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歯科医師資格の難易度から社会的地位と年収の実情を徹底調査!

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歯科医師資格の難易度は?

歯学部への入学難易度について

歯科医師になるまでの道のりは長く、決して平坦ではありません。まず高校卒業後、大学の歯学部(6年制)に入学し、6年間の専門教育と実習を修了する必要があります。歯学部への入学難易度は大学によって差がありますが、私立歯科大では志願者が定員に満たない例もあり、近年は定員割れの大学も存在する状況です。2023年度の私立歯学部全体の定員充足率は約78.5%に留まり、多くの地方私立大で定員未充足が続いています。つまり入学の門戸は以前より広がり、一部では倍率1倍前後の大学もあるのが現状です。一方、入学後の勉強は厳しく、留年や退学に至る学生も少なくありません。文部科学省の調査によれば、私立歯学部の年間退学率は国公立より高く、学業不振や高額な学費負担が主な理由とされています。大学もこの問題を重視し、適切な入試選抜や個々の学生に応じた教育指導の充実を求められている状況です。したがって歯学部への入学難易度自体は医歯薬系の中では比較的下がっていますが、入ってから国家試験に合格するまで継続して学ぶハードルは依然として高いと言えます。

歯科医師国家試験の難易度について

歯科医師国家試験の難易度も非常に高い水準にあります。歯学部の6年間で十分な知識と実力を身につけても、国家試験の合格率は毎年60~70%程度で推移しています。2025年の歯科医師国家試験では受験者3,039人中2,136人が合格し、合格率は70.3%でした。これはここ10年でようやく7割台に乗った数字であり、2010年代には合格率が60%台前半に落ち込んだ年もあります。合格者数は毎年約2,000人前後に抑えられており、10年前(2012年)の71.1%から見ると難易度が上がっていることがわかります。医師国家試験(合格率90%超)と比べても歯科医師国家試験は低い合格率となっており、不合格者も多い狭き門です。なお、新卒で受けた場合の合格率は平均75~80%ほどですが、一度卒業後に再挑戦する既卒者のみでは合格率が3~5割程度にとどまります。このことからも、卒業直後までにどれだけ実力を付けられるかが極めて重要であり、在学中の勉強量・対策が合格の鍵を握っています。国家試験では幅広い歯科医学の知識に加え、臨床応用力や医療倫理、さらには在宅歯科医療や予防歯科に関する内容まで出題される傾向があり、問われる範囲の広さも難易度を押し上げる一因となっています。必修問題では8割以上正答という厳しい基準も課されており、歯科医学全般への深い理解と正確さが求められます。

試験合格後に歯科医師として働くまでの難易度について

国家試験合格後も、歯科医師として独り立ちするには研修過程を経る必要があります。日本では2006年(平成18年)より制度改正があり、新人歯科医師は少なくとも1年間の臨床研修が義務化されました。歯科医師法第16条の2により「診療に従事しようとする歯科医師は、1年以上指定の病院・診療所で臨床研修を受けなければならない」と定められており、研修修了後に「臨床研修修了登録証」の交付を受けて初めて一人前として診療に当たれる仕組みです。この初期研修では診療技術の実地経験を積むことが目的で、研修医として1年間、指導医の下で様々な症例を経験します。研修期間中の報酬は月額十数万円程度に限られるケースも多く、経済的には厳しいスタートとなります。しかし、この研修を通じて全身管理や地域医療も含めた総合的視野が養われ、研修修了時には歯科医師名簿に研修修了登録がなされます。このように国家試験合格がゴールではなく、その後の研修まで含めて初めて一人前の歯科医師として独立できるため、資格取得の難易度には勉学だけでなく時間的・経済的ハードルも伴うと言えるでしょう。

法的な視点から見ても、歯科医師資格は極めて重い責任を伴う国家資格です。歯科医師法第一条には、「歯科医師は、歯科医療および保健指導を掌ることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、国民の健康な生活を確保するものとする」と明記されています。つまり、単に歯を治療する職業に留まらず、国民の健康増進に寄与する使命が法律上定義されているのです。免許は厚生労働大臣から交付される国家資格であり、不正行為があれば免許取消や停止といった行政処分の対象にもなります。無免許で歯科医業を行えば歯科医師法違反となり厳罰が科されるなど、法律面での規制も医師同様に厳格です。また、歯科医師は医師とは別個の独立した専門職種として戦前から法的に位置づけられており(歯科医師法は1948年制定、前身法は1906年制定)、長い歴史と確立された社会的信用を背景にしています。こうした法令による高い倫理規範や義務(守秘義務、応召義務など)も課せられているため、資格取得イコール高度な専門職としての責任を負うことを意味します。総じて、歯科医師になるには学業・試験・研修と多段階の難関を突破する必要があり、その過程で多くの努力と時間、費用を要します。しかし、そのぶん国家から付与される専門家としての権限と責務は大きく、社会的に重要な役割を担う資格だと言えるでしょう。

歯科医師の社会的地位はどんなもの?

歯科医師は高度専門職として法律に定められた使命を持ち、社会的にも責任の大きい地位にあります。前述のとおり、歯科医師法で国民の健康増進への寄与が謳われているように、歯科医師は医師と並ぶ医療専門職の一つです。医師が全身の診療を担当するのに対し、歯科医師は口腔(こうくう)領域の医療と保健指導を専門としています。医療制度上も、歯科医師は健康保険医として患者を診療し、投薬や処方、診断書の交付など一定の医療行為を行う権限を持ちます。法律上は医師とは別資格ですが、病院や診療所では「院長」や「医長」と同等に「歯科医師」が責任者となることもでき、また医学部卒の医師と同様に地域保健や行政の場面で歯科保健行政を担う役割も期待されています。厚生労働省の統計によれば、2020年時点で全国の歯科医師約10万5千人のうち約85%は歯科診療所(クリニック)で勤務しており、その約半数は自らが代表を務める開業医でした。残りは病院歯科や大学・研究機関、公衆衛生分野などで活躍しています。このように、歯科医師は地域医療から研究教育まで幅広く活動し、医療従事者として社会に貢献する地位を占めています。患者さんからは「先生」と呼ばれる立場であり、医療従事者としての高い倫理観と専門知識が求められる点では医師と同様です。

一方で、歯科医師の社会的イメージは時代とともに変化してきました。高度経済成長期から1970年代頃までは、虫歯の多い子どもや成人が歯科医院に長蛇の列を作り、「歯医者は儲かる職業」の代名詞とすら言われた時代もありました。当時は歯科医師が高級外車を乗り回し羨望の的になるケースもあったほどで、歯科医の数が不足していた背景があります。しかし、その後歯科大学の大幅な増設により歯科医師数が急増し、現在では「街に歯医者が溢れている」との表現が用いられる状況です。実際、2000年代には「コンビニより歯科医院の数が多い」と話題になり(2006年時点で全国の歯科診療所数約6万7千か所、コンビニ約4万店)、都市部では至る所に歯科クリニックの看板が見られます。こうした供給過多の環境から、一部メディアでは「貧乏歯医者」といった刺激的な言葉で現状を報じられたこともありました。例えば2007年の報道では、歯科開業医の平均年収は800万円程度ながら、5人に1人は年収300万円に満たず、100人中5人は所得ゼロというデータも紹介されています。このように「かつての儲かる職業」の面影は薄れたとの指摘もありますが、それでも歯科医師は一般的な職業と比べれば収入面・地位面で恵まれた部類であるのも事実です。厚生労働省の統計に基づく2023年版の職種別年収データでは、歯科医師の平均年収は約905万円(2019年時点)と試算され、全職種平均よりかなり高い水準にあります。もっとも、これは従業員規模10人以上の職場に勤務する歯科医師のデータであり、開業医の高収入は含まれていない数字です。実際には成功した歯科医院長で年収数千万円を稼ぐ例もあれば、経営難に陥るケースもあるなど、個人差が大きい職種と言えます。世間一般から見ると、歯科医師は「高収入で安定した専門職」というイメージが根強く、医師ほどではないにせよ高い信頼感を持たれる傾向があります。近年は女性の歯科医師も増えており、2020年時点で全歯科医師の約25%が女性です。男女問わず活躍できる専門職として、また景気に左右されにくい仕事として、歯科医師は今なお社会的に一定のステータスを持つ職業と位置づけられるでしょう。ただし、その内実は競争が激しく経営努力も求められる厳しい世界であり、単に資格を取れば裕福で安泰という時代ではなくなっている点も踏まえる必要があります。

歯科医師の年収はどれくらい?

歯科医師の年収は一般平均より高めですが、その実情には幅があります。厚生労働省が発表した令和4年(2022年)賃金構造基本統計調査によると、勤務先に雇用されている歯科医師の平均年収は約810万4,100円でした。この統計は病院やクリニックなどで働く給与所得者としての歯科医師が対象で、平均月収62.3万円と賞与(ボーナス)62.9万円を合算した数字です。一方、別のデータでは従業員10人以上の規模に限定した場合に平均年収が570万円前後という数値も報告されています。例えば2019年の調査では歯科医師の平均年収が約570万円と算出され、これは同年の日本人平均年収(約441万円)より高めながら、かつての歯科医師の水準と比べるとかなり下がった値です。実際、歯科医師の平均年収は2005年頃には900万円近くあったものが、2010年代にかけて低下傾向を示しています。この背景には、歯科医師の増加による競争激化や、勤務歯科医として働く人の割合が増えたことなどが考えられます。なお、男女別で見ると男性歯科医師の平均年収は650万円程度、女性は470万円程度との統計もあり、女性の方が低い傾向があります。これは結婚や出産で一時離職したりパート勤務に切り替える女性歯科医師が多いことが影響していると分析されています。いずれにせよ、歯科医師という資格は一般職種と比べれば平均年収が高く、「生活に余裕がある職業」と見なされやすいのは確かです。ただ、その平均値の裏には様々な働き方やキャリア段階の差が隠れている点に注意が必要です。

開業歯科医と勤務歯科医での年収の差

開業歯科医と勤務歯科医とでは、収入に大きな差があります。自分で歯科診療所を経営する開業医の場合、経営が軌道に乗れば得られる利益は勤務医より格段に多くなります。厚生労働省の医療経済実態調査(令和元年)によれば、歯科開業医の平均年収は1,000万円を超えており、事業規模によっては平均1,400万円前後とのデータもあります。これはクリニックの利益から人件費や諸経費を差し引いた「歯科医師個人の取り分」として推計された額で、かなり高収入な部類です。一方で、勤務医(雇用されている歯科医師)の平均年収は約690~700万円ほどとされ、開業医と勤務医でほぼ2倍近い開きが生じています。このように、経営者になるか勤務するかで収入の上限が大きく変わるのが歯科医師の特徴です。ただし開業医の場合、収入は全て自己責任であり患者数の減少や経営悪化リスクも伴います。実際、成功して年収数千万円を稼ぐ歯科医師がいる一方、新規開業から数年で経営が立ち行かなくなり廃業に追い込まれるケースも存在します。勤務医に関しても、病院の歯科口腔外科勤務なのか、個人開業医に雇われるのかで給与水準は異なります。総じて企業勤務的な安定収入を取るか、ハイリスク・ハイリターンで独立するかで、歯科医師の収入構造は大きく二分されると言ってよいでしょう。

地域や経験年数での差

歯科医師の収入は、地域や経験年数によっても違いが見られます。興味深いことに、賃金統計データを都道府県別に見ると都市部より地方のほうが平均年収が高い傾向が示されています。2022年の賃金構造基本統計調査によれば、調査データの取れた範囲では歯科医師の平均年収が最も高かったのは大分県(約1,024万円)で、次いで鳥取県(約954万円)、沖縄県(約928万円)など地方県が上位を占めました。一方、東京など大都市圏は上位には入っておらず、神奈川県が809万円、千葉県が765万円といった水準です。ただし、このデータはサンプル数の問題で一部都府県の統計が欠けているため、あくまで参考ですが、地方ほど歯科医師が不足気味でベテラン歯科医師が多いため平均値が高めに出る可能性があります。経験年数(年齢)による収入差も大きく、20代前半の歯科医師の平均年収は200~300万円台と研修医レベルで低いのに対し、30代で600~900万円台、働き盛りの40~50代で1,000万円を超える水準に達します。統計では35~39歳で約992万円、40~44歳で1,004万円、45~49歳で1,252万円とピークに向け上昇し、その後50代でやや減少、70歳以上になると引退や休業も多く平均585万円に落ち込むという傾向が示されています。これは歯科医師は経験を積むほど患者からの信頼や技術が高まり収入が増える傾向を表していますが、同時に多くの歯科医師が50~60代で事業承継や引退を考えるため、年齢が高くなると収入も頭打ちか減少に転じることを意味します。男女差については前述の通り女性は平均的に低めですが、近年は女性歯科医師の増加に伴い働き続けやすい環境整備も進みつつあり、将来的には男女差が縮まる可能性も指摘されています。まとめると、歯科医師の年収は若手のうちは低めでも中堅以降で大きく伸び、都市部よりも競合が少ない地方のほうが高収入になりやすい傾向が見られます。ただしこれは平均値の話であり、実際には個々の歯科医師の努力や選択した働き方によって収入の幅は非常に広いことを念頭に置く必要があります。

歯科医師は余りすぎている? 地域差から考える

日本の歯科医師数は増加を続け、人口当たりの歯科医師密度は世界的にも中位の高水準にあります。厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」によれば、2020年時点で全国の歯科医師数は約10万7千人に達しました。これは20年前と比べて約1万7千人増加した数字で、人口10万人あたりの歯科医師数に換算すると約85.2人となります。この「10万人あたり85人」という値は世界的に見ると中位レベルで、主要先進国の中では平均的な水準とされています。しかし国内の分布を見ると、都市部と地方で大きな偏りが存在します。都道府県別の人口10万人対歯科医師数では、トップの東京都が約122.8人なのに対し、最少の滋賀県は59.3人、沖縄県も60.3人と、東京の半分以下の県が多数あるのです。さらに都市レベルで見ると、東京都区部では10万人当たり145人と全国平均の約2倍もの歯科医師が集中しているとのデータもあります。一方、新潟市では159.4人と東京を上回る密度で、長崎市(131.7人)、福岡市(129人)、岡山市(118.8人)など歯学部を有する都市を中心に歯科医師過剰ともいえる地域が存在します。このように、大学や人口が集中する都市圏では歯科医師が過剰気味に密集し、逆に地方の過疎地域では歯科医師不足の懸念があるという偏在構造が見られます。

都市部と地方での差について

都市部では歯科医院同士の過当競争が現実となっています。首都圏や大都市では駅前や繁華街に歯科クリニックが林立し、患者の奪い合いが起きているとの指摘があります。例えば人口数万人規模の郊外の駅周辺に10軒以上の歯科医院がひしめくケースもあり、「コンビニ激戦区ならぬ歯科医院激戦区」と形容される状況です。患者獲得のために窓口負担(実質的な治療費)を値引きするといったサービス競争が行われたり、開業3年目で経営危機に陥る新規医院が3割に上るとの業界関係者の証言もあります。こうした競争の激化は歯科医師同士の収入格差を広げる要因となり、繁盛している1~2割の診療所以外は厳しい経営を強いられているとの分析もあります。都市部では患者も歯科医院を選べる立場にあり、腕が良くて評判の医院には予約が殺到する一方、そうでない医院は経営が成り立たず閉院に追い込まれるケースも見られます。また、国の公的医療保険における歯科診療報酬(いわゆる保険点数)は年々引き下げ傾向にあり、保険診療主体で高収入を維持するのは難しくなっています。都市部の歯科医師過剰問題はこうした「患者一人当たりの取り合い」を引き起こし、結果的に歯科医療の質低下や不要な過剰診療の懸念も指摘されています。国もこれを問題視し、一時は歯学部定員の削減を進めましたが、依然として都会では歯科医院の新規開業が相次ぎ、競争は続いているのが現状です。

一方、地方や特定地域では歯科医師が足りないという課題も現れ始めています。全国的に見れば歯科医師数は飽和状態に思えますが、その内訳は偏在しており、歯科医療の空白地帯と呼ばれるような地域も存在します。人口減少と高齢化が進む地方では、患者数の減少により採算が合わず歯科医院が少ない地域が生じたり、若い歯科医師が都市部を志向するため後継者がおらず高齢の歯科医師が引退するとクリニックがなくなってしまうケースもあります。現に歯科医師数の統計を見ると、令和4年末時点で歯科医師総数は105,267人と2年前より約2,000人減少しており、これは超高齢の歯科医師が一斉に引退し始めたことや、地方開業医の廃業が増えたことを示唆しています。歯科医師全体の中で50代以上が約半数を占める高齢化構造にあり、今後10~20年で地方を中心に「歯科医師不足」の時代が訪れると指摘する専門家もいます。特に人口当たり歯科医師がもともと少ない県(滋賀県や沖縄県、島根県など)では高齢の現役歯科医が引退すると歯科医療提供体制が脆弱化する恐れがあります。国としても地域偏在の解消に向け、地域枠入試や地元定着を促す施策を模索していますが、医師に比べ歯科医師は移住インセンティブが弱く、改善は容易ではありません。総じて、日本の歯科医師は数だけ見れば「多すぎる」状態ですが、その分布はアンバランスで、都市部では過剰・地方では不足の二極化が進んでいます。このことは後述するように、歯科医師の働き方や将来性にも大きく影響してくる問題です。

歯科医師は開業より勤務を選ぶ人が増えている?

近年、歯科医師の間で「必ずしも開業しない」選択をする人が増えてきています。かつては歯科医師になれば数年勤務した後に自分の歯科医院を開業するのが一般的なキャリアパスとされていました。しかし現在では、若手歯科医師の多くが勤務医として働き続ける道を選ぶ傾向が見られます。ある調査(2019年度、臨床研修修了予定の歯科医師へのアンケート)では、「10年後に自分はどこで働いているか?」との質問に対し、「開業している」と答えたのは全体の15%に留まり、残り約85%は「誰かの歯科医院に勤務している」と予想する結果となりました。このように開業希望者の割合が2割にも満たない状況は、以前と比べて開業志向が大きく低下していることを物語ります。背景には、先述のような歯科医院過剰による競争の激化があり、自らリスクを負って開業することに慎重になる若手が増えていると考えられます。また、歯科医院の新規開業には多額の資金や経営ノウハウが必要ですが、大学教育では経営学までは教わらないため「経営知識に自信がない」という声も多いようです。歯科医師の親族が開業医でない場合、開業のハードルは一層高く感じられ、勤務医として専門技術に専念するほうが堅実だと考える人も増えています。

勤務歯科医を選ぶメリット

勤務歯科医を選ぶメリットとして、安定収入と働きやすさが挙げられています。歯科医院向け人材サービス会社の調査によれば、年収500万~600万円程度の勤務医層が最も仕事への満足度が高いという結果が出ています。この層は収入面で「生活に困らず趣味も楽しめる程度あれば十分」と考える人が多く、過剰な高収入を望まない傾向があることが満足度の一因と分析されています。つまり、歯科医師としてある程度の収入と安定が得られれば、自分で開業してさらに収入を追求しなくても良いと考える人が少なくないのです。勤務医であれば診療に集中でき、スタッフ採用や設備投資など煩雑な経営管理業務を負わずに済むという利点もあります。特に女性歯科医師の場合、勤務医であれば結婚・出産後もパート勤務など柔軟な働き方が取りやすく、開業して経営を背負うよりもワークライフバランスを保ちやすい面もあります。実際、女性歯科医師の離職理由の多くは家庭の事情であり、それでも近年女性歯科医師数は増加傾向にあることから、勤務という形でキャリアを継続する女性が増えているとも言えます。また、大手医療法人やチェーンドラッグストアの歯科部門などに勤務すれば社会保険完備や有給休暇も保証され、個人開業医より待遇が整っているケースもあります。こうした理由から、若手歯科医師の中には開業に魅力を感じず、安定した勤務医としてのキャリアに満足している人が増えているのです。

もっとも、歯科医院を開業することには独自のやりがいやメリットもありますが、高いハードルが伴います。開業すると自分の理想とする診療スタイルを追求でき、院内の設備や内装も自由に工夫することができます。患者に対して自分の裁量で診療方針を決め、地域医療に貢献できるという充実感も開業医ならではのやりがいです。また、成功すれば勤務医では得られない高収入を実現できる可能性もあります。しかしその反面、開業には初期投資として数千万円規模の資金が必要であり、銀行からの融資や設備投資、人材採用など多くの準備を要します。開業後も新規患者を集めるため広告宣伝に工夫したり、スタッフを雇用して教育し、経営管理全般を自ら担わなくてはなりません。都市部では患者獲得競争が厳しく、地方では患者数そのものが限られるなど、立地によるリスクも大きいです。さらに、近年は材料費や人件費の高騰に対し診療報酬の伸び悩みもあり、開業医の経営環境は以前よりシビアになっています。実際、歯科業界紙の記者によれば首都圏で新設された歯科診療所の約3割が開業後3年以内に経営危機に陥るとの指摘もあり、失敗のリスクは決して低くありません。こうした状況を踏まえ、「勤務医として歯科医療に従事するほうがリスクが少なく現実的だ」と判断する若手が増えているわけです。現在でも統計上は歯科医師の約半数が開業医として働いていますが、将来はこの割合が徐々に低下し、歯科医師=自営業者ではなく、企業や他人のクリニックに属して働く専門職という形が一般化していく可能性があります。

歯科医師は安定した職業? メリットと課題について

歯科医師は国家資格による信頼と需要に支えられた、比較的安定した職業です。歯科医師免許は一度取得すれば基本的に生涯有効であり(※重大な非行がない限り剥奪されません)、医療需要がある限り必要とされる職種です。日本は国民皆保険制度の下、虫歯治療から義歯作製、歯周病管理まで国民の口腔保健を支える役割が歯科医師に求められており、その需要は人口構成が変化しても一定程度存在し続けます。事実、う蝕(虫歯)や歯周病の有病率は若年層では低下傾向にあるものの、高齢層では依然として口腔疾患のニーズが高く、歯科医師が担うべき予防指導や治療の需要は形を変えて続いています。また歯科医師という資格は医療系の中でも独立開業権を持つ数少ない職種であり、開業すれば自らの裁量で働き方や収入を決定できます。仮に組織に属していても、免許と経験があれば転職や非常勤での勤務も比較的容易で、極端な話、歯科医師免許があれば全国どこへ行っても仕事口を見つけられるとまで言われます。一般企業のように景気悪化でリストラされるリスクも低く、失業率は他職種に比べ極めて低い水準です(有資格者が自主的に休業・引退する以外、歯科医師として「職がない」状態になることは少ない)。さらに、専門職としての社会的信用は金融機関からの融資や住宅ローン審査でも有利に働くなど、生活基盤の安定にもつながります。これらの点で、歯科医師は国家資格がもたらす職業的安定性の恩恵を受けやすいと言えるでしょう。

しかし、歯科医師であれば必ず安泰というわけではなく、現代ならではの課題も存在します。まず、前述のとおり都市部では競争が激しく、開業してもうまく患者を集められなければ十分な収入を得られません。コンビニより多い歯科医院の中で生き残るには経営手腕や差別化戦略が求められ、医療人であると同時に経営者としての力量が試されます。また、若い世代の歯科医師にとっては高額な歯学部の学費負担も課題です。私立歯科大学では6年間の学費総額が数千万円に及ぶことが多く、親の支援や奨学金で賄った学費の返済に追われるケースもあります。加えて、勤務医としての初任給は月20万円台程度からのスタートが一般的で、新卒の研修医では月収十数万円という例もあるため、経済的には医師(研修医でも月30万円前後)に比べ厳しい面があります。このように若いうちは収入が低めである反面、独立しようとすると今度は開業資金や経営リスクがのしかかるというジレンマを抱えがちです。さらに、医療技術の進歩や患者ニーズの変化に対応するため、歯科医師になった後も絶えず勉強と技術研鑽を続けなければなりません。インプラントや矯正、デジタル技術など新たな知見を学ぶ研修会への参加や設備投資など、生涯にわたり自己投資が必要です。肉体的な負担も無視できず、長時間の治療で腰痛や首の痛みなど職業病に悩む歯科医師もいます。加えて、患者とのコミュニケーション能力やスタッフマネジメント能力など医学知識以外のスキルも求められるため、トータルで見ると決して楽な職業ではありません。以上のような課題を踏まえると、歯科医師は「安定しているが努力も必要な職業」と表現できるでしょう。資格があることで最低限の職は保証されやすいものの、高収入や楽な暮らしを得るには相応の工夫と研鑽が欠かせません。言い換えれば、歯科医師は自分次第で安定も不安定もあり得る職業であり、時代の変化に合わせて柔軟に適応する姿勢が大切だと言えます。

歯科医師の将来性は? 需要と役割の見通し

日本の歯科医師を取り巻く将来の需給バランスは、大きな転換期を迎えつつあります。長年「歯科医師過剰」と言われてきましたが、近年は歯科医師数が頭打ちから微減に転じ、高齢化による引退者の増加で将来的に歯科医師不足に陥る可能性も指摘されています。厚生労働省と日本歯科医師会の推計によれば、今後十数年は人口あたり歯科医師数はほぼ横ばいで推移すると見られています。2020年代前半に歯科医師総数が微減に転じたのは、団塊世代を中心とした高齢歯科医師の引退が始まったためで、20代・30代の若手歯科医師がそれを十分に埋められていない状況があります。現時点で50代以上が全歯科医師の半数以上を占めるため、今後20年で大量引退が起これば一気に供給が減少しうるのです。一方で、歯科医師国家試験の合格者数はここ10年ほど毎年2,000人前後に抑えられており、これは新規供給を一定ラインに絞る政策的意図があるとも言われます。合格率が60%台に難化したことでなり手が減少し、「若い歯科医師が足りない」との声も上がっています。今後は歯科医師数が地域によって極端に不足するエリアが出現したり、逆に都市部では過当競争が続くなど、地域差がますます拡大する可能性があります。国の人口推計では日本の総人口は今後も減り続けるため、歯科医師の絶対数もいずれ減少傾向になるでしょう。ただ、その速度は医師不足が懸念される臨床医ほど急激ではなく、現在の歯科大学の定員(年間約3,000人弱)が大きく変更されない限りは緩やかな減少あるいは横ばいに留まると見られています。そのため「全国的な大幅不足」となるリスクは低いものの、都市・地方間や世代間でのアンバランスが進み、局所的な歯科医師不足問題が顕在化する懸念があります。行政としては歯科保健医療体制を維持するため、若手育成や地域配置のあり方を再検討するタイミングに差し掛かっていると言えるでしょう。

超高齢社会の進展により、今後は歯科医師に求められる役割も変化・拡大していくと予想されます。日本では総人口に占める65歳以上の高齢者割合が既に28%を超えており、2040年頃には35%前後に達する見通しです。そのような中で、高齢者の口腔ケアや在宅歯科医療の需要が急増することが確実視されています。実際、要介護高齢者の増加に伴い歯科訪問診療を行う歯科医師が増えており、歯科医師が地域に出向いて施設や居宅で治療や口腔ケア指導を行う機会が今後さらに増えるでしょう。歯科医師会なども「オーラルフレイル(口腔機能の衰え)」対策に力を入れており、口腔の健康維持が全身の健康寿命延伸に直結するとの観点から、歯科医師は地域包括ケアの重要な一翼を担う存在となっています。加えて、技術革新も歯科医療のあり方を変えつつあります。デジタルスキャナーやCAD/CAMによる補綴物製作、3DプリンタやAI診断の活用などが進展し、歯科医師はそうした新技術を習得・活用していくことが求められます。デジタル化によって作業自体は効率化されても、最終的に患者に高度で適切な治療を提供するための判断力や総合力は歯科医師にしか果たせない役割です。さらに、予防歯科の考え方が浸透する中、歯科医師は従来の「治療者」だけでなく「健康づくりのパートナー」として地域住民に関わることが期待されています。学校歯科医や産業歯科医として口腔保健啓発に取り組んだり、医科との連携(例えば糖尿病患者の歯周治療による全身状態改善など)も重視されるでしょう。こうした社会的ニーズの変化に伴い、歯科医師の活躍領域は診療所の中から地域や在宅、他職種連携の場へと広がっていくと考えられます。総合的に見れば、人口減少下でも国民の口腔の健康を支える歯科医師の必要性は揺るがず、むしろ高齢化で重要度が増す場面もあるでしょう。ただし一方で、過去のように歯科医師が増え続ける時代ではなくなったことから、一人ひとりの歯科医師が広範な役割を担い、多様な働き方で地域医療に貢献していく時代になると予想されます。歯科医師の将来性は、新たな需要に応じてその専門性を発揮し続けられるかにかかっており、研鑽を重ねる意欲ある歯科医師には十分な活躍の場があるでしょう。資格の難易度に見合った社会的役割と責任を自覚しつつ、変化する時代のニーズに応えていくことで、歯科医師という職業の価値は今後も確かなものとして維持されていくはずです。