開業医の歯科医師の平均年収は?地域や年代別の違い、勤務医・フリーランスとの違いなど解説!
開業歯科医師の平均年収はどれくらい?
開業している歯科医師(いわゆる「開業医」)の平均年収は、一般的に1,200万~1,400万円前後と報告されています。厚生労働省が2023年(令和5年)に実施した最新の調査でも、個人経営の歯科診療所の院長(開業者)の平均収入(収支差額)は約1,238万円とされています。この平均には、新型コロナ対応の一時的な補助金等が含まれる可能性があるものの、おおむね開業歯科医の年収は1,000万円を超える水準で推移しています。
一方、歯科医師全体(開業医と勤務医を含む)の平均年収はそれより低く、約800万円前後です。例えば厚生労働省の令和4年賃金構造基本統計調査では、歯科医師全体の平均が約810万円と報告されています。この数字は主に勤務歯科医師の給与水準を反映しており、開業医のみの平均年収はそれを大きく上回ることになります。
厚生労働省データで見る開業医の平均年収
公的統計によれば、開業歯科医師の収入は非常に高い水準です。前述のように開業医だけに限れば平均年収は1,200~1,400万円程度とされ、医師全体の平均年収(約1,400万円)にも匹敵する水準に達します。令和5年の厚労省調査結果では全国の歯科医師平均が792万円、その内訳を見ると開業医は平均1,420万円、勤務医は約690万円というデータもあり、開業医と勤務医では倍以上の開きがあるとされています。つまり、「歯科医師の高収入層=開業医」といっても過言ではない状況です。
ただし、この平均値は開業医の収入分布の幅広さも覆い隠しています。歯科開業医の年収はピンからキリまで幅が広く、低いケースでは600万円台、高いケースでは5,000万円に達することもあるといわれます。極端に年収が低く見える開業医の場合、自身の役員報酬(給料)を意図的に抑えてクリニックの内部留保に回しているケースも多く、表面上の「年収」だけではその歯科医院の経営実態を判断しにくいことにも留意が必要です。
平均年収の幅と個人差にも注目
上述の通り、開業歯科医の平均年収は1,000万円超と高水準ですが、個々の開業医ごとに実情は異なります。例えば、経営形態による差も大きく、同じ開業医でも「個人開業」か「医療法人(法人化)」かで収入には大きな開きがあります。ある調査では、個人で開業した歯科医師の平均年収は約632万円に留まる一方、クリニックを法人化して院長になると平均で約1,400万円にものぼったというデータも報告されています。個人開業の場合、収入の取り方(必要経費との差引方法)が異なるため低く見える傾向がありますが、それでもいずれの形態でも開業医は勤務医より高収入であることに変わりありません。
以上のように、開業歯科医師の平均年収は統計上1,000万円超~1,300万円前後と示されていますが、それはあくまで平均値です。実際には所在地や診療内容、経営方針によって数百万円台から数千万円台までばらつきがある点を押さえておきましょう。高収入を得ている開業医が多い一方で、平均並みかそれ以下の収入に甘んじているケースも存在します。平均値だけに惑わされず、自分の目指す開業スタイルではどの程度の収入が見込めるのかを見極めることが大切です。
地域によって歯科医師の年収は変わる?
歯科医師の年収は地域によって差があるのか? これは勤務先や開業場所を選ぶ上で気になるポイントです。公的なデータを見ると、都道府県別の歯科医師平均年収にはかなりばらつきが見られます。例えば、2020年に行われた厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(※主に勤務歯科医師の給与データ)では、歯科医師の平均年収が最も高かった都道府県は富山県で約1,825万円、次いで長野県が約1,777万円、大分県が約1,503万円という結果でした。一方、東京は約626万円、大阪府は約830万円と大都市圏が必ずしも上位ではなく、地域によって平均年収に大きな差があることがうかがえます。
都道府県別の歯科医師年収データの例
上記の2020年データだけ見ると、「都市部より地方の方が歯科医師の年収が高いのか?」と驚くかもしれません。確かに富山や長野など地方県で平均年収が高く算出されていますが、これは調査対象となった歯科医師の年齢構成やサンプル数によるブレの可能性があります。都市部では若手の勤務医が多く含まれ平均を押し下げる一方、地方では開業医やベテラン勤務医が調査対象になりやすく高めに出た、といった背景が考えられます。実際、この年の統計では神奈川県が約549万円と低い値になっていたり、都道府県によっては有効なデータが得られず欠測となっている地域もあるなど、地域別平均の数字はそのまま鵜呑みにしにくい面があります。したがって、都道府県別の年収ランキングは一つの参考程度にとどめ、あまり極端な意味づけをしない方がよいでしょう。
都市部と地方で年収に差が出る理由
地域による年収差を考える際には、都市部と地方の歯科医療事情の違いを押さえる必要があります。一般的に都市部の歯科医院は患者数こそ多いものの競合も多く、保険診療中心のクリニックも多いため、一人あたりの歯科医師収入はそれほど突出しない傾向があります。一方で、地方の開業医は地域に数少ない貴重な歯科医院として一定の患者数を確保しやすい場合があり、また高齢者の義歯治療などで安定収入を得ているケースもあります。ただし地方は地方で人口減少の影響もあり、今後ずっと収入が高いとは限りません。
実は別の統計では逆の傾向も示唆されています。2025年の厚労省の分析によれば、東京23区の歯科医師平均年収は約1,050万円、地方都市では約650万円と、むしろ都市部の方が400万円ほど高いとのデータがありました。この要因についてその分析では、都市部の歯科医院ほど自由診療(自費治療)の比率が高い傾向があるためと説明されています。自由診療は保険診療に比べて患者一人当たりから得られる収入が大きいため、審美歯科やインプラント治療に力を入れる都市部のクリニックは高収入になりやすいのです。つまり、「地域差」と一口に言っても、どのデータを使うかで見える姿は異なります。実情としては「都市部は競争が激しく平均は平凡だが成功すれば高収入、地方は競争相手が少なく一定の収入は得やすいが伸びしろは限られる」という両面があると考えるとよいでしょう。
歯科医師の年収は年代でどう変わる?
歯科医師の年収は年齢を重ねるにつれてどのように変化するのかも気になるところです。一般に、多くの職業と同様、歯科医師の収入も若い頃より中堅・ベテラン層の方が高くなる傾向があります。ただ歯科医師の場合、その増え方やピークの時期には特徴があります。厚生労働省の統計データ(2021年時点の調査)では、歯科医師の平均年収が最も高い年代は60~64歳で約1,359万円となっています。次いで45~49歳が約1,174万円、55~59歳が約1,088万円、65~69歳が約1,082万円と続き、40~44歳でも1,000万円を少し超える水準です。一方、若い世代の収入は抑えめで、20代後半では平均年収400万~500万円程度に留まっています。
若手歯科医師の年収の現状
歯科医師は大学卒業後、1年間の研修医期間を経て本格的にキャリアをスタートします。20代後半~30代前半の歯科医師の年収は500万円前後が一つの目安とされ、他の職種と比べれば低くはないものの、専門職としてはまだ大きく伸びる前段階です。実際、25~29歳の平均年収は約460万円という統計もあり、研修医明けから数年間は収入は控えめです。これは勤務先での経験を積む時期であり、まだ開業などで大きく稼ぐ段階ではないためです。30代に入ると徐々に収入が増え始め、30~34歳で平均約660万円、35~39歳で約850~900万円ほどに上昇していきます。この時期は勤務医としても中堅となり、役職手当や歩合制報酬などが増えること、あるいはそろそろ開業を検討し始める人も出てくることが背景にあります。
経験を積んだ歯科医師の年収のピーク
40代以降になると、歯科医師の年収は概ね1,000万円を超えるケースが多くなります。特に45~49歳の平均年収が約1,250万円前後と一つのピークになっており、50代前半にかけて高水準が維持されます。この年代が高所得になりやすい理由の一つは、経験による技術・信頼の蓄積に加え、開業によって収入構造が変わる人が増えるためです。実際、45~49歳が平均最高値となっている背景には、この頃までに開業して院長となったり、あるいは複数の歯科医院を経営する理事長クラスになっている場合があることが指摘されています。開業医は前述の通り収入が一気に跳ね上がるため、40代後半で大きく平均を押し上げる要因となっているわけです。
50代になると平均年収は1,000万強の水準で推移します。50~54歳平均が1,080万円ほど、55~59歳で1,200万円前後と統計によっては再度盛り返す数字も見られます。このあたりは、軌道に乗った開業医が安定して高収益を上げているケースや、大学教授や病院の部長職など高給ポストに就いているケースが影響しているでしょう。60代に入ると流石に診療ペースを落としたり引退する人も出てきて、平均では1,000万円前後に下がる傾向があります。実際、60~64歳平均1,047万円、65~69歳ではデータ不足もあり明確な数値は出ていませんが、大台を割り込む例も増えるようです。また、70歳以上でも現役を続けている歯科医師も一部おり、その場合平均は600万円前後との報告がありますが、これも働き方によって大きく異なります。
まとめると、歯科医師の年収は30代後半~40代で大台の1,000万円を超え、45~50歳前後でピークを迎えやすいことがわかります。若手時代は収入面では我慢の時期ですが、経験を積み重ねていけば比較的早い段階で高収入層に入る可能性が高い職業と言えるでしょう。ただし、その背景には自ら開業するかどうかが大きく影響している点に注意が必要です。開業せず定年まで勤務医を続ける場合、年収は病院勤務なら頭打ちになりがちで、せいぜい1,000万前後で推移する例が多くなります。一方、中堅以降で独立開業すれば収入が飛躍的に伸びる可能性があります。年代別のデータを読み解く際には、そうしたキャリア選択の違いが数字に表れていることを意識するとよいでしょう。
開業医と勤務医の年収の違いは?
歯科医師の勤務形態による年収差は非常に大きいものがあります。既に述べたように、開業医(自身で歯科医院を経営している歯科医師)の平均年収は、勤務医(病院や他院に雇用されている歯科医師)の平均年収の約2倍にも達します。厚生労働省の調査結果でも、勤務歯科医師の平均年収がおおよそ700万~800万円程度なのに対し、開業歯科医師は1,400万円前後との指摘があり、両者の開きは歴然です。では、なぜこれほどの差が生まれるのでしょうか。その背景には収入構造の違いと責任範囲の違いがあります。
勤務歯科医師の平均年収と現状
勤務医として働く歯科医師の収入は、主に所属先から支払われる給与と賞与で構成されます。その水準は、勤務先の種類や規模、本人の経験年数・役職などによって差がありますが、先述の通り若手で500万円前後、経験を積んだ40代以降で1,000万円前後が一つの目安です。例えば大学病院の医局勤務であれば研究職的な側面もあり年収は抑えめ(500~600万円台)ですが、その代わり専門医取得や先進医療の研鑽といったメリットがあります。一方、民間のクリニック勤務であれば歩合給などが付いて700~800万円台も狙えます。もっとも、民間医院でもあくまで雇用契約の範囲内での報酬となるため、いくらその医院が高収益でも勤務医自身の年収が青天井に上がるわけではありません。「自費診療で医院の売上が伸びても、それが勤務医の給与に直結するかどうかは契約次第」であり、必ずしも高収益の医院=勤務医の高年収とは限らないのが現実です。
また、勤務医の場合は定期昇給にも限界があることが多いです。特に小規模な歯科医院や地方の医院では基本給水準が低めで、院長(経営者)以外には大幅な昇給や高額賞与は期待しにくい現状があります。そのため、勤務医として年収1,000万円を超えるのは相応のキャリアと交渉力が必要であり、歯科医師全体の中では一部に限られます。それだけに、「歯科医師=高給」という世間のイメージとのギャップを感じる勤務医の先生も多いようです。
開業医が高年収になりやすい理由
開業医(院長)側の年収が高くなる理由は、一言で言えば「経営者利益を自分の収入にできるから」です。勤務医があくまで他人の経営する医院から固定給をもらうのに対し、開業医は自らの医院の収入から経費を差し引いた残り(利益)を自分のものにできます。具体的には、患者からの診療報酬や自費治療費が医院の売上となり、そこから人件費や材料費、テナント料など諸経費を支払った残りが院長の取り分(利益)です。この構造上、医院が繁盛すればするほど院長の収入は青天井で増える可能性があります。実際、「開業医は勤務医の2倍稼ぐ」といったデータも、経営が軌道に乗った医院では勤務医時代の倍以上の収入を得るケースがあることを反映しています。
もっとも、開業医の収入が高いのは高リスク・高リターンの裏返しでもあります。開業医は医院経営に伴うあらゆる責任を負っており、患者数の減少や経費増大があれば自らの収入も直接影響を受けます。また勤務医にはない経営上の努力(集患や設備投資など)が求められ、それを行った者だけが高収入を得られるとも言えます。厚労省の古い資料では、病院勤務医と開業医の収入差を比較し、開業歯科医(医療法人院長)の平均年収は約2,530万円、病院勤務歯科医師は約1,480万円とのデータが示されたことがあります。この数字自体は2010年前後のもので現在とは状況が異なりますが、開業医は自費診療や経営裁量で収入を伸ばせるのに対し、勤務医は給与という枠内であるという構造的な違いは今も変わりません。
要するに、勤務医として安定収入を取るか、開業して高収入の可能性に挑むかは歯科医師にとって大きな分岐点です。開業すれば統計上は平均年収が大きく跳ね上がりますが、その背後には経営者としての努力とリスクも存在することを踏まえて、自身の志向に合った道を選ぶ必要があります。
フリーランス歯科医師の収入はどのくらい?
近年、決まった勤務先を持たず複数の歯科医院で非常勤勤務をする「フリーランス歯科医師」という働き方も注目されています。では、フリーランスとして働く歯科医師の収入はどの程度になるのでしょうか?結論から言えば、フリーランスの歯科医師は工夫次第で常勤勤務医より高収入を得ることも可能です。非常勤の歯科医師は一般に時給制で働くことが多く、その相場は1時間あたり5,000~10,000円ほどといわれます。経験や専門スキルによっては更に高時給の求人もあり、夜間診療や日曜診療、急募のスポット勤務など人手不足の時間帯・条件では特に高い報酬が提示されることがあります。
非常勤で働く歯科医師の収入形態
フリーランス歯科医師の働き方では、週に数日ずつ複数の医院を掛け持ち勤務するといった形態が一般的です。例えば、月・火はA歯科、水・木はB歯科、金曜は訪問歯科のアルバイト、といった具合にスケジュールを組み、自身で契約時間と場所を調整します。各勤務先からは働いた時間に応じて時給または日給で給与が支払われ、月収・年収はそれらの合計となります。フリーランス歯科医師の年収は働き方やスケジュールの組み方次第で大きく変動します。仮に時給7,000円で週5日・1日8時間ペースで働けば月収約112万円、単純計算で年収1,300万円超も可能ですが、実際にはそんなに詰め込みすぎず週3~4日勤務に留めるケースも多いようです。
フリーランスのメリットと収入アップの可能性
フリーランス歯科医師として働くメリットの一つは、働く時間や場所を柔軟に選べることです。収入面では、複数の非常勤を組み合わせることで常勤1か所より高収入になる可能性があります。実際、常勤の勤務医の年収(おおむね450万~800万円程度)のレンジを、フリーランスは上回ることも多いと言われます。高い時給の勤務先を選び、夜間診療や週末診療など高額報酬の枠を積極的に入れることで、効率よく収入を伸ばせるでしょう。また、フリーランスになると自らが個人事業主扱いとなるため、経費計上や税制上の優遇が受けられる点も見逃せません。たとえば仕事に使う歯科医師賠償保険や学会参加費、交通費などを必要経費にして所得から差し引くことができ、結果として手取り収入が増える場合があります。
もっとも、フリーランスで働くには自己管理能力や営業力も必要です。収入アップを目指して掛け持ちしすぎれば体を壊しかねませんし、逆に休みが多ければ当然ながら収入は減ります。また常勤のような福利厚生(厚生年金や有給休暇など)がないことや、将来的な開業資金の融資審査で不利になるケースがあることも考慮が要ります。多くの医院の方針や治療スタイルに触れられるという利点もありますが、同時に各所で人間関係を築く手間もあります。それでも、スキルと経験を積んで信頼されるフリーランス歯科医師になれば引く手あまたとなり、高収入と自由な働き方を両立できるでしょう。実際、近年は常勤と非常勤を掛け持ちして収入を増やすケースや、開業医が週1回別の医院で非常勤勤務をするなど多様な働き方も増えています。自分のライフスタイルに合わせ、フリーランスという選択肢も視野に入れることで、歯科医師としてのキャリアの幅と可能性が広がると言えます。
開業歯科医の収入に影響する要因は何?
同じ開業歯科医でも、収入の多寡を分ける要因がいくつか存在します。歯科医院の経営は一様ではなく、地域特性や診療内容、経営戦略によって大きく収入が変わり得ます。開業医の年収を左右する主なポイントとしては、(1) 診療報酬の構成(保険診療と自費診療のバランス)、(2) 医院の規模(ユニット台数やスタッフ数)、(3) 立地条件と患者数、(4) 経営者としての戦略などが挙げられます。
保険診療と自費診療の比率が与える影響
歯科医院の収入源は大きく分けて保険診療収入と自由診療(自費診療)収入の2種類があります。保険診療は国の定めた診療報酬点数によって収入が決まり、基本的な虫歯治療や抜歯など多くの治療がこの範囲です。自由(保険外)診療はインプラントや矯正、ホワイトニング、セラミック治療など患者が全額自己負担する治療で、医院が自由に価格を設定できます。この自由診療の比率こそが、歯科医院の収益性を大きく左右します。
自由診療に力を入れる歯科医院は一般歯科に比べて年収が高くなる傾向があります。例えば、ある調査によれば保険外診療の割合がほとんどない(自由診療比率10%未満)の歯科医院では院長の平均年収は約950万円に留まるのに対し、自由診療比率30%以上の医院では平均年収が2,000万円を超えるというデータが示されています。これは矯正やインプラントなど高額治療を多く手掛ければ、その分だけ売上・利益が大きくなるためです。近年は審美歯科や矯正歯科の需要増もあり、厚労省の患者調査でも矯正歯科の初診患者数が2017年から2020年の間に約3.6倍に増加したことが報告されています。こうした背景から、「収入を上げたいなら自費診療の割合を高めよ」と言われるほど、診療内容の構成比は開業医の年収に直結します。
ただし、自由診療は高度な技術や設備投資、集患マーケティングが必要で、簡単に誰もが高収益にできるものではありません。また地域の需要にも左右され、都心部ではホワイトニング等のニーズが高くても地方ではそうでもない、といった差もあります。それでも、専門分野のスキルを磨き自由診療を増やすことは、長期的に見れば歯科医師の収入アップにつながる有力な戦略であることは間違いありません。実際、矯正歯科の専門医資格を取得した30代歯科医師は平均で年収が300万円ほど上乗せされたという調査結果もあります。このように、専門性と自費治療の組み合わせが収入に与えるインパクトは大きいのです。
医院の規模や経営戦略による収入の差
開業医の収入には、医院の規模や経営形態も影響します。例えば、ユニット(診療台)の台数が多くスタッフも充実している大型クリニックであれば、一日あたりに対応できる患者数が多く、それだけ売上も上げやすくなります。逆に、院長と助手だけの小規模院では物理的に診療回転数に限界があるため、収入もそれ相応になります。また、複数の分院を展開しているケースではグループ全体の利益が理事長(開業医)の収入源となるため、うまく経営できれば大幅な収入増が見込めます。前述のとおり、40代後半以降で年収が突出する歯科医師の中には複数院経営で収益規模を拡大している人も少なくありません。
経営戦略の違いも収入差に表れます。たとえば最新機器の導入に積極的な医院は初期投資こそ大きいものの、高度な治療を提供でき患者単価を上げられるかもしれません。一方で低コスト経営で利益率を上げることに長けた医院は、派手さはなくとも着実に院長の手元に残るお金を増やしているかもしれません。また立地も重要です。人口の多いエリアは患者を集めやすい反面競争も激しいため、マーケティングや差別化が収入に影響します。駅近の一等地に開業すれば賃料コストが高くとも富裕層患者を多く得て高収益化している例もありますし、逆に住宅街で地域密着に徹して安定集患している医院もあります。
さらに、経営を法人化するか否かも収入(正確には手取り)に関わります。医療法人にすると節税の面で有利になり、結果的に院長個人の可処分所得が増える場合があります。例えば法人化すれば家族への給与支払い(専従者給与)で所得分散ができたり、役員報酬額を調整して税負担を軽減するといったスキームが取れます。実際に法人院長の平均年収が1,400万円超なのに対し、個人開業院長では600万円台とのデータがあったのは、法人院長は自ら高い役員報酬を取りやすい一方、個人事業だと利益を経費計上や内部留保しやすいので表面的な所得を低めに抑える傾向もあるためでしょう。いずれにせよ、歯科医院の経営方針次第で院長の収入は大きく変わるのです。
総じて、「どこで」「何を」「どの規模で」そして「どう経営するか」――この4点が開業歯科医の収入を決定づける主要因と言えます。ご自身が将来開業を考える場合、これらの要素について情報収集し計画を立てることで、目標とする収入に近づける戦略を描けるでしょう。
開業医の高年収の裏にあるコストとリスク
開業歯科医師は高年収を得られる可能性が高い反面、その裏側では多額のコスト負担やリスクも伴っています。年収1,000万円超えという数字だけを見ると華やかですが、実際には開業にかかる初期投資の借入返済や、経営維持のための様々な経費を差し引いた「手取り」がどのくらい残るかが重要です。ここでは、開業医が直面する代表的なコストとリスクについて解説します。
歯科医院の開業資金と設備投資の負担
まず、大きなハードルとなるのが開業資金です。歯科医院を一から開業するには、物件取得費(またはテナント契約費)、内装工事費、歯科ユニットやレントゲンなど医療機器の購入費、広告宣伝費、開業後の運転資金など、最低でも数千万円単位の費用が必要となります。一般的な歯科医院開業では、ユニット3台規模で5,000万円以上、こだわれば1億円近い資金がかかるとも言われます。これらの多くは銀行などからの融資(借入金)に頼ることになり、開業医の多くは開業時に数千万円の借金を抱えるのが現実です。
例えば、5,000万円を借り入れて15年で返済すると仮定すると、毎月約30万~60万円、年間で360万~720万円を返済に充てる計算になります。つまり、年収1,200万円の開業医でも、その半分以上が借入金の返済に消えてしまうケースも珍しくありません。さらに、歯科医師になるまでに奨学金を利用していた場合はその返済も並行して発生します。加えて、開業から年月が経てば新しい医療機器への買い替えや、老朽化した設備の更新も必要になります。ユニットやレントゲンは一台数百万円しますし、デジタル機器の導入には常にお金がかかります。スタッフの増員や入れ替わりがあれば求人広告や人件費負担も増えます。このように、開業後も医院経営には継続的な投資と支出がつきものです。
ローン返済後の手取りはどれくらい?
開業医の「年収○○万円」という表現は、前述の通り売上から経費を引いた利益相当額(いわゆる税引前の事業所得)を指す場合が多いです。しかし、そこから税金(所得税・住民税)や社会保険料も支払う必要があります。さらに、先述の借入金返済も経費にはなりませんから、純粋な手残りという意味ではかなり目減りします。極端な話、年収1,000万円超と言っても、各種支払いを済ませた後の手取りはその半分以下ということも十分にあり得ます。実際、多額の借金返済を抱える開業医の場合、見かけ上の年収1,200万円のうち700万円がローン返済に消え、残りでスタッフ給与や材料費を払ったら自分の手元にはほとんど残らない…というケースもあります。
また、開業医は自営業者ですから、病気やケガで働けなくなった場合の補償や給料の保障がありません。勤務医であれば有給休暇や医療機関からの休業補償制度がある場合もありますが、開業医は自分自身が働けなければその期間の収入はゼロになります。長期休診ともなれば患者さんが離れて経営に致命傷を負いかねません。こうしたリスクに備える保険に加入するのも自己負担です。
このように、開業医の高収入には高いコストとリスクが裏表の関係で存在しています。「歯科医は儲かる」と言われますが、実際には額面上の年収から各種経費・返済を差し引いた手取りで考えると、勤務医と大差ないか場合によっては下回ることもあるのです。特に開業直後~軌道に乗るまでは借金返済に追われ、本当の意味で年収1,000万円を自由に使える状態になるには相当のハードルがあります。
しかし、これは決して開業が損だということではありません。むしろ長期的に見れば、借入を返し終え設備投資も一巡した後には、経費控除を活用しつつ自身の収入を最大化できるのが開業医の強みです。重要なのは、短期的な収入の多寡に一喜一憂せず、長期的な視点で経営計画を立てることでしょう。例えば将来の大規模修繕に備えて内部留保を蓄えたり、自分が不在でも稼働できるよう歯科医師や歯科衛生士を育成しておくなど、安定して利益を出し続けられる体制を整えることが肝心です。開業医は高収入の夢がある一方で、こうした堅実なリスクヘッジと経営努力が求められる職業と言えます。
歯科医師の年収は今後どうなる?
最後に、歯科医師の年収の将来展望について触れておきます。日本の歯科界を取り巻く環境は年々変化しており、それに伴い歯科医師の収入状況も少しずつ変わっていくと予想されます。将来を見据えると、歯科医師の数(歯科医院の数)の増減や国民のニーズ・制度の変化が年収に影響を与える主要な要素となるでしょう。
歯科医師の増加で競争激化、年収への影響
かつて「歯医者はコンビニより多い」と言われましたが、実際に現在も歯科医院の数は非常に多く存在します。厚生労働省の調査によれば、2024年2月時点で全国の歯科診療所は66,843件にのぼり、同時期の全国のコンビニエンスストア約57,978店を大きく上回っています。歯科医療施設数は人口当たりでも主要国の中で多い部類に入り、一つの地域に複数の歯科医院が競合する「飽和状態」が各地で見られます。こうした供給過多の状況では、一つの医院あたりが確保できる患者数が減りやすく、特に開業医の収入は頭打ちになりがちです。
もっとも近年では、その歯科医院数も微減傾向が出てきています。2019年には約68,500件あった歯科診療所が、2024年には66,800件余りと5年間で約1,600件減少しました。全国47都道府県のうち滋賀県を除く46道府県で歯科医院数が減っており、これは高齢の歯科医師の引退や、新規開業の伸び悩みが影響していると考えられます。歯科医師国家試験の合格者数もここ数年は毎年2,000人程度と横ばいで、大幅な歯科医師増にはなっていません。そのため「歯科医師過剰」と言われた状態がこのまま緩和されていけば、一人当たりの収入環境も多少改善する可能性があります。
しかしながら、現状でも都市部では依然歯科医院乱立の地域が多く、競争激化による収入低下リスクは残ります。実際、保険診療報酬は国の財政事情から大幅増が望みにくく、患者の取り合いが続くと「ワーキングプア歯科医師」と揶揄されるような低収入に陥るケースも出てくるでしょう。今後も歯科医師数や医院数の動向には注意が必要で、特に新規開業を考える場合は地域の競合状況を綿密に調査した上で戦略を立てることが重要です。
時代のニーズに合わせた収入アップの道
将来の歯科医師の収入を左右するもう一つの要素は、患者ニーズや制度の変化です。例えば、超高齢社会が進む中で訪問歯科診療や嚥下リハビリなど高齢者向け歯科医療の需要が高まっています。こうした分野に早くから取り組み実績を積めば、その道のエキスパートとして安定した収入を得ることも可能でしょう。また、審美歯科やデジタル歯科(3Dスキャナーやマウスピース矯正等)など新しいサービス分野も次々登場しています。若い世代の審美志向が強まれば、その市場で成功する歯科医師が高収入を得るチャンスも生まれます。
制度面では、国の医療費抑制策が歯科にも影響します。診療報酬改定で歯科点数が上がれば収入増につながりますが、大幅増は期待しにくいのが現状です。そのため、多くの歯科医院は保険外収入の拡充や経費削減努力によって経営を成り立たせる方向に進むでしょう。具体的には、予防歯科に力を入れて定期メンテナンスの患者を増やす、IT化で効率を上げ人件費率を下げる、自由診療メニューを充実させる等です。これらに積極的に取り組む医院と、そうでない医院では、将来的な院長の収入にも差が付きそうです。
総括すると、歯科医師の年収は今後、大きく跳ね上がることは考えにくい反面、工夫次第で個々の歯科医師が高収入を実現する余地は十分に残されています。歯科医師という資格自体は需要がなくならないものの、他院との差別化や新しい知識の習得を怠れば、平均的な収入すら維持が難しくなるかもしれません。裏を返せば、時代のニーズを読み先手を打てる歯科医師は、高収入を維持・向上させることができるでしょう。現在勤務医の方も、将来的に開業や専門特化を視野に入れつつキャリアプランを練れば、自身の収入アップの可能性を広げることができます。激動する歯科業界の中で、不断の研鑽と柔軟な発想をもって臨むことが、これからの歯科医師が「稼げる」存在であり続ける鍵と言えそうです。