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医師と歯科医師のダブルライセンスを持つ人はいる?その人数や難易度、メリット/デメリットについて解説!

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医師と歯科医師のダブルライセンスとは何か?

医師免許と歯科医師免許の両方を所持している人のことを、一般に「ダブルライセンス」や「ダブルドクター」と呼びます。簡単に言えば、一人で医師(いわゆる医科の医師)と歯科医師の両方の資格を持ち、必要に応じて両方の領域で診療できる人です。日本では法律上、医師と歯科医師の資格は別々に定められており(医師法・歯科医師法)、医師免許があっても歯科の治療は行えず、歯科医師免許だけでは内科や外科の診療行為はできません。したがって両方の業務を行うには、それぞれの国家試験に合格して免許を取得する必要があります。実際にダブルライセンスになるには医学部と歯学部の両方を卒業し、それぞれ医師国家試験・歯科医師国家試験に合格する必要があります。多くの場合は歯科医師になった後に医師免許を取得するケースが見られますが、逆に医師から歯科医師になる道を選ぶ人もごくわずかに存在します。いずれにせよ、医師と歯科医師の二つの資格を持つこと自体が非常に珍しく、専門的にも特異なキャリアパスと言えるでしょう。

医師と歯科医師のダブルライセンス保持者はどれくらいいる?

日本において、医師と歯科医師の両方の免許を持つ人は極めて少ないのが現状です。具体的な人数について公式の統計はありませんが、歯科業界の情報誌などでは「2015年時点で全国に100名を満たない」と紹介されたことがあります。つまり全国でも数十人規模の非常に希少な存在です。この希少性ゆえに、当時歯科業界誌が特集を組んだほどだとされています。実際、厚生労働省の統計によれば2022年末現在で日本には医師が約343,275人、歯科医師が約105,267人います。それと比べると、両方の免許を持つ人はごく一握りであり、全医療従事者に占める割合は0.1%にも満たないと考えられます。

なお、近年の傾向としてはダブルライセンスの人数は依然少ないまま推移しています。ある口腔外科の専門家は「以前に比べて医科・歯科両方の免許を持つダブルドクターは少なくなっているようだ」と述べており、過去に比べても増えてはいない印象です。裏を返せば、それだけ取得のハードルが高いことや、実際に目指す人が少ないことを示唆していると言えるでしょう。

歯科医師から医師になるにはどうすればいい?

医師と歯科医師のダブルライセンスを目指すルートとしてもっとも一般的なのは、「歯科医師になった後に医学部に入り直す」ことです。まず歯学部で6年間学んで歯科医師国家試験に合格し歯科医師免許を取得した後、改めて医学部に入学して医師免許を取得する流れです。この際、医学部への進学方法としては学士編入試験(大卒者を対象に2年次や3年次に編入学できる制度)を利用するケースが多く見られます。学士編入であれば一般入試とは別枠で、大学にもよりますが3年次編入などに合格すれば医学部での在学期間を4年間程度に短縮できます。実際、岩手医科大学などは歯科医師向けの特別枠を設けており、歯科医師資格保有者が受験できる編入試験を実施しています。岩手医科大学の編入試験は歯科医師しか受験できない方式のため、競争相手が歯科医師に限定され比較的有利とされます。ただし、このような特別枠はごく限られた大学のみで、その他の大学では歯科医師だからといって大幅な優遇があるわけではありません。結局は高倍率の編入試験を突破する必要があり、歯科で培った生命科学の知識や学士としての経歴を活かして挑むことになります。

歯学部卒から医学部編入という選択肢

歯科医師が医師を目指す場合、上述のように医学部の学士編入が現実的な選択肢です。多くの国公立大学や一部私立大学で学士編入制度が設けられており、生物系の学位を持つ社会人や他学部卒業生に門戸を開いています。歯学部卒業生もこの対象に含まれ、実際に歯科医師から医学部編入で医師になった例はちょくちょく報告されています。編入試験では筆記試験(生命科学や英語など)や面接が課され、歯科医師としての経験や動機をしっかり伝えることが重要です。歯科出身者は生命科学の基礎知識や臨床経験がある分、有利な点もありますが、募集定員自体が非常に少ないため狭き門であることは変わりません。

編入以外では、通常の医学部一般入試を再受験する道もあります。特に若いうちであれば歯学部在学中や卒業直後に一般入試に挑み直すケースも皆無ではありません。ただし一般入試は現役生との競争になり、科目も多岐にわたるためハードルは高くなります。現実には、歯科医師資格を持ったまま一般入試を受けるより、編入試験の方が歯科の専門知識を活かせる分、合理的と言えるでしょう。

医学部卒から歯学部に進学するケース

逆に医師から歯科医師になるルートも考えられます。医師免許取得後に歯学部に入り直すケースですが、こちらはさらに稀です。医師が歯学部へ進む方法としては、歯学部で実施されている学士入学(編入)制度を利用する形になります。たとえば、新潟大学、岡山大学、徳島大学などでは過去に医学部卒業者を対象とした歯学部への学士編入を実施していた例があります。以前は東京医科歯科大学や大阪大学でもそのような制度があったと言われますが、現在では廃止されているようです。医学部卒業者が歯学部に編入できるかどうかは年や大学によって状況が異なるため、最新の募集要項を確認する必要があります。また、編入制度がなくても医師が通常の歯学部入試を受けて1年生から入学し直すことも不可能ではありません。しかし、医師免許を取得した段階で多くの人は医療現場で活躍する道を選ぶため、敢えて歯学部にもう一度入学し直す人は極めて少ないのが実情です。「医師免許を取ってしまえば満足して、歯学部に行く気は起きなくなるだろう」という指摘もあり、医師から歯科医師への転身はモチベーション面でもハードルが高いようです。ただ、研究分野によっては両方の知識が必要で医科歯科両方の学位を取るケースもわずかながら存在します。医師として進んだ後にどうしても歯科の専門知識・資格が必要になった場合には、このようなルートも理論上は可能です。

医師と歯科医師のダブルライセンスの難易度はどれくらい?

医師と歯科医師の両方の資格を取得する難易度は非常に高いといえます。その理由は、単に片方の資格を取る難しさが倍になるだけでなく、両立に伴う時間的・経済的負担やキャリア上のハードルも含まれるからです。以下では、教育課程から国家試験、卒業後の研修まで、ダブルライセンス取得の難易度を様々な視点から見てみましょう。

大学入学・卒業までのハードル

まず教育課程のハードルです。医師免許と歯科医師免許を両方取得するには、基本的に大学での課程を2つ修了しなければなりません。通常、歯学部は6年制、医学部も6年制です。例えば歯学部を卒業後に学士編入で医学部3年次に入れたとしても、医学部在学に4年間を要します。歯学部6年+医学部4年で計10年、さらに卒後研修なども含めると実際には最低でも10年以上の年月が必要になります。一般入試で医学部に1年生から入り直す場合は歯学部6年+医学部6年で単純計算12年かかることになり、その間の学費負担も莫大です。現実には「理論上は最短で10年だが、一人前になるには十数年は研鑽が必要で、とても簡単に成し遂げられるものではない」という声もあります。

また、入学難易度の違いも考慮しなければなりません。医学部は日本で最も入学が難しい学部の一つであり、偏差値も高水準です。一方、歯学部は大学にもよりますが定員割れが問題となる学校が出るほど志願者が減っており、私立歯学部などでは入学難易度が医学部に比べ低めと言われます。極端な言い方をすれば「歯医者はお金を出せば誰でもなれる」という揶揄さえ耳にすることがあります(※もちろん実際には国家試験を突破する努力が必要です)。そのため、医学部への再入学というステップがダブルライセンス取得最大の関門と言えるでしょう。大学ごとの編入試験も高倍率で、例えば国立大学の医学部編入では募集枠が数名程度ということも珍しくありません。「歯科から医科へ転身するための説得力ある動機付け」が合否を左右するとの指摘もあり、相応の覚悟と準備が求められます。

医師国家試験と歯科医師国家試験の違い

次に国家試験の難易度です。医師国家試験と歯科医師国家試験はどちらも非常に重要な最終関門ですが、その性質には違いがあります。まず出題範囲の広さで言えば、医師国家試験の方が圧倒的に膨大です。実際に両方の国家試験を受けた経験者の話では、歯科医師国家試験の内容量は「医科の20%くらい」に感じたという声もあります。医学は全身のあらゆる臓器・疾患が範囲になるため膨大な知識が要求されます。一方、歯科医師国家試験は口腔や歯科領域に特化している分、出題範囲は限定的です。ただし最近の歯科医師国家試験は合格率が60〜70%台にまで低下しており(新卒者に限れば80%前後)、合格するための競争は年々厳しくなっています。これは歯科医師の供給調整のために試験で足切りする傾向が強まったためです。一方、医師国家試験の合格率は90%以上と比較的高い水準で安定しています。2024年の医師国家試験では全体合格率92.4%(新卒医学生に限れば95.4%)というデータもあり、医学部に入学できるだけの学力があれば多くは合格できる試験と言われます。つまり医師国家試験は狭き門をくぐり抜けた学生が受ける試験であり、合格率自体は高くなる傾向にあります。一方、歯科医師国家試験は広めに門戸を開いた学生を卒業時に選別する試験という側面があり、合格率は低めに出るわけです。

ダブルライセンスを目指す人にとって重要なのは、両方の国家試験勉強に耐えうることです。歯科で習得する専門知識と、医学で必要とされる知識には重なる部分もありますが、国家試験レベルではかなり異なる範囲も多くあります。例えば解剖学や生理学の基礎は共通していても、内科・外科系の臨床医学は歯学部では深く扱いません。そのため、二度にわたって大量の知識を習得し直す負担は無視できません。ただ、一度歯科の国家試験を突破した人であれば試験勉強のコツは掴めていることが多く、医学部在学中もうまく勉強を進められるという利点もあるでしょう。

臨床研修とキャリア形成の難しさ

忘れてはならないのが卒業後の臨床研修とキャリア形成です。日本では医師も歯科医師も、国家試験合格後に一定期間の臨床研修を経て初めて一人前とみなされます。医師の場合は2004年から2年間の初期臨床研修が義務化されており、歯科医師も2006年から1年以上の臨床研修が必須になりました。そのため、仮に歯学部卒業後すぐ医学部に入学した場合でも、歯科医師臨床研修1年+医学部4年+医師臨床研修2年と、少なくとも合計7年程度は卒業後も研修等に費やすことになります。歯科医師として研修を終えてから医学部に進む人も多く、その場合は歯科研修終了後に医学部、さらに医師研修という流れで、キャリア開始が大幅に遅れることになります。

また、二つの分野の実務スキルを維持する難しさもあります。例えば歯科医師として数年間臨床に従事した後に医学部に進学した場合、医学部在学中は平日は学生として座学や実習に追われます。その間、歯科医師としての勘を鈍らせないよう、週末に歯科診療のアルバイトを続ける人もいます。実際に現在医学生でありながら週末は歯科医師として働いている方もおり、そのような両立は想像以上にハードです。さらに、医師として研修医になれば当直や長時間労働も多いため、歯科治療の腕を保つ余裕はほとんどなくなるでしょう。逆に医師になってから歯学部に進んだ場合も、歯学部の実習や勉強に専念する間に医師としての臨床勘が鈍る可能性があります。

このように、二足のわらじを履く難しさはダブルライセンスの大きな壁です。各分野で専門性を磨くには時間と経験が必要ですが、時間は有限です。ダブルライセンスを取得しても、究極的には一人の人間が同時に診療できるのは一箇所ですから、どちらか一方の仕事に従事している間はもう一方の資格は形だけという状況にもなりえます。そのため「10年以上もの歳月と労力をかける割には、実務上のメリットが少なすぎるのではないか」という指摘も一部にはあります。もっとも、その「メリットが少ないかどうか」は後述するように働き方や志向次第で変わる面もあります。

医師・歯科医師ダブルライセンスの主なメリット

極めて稀で大変な医科・歯科ダブルライセンスですが、それゆえに得られるメリットや強みも存在します。ダブルライセンスの医療者だからこそ発揮できる能力や、キャリア上の利点について見ていきましょう。

幅広い医療知識で包括的な診療ができる

医師と歯科医師の両方のトレーニングを受けることで、全身と口腔の両面から患者を診ることが可能になります。例えば口腔外科の分野では、歯科医師としての専門知識に加えて医師としての全身管理能力が重要です。実際にダブルライセンスを取得した口腔外科の医師は、「歯科医師になりたての頃は心電図の読み方や肺・循環のことなど分からないことだらけだったが、医師として基礎から学び直したことで今では全身管理も一通りできるようになった」と述べています。さらに医学部での外科トレーニングにより、胃がんや乳がんの手術、内視鏡手術など多数の症例を経験し、それらが自分のベースになっているとも語っています。このように全身医学と歯科医学の両方を修めることで、患者に対してより包括的で幅広い視野の医療提供が可能となります。例えば高齢患者では、全身疾患と歯科口腔の問題が複雑に絡み合うケースが多々ありますが、ダブルライセンスの医療者であれば口腔ケアから内科的治療まで一貫して判断できるため、より適切な対応につなげやすくなります。

口腔外科などで一貫した高度医療に対応できる

ダブルライセンスの真価が特に発揮されるのが口腔外科や頭頸部領域の医療です。口腔がんの治療や顎顔面の外科治療では、従来は歯科口腔外科医と耳鼻咽喉科医・形成外科医など複数の専門医が連携してあたる必要がありました。しかし、医科・歯科の両方の資格と技術を持つダブルドクターであれば、一人で治療を完結できる可能性があります。例えば「口腔がんの手術の際に形成外科医の助けを借りずに一人で再建まで行える」「口から鼻にまたがる腫瘍でも耳鼻科医の手を借りず対処できる」といった具体例が挙げられています。これは患者にとっても主治医が一貫して治療してくれる安心感につながり、治療の段取りもスムーズになります。また、医師は一般に口腔内の細かい所までは詳しくないものですが、ダブルライセンス医師であれば全身状態を診ながら口腔内の専門治療も提供できるため、例えば誤嚥性肺炎の予防や周術期の口腔ケアなどにも威力を発揮します。実際、歯科と医科の両面から高齢者の嚥下機能や肺炎予防に取り組むダブルライセンス医師も現れており、超高齢社会の課題に対する新たなアプローチとして期待されています。

キャリアや地域医療での貢献機会が広がる

ダブルライセンスを持つことで、キャリアの選択肢が広がる点も大きなメリットです。例えば大学病院等の口腔外科分野では、医師免許を持っている方が教授など指導的立場に就きやすい場合があります。実際に医学部の口腔外科教授職は医師免許保有者で占められているケースが多く、歯科医師だけでは医学部内で昇進に限界があるため、医師免許を取ってキャリアアップを図ったという先生もいます。また、研究の分野でも再生医療や病理など医科歯科連携が不可欠なテーマでは、両方の知識を持つことで研究を主導できる強みがあります。歯科医師として再生医療研究に関わった後に医師免許を取得し、現在は内科系の医師として総合診療に従事しつつ嚥下や誤嚥性肺炎の問題に取り組んでいる例もあります。このように、ダブルライセンスを活かすことで医療の新たな可能性を切り拓いている人もいるのです。

さらに、地域医療や開業面でのメリットも指摘されています。離島や過疎地など医師不足の地域では、一人の医師が多くの診療科をカバーしなければならない場面があります。もし歯科医師でもあり医師でもある人がいれば、内科診療のついでにその場で歯の治療や入れ歯の調整まで行えるため、地域住民にとっては大変心強い存在となるでしょう。あるダブルライセンスの先生は「離島などでは全科目をこなせる万能選手になれる」と述べています。また、自らクリニックを開業する場合にも、医科と歯科の両方の知見があることで経営の幅が広がったり、他院との差別化につながったりします。「採用や就職活動の際にもダブルライセンスは強い個性になり得る」とも言われ、医師・歯科医師両方の視点を持つ人材は医療機関から見ても貴重な存在です。

こうしたメリットを背景に、「今後少しずつでもダブルライセンスを持つドクターを増やしていきたい」と語る口腔外科の教授もいます。実際、口腔の健康が全身に及ぼす影響(例えば口腔ケアで全身の合併症を防ぐ等)が明らかになる中で、医科と歯科の連携はますます重要視されています。両方の知識を兼ね備えた医療者は、その架け橋として今後ますます価値を持つ可能性があります。

ダブルライセンスを取得するデメリットや注意点は?

一方で、医師と歯科医師のダブルライセンスには様々なデメリットや注意すべき点もあります。メリットと表裏一体でもありますが、現実的なコストやリスクについても押さえておきましょう。

長い学修期間と学費負担が必要

最大のハードルとして挙げられるのが、資格取得までに要する時間と費用の負担です。前述の通り、学業だけでも最低10年以上を要し、その間の学費も莫大です。私立の歯学部では6年間で2000万~3000万円、私立医学部でも3500万円前後の学費がかかると言われます。国公立であれば学費自体は抑えられますが、それでも10年以上の生活費や機会損失を考えれば大きな投資になります。こうした長期間にわたる経済的・時間的コストは、ダブルライセンスを目指す上で避けて通れません。実際、「一人前になるためには10年以上の研鑽が必須となり、実際には無意味な資格になってしまう」という辛辣な意見もあります。頑張って両方の資格を取っても、その頃には同期の片方の資格だけの同僚たちは現場経験を積んで差をつけている可能性が高いです。さらに、長期間学生生活や研修生活が続くことで、結婚や収入安定といった人生設計にも影響が及びます。こうした覚悟が必要である点は大きなデメリットです。

専門分野を極めにくいジレンマ

ダブルライセンスを持つと、かえって専門を極めにくいというジレンマもあります。医療の各分野は日進月歩で専門特化が進んでおり、一人の医師が広範囲をカバーするのは難しくなっています。両方の免許を持っていても、結局は自分の専門領域をどこかに定めて深める必要があります。しかし時間を二倍費やして資格を取った以上、「せっかく両方持っているから両方やりたい」と欲張ってしまうケースもあります。その結果、一つの分野に専念している同僚に比べて経験が分散してしまい、スペシャリストとしての力量を高めにくい恐れがあります。ある回答者は「臨床や研究の腕を上げるには一つの分野に集中した方が本来良いのに、肩書きや権威的満足のためにダブルを取る人もいる」という趣旨の指摘をしています。現実にダブルライセンス取得者の中には、最終的に医科の道を中心に歩み歯科臨床から離れてしまう人や、その逆に歯科臨床に専念して医師資格は名目上になっている人もいます。両方の知識があること自体は価値ですが、「二兎を追う者は一兎をも得ず」にならないよう、自身の専門性のバランスに悩む可能性はデメリットと言えるでしょう。

資格に対するリターンが限定的になる可能性

「せっかく二つの資格を取ったのに、それに見合うリターン(見返り)が得られないのではないか?」という点も現実的な注意点です。例えば収入面では、医師免許と歯科医師免許を両方持っているからといって給料が2倍・3倍になるわけではありません。病院勤めの場合、雇用契約上は医師として働けば医師の給与テーブルに従うだけですし、歯科医師として採用されれば歯科医師の給与です。両方の免許を持っていること自体に対して追加の手当を出す職場は通常ありません。開業して自費診療でもしない限り、収入面で劇的なメリットを得るのは難しいでしょう。

また、医療制度上の制約もあります。日本の医療制度では医科診療所と歯科診療所は制度上区別されており、それぞれ必要な設備や保険請求のルールが異なります。そのため、一人で医科も歯科も標榜して診療所を開設するのはハードルが高く、ほとんど例がありません。実際には病院の歯科口腔外科など医科施設内の歯科部門で働くか、歯科医院に勤めつつ非常勤で内科診療を手伝うなど、一つの職場で両方の業務をフルに行う例は稀です。このように、取得した二つの資格を同時にフル活用できる場面は限られており、「結局どちらか片方の業務しかやらないのであれば、もう一方の資格は宝の持ち腐れになるのでは」という考え方もあります。

さらに、二つの資格を維持するには研鑽も欠かせません。それぞれの分野で学会や研修に参加し続けるのは時間的にも大変です。医療知識はアップデートが必要で、特に臨床スキルは実践を離れると衰えてしまいます。ダブルライセンスであるがゆえに、自分が「どちらの分野でも中途半端になっていないか」と不安を抱える声も聞かれます。こうした心理的プレッシャーも、一つの分野に集中している場合にはないデメリットかもしれません。

以上のように、ダブルライセンスには華やかな響きの裏側で多くの苦労やリスクが伴います。決して「取って損なし」というものではなく、むしろ険しく茨の道であることを念頭に置く必要があります。

海外では医科・歯科ダブルライセンスは一般的?

日本ではダブルライセンス医師は希少な存在ですが、海外の状況はどうでしょうか。実は世界的に見ると医師・歯科医師のダブルライセンスはそれほど珍しくない国や地域もあります。例えばアメリカでは、口腔外科医になる過程で医学博士号(MD)を取得するプログラムが存在します。アメリカの口腔外科専門医資格(ボード認定)を得るには、従来は歯科大学(DDS/DMD)だけでなく医学部(MD)も修了する6年制のレジデンシープログラムが各大学病院で用意されていました。現在でもハーバード大学やペンシルベニア大学など多くの大学が歯科卒業後に医学部学位も取得させる統合プログラムを提供しています。そのため米国では、口腔外科医は歯科医師と医師のダブルライセンスを持っているケースが少なくありません。イギリスや欧州でも、口腔外科領域では医学と歯学の両方の学位を持つことが望ましいとされ、二重資格者が活躍している国があります。

ただし、これらは専門領域に特化したケースとも言えます。海外でも一般の臨床医で医科・歯科の両方を開業している人は多くありません。要するに、海外では口腔外科など特定領域においてダブルライセンスが比較的一般的に見られるものの、日本のように制度上明確に医師と歯科医師が分かれている国ではやはり珍しい部類に入ります。日本では医学教育と歯学教育が完全に別個に行われており、統合カリキュラムが存在しないため、どうしても二重に学ぶ手間がかかります。逆に海外では統合プログラムによって効率的に二つの学位を取得できる仕組みがあるため、日本よりは門戸が開かれているといえるでしょう。こうした背景から、「世界ではメジャーだが日本ではまだまだ数が少ないのが現状」という指摘にもうなずけます。

医師と歯科医師のダブルライセンスは目指すべきか?

ここまでメリット・デメリットを踏まえて考えると、医師と歯科医師のダブルライセンスを目指すべきかどうかは慎重に判断する必要があると言えます。結論から言えば、明確な目的と強い情熱がある場合に限り検討する価値があるでしょう。例えば「口腔がん患者を自分一人で最初から最後まで診られるようになりたい」「医科と歯科の橋渡しとなる研究を自分が先導したい」といった具体的な目標があるならば、ダブルライセンス取得は大きな意味を持ちます。実際、先述した口腔外科の武川教授は新人歯科医師時代に経験した悔しさ(自分が全身の知識を持たず無力だったこと)が動機となり医学部に進みました。こうした強い動機がある人にとっては、長い年月をかける価値があるでしょう。

一方で、「なんとなく肩書きが増えれば格好良いから」「将来の選択肢を増やしたいから」という程度の理由で安易に目指すのはおすすめできません。膨大なコストに見合う見返りが得られず、途中でモチベーションが折れてしまう可能性が高いからです。実際に「医師免許を取ったら大抵はそこで満足してしまい、歯学部に行く気はなくなるだろう」という現場の声もありました。ダブルライセンス取得者自身からも「両方持っていても実際には使わないことも多い」といった声や、「本当にやりたいことが明確でないと、二兎を追う結果になりかねない」というアドバイスが聞かれます。

とはいえ、近年の超高齢社会における全身と口腔のケアの重要性、医科歯科連携の必要性を考えると、ダブルライセンス医師が果たす役割は今後増えていく可能性もあります。実際に「これからはますます歯科と医科の両分野が連携していってもらいたい」との展望も示されています。歯科医師の中には、医科の知識を取り入れて新しい診療スタイルを模索する人も出てきていますし、医師側でも歯科との協働に理解を示す動きがあります。将来的には、例えば歯科医師が地域で高齢者の全身管理に関与したり、医師が口腔ケアの重要性を学んだりする機会が増えるでしょう。その中で自ら両方の資格を持って橋渡ししたいという強い志があるなら、ダブルライセンス取得の価値は十分あると言えます。

まとめると、医師と歯科医師のダブルライセンスは容易な道ではありませんが、明確な使命感や展望がある人にとっては唯一無二のキャリアとなります。両方の視点を持つことで患者さんに提供できる医療の幅が広がり、日本では数少ない存在として貢献できる場面も多いでしょう。ただし目指すのであれば、相応の苦労と犠牲を伴うことを覚悟し、長期戦に挑む心構えを持つことが肝要です。自分の将来像と照らし合わせて、メリット・デメリットを慎重に天秤にかけ、後悔のない選択をしていただきたいと思います。

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