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歯科医師免許取得で同時に取れる資格(付随資格)と仕事の広がりについて解説!

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歯科医師免許の付随資格はどんなものがある?

歯科医師国家試験に合格して歯科医師免許を取得すると、実は同時にいくつかの資格(いわゆる付随資格)が自動的に付与されます。具体的には「食品衛生管理者」「衛生管理者」「衛生検査技師」の3つです。これらは歯科医師免許を持っているだけで別途試験を受けずに取得できる資格で、それぞれ医療や衛生の分野で役立つものです。まずはこの3つの付随資格について、その内容と意義を押さえましょう。

食品衛生管理者とはどんな資格?

食品衛生管理者は、食品の製造や加工を行う施設で衛生管理を担う国家資格です。食品衛生法により、一定規模の食品製造・加工所には食品衛生管理者を置くことが義務付けられており、その資格要件の一つに医師や歯科医師などの有資格者が含まれます。つまり歯科医師免許を取得すれば、法律上自動的に食品衛生管理者の資格要件を満たしており、都道府県への届出によってそのまま食品衛生管理者として選任されることが可能です。食品衛生管理者は食品の安全確保に重要な役割を果たす資格で、例えば歯科医師が将来飲食店や食品関連ビジネスに関わる際にも、この資格があることで衛生責任者として従事できます。わざわざ講習を受けることなく歯科医師免許だけで取得できるため、知っておいて損はない付随資格と言えるでしょう。

歯科医師は衛生管理者の資格も取得できる

衛生管理者とは、労働安全衛生法に基づき従業員50人以上の事業所で労働衛生の管理を行うために選任が必要な国家資格です。通常は所定の試験に合格するか一定の専門課程を修めることで資格を取得しますが、歯科医師免許保持者であればこの衛生管理者免許を無試験で申請・取得できます。具体的には、歯科大学の正規課程を修了し歯科医師試験に合格した者は、第一種衛生管理者の資格申請時に試験が免除される仕組みです。これは医学や歯学の教育課程で労働衛生に関する知識を十分修得していると認められるためです。衛生管理者資格を持っていると、企業の安全衛生担当として職場の労働環境改善や従業員の健康管理に携わる道が開けます。ただし実際には医師や歯科医師を企業に専属で配置するのは難しいため、多くの事業所では別途試験合格者が衛生管理者に就いているのが現状です。それでも、歯科医師がこの資格を有していることで産業医に準じた立場で助言できる場面もあり、自身のキャリアの幅を広げるうえで意義のある付随資格です。

衛生検査技師資格は現在どうなっている?

衛生検査技師とは、本来は病院や衛生研究所で微生物検査や血液検査などを行う技術者の国家資格です。かつて歯科医師は、大学の歯学課程修了や免許取得により申請するだけで無試験で衛生検査技師免許を取得できました。しかし法改正によりこの制度はすでに廃止されており、平成23年(2011年)以降は新規に衛生検査技師免許を得ることはできなくなっています。現在は臨床検査技師資格に統合される形で経過措置のみ残され、既に免許を持っている人のみが引き続き衛生検査技師として業務を行えます。したがって、現代の歯科医師にとって衛生検査技師は実質的に「自動付与される資格」から外れていると言えるでしょう。この点は古い情報源では「歯科医師は衛生検査技師になれる」と紹介されている場合があるため注意が必要です。現在は後述する臨床検査技師の国家試験受験資格が歯科医師に与えられる形で引き継がれています。つまり、歯科医師免許取得者は改めて臨床検査技師試験に合格すれば検査技師として働ける道が残されているということです。

歯科医師免許があると取得しやすい資格とは?

歯科医師免許を持っていることで、有利に取得できたり受験資格が付与されたりする資格もいくつか存在します。これらは歯科医師としての知識・技能がベースにあることで、通常より短い道のりで取得可能な資格です。代表的なものに臨床検査技師や歯科技工士などの医療系技術職、さらには労働衛生コンサルタントや介護支援専門員(ケアマネージャー)といった分野が挙げられます。こうした資格取得は歯科臨床以外の道に進む場合や、副業・転職でスキルの幅を広げたい場合に役立ちます。それぞれ必要な手続きや試験の一部免除内容が異なるため、順番に見ていきましょう。

医療系技術職(臨床検査技師・歯科技工士)も目指せる

歯科医師免許があれば、医療系の技術職である臨床検査技師や歯科技工士の資格取得が通常より容易になります。まず臨床検査技師については、通常は大学や専門学校で所定の養成課程を修了し国家試験に合格する必要がありますが、歯科医師は養成課程を経ずともすぐに国家試験の受験資格を得られます。実際、厚生労働省の定める受験資格に「歯科医師国家試験に合格した者」が含まれており、歯科医師免許を持つ人は追加の学校教育なしで臨床検査技師国家試験を受けられます。試験そのものは受ける必要がありますが、歯科の知識があることで検査分野の勉強も比較的取り組みやすいでしょう。

一方、歯科技工士は歯科補綴物(被せ物や入れ歯など)を製作する国家資格で、本来は歯科技工士学校で学んでから試験を受けます。ただ歯科医師の場合、学問領域の重なりから歯科技工士国家試験の一部科目免除が認められています。具体的には歯科医師国家試験に合格した者は歯科技工士試験で学科の一部が免除される仕組みがあり、歯科材料や解剖学など既に修得済みの科目を再試験しなくてよい場合があります(年度により詳細は厚労省告示で規定)。そのため歯科医師が歯科技工士資格を取得するハードルは一般より下がります。ただし歯科技工士として開業するには実務経験も重要であり、歯科医師がすぐに歯科技工のプロとして活動するには追加の研鑽が必要です。いずれにせよ、歯科医師免許があれば検査技師や技工士といった医療技術職への挑戦が容易になり、希望すれば診療以外の専門職にキャリアチェンジする道も開かれています。

労働衛生コンサルタントにも挑戦可能

労働衛生コンサルタントは、職場の安全衛生に関するコンサルティングを行う国家資格(労働安全衛生法に基づく国家試験)です。歯科医師は労働衛生コンサルタント試験の受験資格を有しており、これは医師と同様に法律で認められています。加えて、歯科医師免許を持つ受験者には試験科目の一部免除制度もあります。具体的には、保健衛生に関する筆記試験科目が一定の講習修了を条件に免除される措置があり、医師・歯科医師は日本歯科医師会などが行う産業医学講習会(産業歯科医研修)を受講することで筆記試験の一部が免除されます。このように、歯科医師は労働衛生コンサルタントになる際にも有利な立場にあります。

実際に歯科医師の中には産業歯科医として企業の労働衛生に関わり、労働衛生コンサルタント試験にも合格して活躍している方々がいます。産業歯科医とは日本歯科医師会が認定する研修を受けて得られる資格で、特定の有害業務従事者に対する歯科健診の実施・指導などを担うものです。産業歯科医自体は法律上必須ではありませんが、労働衛生コンサルタントとして登録すれば法的に「産業医に準じた立場」で事業場の衛生診断・指導を行うことも可能になります。このように、歯科医師免許で得た医学知識と資格を生かして企業の健康管理分野に踏み出すことができます。労働衛生コンサルタントは医療系国家資格の中でも難関と言われますが、その分取得すれば産業衛生のスペシャリストとして信頼される存在となるでしょう。歯科医師として培った専門性を職場環境の改善や労働者の健康増進に役立てたい人にとって、挑戦する価値のある資格です。

介護支援専門員(ケアマネ)資格も視野に

高齢社会の進展に伴い、介護支援専門員(いわゆるケアマネージャー)の需要も高まっています。介護支援専門員は要介護者のケアプラン作成やサービス調整を行う専門職ですが、受験するためには一定の実務経験と介護・医療系の国家資格が必要です。歯科医師免許はその受験資格要件に含まれており、歯科医師として5年以上(かつ900日以上)介護保険関連業務に従事した経歴があればケアマネ試験の受験が認められます。これは歯科医師が医療職としての知見を活かし、地域包括ケアに貢献できるチャンスでもあります。

実際、訪問歯科診療や地域の介護施設での歯科治療に携わる歯科医師が、ケアマネ資格を取得して活躍するケースも出てきています。歯科の知識を持つケアマネージャーは、口腔ケアと全身状態の関連に精通しているため、利用者の生活支援計画に独自の視点を加えることができます。例えば嚥下障害のある高齢者のケアプラン作成時に、歯科的アドバイスを交えた適切なサービス組み立てが可能です。もちろん歯科医師がケアマネを目指すには本業との両立や追加の勉強が必要ですが、歯科医療と介護の架け橋となれる意義は大きいでしょう。歯科医師免許によってこのような資格への道も開かれていることは、将来のキャリアを考える上で一つの選択肢となります。

歯科医院やクリニックではどんな働き方がある?

歯科医師が活躍する代表的な場は、やはり町の歯科医院・デンタルクリニックです。一般歯科診療から専門特化型のクリニックまで、開業医としての働き方は幅広く存在します。一方、勤務歯科医として他院に雇用されて働く道もあり、それぞれにメリットがあります。ここでは開業医と勤務医、双方の働き方のポイントを整理します。

開業歯科医として一般歯科から専門まで幅広く診療

歯科医師の多くは、卒後一定の経験を積んだ後に開業歯科医として自らのクリニックを構えることを目指します。開業医になれば虫歯治療や歯周病治療といった一般歯科はもちろん、矯正歯科・小児歯科・口腔外科など専門分野に注力したクリニックを運営することも可能です。実際、地域には一般歯科のほかインプラント専門、矯正専門など様々なスタイルの歯科医院があります。歯科医院という同じカテゴリでも、立地条件や院長の専門性によって診療の内容は多岐にわたるため、「歯科医院だけでも幅は広い」というのが現状です。開業医の場合、自分の裁量で診療方針や設備投資、人員構成を決められるため、得意分野を伸ばして地域医療に貢献できるやりがいがあります。

もっとも、開業には経営者としての手腕も求められ、設備導入費や人件費などの負担も伴います。また患者層のニーズに応えるため幅広い知識・技術を磨き続ける努力が必要です。例えば「インプラントも矯正もホワイトニングも全て自分で提供する」となると勉強量も膨大で、技術研鑽のための時間確保が課題になります。そのため近年では、特定分野は非常勤の専門医に任せ、自院は一般治療に専念するなどのスタイルも見られます。いずれにせよ、開業歯科医は裁量と責任が大きい分、自身の理想の歯科医療を実現できる働き方と言えるでしょう。

勤務歯科医としてチーム医療や研鑽を積む

他方で、勤務歯科医(勤務医)として歯科医院や病院に雇われて働く道も一般的です。勤務医の場合、開業医と違って経営面の負担はなく治療に専念できるメリットがあります。特に大学病院や大規模クリニックでは複数の歯科医師がチームを組んで診療にあたるため、経験豊富な先輩から直接指導を受けられる環境が整っています。「診療中に先輩ドクターの技術を見て学ぶ機会がある」という点は勤務医ならではで、若手のうちは技能向上に大いに役立ちます。またチーム医療の現場では、自分一人で全てを抱え込む開業医と異なり、専門分野ごとに担当を分けて協力し合う体制が取れるため、患者にとっても質の高い包括的ケアを提供しやすい利点があります。

勤務医として一定期間働くことで、多種多様な患者症例に触れて視野を広げることもできます。将来的に開業したい人でも、まず勤務医として研鑽を積むことで臨床力と経営のノウハウを学べるでしょう。勤務先によっては勉強会や学会発表の支援が受けられたり、最新機材を使った高度治療を経験できたりといったメリットもあります。一方で勤務医は雇用契約上、勤務時間や診療方針にある程度の制約を受けます。また、自分の裁量で医院を動かすわけではないため、「自分のやりたい診療とのギャップ」を感じることもあるかもしれません。ただ最近では副業的に非常勤で他院でも働く歯科医師もおり、勤務医の立場で複数の現場を経験する人もいます。例えば週の大半は一般歯科医院に勤めつつ、残りは矯正歯科クリニックで技術を磨くといったケースです。このように勤務医の働き方も柔軟になりつつあり、キャリア形成の方法は一つではありません。自分に合った環境を選び、チームの一員として経験を積むことは、将来独立するにせよ長く勤務医を続けるにせよ、大きな財産となるでしょう。

病院や公的医療機関ではどんな役割を担う?

歯科医師は民間の歯科医院だけでなく、病院や公的医療機関でも活躍しています。特に総合病院の口腔外科や大学附属病院の歯科口腔外科では、全身疾患を持つ患者の歯科治療や難易度の高い外科処置を担当するケースが多く、開業医とは異なる役割を担います。また保健所や行政機関で公衆衛生分野の仕事に携わる道もあり、地域住民の口腔保健向上に貢献できます。それぞれ詳しく見てみましょう。

大学病院や総合病院の口腔外科で専門性を発揮

大学病院や総合病院の歯科口腔外科では、主に入院や手術を要するような重症例の歯科診療を行います。例えば顎骨の骨折治療、口腔がんの切除、全身麻酔下での難抜歯など、高度な医科的管理が必要なケースです。大学附属病院では先端的な医療の研鑽も目的となるため、歯科医師は研修医からスタッフとして専門性を極めていくことになります。病院歯科では医師や看護師、薬剤師など他職種との連携が密に求められ、チーム医療の一員として全身管理下で口腔治療にあたる点が特徴です。

公立の総合病院にも口腔外科や歯科診療部が設置されている所があり、そこで勤務する歯科医師もいます。こうした病院勤務歯科医は、医科の先生方と協働しながら、院内の患者に対する歯科治療や口腔ケア、術前・術後の管理などを行います。例えば糖尿病で入院中の患者さんの抜歯を内科医と相談しつつ実施したり、がん治療前に口腔内の衛生管理を行ったりします。また救急の現場で顎顔面外傷の初期対応に当たることもあります。病院勤務は診療科の一部門として動くため、民間歯科医院とは異なる緊張感と組織の中で働く経験が得られます。専門性を追求しつつ、医科との架け橋として全身と口腔をつなぐ治療を提供できるのが病院歯科の醍醐味でしょう。

行政機関・保健所で公衆衛生に貢献する道

歯科医師には、厚生労働省や自治体の行政職として公衆衛生分野で働く道もあります。各都道府県の保健所には「歯科医師」の枠が設けられていることが多く、そこで公衆衛生医師ならぬ「公衆衛生歯科医師」として住民の歯科保健向上に携わります。具体的には、乳幼児や学校での歯科検診の企画・実施、障害者歯科医療の体制整備、在宅高齢者の口腔ケア推進、地域の歯科医院や医師会との連絡調整など、多岐にわたる業務を行います。保健所歯科医師は一種の行政官ですので、一般患者の治療を直接行う機会は限定的ですが、地域全体の歯科衛生管理というマクロな視点で貢献できます。

行政分野では他にも、都道府県庁や厚労省の技官として歯科保健施策の企画立案に関わるケースもあります。例えば厚労省には歯科保健を所管する部署があり、そこに歯科医系技官として採用されると、国の歯科医療政策や制度設計に携われます。また自治体では保健センターなどで歯科相談を担当したり、住民向けのフッ化物洗口事業や8020運動(80歳で20本自分の歯を残す運動)の推進役を務めたりもします。こうした公衆衛生領域の歯科医師は数として多くはありませんが、地域住民の予防歯科や健康増進にとって欠かせない存在です。行政職になるには公務員試験や選考を経る必要がありますが、歯科医師としての知見を活かしてより広い視点で社会に貢献したい人にはやりがいのあるキャリアでしょう。

大学や研究機関で歯科医師が目指せる道

歯科医師のキャリアの中には、大学や研究機関で教育・研究に従事する道もあります。歯学部の教員となって未来の歯科医師を育てたり、基礎研究を通じて新しい知見を生み出したりする仕事です。診療現場とは違った形で歯科医療に貢献できる分野であり、学究肌の歯科医師にとって魅力的な選択肢です。

大学の歯学部教員として教育・研究に携わる

歯科医師は所定の研修を終えた後、大学の歯学部や医科歯科系大学で教員(助手・講師・教授など)として勤務する道があります。大学教員になるには大学院で博士号(歯学博士等)を取得するのが一般的で、専門分野の研究を深めた上で助手や助教として採用されるケースが多いです。大学では学生に対する講義や実習指導を行うとともに、自身の研究プロジェクトを推進する役割が求められます。例えば歯周病学講座の教員であれば歯周組織の再生に関する研究を行いながら、歯周治療学の講義を担当するといった具合です。研究成果は学会発表や論文投稿を通じて国内外に発信され、それが将来の歯科医療の発展につながります。

大学教員の魅力は、教育者として人材育成に関われることと、自分の興味あるテーマを追究できることです。「未来の歯科医師たちに貢献できる職業」として大学で研鑽を積む歯科医師もおり、臨床より研究志向が強い人にはやりがいを感じられるでしょう。一方で研究には地道な努力と競争的な資金獲得が付き物であり、教員ポストに就く道も狭き門です。しかし近年は歯科界でも新しい材料や再生医療、AI活用など最先端研究が活発であり、歯科医師の研究者が国際的に成果を挙げる例も増えています。教育・研究職に進む場合でも臨床経験が役立つ場面は多いので、在学中や研修医時代から研究活動に触れつつキャリアパスを計画することが望ましいでしょう。

歯学以外の研究分野に挑戦するケースも

歯科医師の中には、歯学の枠を超えて他の研究分野に挑戦する人もいます。例えば大学院で医学系の研究科に進み、癌研究や免疫学の分野で博士号を取得して医科系の研究者となるケースや、工学系大学院でバイオマテリアル開発の研究に携わるケースなど様々です。歯科医師は基礎医学や生物学の教育も受けているため、その知識を生かして医療全般の研究開発に関われる素地があります。実際、製薬会社や医療機器メーカーの研究職に転じた歯科医師も存在します。例えば新しい歯科材料の開発プロジェクトで歯科医師の知見が求められたり、創薬研究で動物モデルを扱う際に解剖の技術が役立ったりと、意外な形で能力を発揮できる場面があります。

こうした異分野への転身は簡単ではありませんが、歯科医師の持つ視点が他分野に新風を吹き込むことも期待されます。さらに、研究に限らず行政の政策研究機関やシンクタンクなどで医療政策の調査研究に携わる道も考えられます。いずれにしても、歯科医師免許が必ずしも臨床だけにとどまらず、研究・教育面でも強みになることを覚えておくと、自分の適性に合ったキャリアプランを描きやすくなるでしょう。

介護・福祉の現場で歯科医師が求められる理由

超高齢社会の日本では、介護や福祉の現場における歯科医師の役割がますます重要視されています。高齢者や障がい者の生活の質(QOL)向上には口腔の健康が欠かせず、歯科医師が医科や介護職と連携して支援にあたる機会が増えています。その背景と具体的な活躍の場を確認しましょう。

高齢者施設での歯科診療・口腔ケアの重要性

介護老人保健施設や特別養護老人ホームといった高齢者施設では、入所者の口腔ケアや歯科診療を定期的に行う必要があります。高齢者は自力で通院できないケースも多く、施設内での歯科診療体制が求められることから、非常勤の歯科医師が訪問して治療や口腔衛生指導を行う取り組みが広がっています。最近では介護施設で勤務する歯科医師の需要が高まっており、入所者に対する義歯の調整、口腔清掃、不良歯の治療などを実施することで誤嚥性肺炎の予防や栄養状態の改善につなげています。

施設での口腔ケアは介護スタッフが日常的に担いますが、専門的な指導や対応は歯科医師・歯科衛生士でなければ難しい場合もあります。例えば嚥下機能が低下した方への安全な食事介助には、歯科的評価と訓練が必要です。そこで歯科医師が定期的に施設を訪れ、入所者一人ひとりの口腔の状態をチェックし、ケアプランに口腔ケアの観点を組み込むことが求められます。政府も地域包括ケアシステムの中で歯科医療の関与を推進しており、介護施設等への歯科訪問診療には診療報酬上の手当も手厚くなっています。歯科医師にとっても、高齢者から直接「食べられるようになって嬉しい」と感謝されるなどやりがいの大きい分野です。今後さらに高齢者施設は増える見込みで、そこでの歯科医師の活躍機会は確実に広がっていくでしょう。

在宅医療や訪問歯科診療で活躍する場面

介護分野では、病院や施設だけでなく在宅療養中の高齢者や障がい者に対する訪問歯科診療も重要です。在宅で療養している要介護高齢者の中には、虫歯や義歯不適合があっても通院困難なため放置されているケースが少なくありません。そこで歯科医師が患者の自宅や入居先に出向いて治療や口腔ケアを提供する「訪問歯科」が普及してきました。多くの歯科医院が訪問診療専門のチームを持ち、ポータブルの歯科ユニットを持参して往診を行っています。

訪問歯科診療では、単に歯を治すだけでなく食支援や生活支援の視点が求められます。摂食嚥下の評価を行い、介護者に適切な食事形態や口腔体操を指導することも歯科医師の役割です。また、在宅患者を診る際は主治医や訪問看護師、ケアマネジャーとの連携が欠かせません。例えば末期がんの患者に対し、医科主治医と相談しながら疼痛緩和のための歯科治療を行うこともあります。こうした在宅医療の現場では、歯科医師は訪問歯科の専門知識を持ちチームの一員として活躍します。

政府統計によれば、人口10万対の歯科医師数は年々増加し2020年時点で85.2人に達しています。一方で高齢化率の上昇に伴って、通院困難な方への対応が歯科界の大きな課題となっています。訪問歯科や介護現場での歯科医師の活躍は、社会的ニーズに応えるものとして今後さらに評価されるでしょう。歯科医師自身にとっても、自院での診療とはまた異なる患者との関わり方を経験し、人間的な成長を感じられる場面です。以上のように介護・福祉領域で歯科医師が求められる理由は明確であり、地域包括ケアシステムの中で今後もその存在感を増していくと考えられます。

企業分野で歯科医師の専門性は活かせる?

歯科医師のキャリアは医療機関に留まらず、企業分野にも広がりがあります。歯科に関連する企業で商品開発や研究職として勤務するケースや、産業界で従業員の健康管理に関与するケースなど、多様な活躍の場が存在します。ここでは企業で働く歯科医師の例として、メーカー勤務と産業歯科医・コンサルタントの役割を見てみましょう。

歯科メーカーの商品開発や企業歯科医として働く

歯科材料や医療機器のメーカー企業では、歯科医師の知見を活かした商品開発や技術サポート業務が行われています。たとえば歯科用インプラントメーカーでは、歯科医師が研究開発チームに加わり、新しいインプラントシステムの設計や臨床評価を担当することがあります。また歯磨剤や口腔ケア用品のメーカーでは、成分の有効性試験やプロモーションの監修に歯科医師が関わることもあります。実際、「歯科の材料やケアグッズの商品開発」として企業で働く歯科医師も存在します。自ら臨床で培った経験を製品に反映できるため、現場のニーズに即したイノベーションにつながりやすい点が利点です。

また、大企業の中には社員向けの社内歯科診療所を設置しているところもあり、そこで常勤の企業歯科医師として働く道もあります。例えば製造業の事業所で従業員の歯科検診や予防処置を行ったり、職場での歯のトラブルに即応したりする役割です。企業内歯科は福利厚生の一環ですが、社員の健康増進や労働生産性向上に寄与する重要なポジションです。企業勤めであれば勤務時間が規則的だったり報酬体系が安定していたりするメリットもあります。歯科医師としての専門性を活かしつつビジネスの現場に身を置くことで、新たな視点を得ることができるでしょう。近年ではスタートアップ企業でデジタル歯科関連の開発に参画したり、自ら起業して歯科関連サービスを展開する歯科医師も登場しており、企業分野での活躍の可能性は広がっています。

産業歯科医・労働衛生コンサルタントとして活躍

前述した産業歯科医や労働衛生コンサルタントは、企業分野における歯科医師の活躍例として注目されます。産業歯科医は日本歯科医師会が認定する資格で、化学工場など歯に有害な物質を扱う職場の従業員に対する歯科健康診断を行い、事業者に助言・勧告を与える役割を持ちます。法律上産業医ほどの選任義務はありませんが、労働安全衛生規則にその存在が触れられており、有害業務者に対する定期歯科健診の実施根拠となっています。産業歯科医になるには歯科医師会の研修を1日受講するだけで認定証が発行されるため、比較的ハードルは低く、産業医より気軽に名乗れるメリットがあります。実際に多くの歯科医師が産業歯科医研修を修了しており、自院の診療の傍ら特定の工場に嘱託で関わるといった形で活動しています。

さらに一歩進んで労働衛生コンサルタント試験に合格すれば、国家資格者として企業の安全衛生診断・指導を行うプロフェッショナルになります。歯科医師が労働衛生コンサルタント名簿に登録すると、「歯科医師免許+コンサルタント資格」のダブルライセンスにより活躍のフィールドが一段と広がります。例えば企業から依頼を受けて職場の衛生状態を調査し、化学物質が歯や骨に与える影響について専門的見地から改善提案を行う、といった業務です。守秘義務や信用失墜行為の禁止など厳しい倫理規定も課されますが、その分社会的信用度の高い仕事でもあります。

産業歯科医・コンサルタントとして活動するには、歯科医療以外に労働安全衛生法や産業医学の知識も必要で、生涯学習が求められます。しかし医科歯科連携が重視される今日、歯科の専門性を持ちながら産業界の健康問題に取り組める人材は貴重です。実際、「労働衛生コンサルタント試験に歯科医師として合格した」というニュースは業界でも話題となり、医療系国家資格では最難関級ですが合格すれば肩書きとして大きな強みになります。企業分野でのこうした活躍はまだ数としては多くありませんが、歯科医師の新たな社会貢献の形と言えるでしょう。

以上見てきたように、歯科医師免許を取得することで自動付与される資格や有利になる資格は複数あり、それらを活用することで従来の歯科診療の枠を超えた様々なキャリアパスが開けます。さらに歯科医師としての知識と技術は、臨床現場のみならず教育・研究、行政、産業など多方面で求められています。実際、2020年時点で全国の歯科医師数は約10万7千人に達し、競争環境が厳しい一方で多様なニーズに応えるべく役割も細分化・専門化しています。歯科医師の皆さんやこれから目指す方は、自身の興味や適性に応じてこれらの選択肢を視野に入れ、付随資格の取得や新たな分野への挑戦にぜひ前向きに取り組んでみてください。歯科医師免許は単なるスタート地点であり、その後の努力次第で仕事の広がりは無限にあると言えるでしょう。

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