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歯科医師の離職率は何%?離職率の推移から主な離職理由などについて解説!

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歯科医師の離職率はどのくらい?

歯科医師の離職率(一定期間内に職場を辞める人の割合)は、実は他の医療職種と同程度かやや高い水準にあります。厚生労働省が2025年8月に公表した令和6年(2024年)の「雇用動向調査」によれば、医療・福祉業界全体の年間離職率は16.9%でした。つまり、医療・福祉分野では年間でおよそ6人に1人が職場を離れている計算です。この数値には歯科医師も含まれており、歯科医師だけに限った統計はないものの、離職率はこの範囲に近いと考えられます。全産業平均の離職率が同年14.2%であることを踏まえると、医療分野の人材の出入りはやや活発ですが、極端に高いわけではありません。

では「離職率○○%」とは具体的に何を意味するのでしょうか。例えば離職率が15%前後で推移している場合、毎年全歯科医師のうち約15%が勤務先を辞めていることを指します。ただし、歯科医師の場合「離職」といっても、必ずしも歯科医療界から離れるとは限りません。他の歯科医院に転職したり、開業するために勤務先を退職したりするケースも多く、職種転換や長期離職とは異なる点に留意が必要です。そのため、離職率が一定水準に収まっているからといって安心はできませんが、必ずしも歯科医師そのものが不足していることを直接意味するものでもないのです。

歯科医師の離職率はどう推移している?

歯科医師を含む医療業界の離職率は、近年大きな社会的イベントなどに影響を受けて変動しています。2010年代後半には人材の出入りが比較的活発で、2019年には医療・福祉分野の離職率が18%台に達しました。しかし2020年には新型コロナウイルス感染症の流行があり、人材の動きが鈍化した影響で、医療・福祉業界の離職率も15.9%と大きく低下しました。その後、2021年も同程度(15%前後)の水準で推移しましたが、社会経済活動が落ち着きを取り戻すにつれて転職・退職の動きが増え、2022年には16.6%、2023年には18.6%と再び上昇傾向が見られました。直近の2024年は16.9%とやや低下したものの、依然としてコロナ前と同水準の高めの離職率となっています。

こうした推移から、コロナ禍で一時的に職場に留まっていた人たちが、収束後に退職や転職に踏み切った可能性が考えられます。厚生労働省も「採用は活発に行われているものの、人材の定着が課題となっている」と分析しており、医療現場における離職率の高さに引き続き注意が必要だと指摘しています。また、統計手法の見直しもあって単純比較はできないものの、人材の出入りが依然活発な水準で推移していることは確かです。歯科医療分野でも同様の傾向があると考えられ、一時的な変動だけでなく長期的な定着策の重要性が浮き彫りになっています。

歯科医師の数や年代構成にはどんな特徴がある?

歯科医師の離職を語る上で、業界全体の人員動向や世代構成も把握しておきましょう。厚生労働省の最新統計(2022年末時点、2025年公表)によると、日本全国の歯科医師数は105,267人です。注目すべきはこの数が前年より2,176人減少し、1982年の統計開始以来はじめて減少に転じた点です。長らく歯科医師は供給過多とも言われ増え続けてきましたが、ここ数年は新規歯科医師の抑制策などもあってついに歯科医師総数が減少傾向に入りました。離職者数が新規参入者数を上回る「純減」の状態になったことは、業界にとって大きな転換点と言えます。

さらに歯科医師の年齢構成を見ると、50代以上の占める割合が非常に高いことがわかります。2022年時点で最も多い年齢層は60~69歳で23.1%、次いで50~59歳が22.0%を占めています。つまり歯科医師の約45%が50歳代以上であり、業界全体が高齢化しているのです。この世代の歯科医師は今後10~20年で引退や廃業を迎えるケースが増えるため、大量離職時代が訪れる可能性があります。一方、若手層である30代以下の歯科医師は全体の約20%程度にとどまります。ただし29歳以下に限れば女性が約48.7%を占めており、若い世代では女性歯科医師の比率が大きく伸びているのも特徴です。このように、歯科医師数の微減傾向と世代交代問題が進行しており、将来的な人材不足や地域偏在を懸念する声も上がっています。

歯科医師の離職率は高い?他職種との比較

歯科医師の離職率そのものは、医療業界全体の平均と同程度かやや高い水準ですが、他の医療職種と比較すると決して突出して高いわけではないと言えます。例えば、病院勤務の医師(医科)の場合、専門性や職場環境の違いもあり一概に比較できませんが、慢性的な医師不足の影響で安定的に勤務を続ける人も多く、医局人事などによる配置転換はあっても「医師を辞める」人の割合自体はそれほど高くありません。一方で歯科医師の場合は供給過多傾向の中で職場間の移動が多いため、勤務先を替わる離職率はやや高めと見るべきでしょう。しかし、「歯科医師を辞めて異業種に転職する」「免許を持ちながら職業としての歯科医をやめる」といった例は限定的です。多くの歯科医師は離職しても別の歯科医院へ転職したり開業したりするため、職業人生全体で見れば歯科医療の分野に留まるケースが大半です。

これに対して、歯科医療チームの他職種では離職率が非常に高いことで知られています。たとえば歯科衛生士は、資格保有者でも早期離職や休職が多く、ある調査では2年以内に7割以上が離職を経験しているという結果もあります。また歯科技工士も人手不足が深刻で、5年以内に75~80%が離職するとのデータが報告されています。これらの数字は歯科医師とは桁違いに高く、特に若手の定着が難しい職種です。実際、歯科医院スタッフ全体で見ると「これまで転職経験がない」と答えた人はわずか24.3%で、「1回以上ある」人が74.4%にも上ったという報告もあります。このように歯科衛生士や歯科助手など周辺スタッフの離職率が突出して高いため、歯科業界全体として人材不足感が強まる一因となっています。

歯科医師自身の離職率はそれらと比べれば低いとはいえ、決して油断はできません。歯科衛生士やスタッフが定着しない職場では歯科医師にも業務負担やストレスが増え、結果として歯科医師まで退職に至ることも考えられるからです。「歯科医師は辞めないけれどスタッフが辞める」という状況が続けば、診療体制が維持できずに歯科医師が開業を断念したり、職場環境の悪化で自ら転職を検討したりする可能性もあります。したがって歯科医師の離職率を語る際には、歯科医院全体のチームとしての定着率改善も視野に入れる必要があるでしょう。

歯科医師が離職する主な理由は何?

歯科医師が職場を離れる理由はさまざまですが、大きく分けると「キャリア上の前向きな理由」と「職場環境への不満など後ろ向きな理由」の二つに分類できます。前者には開業独立などキャリアアップのための退職が含まれ、後者には収入面の不満や人間関係のトラブル、働きづらさといった要因が該当します。それぞれの主な理由について詳しく見ていきましょう。

独立開業でキャリアアップするケース

まず、歯科医師特有の離職理由として「勤務医から独立して開業医になる」ケースがあります。歯科医師は一定の臨床経験を積むと、自分の歯科医院を持ちたいと考える人が少なくありません。実際、30~40代で勤務先を辞めて開業に踏み切る歯科医師は多く、全国に約6万軒以上もの歯科医院が存在しています。これは日本全国のコンビニエンスストア店舗数(約5.5万店)よりも多い数であり、歯科医師にとって開業独立がいかに一般的なキャリアパスかを物語っています。勤務医が退職する理由としてはポジティブな部類で、技能と経営力があれば成功のチャンスでもあります。

しかし、開業の道は平坦ではありません。開業には初期投資として数千万円規模(おおよそ4,000万~5,000万円)の資金が必要とされますし、歯科医院同士の競争は年々激化しています。歯科医院数の多さから患者の奪い合いが生じ、立地やマーケティング、サービス面でも特色を出さないと経営的に厳しいのが現状です。こうした競争環境に飛び込む覚悟を持って退職・独立するケースは、言い換えれば「組織に残るよりリスクを取ってでも自分の医院を持ちたい」という強い志向の表れです。そのため、独立開業による離職は歯科医師本人にとって前向きな選択である場合が多く、必ずしも職場の問題とは言えない面もあります。

収入や将来への不安から転職・廃業するケース

次に、経営的・経済的な理由で職場を去るケースがあります。開業医になったものの患者が集まらず経営難に陥った場合や、勤務医として働いていても思ったような収入を得られない場合など、収入面の不満や将来性への不安は離職の大きな動機となり得ます。かつては「歯科医院を開けば儲かる」と言われた時代もありましたが、現在では患者数という限られたパイを巡って熾烈な奪い合いが展開されており、歯科医師としての本分とは離れた厳しい経営状況になっています。実際、開業医の平均年収は約600万円程度とも言われ、初期投資の大きさから考えると決して高収入とは言えません。競争に打ち勝てず赤字が続けば、苦渋の決断で廃業(事実上の離職)に至ることもあります。

勤務医の場合も、給与や待遇に対する不満は転職の大きな動機になります。歯科医院は全国に数多く存在するため、現職の待遇に納得がいかなければ「自分の技術やコミュニケーション力をもっと評価してくれる別の医院を探そう」と考えるのは自然な流れでしょう。現に、街中に歯科医院が多いことで転職先を見つけやすい状況が生まれており、より好条件の職場へ移る歯科医師も少なくありません。特に勤務時間や給与面で過度な負担を強いられていると感じた場合、同じ歯科医師として働くなら少しでも環境の良い職場を選びたいと考えるのは当然でしょう。幸いなことに真に優秀な歯科医師であれば複数の医院が好待遇で迎え入れてくれるはずです。つまり、歯科医師は需要がある限り「より良い条件」を求めて離職・転職しやすい職種とも言えます。このように収入や将来性への不安から離職するケースでは、受け入れ側の歯科医院にとっては人材獲得の機会になる一方、送り出す側の医院にとっては貴重な戦力流出となるため、待遇改善や評価制度の整備といった対策が求められます。

職場の人間関係や働き方の問題

離職理由の三つ目の大きなカテゴリーが、職場環境に起因するものです。具体的には、院長や同僚との人間関係のこじれ、職場の雰囲気への不満、労働時間や休日の取りづらさ、業務の進め方へのストレスなどが挙げられます。歯科医院は少人数のチームで動くことが多いため、人間関係が円滑でないと日々の業務に大きな支障を来します。実際、離職したスタッフからは「職場の雰囲気が殺伐としていて馴染めなかった」「院長や他のスタッフと馬が合わない」「有給休暇の申請が通らず休みが取れない」「サービス残業が多く疲れが溜まる」等、様々な声が聞かれます。歯科医師自身も、勤務医である限りは院長(経営者)の方針に従わざるを得ない立場です。たとえベテランの歯科医師であっても、自分の診療方針や意見が通らずフラストレーションを抱えることもあるでしょう。また、歯科衛生士や歯科技工士など他職種との連携が上手くいかず、自分のポリシーや技術を発揮できない環境では仕事にやりがいを見出せなくなってしまいます。こうした人間関係の悩みや職場の居心地の悪さは、歯科医師にとってもしばしば離職を考えるきっかけとなります。

さらに、患者対応のストレスも看過できません。歯科診療は一人ひとりの患者と長期にわたって向き合うことが多いため、コミュニケーション能力や接遇スキルも求められます。患者からクレームを受けたり、理不尽な要求に晒されたりすることもあり、それが度重なると精神的負担となるでしょう。とくに近年はインフォームドコンセントの徹底や医療サービス化の風潮もあり、患者対応に神経をすり減らす歯科医師もいます。こうしたストレスフルな環境に耐え続けるより、需要の高い歯科医師という資格を生かして「自分に合う職場」を探したいと考えるのは自然なことです。実際、歯科医師は再就職が比較的容易な職種であるため、人間関係や職場風土に不満があれば離職して別の医院へ移ることで問題をリセットしようとする傾向があります。これはポジティブにもネガティブにも作用し得ますが、一つ確かなのは歯科医師が長く勤め続けるためには職場の人間関係や働きやすさが極めて重要だということです。

なお、歯科医師の退職理由には男女間で傾向の違いも指摘されています。男性歯科医師の場合、上述したような職場の人間関係トラブルや待遇への不満、キャリア上の野心(開業志向など)が離職動機の上位を占める一方で、女性歯科医師の場合は「ライフスタイルの変化」すなわち結婚・出産・育児といった家庭の事情が圧倒的に多いという調査結果があります。次の章では、特に女性歯科医師に焦点を当てて離職の傾向を解説します。

女性歯科医師に多い離職のケースとは?

出産・育児期に一時離職する傾向

近年、歯学部の入学者に占める女性の割合は増加の一途を辿り、新卒歯科医師の約半数が女性という時代になっています。それに伴い、女性歯科医師が結婚や出産を経験しながらキャリアを歩むケースも増えてきました。女性歯科医師の離職に関して厚生労働省が行った調査(平成28年「女性歯科医師の活躍のための環境整備等に関する調査報告」)によれば、女性歯科医師が離職する年齢でもっとも多いのは30代でした。ちょうど出産・育児のタイミングと重なる年代です。注目すべきは、子どもがいる女性歯科医師ほど離職率が高い点です。同調査では「子供がいない女性歯科医師で離職経験がある人は6.9%」だったのに対し、「子供がいる女性歯科医師では62.6%が離職を経験していた」と報告されています。つまり子供を持つ女性歯科医師の6割強は一度は仕事を離れている計算で、出産前後にいったんキャリアを中断するケースが非常に多いことが分かります。

もっとも、女性歯科医師の離職は永久的なものではなく「一時的な離職」である場合が少なくありません。実際、同じ調査によれば離職している期間の平均は、子供がいる女性では約1.61年、子供がいない女性では約2.26年となっていました。子育てのために職場を離れても、子供が成長して手がかからなくなれば比較的早く仕事に復帰する女性が多いことを示唆しています。離職期間が子供ありの方が短いという結果は意外に思えるかもしれませんが、「出産後しばらく育児に専念したら、早めに歯科医師として復帰したい」と考える女性が多いことの表れでしょう。現に、子育てが一段落したタイミング(例えば子供が保育園や幼稚園に入れる3~5歳頃)で職場復帰する女性歯科医師が多いというデータもあります。このように、女性歯科医師の場合は出産・育児に伴って一時的に離職し、落ち着いたら職場に戻るというパターンが非常に多いのです。

離職後の復職と働きやすい環境の必要性

女性歯科医師が出産・育児期に離職しやすい背景には、「仕事と家庭を両立できる環境が整っていない」ことが挙げられます。ただ一方で、歯科医師という職業は他の医師分野に比べると子育てと両立しやすい側面もあると言われます。なぜなら、歯科医師には夜間の当直勤務や緊急呼び出しがほとんどなく、比較的勤務時間が規則的だからです。実際に出産後に職場復帰する女性歯科医師は数多く存在し、中には開業医として活躍する人もいます。「子育てしながら働きやすい医療職」として歯科医師が女性に支持される理由の一つには、こうした勤務形態の特性があるでしょう。

とはいえ、どんなに歯科医師が働きやすい職業とはいえ家庭との両立に制約がないわけではありません。歯科医師として患者に責任ある医療を提供する以上、診療後にカルテをまとめたり治療計画を練ったりといった残業が発生することもあります。また、勉強会や学会への参加など生涯研鑽も求められる職業です。加えて、結婚後・出産後の働き方では独身時代にはなかった「想定外の状況の変化」が起こり得ます。例えば夫の転勤で引っ越しを余儀なくされたり、親の介護や子供の急病で突然休まざるを得なくなったりすることもあるでしょう。その際、職場に迷惑をかけてしまうのではと不安になる女性歯科医師も少なくありません。

こうした状況を乗り越えていくには、周囲の理解と協力が不可欠です。家族のサポートはもちろんのこと、職場のスタッフや同僚歯科医師の理解も得られる環境であれば、女性歯科医師も安心して働き続けることができます。具体的には、子供の急な体調不良で休む場合の代替措置や、時短勤務・パート勤務など柔軟な勤務形態の導入、育児休業からのスムーズな職場復帰支援などが挙げられます。幸い最近では、日本歯科医師会や各都道府県の歯科医師会でも女性歯科医師の復職支援に取り組む動きが出てきています。「歯科医師として長く勤めたい」と望む女性がキャリアを中断せずに済むよう、現場と家庭の双方で支え合う仕組みを整えることが重要でしょう。

歯科医師の離職率を下げるためにはどうすればいい?

歯科医師の離職率を改善し、人材の定着率を高めるためには、上述してきた離職理由に対応した対策を講じる必要があります。ポイントとなるのは、待遇・労働環境の改善、職場コミュニケーションの充実、そしてキャリア形成支援の三つです。それぞれについて具体策を解説します。

待遇や働き方の改善が離職防止の第一歩

厚生労働省や業界団体の調査から、歯科医療従事者が職場に望む改善点を見ると、「待遇の改善(給与引き上げなど)」を挙げる人が突出して多い(約48.7%)ことがわかります。次いで「専門性や資格の評価」「教育研修・レベルアップの機会充実」「休暇の取得」「人員増による業務量の軽減」などが続いており、総じて経済的な報酬と働きやすさの両面が重視されていることが読み取れます。離職を防ぐにはまず、これら基本的な職場条件を整えることが欠かせません。具体的には、給与水準の見直しや昇給制度の整備、残業代や休日手当の適正支給など公正な待遇を保証することが第一歩です。

もっとも、中小規模の歯科医院では急に大幅な給与アップを行うのは簡単ではないでしょう。その場合でも、勤務スケジュールの工夫によって働きやすさを向上させることが可能です。厚生労働省のモデルでは、早出・残業を極力減らすために業務の効率化や人員配置の見直しを行い、歯科医師の負担を軽減することが推奨されています。実際、「定時で帰れる」「休みが計画的に取れる」といった要素は給与以上に従業員満足度へ直結しやすく、離職抑制に効果的です。プライベートの時間が確保できれば心身の疲労が和らぎ、家庭の事情とも両立しやすくなりますし、自己研鑽や趣味の時間にも充てられるため充実感が生まれます。逆に慢性的な長時間労働や休日出勤が続く職場では、有能な歯科医師ほど見切りをつけて転職してしまう恐れがあります。無理のない勤務体制と適正な待遇の提供こそが、優秀な人材に「この職場で働き続けたい」と思ってもらうための土台になるのです。

良好なコミュニケーションで働きやすい職場に

離職理由の章で述べた通り、職場の雰囲気や人間関係の良し悪しは歯科医師の定着に大きな影響を及ぼします。ある経営コンサルタントは「人は、どんなに条件が良くても心理的に安心できない環境では力を発揮できない。医院全体の信頼関係のあり方が、離職防止に繋がっているのです」と指摘しています。まさに待遇以上に「空気」や「風通し」が職場への愛着を左右するということでしょう。そこで重要なのが、日頃から良好なコミュニケーションを育む取り組みです。

具体的には、院長や上司がスタッフ一人ひとりに敬意を払い、日頃から感謝や賞賛の言葉を伝えることが挙げられます。歯科医師同士、歯科医師と衛生士・技工士など職種を問わず、お互いの存在を尊重し、小さなことでも「助かった」「頑張っているね」と認め合う雰囲気を作ることが肝心です。そうした姿勢がスタッフのやりがいにつながり、モチベーション維持にも寄与します。また、従業員の不満や悩みに早めに気づき、問題が大きくなる前に解決することも重要です。定期的に個別面談の場を設けて本音を聞いたり、スタッフから提案や相談をしやすいようミーティングの機会を作ったりするのも有効でしょう。仮にトラブルが起きてしまった場合でも、日頃から対話の土壌ができていれば迅速にフォローできます。結果的に「ここなら安心して働ける」「困ったときはお互い様だ」と感じられる職場になり、人が辞めにくい職場風土が形成されるのです。

キャリア支援と成長の機会を提供する

最後に、歯科医師としてのキャリア形成を支援する取り組みも離職率低下に有効です。とくに若手の歯科医師にとっては、「この職場で働き続けることで自分が成長できるか」「将来のキャリアパスが描けるか」は重要なポイントです。ある調査では、歯科医院スタッフが離職を考える代表的原因として「スキルアップできる環境が少ない」ことが挙げられています。実際、日本歯科衛生士会の勤務実態調査でも「職場に改善してほしいこと」として「教育研修・レベルアップの機会充実」が上位にランクインしていました。歯科医師においても、勤務先で研鑽を積みたい・専門性を高めたいという意欲的な人は多いはずです。そのような成長意欲のある人材にキャリアを積んでもらうには、現在のスキルを磨く機会を提供することが不可欠です。具体的には、外部のセミナーや研修会への参加を後押ししたり、新しい資格取得や認定医・専門医への挑戦を支援したりするといった施策が考えられます。学会や研究会への参加費・旅費を補助する制度を設けている歯科医院もあります。こうした取り組みによって、当人は「もっと患者さんに喜ばれる歯科医師になりたい」「今よりスキルアップしたい」という希望を叶えられ、結果的に現職場に留まるインセンティブが高まるでしょう。

また、小規模の歯科医院では新人歯科医師の教育体制が不十分な場合もあるため、その点のケアも重要です。先輩歯科医師によるOJT(実地指導)を体系立てて行ったり、定期的に症例検討会を開いて知識共有を図ったりすることで、若手が「放置されている」という感覚を抱かないようにする工夫が必要です。実務に慣れ自信がつくまでの数年間に手厚くサポートすれば、離職しやすい初期段階を乗り越えて職場に定着してくれる可能性が高まります。さらに、中堅以上の歯科医師に対しては明確なキャリアパスを提示することも有効でしょう。例えば、将来的に分院長や専門外来の責任者といったポジションのチャンスがあることを伝えたり、能力に応じて職能給や役職手当で報いる制度を作ったりすれば、今の職場でキャリアアップできる展望が開けます。要は、「この職場で働き続ければ将来こうなれる」というビジョンを示すことが、優秀な人材の流出防止につながるのです。

歯科医師の離職率の今後はどうなる?

最後に、歯科医師の離職率の今後の動向について展望します。前述のように、歯科医師総数は2022年に初めて減少に転じ、高齢の歯科医師が増えている現状を考えると、今後しばらくは毎年一定数以上の歯科医師が引退・廃業していく傾向が続くと予想されます。高齢層の大量離職が進めば、業界全体としての「離職率」はむしろ上昇するかもしれません。一方で、新規歯科医師の輩出数は国の政策で抑制されてきた経緯があり、歯科医師の供給過多が是正されつつあるとも言えます。供給過多だった時代には歯科医師同士の競争が激しく経営難に陥る開業医も多くいましたが、新人の数が絞られれば将来的には一人あたりの患者数が増え、歯科医師の収入水準や経営環境が持ち直す可能性もあります。収入面の不安が薄れれば、経済的理由での離職は減少するかもしれません。

しかし同時に注意すべきは、歯科医師不足による地域医療への影響です。高齢化社会が進む中、歯科治療や口腔ケアの需要はむしろ高まっています。それにもかかわらず若手歯科医師の数が十分に確保できなければ、将来的に特に地方や高齢者施設などで歯科医師の不足が深刻化する恐れがあります。実際、「歯科医師の半数以上が50~60代で若手医師の確保が困難。高齢化社会では歯科需要が高いため、ますます歯科医師不足が進むだろう」との指摘もあります。この問題に対処するには、単に人数を増やすだけでなく、地域偏在の是正やチーム医療の推進など総合的な施策が必要とされています。国や自治体、歯科医師会もこうした課題を認識しており、将来的な歯科医療提供体制の見直しが議論されています。

また、女性歯科医師の活躍推進も今後の大きなテーマです。前述のように若手歯科医師の約半数が女性である現状を踏まえると、いかに彼女たちが出産・育児期もキャリアを中断せず働き続けられるかが、人材確保のカギとなります。幸いにも歯科医師会などによる復職支援や、職場における時短勤務制度の導入促進など、環境整備の取り組みが広がりつつあります。女性歯科医師が結婚・出産後も離職せず働きやすい職場が増えれば、将来的な人材流出の抑制につながるでしょう。

総じて、歯科医師の離職率は社会情勢や政策の影響を受けながら変化していくと見られます。現在はまだ毎年15~17%前後で推移していますが、適切な対策次第で将来的にこれを低減させることは可能です。歯科医療の質を維持向上していくためにも、一人ひとりの歯科医師が長期にわたって安心して働ける環境作りが一層重要になるでしょう。そのためには、歯科医院経営者だけでなく業界全体で知恵を出し合い、働き方改革や人材育成に取り組んでいくことが求められています。歯科医師自身もキャリアプランを見据えて職場を選択し、研鑽を積み続けることで、変化の時代を乗り切っていくことが期待されています。離職率の動向は決して他人事ではなく、歯科界の未来を左右する重要な指標であることを忘れてはならないでしょう。