診療拡大に備えて拡張性のある機種を選んでおくと、いざ矯正を始めることになった時も安心です。なお、セファロ付きにすると装置の横幅が増し設置スペースや費用も余計にかかる点は留意してください。
Q4. 導入を検討する上で、まず何から始めれば良いでしょうか?
A4. まずは情報収集です。この記事で大枠は掴めたと思いますが、具体的な機種選定には各メーカーの詳細カタログやデモ体験が不可欠です。興味のあるメーカー5社(モリタ・ヨシダ・シロナ・朝日レントゲン・ジーシー)それぞれに問い合わせ、最新モデルの資料請求や説明を受けてみましょう。その際、自院の診療内容や症例数、設置スペースなどを伝えると、担当者から適切な提案や見積もりを得られます。
次に可能であれば実機の見学・体験をお勧めします。各社のショールーム(東京・大阪など)や歯科展示会で実際にCTに乗って自分で撮影してみると、操作性や画質の違いが実感できるはずです。既にCTを導入している同業の先生方の評判を聞くのも有益でしょう。
具体的な導入準備としては、レントゲン室の寸法や壁の厚み、電源容量などを確認し、必要なら防護工事や電気工事のプランも並行して検討します。メーカーによっては無料で現地調査をしてくれる場合もあります。
最後に資金計画です。CTは高額機器なので、多くはリースや院内ローンを活用して導入されています。各社とも提携リース会社を通じて月々のリース料シミュレーションを出してくれますので、毎月の支払い額と予想収益を比較検討してみると良いでしょう。
要するに、「調べる → 触れる → 計画する」というステップを踏むことで、CT導入の具体像が見えてきます。最初の一歩を踏み出せば、不安よりも「早く使って診断したい!」というワクワク感がきっと勝ってくるはずです。ぜひ明日から、気になるメーカーへ資料請求や担当者への問い合わせを実行してみてください。きっと有益な情報が得られ、歯科用CT導入への道が開けることでしょう。