歯科医師の大学院生(研究者)の収入は?学部卒との平均年収の差や就職先の違い、収入の変動要因など解説!
歯科医師の大学院生の収入はどれくらい?
歯科医師の資格を持ちながら大学院に進学して研究者として活動する場合、その収入は一般の歯科臨床医と比べて格段に低いのが現状です。大学院生はあくまで「学生」という身分であり、正規の給与が支払われるポジションではないためです。したがって収入源は限られ、日常の生活費を賄うのにも苦労するケースが少なくありません。
大学院生歯科医師の収入源は奨学金とアルバイトが中心
大学院生の歯科医師が得られる主な収入源は、大学からのわずかな支給や奨学金、そして外部でのアルバイト収入です。例えば、大学院に在籍する歯科医師の場合、大学の附属病院から支給される手当は月に数万円程度にとどまります。大学でティーチングアシスタント(TA)を務めても数千円程度の謝礼しか得られないのが一般的です。そのため、生活費の大部分は学外の歯科医院でアルバイトをして稼ぐ必要があります。大学の医局(研究室)が人手を必要とする関連の歯科医院を紹介してくれることも多く、週に1〜2日程度、大学院の研究や大学病院での診療勤務の合間に外部の歯科医院で働いて収入を補うというスタイルが一般的です。さらに、経済的に余裕がない大学院生は日本学生支援機構の奨学金(貸与)や、民間・大学からの給付型奨学金に頼ることもあります。こうした奨学金や支援制度は返済が必要なものもありますが、大学院生にとって貴重な収入源となっています。
大学院生歯科医師の平均月収は20万円未満が一般的
上記のように収入源が限られることから、歯科医師として大学院に通う学生の月収はおおむね20万円に満たないケースが多いのが実情です。臨床研修を終えた若手歯科医師であっても、大学院に在籍中はフルタイムで稼ぐことが難しく、医局からの支給金とアルバイト代を合計しても月額で15〜20万円程度にしかならない場合があります。実際、首都圏の大学歯学部博士課程に在籍するある歯科医師(29歳)の例では、大学院入学後の年収が180万円にも満たず生活に困窮しているとの報告があります。この方は臨床経験が乏しい基礎研究分野のため日給の高い仕事にも就けず、教授の紹介で働いているバイト先でも十分な収入が得られない状況でした。月々の生活費をまかなうには最低でも20万円前後が必要と言われますが、研究や学業の合間に確保できる労働時間には限りがあるため、実質的に大学院進学は「収入が極端に少ない4年間」に突入すると考えておく必要があります。
学部卒の歯科医師の平均年収はどれくらい?
では、大学院に進学せず学部卒業後ただちに臨床の道に進んだ歯科医師の場合、どれくらいの収入が得られるのでしょうか。一般に歯科医師国家試験合格後は1年間の臨床研修を経て各自のキャリアがスタートします。研修修了後に歯科医院などへ勤務医として就職した場合、その平均的な年収は500万円台〜600万円台が相場と言われています。もっとも、年収は勤務先の規模や地域、本人の経験年数によって幅がありますので、若手のうちは平均を下回ることも多々あります。
新卒歯科医師の給与相場は月25〜40万円程度
歯科医師として臨床現場で働き始めたばかりの頃の給与は、勤務先によって差があるものの初任給で月額25万円程度〜良くても40万円程度が一般的なレンジです。例えば都市部の小規模な開業歯科医院に勤める場合、固定給が月約25〜30万円程度に設定されることが多い一方、人手不足の地方や高待遇を提示する医院では新卒でも月給35〜40万円程度が提示されるケースもあります。研修医を終えたばかりの1年目・2年目は、歯科衛生士と同じような診療補助や簡単な処置からスタートし、徐々に治療を任されるようになる段階です。そのため、この時期の収入は他業種の新社会人と比べても極端に高いわけではありません。しかし勤務医として臨床経験を積んでいけば着実に昇給し、数年後には同年代の平均を上回る収入を得る歯科医師も少なくありません。
勤務歯科医師の平均年収は500〜600万円前後
厚生労働省が実施した調査によると、歯科診療所に勤務する歯科医師(勤務医)の平均年収はおおむね500万〜600万円台に収まることが分かっています。たとえば、2018年度の歯科医師の平均年収は調査対象によって多少異なりますが、医療法人が運営する歯科診療所に勤務する歯科医師で平均約564万円、個人経営の歯科診療所に勤務する歯科医師では平均630万円前後との報告があります。また別の統計データでは、企業規模10人以上の歯科医院に勤める歯科医師の平均年収は約570万円(2019年時点)とされています。これらの数字から、30代前半までの若手勤務医であっても500万円台後半の年収を得ている例は珍しくないことが分かります。さらに経験を積んで40代以降になると平均年収が1000万円を超える層も存在するなど、歯科医師の収入はキャリアの中で大きく伸びる可能性があります。ただし若手のうちは上述したように個人差が大きく、勤務先の待遇によっては年収400万円台というケースもあるため、自身の置かれた環境でどの程度の収入が見込めるかを見極めることが大切です。
大学院進学は収入にどう影響する? 学部卒との違い
大学院に進学するか否かは、歯科医師のキャリアにおいて収入面で大きな分岐点となります。ここでは、学部卒後すぐに臨床に出た場合と、大学院に進んだ場合で、短期的および長期的な収入の差がどのように生じるかを見ていきましょう。結論から言えば、大学院在学中の数年間は明らかに収入面で不利ですが、卒業後の進路によってはその差が縮まる場合もあります。ただし全体として見ると、大学院進学による収入機会の損失を完全に取り戻すのは簡単ではないのが現状です。
大学院在学中の収入は臨床勤務に比べて大幅に少ない
まず大学院に在籍している4年間について考えると、その間の収入は臨床の現場で常勤の歯科医師として働いた場合に比べて格段に少なくなります。前述のように大学院生の年収は200万円前後にとどまることも多く、極端な例では年収180万円にも満たないケースすら報告されています。一方、同期で学部卒後すぐに開業医の下で勤務医となった歯科医師たちは、20代後半の時点で大学院生の2倍〜3倍以上の年収を稼いでいることも珍しくありません。実際、先ほどの年収180万円未満のAさんの同期の歯科医師たちは、臨床スキルを磨きながらAさんの2倍以上の給与を得て、余暇には海外旅行を楽しむなど経済的にもゆとりある生活を送っているといいます。このように、大学院に進学した場合とそうでない場合では、20代後半までの段階で数百万円規模の収入差が生じる可能性があります。大学院で学ぶ4年間は将来への投資とも言えますが、その間に得られたはずの収入(いわゆる機会費用)は失われてしまう点は覚悟しておくべきでしょう。
博士課程修了後に収入格差は埋まるのか
大学院修了後、こうした収入格差がどのように変化するかは、博士課程修了者の進路によって異なります。臨床系の大学院を修了し、大学から関連病院へ医局人事で出向した場合には、比較的高い給与水準で採用されるケースがあります。例えば博士号取得後に勤務する関連病院では年収600〜700万円以上が支払われることが多く、地方の病院では年収1000万円を超える待遇が提示されることもあります。このように、博士課程修了後に臨床医として働き始めれば一定の高収入が期待でき、在学中の低収入をある程度取り戻すことは可能です。実際、大学院卒だからという理由で卒業後も低収入のままというわけではなく、キャリア次第で学部卒の同年代に追いつくことは十分に起こりえます。
しかし一方で、博士課程で基礎研究に打ち込んだ人が卒業後に臨床の現場に戻ろうとすると、すぐに高収入を得るのは難しいのが実情です。4年間ほとんど臨床経験を積んでいない「ペーパー歯科医師」と見なされてしまい、臨床スキルを重視する開業医からすると即戦力とはみなされにくいためです。大学に残って研究を続ける道を選んだ場合も、大学教員などのポストに就けなければ引き続き非常勤の立場でアルバイト掛け持ちの生活が続く可能性があります。大学教員のポストに運良く就任できれば大学から安定した給与が支給されますが、その椅子は限られており競争も激しいのが現実です。このように、博士課程修了後の収入は「臨床に復帰して高給のポジションを得られるか」「大学などで常勤ポストを得られるか」によって大きく変わります。結果として、大学院に進学しなかった歯科医師との収入差が完全に埋まるかどうかは人それぞれであり、むしろ研究職に進んだ場合は長期間にわたり収入面で苦労が続くケースもあることを念頭に置く必要があります。
大学院卒と学部卒で就職先に違いはある?
大学院に進学した歯科医師と、学部卒でそのまま臨床に出た歯科医師とでは、その後のキャリアパスや就職先にも違いが見られます。学歴や専門性の違いが、どのような職場で働くことになるかに影響を及ぼすためです。以下では、大学院修了者と学部卒者それぞれの代表的な進路について解説し、その違いを明らかにします。
大学院修了者は大学の教員や関連病院で働くケースが多い
博士課程まで修了した歯科医師は、その専門性を生かせる場として大学や大学病院、あるいは大学医局が派遣する関連病院で勤務するケースが多くなります。臨床系の博士課程を修了した場合、大学の医局人事によって研修協力施設や関連病院に医局員(医師)として1〜2年程度赴任するのが一般的です。この期間に大学院で得た知識や研究成果を踏まえつつ、臨床医としての実戦経験を積むことになります。その後は、大学のポスト(教員)に空きが出れば引き続き大学病院で診療・研究を続けたり、再び別の関連病院へ異動したりといった形でキャリアを積んでいきます。最終的に大学に残って研究・教育に携わる道を選ぶ人も一定数おり、その場合は助教や講師、将来的には教授職を目指していくことになります。大学院で専門性を高めた人は企業の研究職(例えば医療機器や製薬関連)に転じるケースもありますが、歯科医師の場合は臨床との関わりを持ちながらキャリアを歩むために大学医局のネットワーク内で動く人が多いようです。
一方、基礎系の博士課程を修了した場合は、卒業後も引き続き研究に従事する道が中心です。大学院で培った専門知識を生かし、大学の研究員・教員として残るか、国公立の研究所・企業の研究職に就くことになります。基礎研究に没頭した4年間は臨床経験がほとんど積めていないため、途中で臨床医に転向して開業医に就職するのはかなり難しいとされています。このため、基礎系で博士号を取得した歯科医師は、そのまま研究者としてキャリアを積み、大学や企業で研究開発に従事することが多いでしょう。
学部卒歯科医師は研修後ただちに臨床に進むのが一般的
学部卒で臨床研修を終えた歯科医師は、大半がそのまま臨床現場に継続して従事する道を歩みます。具体的には、街の開業歯科医院に勤務医として就職するケースが最も一般的であり、新人の歯科医師の多くがまずは開業医の下で経験を積み始めます。勤務医として様々な患者を診療し、技術やコミュニケーション力を磨きながら、将来的に独立開業を目指す人も少なくありません。また、一部の歯科医師は総合病院の歯科口腔外科などに勤務する道を選ぶこともあります。総合病院勤務の場合は研修医の延長で専門研修医として働きつつ専門医資格の取得を目指すケースもあり、給与は大学病院勤務より高めになる傾向があります(地方の大病院口腔外科では若手でも月給25〜30万円程度の例もあります)。
学部卒ですぐに就職した歯科医師は、20代のうちに臨床経験を積み重ねることで、患者対応や技術面でのスキルアップが望めます。その結果、30代に入る頃には医局所属の大学院卒の同期と比べて臨床現場での信頼や収入面でリードしていることもあります。もっとも、そのまま臨床一本で進む道は専門性の深化という点では大学院に劣る部分もあります。最近では認定医・専門医制度など、大学院に行かずとも臨床の現場で働きながら専門資格を取得してキャリアアップを図る選択肢も充実してきています。学部卒で臨床に進んだ歯科医師は、そうした制度を活用して自分の診療の幅を広げたり、差別化を図っていくことができるでしょう。
歯科医師の収入に影響する要因には何がある?
歯科医師の収入は、本人の学歴やキャリアだけでなく、働く環境や条件によっても大きく異なります。ここでは、歯科医師の収入を左右する主な要因として、「勤務先の種類」「経験年数や役職」「勤務地(地域)や専門分野」の観点から見てみましょう。自分がどのような働き方を選ぶかによって将来的な収入のレンジが変わってくるため、それぞれの要素を把握しておくことが重要です。
勤務先の種類で変わる収入:開業医・勤務医・大学勤務
まず大きな要因となるのが勤務先(雇用形態)の違いです。歯科医師として働く場は、大きく分けて「自ら開業した歯科診療所(開業医)」「他人の歯科医院や医療法人に雇われる勤務医」「大学や大学病院等の教育研究機関に勤める歯科医師」の3つに分類できます。一般に、開業医は勤務医より高収入になる傾向があります。実際、歯科開業医(自営業)の平均年収はここ10年ほど1,000万円台から1,400万円台の間を推移しており、雇われている勤務歯科医師の平均年収500〜600万円台を大きく上回っています。開業医の場合、自身が経営者でもあるため診療報酬から人件費や経費を差し引いた残りが収入となり、患者数や経営手腕によっては高額の所得を得ることが可能です。ただしその反面、開業には機器購入やテナント費用など初期投資に4,000万〜5,000万円程度かかるとのデータもあり、経営リスクやローン返済も伴う点には注意が必要です。
一方、勤務医として働く場合は安定した給与を得られる反面、自分の頑張りが直接収入に反映されにくいことがあります。勤務医の給与は基本給プラス歩合給で構成されることもあり、経験を積んで治療スキルが上がれば歩合制で収入が増える職場もあります。しかし全体的な傾向として、大学病院勤務の歯科医師の給与水準は一般の開業医勤務医に比べて低いと言われます。大学病院では教授や准教授などの役職者であっても年収が1,000万円前後に留まる例が多く、若手の助手や大学院生に至ってはさらに低所得になるのが実情です。このため、「大学で研究・教育に携わる道は情熱がなければ金銭的には報われにくい」といった声もあります。
経験年数や役職による収入差
歯科医師も他の職業と同様、経験年数を積むことで収入が上がる傾向にあります。若手の頃は新人として低めの給与水準からスタートしますが、年次が上がり中堅・ベテランになるほど昇給や賞与額の増加によって年収も上昇します。厚生労働省の統計でも、歯科医師の平均年収は40代以降で1,000万円を超える水準となっており、特に開業医の場合はキャリアが長いほど患者数の蓄積や技術の熟練によって収入が伸びやすい傾向があります。例えば、ある調査では歯科医師の平均年収は50代で1,100〜1,200万円台となっており、経験を重ねることで経済的にも安定しやすいことが示唆されています。
また、役職や立場も収入に影響します。勤務医の場合でも、院長や副院長といった立場になれば経営的な視点から報酬が上乗せされることがありますし、大きな法人の歯科部門長のような役職に就けば年収が大きく跳ね上がることもあります。一方で大学勤務では、教授職など高度なポストに就いても開業医ほどの収入増は見込みにくく、教授で1,000万円程度、准教授や講師ではそれ以下という水準です。ただし大学の世界ではポストに伴う収入以上に、研究費の配分や社会的名誉といった別のインセンティブも働くため、一概に収入だけで魅力を測れない面はあります。
勤務地域や専門分野による収入の違い
勤務する地域によっても歯科医師の収入には差が出ます。都市部では歯科医院の競争が激しく患者獲得が難しい反面、富裕層や高度な医療ニーズを対象に自費診療中心で高収入を上げている医院も存在します。地方では人口あたりの歯科医師数が少ない地域ほど求人ニーズが高く、給与水準もやや高めに設定される傾向があります。例えば、大学院を卒業した歯科医師が医局から派遣される地方の病院では、都市部よりも高い年収(場合によっては1,000万円超)が提示されるケースがあることは先述の通りです。一方で地方は診療圏人口が少なく、自分で開業した場合には患者数確保に苦労することも考えられるため、地域によるメリット・デメリットは一長一短です。
専門分野や資格の有無も収入に影響します。例えば矯正歯科やインプラントなど専門性の高い分野に精通した歯科医師は、自費診療で収入を上げやすい傾向があります。また、日本歯科医師会や学会認定の専門医・認定医資格を取得していると患者からの信頼が高まり集患に有利になることも多いです。これにより結果的に収入増につながる場合もあります。特に矯正歯科や審美歯科などは自由診療中心のため、実績ある専門医は高額の治療費を設定できることから収入が大きく伸びる可能性があります。ただし資格取得には研修や試験が必要であり、時間と費用の投資を要します。大学院に行かずとも働きながら取得できる資格でキャリアアップできる時代ではありますが、その効果を収入に結びつけるには自身の努力と工夫が不可欠と言えるでしょう。
大学院に進学することは収入面でどんなメリット・デメリットがある?
歯科医師が大学院に進学するかどうかを検討する際、収入面でのメリットとデメリットを把握することは重要です。経済的な視点から見ると、大学院進学は短期的には金銭的なマイナス要因が目立ちますが、長期的・間接的なメリットも存在します。ここでは、収入面に焦点を当てて大学院進学の利点と欠点を整理します。
大学院進学のメリット:専門性の向上や将来のポスト獲得
収入に直結するメリットは少ないものの、間接的に将来のキャリアで有利になる点が大学院進学にはあります。まず、博士号を取得することで高度な専門性が身につき、大学教員や研究職など通常は博士号が求められるポストに就くチャンスが得られます。大学でポストを得られれば定期的な給与収入が見込め、教授職まで昇進できれば年収1,000万円前後の安定収入を得ることも可能です(教授の平均年収は概ね1,000万円程度とされています)。また、博士号取得者であること自体が肩書きとして信用につながり、企業の研究開発職への転職や行政の専門職など、臨床以外のキャリアパスが広がる点もメリットと言えます。
さらに大学院での研究経験を通じて得た知見や人脈が、後に自分の歯科医院を持った際に診療の質向上や差別化に役立つ場合もあります。例えば最新のエビデンスに基づいた治療を提供できたり、学会発表や論文発表の実績が宣伝材料になることも考えられます。経済的観点だけでなく、「歯科医学の発展に貢献できる」「自身の知的好奇心を満たせる」といったやりがいはお金には代えがたい価値があります。長期的には、博士号を持っていることで開業後に他院との差別化が図れ、結果的に患者から選ばれて収入増につながる可能性もゼロではありません。このように直接的ではなくとも、大学院進学は将来的なキャリアアップや一定の収入安定につながるメリットが存在します。
大学院進学のデメリット:臨床経験の遅れと収入減少
一方で収入面のデメリットは明確で、特に大学院在学中の収入減少は避けられません。先述の通り、大学院生期間中の年収はごく低いため、その間に得られたはずの収入を犠牲にする形になります。4年間で数百万円どころか、人によっては1,000万円以上の機会損失となることもあります。また、大学院に進むことで臨床経験の開始が遅れる点も収入面に影響します。キャリア初期の臨床経験の蓄積が少ないと、卒業後に臨床現場へ出た際に経験年数相応の給与を得にくかったり、治療スキル不足で歩合給を伸ばせなかったりする可能性があります。特に基礎研究に没頭した場合、前述のように臨床現場への復帰自体が難しく、結果として大学非常勤やアルバイトで食いつなぐ状態が長引けば、生涯年収の観点では大きなマイナスともなりえます。
さらに、日本の歯科業界においては「Ph.D.(博士号)の肩書そのものによる収入アップ効果は大きくない」とも指摘されています。患者から見れば博士号よりも、むしろ臨床の認定医・専門医資格の方が信頼や集客面で価値があるという側面もあり、高収入を得るだけなら大学院に行かずとも可能な道が用意されているのです。例えば、大学院に進まず臨床の仕事をしながらインプラントや矯正の専門医資格を取って患者ニーズに応えることで、収入を上げつつ専門性も高めることができます。こうした事情もあり、「収入面だけを考えるなら大学院に進むメリットは薄い」と感じる開業医の先生方もいます。以上のように、大学院進学には収入面で明確なデメリットが存在するため、自分が何を優先したいのか(収入か研究か)をよく考える必要があります。
歯科医師の収入は今後どう変わる?
現在の歯科医師を取り巻く環境は将来的に変化していくことが予想されます。収入の面でも、歯科医療業界の動向や社会情勢によって上下する可能性があります。最後に、今後の歯科医師の収入に影響を与えると考えられる要因や見通しについて触れておきます。
歯科医師数の増加と平均年収の近年の傾向
厚生労働省のデータによれば、国内の歯科医師数はここ数十年にわたり増加傾向にあります。直近では2018年時点で登録歯科医師数が約10万人となり、人口10万人あたりの歯科医師数は80.5人と年々上昇しています。一方で歯科診療所の施設数は約6万8,500カ所とほぼ横ばいで推移しており、供給過多とまではいかないものの、歯科医師一人あたりの患者の取り合いは徐々にシビアになってきているとも言えるでしょう。実際、歯科医師の平均収入は過去10年程度、大きく増減することなくほぼ横ばいの水準を保っています。開業医の平均年収は1,000万〜1,400万円台で安定し、勤務医の平均年収も500万〜600万円台で大きな変化はありません。このことから、直近では歯科医師の収入は全体的に停滞気味であり、大幅な年収アップは望みにくい状況だったと考えられます。
人口減少による競争激化と将来の課題
今後を見据えると、日本の人口減少や高齢化が歯科医師の収入に影響を及ぼすと予想されます。人口が減れば当然ながら患者の絶対数も減少傾向となり、歯科診療所間の患者獲得競争は一段と厳しくなるでしょう。特に都市部ではコンビニの数より歯科医院の数の方が多いとも言われ、差別化や集患の工夫を怠ると経営的に苦しくなる可能性があります。こうした中で、生き残った歯科医院はより専門性を打ち出したり、訪問歯科や予防歯科など新たなニーズに対応していくことが求められます。適応できた歯科医師・歯科医院は安定した収入を維持できるでしょうが、変化に対応できない場合は収入が伸び悩むどころか減少に転じるリスクもあります。
また、国の医療費抑制策や保険制度の改定も収入に影響します。診療報酬点数の改定で歯科医療の報酬が見直されれば、一人当たりの患者から得られる収入も変わります。良い方向に作用すれば収入増につながりますが、マイナス改定が続けば開業医の収入も目減りする可能性があります。さらに、コロナ禍以降は患者の受診行動にも変化があり、定期検診や自費診療を先延ばしにする動きも見られました。このように社会の動向によって歯科医師の収入環境は変化し得るため、常にアンテナを張りめぐらせて戦略を練る必要があるでしょう。ただし歯科医療の需要自体が突然ゼロになることは考えにくく、適切にニーズに応えられる歯科医師であれば今後も一定の収入は確保できると考えられます。
収入が少ない大学院生活を乗り切る工夫は?
最後に、大学院生として過ごす間の低収入時代をどう乗り切るか、その工夫について触れておきます。歯科医師の大学院生は経済的に厳しい状況に置かれがちですが、いくつかの対策や工夫によって負担を軽減することが可能です。将来の自分への投資期間と割り切りつつ、賢くサバイブする術を身につけましょう。
奨学金や各種支援制度を活用する
大学院進学を決めたら、まずは利用できる奨学金や経済的支援制度を最大限活用することが重要です。日本学生支援機構(JASSO)の奨学金は代表的な選択肢で、第一種(無利子)・第二種(有利子)の貸与型奨学金を借りることで在学中の生活費に充てる人は多いです。将来返済の義務はありますが、低金利または無利子で借りられるため計画的に利用すれば大きな助けになります。また、成績優秀者や研究業績のある学生向けに大学独自の給付型奨学金や民間財団の奨学金も数多く存在します。自分の研究内容や属性(出身地や志望分野など)に合致する募集がないか情報収集し、該当しそうなものには積極的に応募するとよいでしょう。さらに、自治体や職能団体によっては歯科医師確保のための修学資金貸与制度を設けている場合もあります。これは将来一定期間その地域で勤務すれば返還免除になる貸与金で、地域医療に貢献する意思があるならば検討する価値があります。こうした支援制度を駆使すれば、在学中の経済的不安をある程度軽減することができます。
アルバイト収入の確保と生活コストの見直し
奨学金だけでは賄いきれない部分は、やはり自身の労働による収入で補う必要があります。大学院生であっても歯科医師免許を持っている強みを生かし、週末や空き時間に歯科医院の非常勤勤務(アルバイト)に入るのは定番の方法です。大学によっては医局を通じて関連医院の紹介を行ってくれるので、人脈を活用しつつ無理のない範囲でバイトを入れていきます。例えば週1日でもコンスタントに勤務すれば月に数万円〜十数万円の収入増が見込め、多少なりとも家計が潤います。加えて、生活費そのものを見直すことも重要です。家賃の低い物件に住む、趣味や娯楽への出費を抑える、食費や光熱費を節約するといったコストカットの工夫はすぐに実行できます。特に都心で暮らす場合、家賃は大きな負担なので、可能であれば大学のある都市近郊の実家から通学したり、同じ医局の仲間とルームシェアするなどの対策も考えられるでしょう。収入を増やす努力と支出を減らす工夫、この両面からアプローチすることで、厳しい大学院生活の期間も何とか乗り切ることができるはずです。
なお、大学院生の期間は将来に向けて自己投資をしている時期です。確かに収入面では苦労しますが、その経験で得た知識や人脈は後々大きな財産となるでしょう。金銭的な不安を完全になくすことは難しいかもしれませんが、周囲の支援制度を頼りつつ、自身でも賢く働き・賢く節約して、この時期を乗り越えてください。やがて研究を終えて臨床や教育の現場に復帰した際には、大学院で培ったものを武器に活躍し、収入面でもステップアップしていけることでしょう。