歯科医師の将来性は?歯科医師数の減少や不足、今どう動いていくべきか、歯科医師や学生など状況別に解説!
歯科医師の将来性はどうなる?
かつて歯科医師は「コンビニより多い」と言われるほど都市部では歯科医院が乱立し、供給過剰が指摘されてきました。実際、駅前に歯科医院が複数並ぶ光景は珍しくなく、以前は歯科医師の競争激化による収入減も問題視されました。しかし近年、その状況が変化しつつあります。歯科医師の将来性を考える上で重要なのは、従来の過剰供給から一転して歯科医師数の減少や将来的な不足が懸念されているという点です。
この変化の背景には、歯科医師の高齢化や新規歯科医師の減少といった要因があります。歯科医師は以前、医師と並んで憧れの職業とされ高収入で人気がありましたが、現在では「なりたい職業」の上位には挙がらない状況です。つまり若い世代の関心が低下し、歯学部志願者も減っているのです。この結果、今後は地域や分野によっては歯科医師が不足し、需要に追い付かなくなる可能性が指摘されています。
一方で、超高齢社会の進行により歯科医療のニーズ自体は高まっています。高齢者の口腔ケア需要が拡大し、在宅診療や予防歯科など新たな分野への期待も高まっています。つまり、歯科医師の将来性は「減少する供給」と「増大する需要」の交差点にあり、適切に対応すれば活躍の場は十分に存在すると言えます。今後の歯科医師は、これまで以上に地域医療や高齢者ケア、デジタル技術への適応など、多方面に活路を見出すことが求められるでしょう。
歯科医師数の現状と推移は?
最新データで見る歯科医師数の動向
日本の歯科医師数は長年増加を続けてきましたが、近年その勢いが止まりました。厚生労働省の調査によれば、2022年末時点の全国の歯科医師数は105,267人で、2年前(2020年)の107,443人から約2,200人減少しています。男性歯科医師がこの2年で2,676人減った一方、女性歯科医師は500人増加しており、女性の割合が徐々に高まっています(現在、歯科医師の約4人に1人が女性で、若手では4割が女性です)。
この歯科医師数減少は戦後初めての傾向であり、注目すべき転換点です。1970年代から2000年代にかけて人口当たり歯科医師数は一貫して上昇し、人口10万あたりの歯科医師数は1975年の約37.5人から2022年には81.6人まで増加しました。しかしその増加は次第に鈍化し、2020年前後で頭打ちとなっています。2020年を境に歯科医師総数が横ばいから微減に転じたことは、歯科医療提供体制にとって大きな変化です。
増加から減少へ転じた転換点
歯科医師数が減少に転じた背景には、後述するように高齢の歯科医師の引退と新規歯科医師供給の減少があります。現状を年代別に見ると、60代の歯科医師が23,566人と最も多く、次いで50代が22,398人となっており、50代以上の歯科医師が全体のおよそ半数(約6万人)を占めています。逆に20代は約5,963人(全体の5.9%)、30代も16,942人(16.6%)にとどまり、若手の比率がかなり小さい状況です。平均年齢も上昇傾向で、歯科医師の世代交代が進んでいないことがデータから読み取れます。
こうした年代構成の偏りにより、一定年齢以上の歯科医師が一斉にリタイアする時期を迎えると、供給数が一気に減る恐れがあります。実際、歯科医師の半数以上を占める50歳以上が今後10〜20年で引退期を迎えるため、「2025年問題」以降に急速な歯科医師不足時代が訪れる可能性が指摘されています。この転換点を理解するために、次章で具体的な原因を見ていきます。
歯科医師数が減少したのはなぜ?
高齢化による大量引退で供給が減少
日本社会全体の高齢化と同様に、歯科医師の年齢構成も高齢側に偏っています。50代以上のベテラン歯科医師が多数を占める結果、今後定年や体力の限界で臨床を退く歯科医師が急増する見通しです。日本私立歯科大学協会の報告では、歯科医師の平均年齢は54.3歳に達しており年々上昇中とされています。もしこのまま多数の歯科医師が一斉に引退すると、若手の少なさも相まって供給不足に陥ると警鐘が鳴らされています。
具体的な試算では、2030年頃までに約8千〜1万人の歯科医師が減少し、総数は9万3千人程度になるとの予測もあります。現在60代の歯科医師が2030年には軒並み70代以上となり、そのうち多くがリタイアすると仮定すると、今後5年間で毎年約3,400人が現場を去る計算になります。一方で新たに歯科医師国家試験に合格して加わる人数は毎年2,000人前後に過ぎないため(後述)、引退者数が新規参入者数を大きく上回り始め、歯科医師数の減少に拍車がかかると見られています。
国家試験の難化と歯学部志願者減少
新規歯科医師の供給が減っている背景には、歯科医師国家試験の合格率低下と歯学部入学者の減少があります。かつて歯科医師国家試験の合格率は80%前後でしたが、現在では60%台まで低下し明らかに難しくなっています。事実、平成23年(2011年)の第104回歯科医師国家試験では2,400名が合格しましたが、最新の令和6年(2024年)実施の第117回試験では2,060名にとどまりました。年度によって受験者数の増減はあるものの、合格者数はこの10年ほど2,000人前後で推移しており、以前より減少傾向にあります。さらに男女別では毎年女性の方が合格率が約10%高い傾向が続いており、男性志願者の苦戦も示唆されています。
試験難化の理由として、単なる歯科医学知識だけでなく在宅医療など本来は臨床現場で学ぶような分野まで出題範囲が広がっていることや、歯科医師過剰を懸念した定員調整で合格者数そのものを意図的に絞っている可能性が挙げられます。実際、ここ10年ほどは合格者数が毎年2,000人前後になるよう推移しており、一定の抑制が働いていると言えるでしょう。
また、歯学部志願者の減少と定員割れも大きな問題です。1980年代後半から歯科医師過剰対策として大学の歯学部入学定員を20%削減する計画が実施され、その後も定員削減策が継続されてきました。加えて近年は歯学部の人気低迷により私立歯科大学で定員割れが常態化しています。ある調査では、過去5年間の平均で私立17歯学部中11校が定員に満たない入学者数しか集められなかったと報告されています。私立歯学部の学費の高さや国家試験合格率の低迷が敬遠され、そもそも歯科医師を目指す若者自体が減っているのです。このように、供給側のボトルネック(狭き門)と志願者減少による母数縮小が重なり、新人歯科医師の数は長期的に減り続けています。
歯科医師不足で懸念される影響とは?
後継者不在による歯科医院の廃業増加
歯科医師数の減少が現実味を帯びる中、まず懸念されるのが歯科医院の後継者問題です。現在、地方のみならず都市部でも親の代からの歯科医院を継ぐ人材が不足しており、高齢の院長が引退するとそのまま閉院となるケースが増える可能性があります。の調査によれば、50〜60代の歯科医院管理者の約9割が「後継者の予定がない」または「未定」と回答しており、目前に迫った世代交代に備えられていない状況です。この結果、長年地域医療を担ってきた医院も後継ぎが見つからず閉鎖を余儀なくされる例が今後多発しかねません。
実際のデータもこの傾向を示唆しています。歯科診療所の新規開業数は年々減少し、2020年にはついに廃業数が開業数を上回りました。最新の統計では年間の歯科診療所開業数は1,454件にとどまり、廃業は横ばいから上昇傾向に転じています。2023年時点の歯科診療所数は67,269施設で、近年は高齢の院長の引退による閉院が増加し、総数が減少傾向にあります。なお報道で目にする「歯科医院の倒産」は非常に少なく、2021年には約6.8万軒中倒産は10件のみでした。つまり廃業の大半は経営破綻ではなく後継者不在による自主的な閉院と考えられます。このような歯科医院消失は特に代替の効かない地域で住民の歯科医療アクセス低下につながり、大きな社会的損失となります。
都市集中と地方での歯科医療格差
歯科医師不足の問題は、地域偏在(都市部への集中と地方の過疎化)によって一層深刻化します。一般に歯科医師は患者数が多く収入面でも有利な都市部に集中しやすく、そのため人口の少ない地方や過疎地では歯科医師の確保が難しくなっています。現に、都道府県別の歯科医師密度を見ると東京都は人口10万対116.1人と全国最高ですが、最少の青森県では55.9人に過ぎず、大都市と地方で2倍以上の開きがあります。同じ都道府県内でも、都市圏と郡部では歯科医師数に大きな差があり、東京都内では地域によって歯科医師密度が最大7.6倍もの開きがあるとのデータもあります。
この都市偏在の結果、地方では歯科診療所の後継者が見つからず閉院しやすい状況です。患者側から見ると、地域によっては「近くに歯医者がない」「車で遠方まで通わなければならない」という事態が生じ、口腔の健康管理に支障が出る恐れがあります。特に高齢者が多い地域では、通院困難者が増える中で地元の歯科医院が減ると、必要な治療やケアを受けられない人が増加しかねません。
このような地域格差を是正するには、地方で働く歯科医師の支援策や都市からの人材誘導が不可欠です。現在も自治体や大学で地域枠入試・奨学金による地方勤務の誘導策が試みられていますが、十分とは言えません。歯科医師自身も都市部だけでなく視野を広げ、地域医療に携わることが将来的に大きなやりがいとチャンスになる可能性があります。歯科医師不足の影響を最小限に抑えるためには、今後ますます「どこで働くか」という選択が重要な課題となるでしょう。
超高齢社会で歯科医療ニーズはどう変わる?
高齢者増加で歯科治療需要が拡大
日本は超高齢社会に突入しており、65歳以上人口の割合がすでに全体の20%を超えて今後も上昇すると見込まれています。高齢になるほど歯や口腔の問題を抱える人が増えるため、社会全体で歯科医療の需要は増加傾向です。例えば、厚生労働省の調査によれば、要介護認定を受けた高齢者のうち64.3%が何らかの歯科治療の必要ありと判定されましたが、実際に歯科医院で治療を受けられたのはわずか2.4%に過ぎませんでした。これは高齢者が治療ニーズを抱えながらも、様々な事情で十分な歯科医療にアクセスできていない実態を示しています。
背景には、高齢になると持病や足腰の問題で歯科医院への通院自体が困難になるケースが多いことがあります。今後75歳以上の後期高齢者が急増する2025年以降は、入れ歯や歯周病治療、嚥下機能のケアなど、高齢者特有の歯科需要がますます高まるでしょう。さらに近年は「8020運動」(80歳で20本以上自分の歯を保とう)の成果もあって、高齢者でも残存歯が多くなりつつあります。その分、自分の歯を長持ちさせるための治療や定期管理のニーズも増えると考えられます。つまり患者数の絶対数は人口減少で先々減る可能性があるものの、高齢者一人ひとりが必要とする歯科医療の量は増えていく局面にあります。
このような状況に応えるため、歯科医師には従来の虫歯治療だけでなく、義歯やインプラント、高齢者の口腔ケアなど幅広い知識と対応力が求められます。地域包括ケアの一員として介護職等と連携し、患者の全身状態も踏まえた歯科診療ができる歯科医師の需要が今後高まるでしょう。超高齢社会における歯科医師の役割は拡大しつつあり、将来性という点では「高齢者の口を診られる歯科医師」がより一層必要とされるのです。
訪問歯科診療の重要性が高まる
高齢者や障がいにより通院困難な患者が増える中、歯科医師や歯科衛生士が自宅や介護施設に出向いて診療を行う訪問歯科診療(在宅歯科医療)の重要性が飛躍的に高まっています。日本では2000年代から訪問歯科の制度整備が進み、厚生労働省の報告によれば、自宅で訪問診療を行っている医療機関の割合は2008年時点の12.1%から2017年には14.6%に微増しました。割合自体はまだ2割未満ですが、全国で訪問歯科に取り組む診療所は徐々に増えています。
訪問歯科診療では、寝たきりの方や施設入所者に対し、歯科医師とスタッフがポータブルの機材を持って訪問し、虫歯治療から口腔ケア、入れ歯の調整まで幅広く行います。在宅で口腔ケアを提供することは患者のQOL(生活の質)向上につながるだけでなく、誤嚥性肺炎の予防や全身の健康維持にも寄与する重要な医療です。また歯科医師側にとっても、新たな診療分野として地域に貢献しつつ収益を得る機会になり得ます。実際、訪問診療を積極展開している歯科医院では、地域の高齢者から厚い信頼を得ているケースもあります。
もっとも、訪問歯科は院内診療に比べ事前準備や移動の手間がかかり、人手も必要です。それでも、今後さらに進む超高齢社会に対応するには訪問歯科を避けて通れません。歯科医師の将来性を考える上でも、この分野に注目することは重要です。今から訪問歯科の知識やノウハウを習得しておけば、地域包括ケアシステムの中で不可欠な存在となり、自院の差別化にもつながるでしょう。国も在宅歯科医療への報酬充実や研修制度整備を進めているため、訪問歯科は歯科医師不足時代において需要に応える鍵となる有望なフィールドです。
歯科医療のデジタル化や新技術にどう備える?
デジタル技術の活用で業務効率を向上する
現代の歯科医療は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せています。カルテの電子化や予約・会計システムのIT化はもちろん、口腔内スキャナーやCAD/CAM冠に代表されるデジタル歯科治療技術も急速に普及しています。こうした技術革新に対応し活用することが、将来の歯科医師にとって不可欠です。
デジタル技術を上手に取り入れることで、歯科医院の業務効率は大きく向上し得ます。が報告しているように、診療所のデジタル化(DX化)を進めれば煩雑な事務作業の効率化や患者とのコミュニケーション改善が期待でき、結果として歯科医師自身の負担軽減や新たな患者層の獲得にもつながります。たとえば、クラウド型の予約管理や電子カルテを導入すれば、重複予約や会計ミスの防止、データ分析による経営改善が可能です。患者にとってもWeb予約やリマインド通知が利用できる医院は通いやすく、満足度向上につながるでしょう。
また、口腔内スキャナーや3Dプリンターの活用により、補綴物の作製期間短縮や精度向上が図れ、患者への提供価値が高まります。デジタル技術の導入は初期投資が必要ですが、中長期的には生産性向上と差別化に寄与し、歯科医師不足の中でも少ない人員で質の高い歯科医療を提供する助けとなります。現に、デジタル機器を積極導入した医院では、人手不足を感じさせない効率的な運営を実現している例もあります。将来性を拓くために、歯科医師はITリテラシーを高め、新しいツールを積極的に学習・導入していく姿勢が求められます。
AIや遠隔診療がもたらす今後の可能性
さらにその先の未来を見据えると、人工知能(AI)や遠隔診療技術の進歩が歯科医療の姿を変える可能性があります。現在、大学や企業で研究が進んでいるのがAIによる画像診断支援やリモートモニタリングです。例えば大阪大学は、スマートフォンで撮影した口腔内写真をAIが解析し、虫歯や歯周病の有無をチェックできる遠隔診断システムの開発を進めています。将来的には「スマホで口の写真を撮るだけでAIが歯の健康状態を診断してくれる」サービスも実現しうるとされ、地理的な制約を超えて誰もが平等に歯科医療を受けられることを目指しています。
また、矯正歯科分野では既に患者が自宅で撮影した写真をAIと歯科医師がチェックし、治療経過を遠隔でフォローするシステムが導入され始めています。これにより通院回数を減らしながら適切な治療管理が可能となり、忙しい患者や遠方の患者にも対応できます。遠隔診療(オンライン歯科診療)は法規制上の課題もありますが、コロナ禍を契機に一部オンライン歯科相談が行われるなど、徐々に実用化に向けた動きが出ています。
AIと遠隔技術の活用は、歯科医師不足や地域偏在の問題を緩和する切り札になり得ます。例えば過疎地でも口腔内写真とネットを通じて都市部の専門医が診断支援できれば、初期対応の質が上がり重症化を防げるでしょう。将来的にAI診断でスクリーニングを行い、本当に治療が必要な患者だけが来院するといったシステムが確立すれば、歯科医師は限られた時間をより高度な治療に集中できます。もちろん、人間の歯科医師ならではの判断力や患者対応は不可欠であり、AIがすべてを代替するわけではありません。しかし、新技術を味方につけることで一人の歯科医師がカバーできる患者数や提供できるサービスの幅が広がり、結果として将来的な歯科医師不足の影響を補完できる可能性があります。最新技術へのアンテナを高く張り、それらを治療や経営にどう生かすか考えておくことが、将来に備える上で重要です。
現役歯科医師は今後どう動くべき?
継続的なスキルアップと専門性の追求
現在歯科医師として働いている方にとって、将来に備える最大のポイントは自身のスキルを磨き続けることです。歯科医療の知識や技術は年々アップデートされており、新しい治療法や材料、機器が次々登場しています。例えばデジタル技術やインプラント治療、顎関節や全身管理に関する知識など、学ぶべきことは尽きません。現役歯科医師としては学会や研修会への参加、専門書や論文の購読を習慣化し、常に最新の知見を取り入れる姿勢が求められます。
また、将来のキャリアを見据えて専門分野を極めることも有効な戦略です。一般歯科を一通りこなせることは前提ですが、その上で矯正歯科・小児歯科・口腔外科・審美歯科など興味やニーズの高い分野を持つことで、患者から選ばれる歯科医師になれます。が指摘するように、特定の専門分野に注力すればマーケティングもしやすくなり、患者を集めやすく経営面でもプラスになります。例えば、インプラント治療や高度な根管治療のスキルを身につければ紹介患者が増えますし、小児歯科や訪問歯科に力を入れれば地域で頼られる存在になれます。歯科医師不足の時代であっても、「この分野ならこの先生」と信頼される専門性があれば活躍の場は必ずあります。にもあるように、専門特化は差別化につながり生き残りの武器となります。
なお専門性を高める際は、学会認定医や専門医制度の活用も視野に入れてください。各分野の専門医資格を取得すれば、患者や他院からの信頼度が増し、自身の知識整理にも役立ちます。もちろん専門バカになるのではなく、プライマリケア能力との両立が重要です。生涯にわたって研鑽を積み、幅広い臨床力と尖った専門技術を兼ね備えることが、これからの歯科医師には求められていると言えるでしょう。
地域ニーズを踏まえたキャリア戦略
将来を見据えて現役歯科医師が考えるべきもう一つの視点は、自分の立ち位置(働く地域や形態)を戦略的に選ぶことです。前述のように地域によって歯科医師の需給状況は大きく異なります。都市部では患者獲得競争が激しい一方、地方では潜在患者がいても歯科医師自体が少ないというケースがあります。もし現在都市部で勤務していて飽和状態を感じるなら、思い切って歯科医師の少ない地域で開業・勤務するのも選択肢です。地方自治体によっては歯科医師の誘致に予算を設けて支援しているところもあり、住居支援や診療設備補助を受けられる場合もあります。自らのキャリアを地域ニーズと照らし合わせ、あえて不足地域で活躍することで存在感を発揮する道も開けます。
またキャリアの形態も柔軟に考えましょう。開業医として経営に挑戦するだけでなく、勤務医として複数の医院で働く、病院歯科や大学教員として安定を図る、企業の歯科顧問や産業歯科医として働くなど、多様な働き方があります。特に女性歯科医師の場合、結婚や出産後に勤務時間を調整しやすい非常勤勤務や在宅診療専門医として活躍する道もあります。歯科医師不足が進む中で、従来以上に多様な勤務形態が許容・支援される社会になっていくと考えられますので、自分に合った働き方を模索することが大切です。
さらに、現在開業医の方はクリニックの将来計画を早めに立てておきましょう。後継者が身内にいない場合でも、若手歯科医師を雇用して育成したり、地域の歯科医師会でマッチングの情報を得たりして、円滑な事業承継の準備を進めることが望まれます。前述の通り多くの歯科医院が後継未定ですが、それを逆手にとれば将来開業を目指す勤務医にとっては既存医院を引き継ぐチャンスでもあります。現役歯科医師は、自院と自身のキャリアのゴールを見据え、5年後10年後を見通した計画を立てて行動することで、歯科医師不足時代においても持続的な活躍が可能となるでしょう。
歯科学生は将来に向けて何をすべき?
国家試験に向けた基礎力と最新知識の習得
現在歯学部に在籍する学生やこれから歯科医師を志す人にとって、まず直面する大きな関門は歯科医師国家試験です。前述の通り合格率が60%台にまで低下している難関試験となっているため、在学中から基礎学力をしっかり固めることが不可欠です。解剖学・生理学から保存修復・補綴・矯正といった各専門まで、6年間のカリキュラムで学ぶ内容一つひとつが将来の土台になります。特に近年の国家試験では、従来教科書的な知識だけでなく在宅医療やチーム医療、医学的知識まで問われる傾向があります。学生のうちから幅広い分野にアンテナを張り、単なる暗記ではなく臨床を意識した学習を心掛けてください。
効果的な国家試験対策としては、早期からの過去問演習と体系的な復習が挙げられます。5年生頃から過去問題集に取り組み、自分の弱点分野を把握して重点補強すると良いでしょう。また近年は問題傾向が変化しているため、最新の傾向分析にも目を通すことが必要です。大学の授業や試験勉強ももちろん大事ですが、国家試験対策はそれだけでは不十分な場合があります。市販の対策本や予備校の模試なども活用し、国家試験の日までに「これで落ちても悔いはない」と言えるだけの努力を積んでください。合格率が下がっているとはいえ、適切な準備をした学生にとって合格は決して不可能なものではありません。自信を持って臨めるよう、地道な学習を続けましょう。
加えて、在学中に最新の歯科医療事情に触れておくことも重要です。例えば高齢社会における歯科の役割や、デジタル歯科の現状などは教科書だけでは得られない知識です。学会の学生セミナーや研修プログラム、先輩歯科医師の講演などに積極的に参加し、将来のビジョンを広げておくと良いでしょう。国家試験はゴールではなくスタートです。その先にどんな歯科医師になりたいかをイメージしながら勉強すると、モチベーションも維持しやすくなります。
卒後を見据えた進路選択と実地経験の活用
歯科学生にとってもう一つ大切なのは、卒業後のキャリアプランを早めに考えておくことです。歯科医師免許取得後は、臨床研修(1年間の卒後研修)が義務付けられており、多くの方は大学病院や研修協力施設で研修医として一般歯科診療の経験を積むことになります。この臨床研修は、実際の患者を診療しながら指導を受けられる貴重な機会です。研修先の選択にあたっては、症例数の多さや指導体制、設備の充実度などを調べ、自分が学びたい内容に合った病院・施設を選ぶと良いでしょう。研修期間中に幅広い症例を経験し、基本的な診療スキルと医療人としての心構えを身につけることが、その後の歯科医師人生の土台となります。
研修修了後の進路も多様です。開業医のもとで勤務医として経験を積む、自ら開業に踏み切る、大学院に進学して専門分野の研究を深める、総合病院の歯科口腔外科に勤務するなど選択肢はさまざまです。現在は歯科医師の供給過多が是正されつつあるため、地域や分野によっては若手歯科医師への求人ニーズが高く、就職先にも恵まれやすい状況と言えます。例えば訪問歯科や離島・過疎地の公的病院などは人材不足のため、熱意のある若手を歓迎する傾向があります。自分のやりたい歯科医療が実現できる場を探しつつ、条件面や将来性も考慮して進路選択を行いましょう。
在学中からできることとして、臨床現場を体験する機会を持つことをおすすめします。夏休みなどに歯科医院で見学やアシスタントのアルバイトをしてみると、教科書ではわからない実際の診療の流れや患者対応を学べます。また研究室での実験や論文執筆に携われば、科学的思考力や最新知見に触れる力が養われます。こうした経験は卒業後、どの道に進むにせよプラスになるでしょう。さらに同級生や先輩・教授との人脈も財産です。情報交換を通じて様々な生き方を知り、自分なりの将来像を描いてください。
歯科医師の将来性は決して暗いものではなく、むしろ医療の中で新たな役割が期待される時代です。歯科学生の皆さんには、目の前の勉強と並行して広い視野で社会の動向を捉え、自身のキャリアデザインを考えていくことを強く推奨します。努力を重ねて国家試験を突破し、実りある歯科医師人生の第一歩を踏み出してください。歯科医師不足や業界の変化に直面しても、若い情熱と柔軟な発想で乗り越え、これからの歯科医療を支えていくのは皆さん自身です。将来への備えを怠らず、一緒に明るい歯科医療の未来を築いていきましょう。